ご存知の通り、最近はアマチュアボクシングから転向し、結果を出すボクサーが圧倒的に多いです。
現在の日本人世界王者を見ると、ロンドン五輪金メダリストの村田諒太をはじめ、高校7冠の井上尚弥、高校6冠、成年でも国体を制した井岡一翔、高校3冠の岩佐亮佑、大商大主将であり、国体で優勝経験のある京口紘人、同じく国体優勝経験のある寺地拳四朗と全員がアマ経験者、それも一度は全国を制した事があるボクサーです。
だからこそ、いわゆる「プロ叩き上げ」のボクサーがチャンピオンになるケースは、非常に夢があるとも言えます。応援したくもなります。
今回のブログでは、現役王者の中で、元アマチュアエリート(便宜的に全国大会で優勝した経験のあるボクサーをアマチュアエリートと表記)ではないボクサーをピックアップしていきたいと思います。テストマッチ的にアマチュアボクシングを1戦ないし2戦しているプロ叩き上げボクサーもいるからです。
尚、基準はC級デビューとしています。アマチュアボクシング経験者でも、高校チャンピオンや全日本ランキング10位以内という実績がなければB級のプロテストの受験資格はありません。アマチュアボクシングでは結果を残せなかったボクサーたちが、日本、東洋、あるいはアジア王者となり、プロで結果を残す事は夢がありますね。逆に、アマチュアで結果を残し、プロでもチャンピオン確実と謳われたボクサーが結果を残せずに引退する様は人生の無情を感じます。
私はアマチュアボクシングもプロボクシングも、どちらも好きですしどちらのボクサーも尊敬しています。スピードとテクニックに特化したアマチュアボクシングの魅力もあれば、長いラウンドの中での駆け引き、薄いグローブでのKOの魅力のあるプロボクシング、どちらも違っておもしろい。
今回はアマチュアキャリアがない、もしくはアマチュアで全国チャンピオン等の結果を残せなかったボクサーが、チャンピオンに登りつめた事例をみていきます。
日本王者
フライ級王者
ユーリ阿久井政吾(倉敷守安)17戦14勝(10KO)2敗1分【アマ経験有り】
スーパーフライ級王者
中川健太(三迫ジム)22戦18勝(12KO)3敗1分【アマ経験有り】
スーパーバンタム級王者
久我勇作(ワタナベ)24戦19勝(13KO)4敗1分【アマ1戦のみ】
スーパーフェザー級王者
坂晃典(仲里)25戦20勝(17KO)5敗【アマ経験有り】
スーパーウェルター級王者
松永宏信(横浜光)17戦16勝(10KO)1敗
ヘビー級王者
上田龍(石神井スポーツ)11戦9勝(5KO)1敗1分
日本王者は、現在(7/9)ミニマム級とライトフライ級が王者不在のため、12人の王者がいます。その中で、6人がここでいう「叩き上げ」。ユーリ、中川は高校でのアマチュア経験。中川は船井龍一とともに高校にボクシング部を創設した経験を持ちます。坂については高校、大学(関西大学で寺地拳四朗と同門)でアマチュアボクシングを経験しています。
OPBF東洋太平洋王者
バンタム級王者
栗原慶太(一力)20戦15勝(13KO)5敗
スーパーバンタム級王者
勅使河原弘晶(輪島功一スポーツ)25戦21勝(14KO)2敗2分
ウェルター級王者
長濱陸(角海老宝石)15戦12勝(4KO)2敗1分【アマ経験有り】
スーパーウェルター級王者
渡部あきのり(角海老宝石)47戦39勝(33KO)7敗1分【アマ経験有り】
OPBF東洋太平洋の日本人王者は、現在9人。4人が今回でいう叩き上げ。その中でも、栗原、勅使河原については完全にプロ叩き上げ。長濱、渡部は高校時代にアマチュアボクシングの試合に出場、それぞれ約20戦ほどのキャリアはありますがC級デビューです。(渡部はインターハイで準優勝という実績があるようです。)
WBOアジア・パシフィック
スーパーフライ級王者
福永亮次(角海老宝石)16戦12勝(12KO)4敗
バンタム級王者
ストロング小林佑樹(六島)24戦16勝(9KO)8敗
フェザー級王者
森武蔵(薬師寺)11戦11勝(6KO)【アマ1戦のみ】
ウェルター級王者
別府優樹(久留米櫛間&別府優樹)23戦21勝(20KO)1敗1分【アマ経験有り】
ミドル級王者
野中悠樹(渥美)47戦34勝(10KO)10敗3分【アマ2戦のみ】
WBOアジアパシフィックの日本人王者も9人で、今回でいう叩き上げは5人。この中で高校でのアマキャリアがあるのは別府優樹のみで、あとはほぼプロ叩き上げのボクサーです。あとは全然関係ないですけど「ゆうき」という名前がその中で3人。
思ったより。。。
世界王者を除く日本、OPBF、WBO-APという3つのタイトルでいくと、アマエリートとプロ叩き上げの比率は50-50。現役世界王者は全員が元アマエリートと言われたボクサーです。
ちなみに、王者ではありませんが、8/21にWBO世界フライ級王座決定戦に出場する予定の中谷潤人、前WBO世界スーパーフェザー級王者の伊藤雅雪、元WBO世界フライ級王者の木村翔など、元世界王者、もしくは世界の頂点の近くにもプロ叩き上げのボクサーはいます。
個人的には、プロ叩き上げの王者は思ったより多かった、というのが正直な感想です。昔よりもアマエリートが増えているのは間違いないと思うのですが、まだまだ叩き上げのボクサーも多いですね。
アマチュアボクシングはトーナメント形式なので、勝ち抜けば試合数が多くなり、キャリアを詰めるというのが、アマチュアボクシングを経験する一つの理由だと思います。(勿論、年齢も理由の一つ。)そしてその豊富となるキャリアの中で、色々なタイプのボクサーとの試合を経験できます。
その経験がないプロ叩き上げのボクサーたちは、アマエリートのボクサーよりも、より短時間でより質の高い練習をこなし、より頭を使う必要があろうかと思います。その経験を補って余りあるトレーニングをこなしてきたのが、おそらく上記の王者たちだと思うのです。
昨年末、東京オリンピック代表候補の国内での選考が終わり、今年はオリンピック出場を逃したアマエリートが大挙してプロに押し寄せる年でもあります。コロナ禍のため、まだまだ彼らのデビュー戦は不透明ではありますが、そういったアマエリートは最速で階段を駆け上がってきますので、今上げた王者たちの域にも数年で追いついてくる可能性があります。
その時にもプロ叩き上げvs元アマエリートという構図がまたボクシング界を盛り上げてくれそうです。コロナで外国人選手の招聘が困難な今、国内のライバル対決も楽しみですね。