ちょうど今から1年前、2019年5月の時点では、ヘビー級にはふたりの無敗王者が君臨していました。
アンソニー・ジョシュア(イギリス)と、デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)。
そしてそこに元統一王者のタイソン・フューリー(イギリス)がどのように絡むのか、というのが焦点でした。
しかしその後、2019年6月にジョシュアが伏兵アンディ・ルイスJr(アメリカ)に番狂わせで敗れ、2016年から保持し、1つずつ吸収してきた3冠を奪われます。(同年12月にリベンジして返り咲き)そして2020年2月にはフューリーが再戦でワイルダーをKOし、2015年からWBC王者に君臨してきたワイルダーからタイトルを奪いました。
ここ数年、ジョシュアとワイルダーによって統治されていたヘビー級でしたが、ちょうど1年前から一気に戦国時代の様相を呈してきたといえます。
ヘビー級のこれからは、ただ1人の無敗王者であるフューリーが誰と闘うのか、によって、行き先が決まってくるといっても過言ではありません。果たしてヘビー級の王座は、また統一が進むのか。それとも新たなヘビー級が躍り出るのか。今回のブログでは、ヘビー級のトップボクサーたちをピックアップしていきたいと思います。
ふたりのヘビー級王者
WBC王者
タイソン・フューリー(イギリス)31戦30勝(21KO)1分
思えば2015年、3団体統一王者であるウラディミール・クリチコ(ウクライナ)の9年超の長期政権を終わらせたのは、タイソン・フューリーでした。その後は防衛戦をせずに(できずに)、2018年に復帰するまで2年半以上リングから遠ざかりました。
再起3戦目でワイルダーに挑み、引き分けで王座獲得ならず。
その引き分けから2戦をはさみ、見事今回WBC王座を獲得してみせたのです。
フットワークも使えて、ヘビー級らしからぬスピードあるコンビネーション、そして非常に頭の回転の速いボクサー。
一発の破壊力がすごいとか、フィジカルがすごいとか、テクニックがすごいとか、そういうのではなくなんというか「闘い方」が非常に上手い感じがします。初見でみるとあまり強そうには見えないと思うのですが、とにかくボクシングに適した動きをするフューリー。
歌を歌ったり、ダンスを踊ったり、舌をベロベロしてみたりと非常にユニーク。
とはいえ、ブランク期間をみると精神的な弱さも併せ持つ、個人的には評価の定まらないボクサーでもあります。
WBAスーパー・IBF・WBO王者
アンソニー・ジョシュア(イギリス)24戦23勝(21KO)1敗
ウェンブリー・スタジアムを満員にするほどの人気者、AJ。最初のIBF王座は決定戦で戴冠したチャールズ・マーティン(アメリカ)を2Rでストップして戴冠。その後は元王者のクリチコを判定で退け、カルロス・タカム(カメルーン)からWBA王座を、ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)からWBO王座をそれぞれ奪い、3冠統一王者に。
完成された肉体美からノックアウトパンチを繰り出すAJの武器は、そのハードパンチだけではありません。ロンドン五輪金メダリストの肩書通りにジャブからはじめる美しいボクシング。クラシカルなそのスタイルも、人気の理由の一つだと思います。
しかしそのジョシュアは、ハードパンチャー特有の打たれ脆さも併せ持っていました。
アンディ・ルイスJrに番狂わせの7RTKO敗け。自分の力に過信したのか、ルイスJrも予想以上に手強かったのも事実ですが、4度のダウンを奪われ、コツコツと集めてきた3つの王座を明け渡してしまいました。
半年後の再戦では、1戦目から約10ポンド体重を減らし、ルイスJrを完璧にアウトボックス。判定勝利で王座返り咲き。逆にルイスJrはパーティー三昧で太りすぎ、コンディションは良くなかったようです。
このアウトボクシングを選択したことについては、賛否ありますが、勝利をより確実なものにするための賢い選択だったといえます。(試合はつまらないものになりましたが)
フューリーとジョシュア、この正反対な2人の対決が実現すれば、4団体統一戦となります。そしてこの一戦は、水面下で動いている、という情報もありますが、一体どうなるのでしょうか。
一歩後退した元王者
元WBC王者
デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)44戦42勝(41KO)1敗1分
20歳でボクシングを始めたワイルダーでしたが、すぐにその才能は開花、北京五輪で銅メダルを獲得します。プロ転向後は相手を次々とKO、2015年にWBC王者のバーメイン・スタイバーンと初めてのフルラウンドを闘い、戴冠。久々にアメリカにヘビー級タイトルを取り戻したワイルダーは、防衛戦でも次々とKOを量産していきます。
スタイバーンとの2戦目、ルイス・オルティス戦をKOで飾り、前述のフューリー初戦で引き分け。一発頼みのワイルダーはその一発が当たらなければ、苦しい展開にならざるを得ないのも事実ではありますが、それでもこの一発というのはヘビー級の醍醐味が詰まっていて、期待せずにはおれません。
フューリー第2戦での敗北で、見苦しい言い訳もしていましたが、未だ魅力的なヘビー級。個人的にはどうにか復調してほしい。
2戦目の契約でフューリーとの再戦条項もあったようなので、このままダイレクトのラバーマッチが既定路線ではありますが。。。?
前3冠王者
アンディ・ルイスJr(アメリカ)35戦33勝(22KO)2敗
番狂わせでイギリス期待のジョシュアを破ったルイスJr。メキシコ系アメリカ人だそうで、国籍はアメリカ。メキシコ出身のボクサーとしては初のヘビー級王者。どう見ても贅肉に覆われているようにしか見えない巨体、短いリーチからスピードあるコンビネーションを繰り出すボクサーです。
スニッカーズが大好きで、ぽちゃぽちゃとしていて。。。ネタの域を出ない感じはするのですが、一度はジョシュアを下した実力は本物で、2敗のうち1敗はジョシュア、もう一つはWBO王座決定戦でジョセフ・パーカーに僅差の判定での敗北です。トップボクサーとしての実力は持っているものと思われます。
ジョシュア2戦目では良いところなく敗れてしまいましたが、気持ちを入れて鍛え直せば、まだまだ期待ができるボクサーです。
現在はサウル・アルバレスも師事するエディ・レイノソに身を寄せています。
ジョシュア、ワイルダーに敗れてはいますが、まだトップ戦線に絡んできそうなボクサーとしては、ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)、ディリアン・ホワイト(イギリス)。
そして既に年齢的にはピークを越し、これ以上の積み上げは不可能とは思われながらもまだまだ勝負をかけられるルイス・オルティス(キューバ)、アレクサンデル・ポベトキン(ロシア)。
古豪ともいっていいボクサーたちが、タイトル戦に絡みたいボクサーたちの壁となって現れます。
そしてその壁を突破できるのか。試されるボクサーたち。
元WBAスーパー・WBC・IBF・WBO世界クルーザー級統一王者
オレクサンデル・ウシク(ウクライナ)17戦全勝(13KO)
PFPキング、ワシル・ロマチェンコの同門であるウシク。クルーザー級でWBSS優勝、4冠統一王者に輝き、ヘビー級に挑みます。アマチュアでも実績を残し、ロンドン五輪金メダリストでもあります。
ヘビー級での初戦を7RTKOでクリア、デレック・チゾラ(イギリス)戦が決まっていましたが、コロナ禍で延期に。
ダニエル・デュボア(イギリス)14戦全勝(13KO)
藤本京太郎をジャブ一発でKOしたイギリスのプロスペクト、デュボア。22歳と若くして世界ランクを獲得。2017年のプロデビュー以来、最短距離をひた走り、様々な地域タイトルや世界王座の下位タイトルを獲得しています。
ジョー・ジョイス(イギリス)10戦全勝(9KO)
前戦でデビュー以来の連続KOが途絶えたジョイス。アマ時代にはリオ五輪で銀メダルを獲得、こちらも最短距離で上がってきています。
そしてこのデュボアとジョイスが、7月11日に激突。
トッププロスペクト同士の一戦が、イギリス国内のみで行われる、というのはイギリスのヘビー級の層の厚さは素晴らしい。
アメリカにヘビー級の覇権が戻るのはまだまだ先になりそうです。
誰が、誰と闘うのか。
今後のヘビー級は、まずはタイソン・フューリーがワイルダーとの再戦に臨むのか、それともワイルダーに待ち料を払ってジョシュアとの4団体統一戦に臨むのか、でこれからの展開も違ってきそうです。
いずれにしろ、選択権はフューリーにあります。
フューリーはキャラクターとしてはおもしろいのですが、ボクシングとしては個人的には疑問符がつきます。安全運転に走ってしまうと、エキサイティングな試合にならない場合も多いような気がします。
なのでやはり、ヘビー級といえばワイルダーのあの理不尽な一発。どうにか復活してもらいたいものです。