信太のボクシングカフェ

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ボクシングが大好きです。大好きなボクシングをたくさんの人に見てもらいたくて、その楽しさを伝えていきたいと思います。

激闘王の余韻に浸る。八重樫東、そのボクシングキャリアの終焉。Part4

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八重樫東のキャリアを振り返っているブログです。(Part4)

2015年12月29日、見事3階級制覇を成し遂げた八重樫東。

↓前回のブログはこちら

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しかし3度目の防衛戦、暫定王者ミラン・メリンド(フィリピン)との1戦で、まさかの1RTKO敗け。1Rに3度のダウンを奪われての完敗は、何の言い訳もできないようなものでした。

これまでの激闘のダメージなのか、加齢による瞬発力の低下なのか、それとも何か本人にしかわからないモチベーションの問題なのか。

激動の2016年末から2017年

この前戦、つまり八重樫東が2度目の防衛戦でサマートレック・ゴーキャットジム(タイ)を迎え(最終12RTKO勝ち)た2016年12月30日、メインイベントは井上尚弥(大橋)。

 

井上は挑戦者の河野公平(ワタナベ)を圧巻の内容で降し、この試合からそれまでの不安定さが一気に消え、圧倒的な強さと抜群の安定感を兼ね備えたまさに「モンスター」に変貌を遂げました。

しかし翌12月31日には、八重樫の拓殖大学時代の先輩である内山高志(ワタナベ)が、リベンジを期しジェスレル・コラレス(パナマ)へ挑戦。1-2の判定を落とし、後日引退を表明することになりました。

このメリンド戦の2017年5月21日、メインでは井上尚弥が挑戦者のリカルド・ロドリゲス(アメリカ)を3Rで一蹴。前述のように八重樫東はまさかの1RKO敗け。

そして追い打ちをかけるように2017年8月15日、これまで12度の防衛記録を打ち立てていた山中慎介(帝拳)も、ルイス・ネリ(メキシコ)にTKOで敗れ、無冠に。

 

内山、山中という日本の誇る名王者の敗北と、八重樫の陥落。そして井上尚弥というモンスターの台頭、この年は本当に激動の一年となりました。

↓名王者、内山高志のキャリアはこちら

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↓井上尚弥のキャリアを振り返るブログはこちら

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スーパーフライ級へ

35歳となった八重樫は、4階級制覇を目指しスーパーフライ級へ。インドネシア王者を相手に、テストマッチに臨むことになりました。

フランス・ダムール・パルー相手の再起戦は、2RTKO勝利ながら本来の動きはできず、無駄な被弾も見受けられるという厳しい内容となりました。

前戦、メリンド戦のダメージ、恐れを引きずっているともいえる闘い方。筋骨隆々のその体は、スーパーフライ級にフィットさせるためとはいえ筋肉をつけすぎなような気もして、逞しい体つきとは裏腹に、若干の不安を感じさせるものでもありました。

そしてその次戦の対戦相手は、向井寛史(六島)。八重樫にとっては、ライトフライ級で戴冠した五十嵐俊幸戦以来の日本人ボクサーとの対戦。

 

この向井寛史というボクサーは、八重樫にとって非常に危険な相手に見えました。

B級でデビューし、ここまで2度の世界挑戦を経験しています。WBOアジア・パシフィックのスーパーフライ級タイトルを2度獲得、バンタム級でも闘ったことのあるナチュラルなスーパーフライ。ハードパンチャーではないものの、アマあがりの確かなテクニック、出入りを武器にしたボクサー。

前年、2017年に1RKOでWBOアジア・パシフィック王座を獲得した向井は、本来であれば船井龍一(ワタナベ)との防衛戦に臨む予定でいましたが、八重樫陣営からのオファーで船井戦を断り、ビッグネームである八重樫との1戦に踏み切りました。筋を通すためにWBOアジア・パシフィック王座を返上。

 

自身の年齢、そして結婚を機に、「負けたら引退」という覚悟で八重樫に挑みます。

対する八重樫も、既に崖っぷち。前戦では及第点は与えられていない状態での、日本人同士のサバイバルマッチ。こちらも負ければ引退。

かくして日本人屈指の強豪同士による、サバイバルマッチの幕が上がりました。

↓フルファイト動画

序盤から足を使わずに前に出る八重樫。体格で勝る向井を相手に、フィジカル勝負を挑みます。リーチも向井に分がありますが、接近してそのリーチと、サウスポーの利点を消す作戦だったのでしょう。

八重樫はやはりかつて「音速の拳」とも呼ばれただけあり、ハンドスピードに秀で、その連打はまだまだ健在。近い距離での打ち合いを選択したので、被弾もありますが八重樫のペースでした。

しかし6R、向井は八重樫にワンツーをヒット。効いた八重樫は、たたらを踏んでしまい、そこに向井は好機とばかりに攻め込んでいきます。

 

あわや逆転KO負けか、という連打をしのいだラウンド終盤、八重樫は右フックをヒット。

そしてここから八重樫の逆襲がはじまります。残り30秒ほどの中で今度は向井にパンチを効かせ、ダウン寸前まで追い込みます。辛くも終了ゴングに救われた向井はコーナーでうなだれ、八重樫はガッツポーズ。このラウンドだけでも非常に見応えのあるラウンドでした。

続く7RはKOを狙って前に出る八重樫。向井も負けじと懸命にパンチを返します。向井はタフで、勇敢。しかし八重樫もこの終盤に来て、動きが落ちるといったこともありません。

このラウンド終了間際のラッシュで、ついにレフェリーがストップ。

八重樫東は、このサバイバルマッチを7RTKOで勝利しました。

この劇的な勝利で、キャリアを終えても良いほどのドラマチックな激勝。

しかし八重樫はもう一度世界王者となることを諦めておらず、8ヶ月後に再起3戦目を2RTKOで飾りました。但し、相手は実力も実績もない、いわゆる噛ませ犬。

 

最後の挑戦

それでも尚、頑張り続ける八重樫に、大橋ジムは最後のチャンスを与えました。

世界挑戦を目論んでいたスーパーフライ級ではなく、おそらく現在の八重樫のベストウェイトと思われるフライ級。

相手はモルティ・ムザラネ(南アフリカ)。当時40戦38勝(25KO)2敗。IBFフライ級王座を2度獲得した強豪で1度目の王座ではゾラニ・テテ(南アフリカ)、ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)等を退けて4度防衛のあと返上、この2度目の王座では坂本真宏(六島)、黒田雅之(川崎新田)を相手に2度の防衛を成している名王者です。

 

このムザラネは37歳、堅実なガードと隙のないスタイルで、見るからに長く闘えるボクサー。とはいえ、八重樫36歳、年齢を言い訳にできない王者への挑戦でした。

スーパーフライ級での何戦か、八重樫は前日計量でも余裕がある感じがしていました。なので、数戦ぶりのフライ級リミットもさほど問題はなさそうです。年齢、体重が大丈夫であれば、ムザラネ相手にもサプライズを起こせる、そう感じさせてくれるのも八重樫の魅力。

ただ、個人的な意見を言うと、この世界戦、勝っても負けても引退してほしい、というのが私の心情でした。いつしか激闘王というニックネームのついた八重樫は、そのニックネームに呼応するかのように打ち合いに臨む場面が増えていき、明らかにダメージを溜めてしまう闘い方となっていってしまっていました。

 

大好きなボクサーだからこそ、無事にリングを降りてほしい。予想はおそらくムザラネ優位ながらも、それでもできれば勝利を手にしてほしい。

大きな不安と、僅かな期待が入り混じったムザラネvs八重樫戦。

↓フルファイト動画

 

序盤、八重樫は出入りのスピードを活かし、上手く闘っているように見えます。
強引に前に行くような闘い方ではなく、サークリングし、スピーディーなワンツーを打ち込みます。
ただ、ムザラネのガードは固く、なかなかびくともしません。この堅牢さは特筆すべきもので、ムザラネは闘い方が慎重なところもあり、ほぼ被弾をしません。ここも長く力を保つ秘訣でもあろうかと思います。
そして定評通りのムザラネのジャブ。このジャブは本当に固そうで、八重樫の進撃を幾度となく阻むパワーに溢れています。
しかし、序盤の3Rは互角か八重樫がやや優勢のようにもみえました。

そして4Rからは、八重樫が接近戦をしかける様が目につくようになっていきます。八重樫はムザラネのボディを中心に叩き、反面、距離が近くなった分、ムザラネも戦いやすくなったか、退かずに応戦。

ムザラネは何か重りが入っているかのよう。体躯は小さいながらも、ガードも堅牢、さながら重戦車のようです。徐々に突入した打撃戦のまま、パンチの回転力では八重樫が勝るものの、ムザラネも上手く、見栄えとしては八重樫が劣勢かもしれません。

 

そして8Rにはムザラネの右で腰を落とした八重樫。大ピンチ!

このラウンドをなんとかしのぎますが、続く9R、ムザラネの猛攻にさらされた八重樫を、レフェリーは救いました。

八重樫東、9RTKO負け。

結果は非情です。

誰しも長谷川穂積(真正)のようなラストファイトを飾りたい。

↓長谷川穂積のキャリアを振り返るブログ

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しかし、現実とは夢想ではなく、全てが思い通りの結果になるとも限りません。しかしそれは時に、ハッピーエンドよりも大きな感動を呼ぶこともあります。

この日の八重樫の闘いは、おそらく観たもの全ての脳に焼き付くような壮絶なラストファイトだったでしょう。

出入りのボクシングに秀でたスピード溢れるボクサーは、年月とともに「激闘王」と呼ばれるほど激闘型で劇場型のボクサーとなり、人々に勇気と感動を与えられるような素晴らしいボクサーになりました。

日本人初、メジャー4団体の最上級王座だけでの3階級制覇の記録は霞んで見えるほど、「激闘王」八重樫東というボクサーは記憶に残るボクサー。

 

そのボクシング人生を総括するような今回のムザラネ戦、序盤の出入り、その後の前進、そして力尽きる様までが、正に八重樫劇場。

どっちが強い、とか、タイトルマッチだとか、ボクシングというものの範疇を超えて八重樫が見せてくれたのは、キャリア全体を通して「倒れたら立ち上がる」ということです。

何度も何度も挫折を味わい、その数だけ立ち上がってきた八重樫東というボクサーを、リアルタイムでみた私達は忘れる事はないでしょう。

そして自ら限界を感じた訳ではなく、おそらく周囲を安心させるような意味で引退を宣言した八重樫。これからは事業運営とともにボクシング解説、タレント業の他、トレーナーとして大橋ジムで指導を重ねていくようです。

 

おそらく八重樫はまだ、闘えるでしょう。そしてこれからもトレーニングを続けていくのでしょう。その背中を見て育った八重樫イズムを受け継いだボクサーたちが世界へ駆け巡り、「激闘」でなくでもいいのでまた我々に勇気と感動を与えてくれるボクサーになってくれることを願っています。

↓八重樫イズムを継承するひとり、中垣龍汰朗のプロデビュー戦!

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