信太のボクシングカフェ

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ボクシングが大好きです。大好きなボクシングをたくさんの人に見てもらいたくて、その楽しさを伝えていきたいと思います。

井岡一翔、4階級制覇と唯一無二のボクサーへの歩み。Part2

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井岡一翔、電撃引退と電撃復帰。

井岡一翔は、類稀な身体能力を持っている訳ではありませんでした。

一発のパンチングパワーがあるわけでもなく、目にもとまらないスピードを持っている訳でもありません。

井岡の武器は、その抜群の距離感と、トレーニングに裏打ちされた確かな技術。そして、タクティクス。

危険を犯さず、チャンスの時にはここで打てば勝利をもぎ取れる、というクレバーさ。倒すべきところで倒してきた、という評価はありますが、力づくで劣勢を覆すようなことはできない。総合力が高く、まるで精密機械のように理詰めのボクシングをします(しかもそれが崩れる事が想像し辛い)が、時にそれがもどかしく思ってしまいます。

「勝って当たり前」という試合をいくつもこなす井岡にとって、それがどれ程プレッシャーになり、またストレスになったのでしょう。

boxingcafe.hatenablog.com

 

かつて、「唯一無二」のボクサーを目指した井岡、そして最初から4階級制覇を目標に掲げた井岡は、当初の目標を達成せず、グローブを吊るしました。しかも、敷かれたレールの上を歩いていけば、いつかは達成できそうな目標になってから、です。

脱税疑惑のかかった父・一法に不信感を抱き、その呪縛から解き放たれようとしたためなのか、はたまた本人がかたった通り他にやりたい事が見つかったからなのか。それとも単に、モチベーションの低下なのか。

真実は本人にしかわかりませんが、2017年12月31日、本人の口から引退宣言が飛び出し、翌2018年7月20日には復帰会見。1か月半後の9月8日にアメリカでの試合で現役復帰することが告げられました。

本当に引退する気で、何もしていなければ、1か月半という準備期間での復帰は厳しいでしょう。好意的にとらえると、井岡自身は自分を取り巻く環境を一度リセットして、父と決別し、本当の意味で「唯一無二」を目指す道を目指したかったのだと思います。この先、井岡が戦い抜いて引退した後、真実が語られる日が来るかもしれませんが、今はまだ推測です。

この井岡ががアメリカで闘う際に契約したプロモーターが、新進のプロモーターであるトム・ローファー率いる360プロモーションズ。この年、設立されたばかりのプロモーション会社ですが、ゲンナディ・ゴロフキンやローマン・ゴンサレスなどのビッグネームをサポートしています。

そこに井岡が加入し、米国では珍しく軽量級にスポットをあてたイベント「Super Fly3」のリングで井岡とマックウィリアムズ・アローヨ(プエルトリコ)との1戦が組まれます。

井岡のアメリカデビュー戦

メインはロマゴンからタイトルを奪取し、返り討ちにしたシーサケット・ソールンビサイ(タイ)への挑戦権をかけた、ファン・フランシス・エストラーダ(メキシコ)対フェリペ・オルクタ(メキシコ)というメキシコ人対決。

セミにはWBO世界スーパーフライ級王座決定戦、ドニー・ニエテス(フィリピン)対アストン・パリクテ(フィリピン)のフィリピン人対決。

スーパーフライ級の他の好カードとまとめて行われる井岡のアメリカデビュー戦、場所はカリフォルニア州、イングルウッドのザ・フォーラム。

井岡の対戦相手であるアローヨは、井岡と同じくアムナット・ルエンロンにスプリットの判定敗け、またローマン・ゴンサレスの持つ世界王座に挑むも判定敗け。しかし、元世界王者のカルロス・クアドラスには判定勝利を挙げる等、20戦17勝(14KO)3敗というハードパンチャーで、強敵どころかブランク明けの井岡にとっては大きな不安のある一戦。

ゴングが鳴ると、これまで以上にフィジカルが出来上がっている感じの井岡。引退からここまで、しっかりと体を作ってきたのではないか、という疑惑。

パワーのあるアローヨに対して、押し合いでも負けていません。もちろん従来のテクニカルなボクシングと距離感は健在です。

序盤からボディを叩き、アローヨを削る井岡!そして3R、井岡のワンツーがクリーンヒットし、アローヨがダウン!!

その後も挽回しようと打って出てきたアローヨに対し、下がらずに打ち合う井岡。パワーはおそらくアローヨの方が上でしょうが、回転力では上回る井岡、打ち合いになっても負けません。

全体的にアローヨをコントロールした井岡、判定勝利にてアメリカ初陣を勝利で飾ります!4階級制覇へ好発進!!

この試合はびっくしりしました。実績としてはやりきった井岡、わざわざ復帰してきたのには理由がありましたね。アメリカという場所を意識してなのか、ファンをエキサイトさせる素晴らしいボクシングでした!

各団体でランクしている実力者、アローヨを見事に下した井岡、さて、どの王座に挑戦するのか!?

 

4階級制覇へのチャレンジ

そして井岡の4階級制覇へのチャレンジの対戦相手は、ドニー・ニエテスに決まりました。

ニエテスは、前戦、アストン・パリクテと3者3様のドローに終わり、連続でWBO世界スーパーフライ級王座決定戦となります。

ニエテスはフライ級の王座時代、「フライ級最強」との呼び声が最も高かった選手。フライ級では井岡と交わらず仕舞いでしたが、スーパーフライ級で激突。井岡、ニエテスともに勝てば4階級制覇という試合。

2018年12月31日、中国のマカオでの激突でした。

この日程は日本のテレビ局の都合でしょう。この頃はまだ日本のジムに所属していない井岡は、日本国内で試合ができません。アローヨを下したとはいえ、海外ではまだまだ無名の井岡、日本の大晦日の時間に合わせて海外のリング。しかし、中継で映ったマカオの会場は、非常に閑散としたものでした。今思えば無観客試合というのはこんな感じになるのでしょうか。

そんなもったいない状況の中、ニエテス対井岡という好カードのゴングがなります。

試合は思った通り、非常にハイレベルな技術戦。井岡は前戦と同じく、アグレッシブに攻める姿勢を見せます。しかし、ニエテスも負けじと右ストレートから左フックを返し、井岡の前進を阻みます。

試合巧者の両者、ともすれば凡戦にもなりがちな組み合わせではありましたが、試合は高度な次元で白熱。中盤に入ると井岡は直線的に前進するのをやめ、サイドにまわっていきます。

お互いに効果的と思われるパンチも入り、判定は微妙なものとなりました。

もうどっちが勝ったのかわからない、そんな試合内容でしたが、ジャッジは2-1でニエテスを支持。ニエテスが4階級制覇を達成しました。

結果は結果。しかし、井岡が勝ったとするジャッジもいましたし、勝っていてもおかしくなかった試合でした。ここで井岡がすんなりと「さらに燃えてきた」と「次」の話をしました。負けてなお強し、の井岡一翔。しかし、これまで培ってきたものを全てだしても掴めなかった4階級目の王座、その道のりは高く、そして険しい。

ところで、ボクシングビートの今月号(5月号)に、内山貴志との対談記事が載っています。そこで、井岡はサンドバッグを打つ時に思い切り打つような事はしていなかった、というような事が書かれていました。

このニエテス戦後に、内山貴志が言っていたことです。一発一発のパンチ力、というかパンチが当たった時の見え方が、明暗を分けたのではないか、と。井岡のパンチはコンビネーション主体で見栄えはいいのですが、ニエテスはもっと思い切り打ち込んでくるので、同じクリーンヒットでも印象に残りやすい、と思います。これまでの井岡の相手は、井岡のコンビネーションと手数に圧倒されて下がるという場面もありましたが、ニエテスはそうはいかなかった。逆に接近戦で力強いパンチを決め、井岡に打ち勝った。そこが今回のポイント差となったのだと思います。

さて、その後のニエテスは、井岡戦の前に引き分けたアストン・パリクテを迎えての防衛戦が規定路線でした。しかし、ニエテスは王座を返上し、その指名挑戦者を回避。

そのため、またも井岡に王座決定戦のチャンスが巡ってきました。

2019年6月19日、相手はニエテスと引き分けを演じたアストン・パリクテ。軽量級で海外を主戦場にする、というのは難しいらしく、井岡は再び国内のジムに所属。(Reason大貴)

この試合は幕張メッセで行われました。

パリクテは、28戦25勝(21KO)2敗1分。ハードパンチャーという触れ込みですが、ブンブン振り回してくるタイプではなく、基本に忠実に打ち込んでくる選手。穴は少ないです。1番厄介ですね。

ここで重要なのは、パリクテはナチュラルなスーパーフライ級だということです。

これまで井岡が闘ったスーパーフライの相手は、下の階級から上げてきた選手でした。そこで体で負けてはいなかったのですが、今回はリーチもだいぶ違います。

ニエテスと引き分けているパリクテと、判定負けしている井岡。

ここまでは不安材料が多い用に感じますが、実質ニエテス優勢だったパリクテの1分、実質どちらが勝ってもおかしくなかった井岡の1敗。

ニエテス中心に考えたとしても、互角。

体格差は怖いですが、井岡はここまで世界戦だけでも17戦。対するパリクテは1戦のみ。キャリアが明確に違います。

 

とはいえ、間違いなく強敵といえるアストン・パリクテとの一戦。

この日の井岡の出来は過去最高と言っていいほどでした。

いつもの通り速いジャブを突きながら、ステップや小さなダッキング、両手を高く掲げたガードでパリクテの攻撃を無効化します。井岡の素晴らしいディフェンステクニックに、パワーパンチを打つことすら叶わないパリクテ。

そして井岡はというと、小さなステップでいなし、小さなダッキングではずし、細かなパンチを浴びせかける。井岡のいつものリズムですが、今日はことさら力強く感じます。

パリクテの距離に慣れたのか、徐々にプレッシャーを強めていく井岡。このあたりの勝負どころがわかっている感じが、井岡一翔というボクサーのすごいところです。

スピーディーでテンポのいいコンビネーションがパリクテに襲いかかります。パリクテはそのテンポについていけていないような感じ。

劣勢を意識してか、パリクテは7R、猛攻に出ます。強引に打って出るパリクテ!ここは強打者の本領発揮!井岡はぐらついたり危ない場面も!一気にピンチに陥ったかと思った井岡でしたが、ここで打ち合いに活路を見出し、パリクテの渾身のアタックを見事しのぎます。ここで防戦一方にならず、勇気を持って立ち向かった事が、この後の展開を左右することになります。

このラウンド後半から疲れの見え始めたパリクテ。更にラウンドが進むにつれ、井岡のボディも効いていたのでしょう、スピードも落ちてきます。

そして迎えた10R、井岡は的確なパンチを当てたあと、ラッシュ!パリクテはバックステップしますが、井岡に追い立てられ手が出ません!そしてそのままストップ!

井岡、見事なTKOで4階級制覇!!!!

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この試合は、これまでの井岡の試合の中で間違いなくベストバウトと言っていいでしょう!

井岡vsパリクテはこちら↓

www.asianboxing.info

円熟期に差し掛かった井岡

パリクテ戦の見事な勝利。リスクを冒して打ち合いに出る姿は、非常に胸を打つものがありました。井岡は、テクニック、スピード、ハートももちろん、かなり高いレベルにあります。その分、無難な、無理をしないファイトをしている印象でしたが、パリクテ戦ではリスクを冒しての打ち合い。

成長したとかではなく、井岡本来の強さが出たようなボクシングだったと思います。

そして、2019年12月31日、初防衛戦でジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)を迎えます。

シントロンは24歳と若く、12戦11勝(5KO)1NCという戦績。まだプロキャリアは浅いですが、アマチュアとしては200戦以上のキャリアを誇ります。

前々戦で江藤光喜(白井・具志堅)のバッティングで倒されて無効試合、再戦できっちりと江藤を下した技巧派。元オリンピアンという難敵です。

世界初挑戦のシントロン、アマチュアよりのスタイルで、試合がおもしろいか、と問われればそうは思いません。しかし上手く、やりづらいので防衛戦の相手としては基本的に選びたくない相手。今回は指名挑戦者として井岡に挑戦します。

井岡とシントロンを比べると、やはり井岡がかなり小さいです。大きいシントロンはジャブとフットワークを駆使して闘い、中に入らないと井岡は勝負できなさそう。

前半、シントロンのアウトボクシングにポイントが流れていたようです。

しかし、井岡は3Rから被弾覚悟で前に出ます。このあたり、このままいくと良くないという嗅覚と、そして少々の被弾をものともしない勇気。これは、復帰後にフィジカルトレーニングに率先して取り組み、前戦でパリクテの強打に耐え抜いた事が自信になっているかもしれません。

接近戦に活路を見出した井岡は、最終的に文句なしの判定勝ちを収めます。

井岡vsシントロン戦はこちら↓

 

www.asianboxing.info

 

以前の井岡は「行ける時に行く」。今回の井岡は「このままではまずいと思ったから行く」。

この違いが、今回の勝利をもたらしたと思います。

アムナットに敗けた時、もっと前に前に出てほしかった。

そしてニエテス戦でも、もう一発でも多く打ってほしかった。

チャンスの時のコンビネーションには言うことはありません。ガードも高く、そして堅く、ステップをつかっては微妙な距離感ではずし、ディフェンス面でも言うことはありません。

打ち合いにも勿論強く、インサイドからコンパクトに打てます。

そんな井岡に何が足りなかったのか。それはなんとなくわかっていましたが、今回のこのシントロン戦で明確になりました。陳腐な言葉を使うと、ガムシャラさ。

敗北は学びをくれます。

井岡一翔、数々の強敵、難敵を下して4階級制覇。そしてその先にあるものは、更なる強者との階級最強の称号。

その相手は、田中恒成なのか、ジェルウィン・アンカハスなのか、ローマン・ゴンサレスなのか、それともファン・フランシス・エストラーダなのか。

今の井岡一翔なら、誰とやってもおもしろい試合になります。「3階級制覇」という序章を終え、いよいよ「4階級制覇、そして階級最強の道へ。」という本論の章へ入った井岡一翔。

これからの活躍に期待して、まずはコロナの収束を待ちたいと思います。

 

 

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