思っていたのと(良い意味で)異なる、大変な試合となったセペダvsバランチェク。セミで出場したガブリエル・フローレスの観戦記も書こうかと思いましたが、結果的に今日はもうこのメインの一戦につきる。
世界に2度挑戦し、世界王者の実力はあると認められるセペダ、そして元王者のバランチェクの一戦は、たしかに注目の一戦ではありましたが、日本においてはコアなボクシングファンのためのものでした。
しかしこの一戦は、ライト層、いやボクシングを知らない人にとっても、非常に感銘を受けるような一戦となりました。
今日はそんなセペダvsバランチェクの観戦記を書いていきたいと思います。
まずは以前のプレビュー記事を抜粋。
10/3(日本時間10/4)アメリカ
ホセ・セペダ(アメリカ)36戦32勝(25KO)2敗2NC
vs
イバン・バランチェク(ベラルーシ)21戦20勝(13KO)1敗
今週の「バブル」の興行です。「バブル」は、ボクシングの聖地、ラスベガスにあるMGMグランドの隔離スペースですが、この約一ヶ月後、日本の至宝、井上尚弥がこのリングに立ちます。
コロナでボクシング興行がストップした後、最も早くボクシングを再開させてくれたトップランクの興行で、もう既に4ヶ月近くの実績がある分、試合の運営については非常に安心感がありますね。今から楽しみです!
さて、週末の試合に話を戻すと、ホセ・セペダ。
このボクサーは若い時から既にいつ世界王者になってもおかしくないほどの才能、スキルを持っていたように思います。2009年プロデビュー、もう31歳なのですね。(現在のボクシング界を考えると、まだ31歳、ですが。)
初の敗北は2015年。テリー・フラナガン(イギリス)に、2R棄権負け。これはセペダの肩の脱臼によるもので、何とも不運な敗北でした。この一戦は前WBO世界ライト級王者であるレイムンド・ベルトラン(アメリカ)が体重超過により秤の上でタイトルを手放し(相手は粟生隆寛)、決定戦となった一戦。非常にもったいなかったですね。
そしてセペダに次のチャンスが巡ってきたのは、2019年、WBC世界スーパーライト級タイトルマッチ。王者ホセ・ラミレス(アメリカ)に挑戦。階級最強の一角と目されるラミレス相手に僅差の判定を落とし(見方によってはセペダの勝利)、2度目の黒星。
しかしその後、元2階級制覇王者ホセ・ペドラサ(プエルトリコ)を判定で降し、再起とともにやはり世界王者クラスの実力を示しました。7月のバブル興行も経験、このバランチェク戦では、セペダの技巧が優位となるでしょう。
↓7月のセペダvsカスタネーダ戦の観戦記
対するイバン・バランチェクはボクシングではあまり聞かないベラルーシという国の出身です。ロシア連邦の西隣、ウクライナの北隣に位置する国であり、旧ソ連の流れを組む国です。もうこの時点でボクシングは強そうです。
しかしロマチェンコに代表されるような東欧のボクサー像とは違い、強靭なフィジカルと左右のフックを武器にするボクサーです。
2014年にプロデビューした後、地域タイトルをコレクトし、2018年にWBSSに出場。初戦のIBF世界スーパーライト級王座決定戦でアンソニー・イーギット(スウェーデン)に勝って初戴冠。しかし初防衛戦(WBSS準決勝)で敵地グラスゴーに乗り込み、ジョシュ・テイラー(イギリス)の挑戦を受けたものの、ダウンを奪われての判定負けを喫して王座陥落。
ジョシュ・テイラーもホセ・ラミレス同様、階級最強に最も近いボクサーの1人です。そのテイラー相手にダウンを奪われはしたものの、後半は追い上げているようにも見えました。(但し、グラスゴーだったのでポイントがそうなっているかは不明。)ちなみにこの試合は井上尚弥vsエマニュエル・ロドリゲス戦も行われた興行のメインでしたが、その後2019年に再起、今回の一戦を迎えます。
両者ともにトップオブトップと対戦経験がある、スーパーライト級のトップボクサーと言えます。このままラミレスとテイラーの統一戦が締結するなら、統一王者はいくつかのタイトルを手放すか、もしくは階級を上げて全てのタイトルが野に出るか、かと思います。
そうなった時に真っ先にチャンスを掴むべきなのは、この試合の勝者でしょう。
とはいえ、その統一戦が締結しなくても、この試合の勝者にはラミレスに挑むもテイラーに挑むも充分に勝機は見いだせる、とも思います。
バランチェクがプレスをかけ、セペダが捌く。捌きながらもカウンターをとったり、インからパンチを当てられるセペダがダメージを与えていく展開になりそうですが、バランチェクの圧に押される展開も有り得ます。
ホセ・セペダ(アメリカ)vsイバン・バランチェク(ベラルーシ)
↓ハイライト動画
初回、開始と同時に予想通りガンガン攻めるバランチェク。かなり強引にいきます。セペダは足をつかってかわすものの、離れ際の大きいフックは気をつけた方が良い感じです。
2分たたないうちにバランチェクのかすったようなパンチでセペダがダウン!難なく立ち上がったセペダですが、波乱の幕開けとなりました。
終盤にもフックの相打ちでセペダがなぎ倒されるようにダウン!セペダは調子が悪いのか??
しかしバランチェクの体の厚みはヤバイですね。
2R、かなり振りが大きいバランチェク。このままねじ伏せようとしています。セペダはサークリングしながら相手の出てきたところにカウンターを合わせようとしています。
そして開始1分ほどでバランチェクのは入り際にコンビネーション!今度バランチェクがダウン!再開後一気に攻めるセペダ!一転してバランチェクがピンチ!
かと思えば攻め込んだセペダにバランチェクの右がヒット、セペダはまたもダウン!
バランチェクの身体は見掛け倒しではありません。既にとんでもない試合になっています。
身体ごとぶつかっていくバランチェク、カウンターねらいのセペダ。しかしセペダは下がりきる事はなく、やはり闘い方が上手い。
3R、勢いのあるバランチェクの攻撃は止みません。しかしセペダのジャブ、下がってのストレートも素晴らしい。ここで攻め込んだバランチェクに、ダッキングからの左フックを決めてセペダがダウンを追加!これは立てなくてもおかしくないダウンな気がしますが、バランチェクはすくっと立ち上がります。
そしてバランチェクは恐れることなくワイルドなパンチを放っていきます。すごいです。セペダも強振して迎え撃つ展開。
バランチェクが距離を詰めすぎてもみ合いになる事もありますが、その距離からでもバランチェクのパンチは怖い。
4R、このラウンドの序盤はセペダのジャブが機能し、静かな立ち上がり。しかしバランチェクが攻める時はリングの端から端まで攻め込むような勢いで、雄々しくパンチを振るっていきます。
フィジカルで押し、セペダにつめよるバランチェク。近い距離ではバランチェクに分がありそうです。攻め込んだバランチェクに、セペダはカウンターを起点にダウンを追加!
もう何回ダウンしたのか分からないくらいの展開です。バランチェクは倒れ方も豪快、しかしすぐ立ち、全くショックを引きずった形跡もありません。
5R、怖いぐらいの勢いで追いかけるバランチェクですが、近づく際にセペダのカウンターが効果的にヒットします。セペダはやはり当て勘が非常に優れています。
残り30秒のところで鋭い踏み込みからの右ストレートをヒットしたバランチェク!映像では丁度見えませんでしたがバランスを崩したセペダ、コーナーポストに激突、レフェリーがダウン判定。
しかし再開後、攻め込むバランチェクにセペダの右フックがカウンターとなってヒット!そこに左ストレートをフォロー!バランチェクは腰から砕け落ちるようなダウン!
ここでレフェリーが試合をストップ。
ホセ・セペダの5RTKO勝利。
初回から衝撃的な展開が続き、最後は事切れんばかりのものすごいカウンターでした。
ホセ・セペダ、イバン・バランチェク、両ボクサーの素晴らしいスキル、パワーを堪能した至高の5ラウンズ。最後も壮絶な幕切れで、両者ともに無事を願わずにはおれない内容でした。
両者ともに4度ずつのダウン、どちらもダメージを溜め込んではいましたが、ダウンの質は違ったかもしれません。
ファイト・オブ・ザ・イヤー、ノックアウト・オブ・ザ・イヤー候補と既に言われているこの試合、今のところは間違いないでしょう。あと約3ヶ月のうちにまた新たな激闘が出てくる事も考えられますが。
思っていた試合とは違いました。
セペダはバランチェクの圧に屈することなく、勇敢に打ち合いました。それでもバランチェクのフィジカルは強く、押される場面も目立ちましたね。
その中でやはりカウンターの上手さを発揮、荒れ狂うバランチェクの隙間を通すような左ストレートで試合を決めました。
最後までバランチェクには怖さがあり、一切気の抜けない試合。
両者、心身ともにかなりのダメージを負っていると思いますので、まずはゆっくり休んでもらいたいですね。
ちなみに私はセペダを応援(大好きなペドラサが敗けた相手だから)していましたが、今後はバランチェクも応援していくことになるでしょう。
それだけのものを見せてもらいました。
我々の予想を軽く越えてくれたこの一戦に巡り合わせてくれた奇跡に、本当に感謝したいと思います。そして両者の無事を祈っています。