こんな結末を迎えるなんて思いもしませんでした。
前日、中谷正義はインタビューで5RKO宣言。
その強気の姿勢に大きく期待を寄せるとともに、超強豪・フェリックス・ベルデホ相手にそれをやってのける、という事については現実的には思えず、「倒すつもりで」この一戦に臨む決意の現れのように思いました。
テオフィモ・ロペス(アメリカ)戦では、ジャブと距離で試合をコントロールしながらも、パワーパンチャーであるロペスにポイントが流れ、予想以上の大差判定で敗北。
ロペスは苦しみ抜きながらも勝ち残り、その後リチャード・コミー(ガーナ)を素晴らしいカウンター一撃で屠って世界王者となり、10月には当代最強の呼び声の高いワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)を破り、世界4団体統一王者となりました。
今やライト級世界一となったロペスを最も苦しめた中谷正義。
ロペス戦以来の1年5ヶ月ぶりの試合であり、一度の引退、ジムの移籍、様々を経験してまたアメリカのリングに立つ。ここで勝てば大きなドラマですし、負ければ足踏みを余儀なくされるというサバイバル戦。
今回のブログでは、多くのボクシングファンの心に残る激闘を演じた、フェリックス・ベルデホvs中谷正義の一戦の観戦記を書いていきたいと思います。
↓プレビュー記事はこちら
WBOインターコンチネンタル・ライト級王座決定戦
フェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)28戦27勝(17KO)1敗
vs
中谷正義(帝拳)18戦17勝(11KO)1敗
向かい合うと身長差はすごい。ただ、中谷も戦前語ったようにボクシングは身長でするものではありません。ただ、このサイズの差は戦い方によっては大きい。
ベルデホも中谷も良い表情をしており、調子は良さそうです。
1Rは突っ込んできたベルデホともみ合う展開からスタート。その後はベルデホのボディへの鋭いジャブが良い。ベルデホの動きは俊敏で、突き立てるようなジャブはダメージを与えそうな固そうなジャブです。
中谷は、というと、リーチ差を活かそうとせず、自ら踏み込み、ワンツーを放っていきます。これまでの中谷は、どっしりと構えながらも相手が売ってくれば後ろに下がり、ボクシングをして、チャンスとみると一気呵成に攻めるスタイルだったように思います。そのパンチは大きな軌道を描き、威力・迫力ともに充分ながら攻撃時には隙も大きくなってしまいます。
今回は、自らKO宣言をした通り、倒しに行くボクシングを徹底していくようです。
今回もガードは絞ってはおらず、危険な距離で闘う中谷、その不安は的中してベルデホのワンツーを浴びて早速ダウン!まだ開始一分過ぎ、立ち上がった足元は若干フラつきます。
ベルデホはここぞとばかりに攻め込みますが、中谷は強気に打ち返し、その猛攻をしのぎます。
やや落ち着いたベルデホに対し、中間距離で相対しますが、中谷はよくパンチも見えており、回復も早いです。終盤は中谷がプレッシャーをかけますが、ベルデホはパワーパンチを振り回します。
長い長い1ラウンドが終わり、早くもポイントではビハインド。
このダウンのリプレイが嫌というほど流れますが、ジャブをバックステップでかわしたところによく伸びる右ストレートをもらったようですね。このプエルトリカンの伸びのよいパンチに対しては、バックステップは悪手なのかもしれません。
2R、ベルデホの左フックもダイナミックで怖いパンチです。中谷はガードを上げ、プレッシャーをかけながら鋭いジャブ。
ベルデホは速く、強いパンチをしっかりと振ってきますね。それがガードが空いたところに飛んでくるので、本当に怖い。
このラウンド、プレスをかけたのは中谷でしたが、手数としてはほとんどジャブしか出ず、やはりベルデホのパワーパンチの迫力でポイントはベルデホに流れてしまうでしょう。
3R、開始早々に中谷のジャブを外し、右ストレートをヒットしたベルデホ!バランスを崩す中谷、危うし。ここはクリンチで押し込んで事なきを得た中谷でしたが、再開後も同じパンチ。ここはスリッピングアウェーでいなしたように見えましたが、この右ストレート、そして速く強い左フックには最大級に警戒してもらいたいです。
中谷は1Rによく見せていた左ボディをもっと使いたい。
ベルデホは上下の打ち分けが上手く、ボディへのジャブ、上へのジャブ、左フックを有効に使い、中間距離での攻防でも中谷を上回っているように見えます。
中谷のパンチはほとんど外され、既にタイミングを盗まれているように見えますし、ベルデホの左フックはガードしている中谷がよろけてしまうほど。やはりパワー差があります。
このラウンドの最終盤、中谷は当たりはしませんでしたが、良いコンビネーションを見せます。こういう連続攻撃をかけていけば、下がりながら対応するベルデホを追い詰められるのではないか、と思います。
4R、このラウンド序盤にも、ボディを含めた素晴らしい連続攻撃。しかしベルデホはディフェンス勘も良く、なかなかヒットを許しません。
中谷が攻め、近い距離で交錯した瞬間、中谷が右膝をキャンバスにつき、ダウン。どうやら中谷の入り際、ベルデホの右が中谷を襲ったようです。
ダメージはなさそうですが、かなり苦しい展開。ベルデホはかなり余裕を持って戦える展開になってきてしまいました。
スローでこのダウンの模様が流れますが、右と右のカウンターですね。。。
中谷はかなりタフであり、そしてかなり回復が早い。試合が終わってもおかしくないタイミングのカウンターでした。。。当たった時の距離が近すぎた事が幸いだったかもしれません。
5R、中谷がKO宣言したラウンド。しかし、ポイント的にはかなり劣勢を強いられており、ベルデホにどれほどのダメージを与えられているかは不明。とはいえ、中谷も二度のダウンを喫してはいるものの、その動きは衰えず、気持ちも萎えず、強気でプレッシャーをかけ続けています。その事がベルデホにとってはかなり脅威になり、ベルデホも勝負を決めに行く事はできないのでしょう。
ただこのラウンドもクリーンヒットはベルデホが上回り、傍目に見れば徐々にダメージを与えているのはベルデホです。
ここでもう半分、2度のダウンがあるため、これ以降全てポイントを獲ったとしても中谷の勝利は限りなく遠い。
6R、どこかで展開を変えてくれ、祈るような気持ちでみています。このラウンドは、ベルデホが攻める時間が減り、ディフェンシブな戦い方に見えます。
ポイントでの優勢を意識して、もしかしたらポイントアウトを狙っているのかもしれません。
ただ、近い距離になった時の左フックは驚異的なスピードとパワー。あれは絶対にもらいたくありません。
7R、序盤、ともに決定打を欠く展開から、1分過ぎにベルデホのワンツーが中谷に浅くヒット。それを皮切りに、今度は中谷のワンツーがヒット!この右でベルデホは後退します。
最初はバックステップして後退したのかと思いましたが、その後ベルデホはクリンチ。これは、効いています!レフェリーのブレイクの合図にもしばらく離れようとしないベルデホ。
再開後、中谷は攻めに攻めます。
千載一遇のチャンス!少々の被弾を物ともせず、前に出てパンチを振るい、逃げるベルデホを追いかける中谷!!!
足を使って逃げつつも、時折思い切り振ってくるベルデホのパンチはまだ怖い。結局このラウンドではそれ以上のダメージは与えられず、終盤はベルデホも回復して打ち返してきました。
8R、開始早々、中谷が鋭いジャブを飛ばし、ベルデホもボディジャブで対抗。しかしベルデホのボディジャブは身体が流れてしまっています。たまたまそうだったのか、もしかすると疲労なのかもしれません。
ジリジリとプレスをかける中谷。しかし攻め込んだところでベルデホのカウンターアッパーが入る等、やはりベルデホは怖い。
残り一分を切ったところで、中谷の右がヒット、少しぐらついたように見えたベルデホに向かっていく中谷!しかしワンツーで攻め込んだ中谷に、たまたま(のように見えた)ベルデホの左がヒット、今度は中谷がぐらつきます!
ここが勝負どころと近づいてボディを乱打するベルデホ、クリンチでしのぐ中谷。
ともにかなりダメージが溜まっているのでしょうか。。。
ここまでのクリーンヒットは、おそらく中谷の方が受けているでしょう。しかしその回復の早さは素晴らしく、そしてそのダメージをおくびにも出さない精神力たるや素晴らしいです。
9R、開始15秒で思いきりよく踏み込んだ中谷のワンツーがベルデホを捉えます!これは効いた!!クリンチに逃げるベルデホ、ここで中谷はラッシュ!もう最後かもしれないチャージに、ベルデホもカウンターで対抗。
ハーフタイム、ベルデホの右と中谷の右が相打ち気味に当たり、ベルデホはふっ飛ばされるようにダウン!!!強いパンチには見えませんでしたし、押されたように見えたダウンでしたが、もしかするともうベルデホは踏ん張りが効いてないのかもしれません。
再開後、襲いかかる中谷!最後は右のオーバーハンド!ベルデホは前のめりにリングにダイブ!!!
その姿を見たレフェリーは、カウントなしで試合をストップしました。
中谷正義、9RTKO勝利!!!!
素晴らしい逆転KO勝利でした!!
期待はしていたものの、ベルデホをKOできるか、というと懐疑的ではありました。前戦の反省を活かし、倒すつもりで戦い、ポイントを奪っていく、そういう宣言だと思っていました。
そして序盤、1Rにいきなりのダウンを奪われ、あのラウンドは非常に長く感じました。とにかく、生き残ってほしい。。。。そういう思いで1Rが終わり、2R、3Rでも勝機が見えるような展開ではなかったと思います。
そして4Rにはダメ押しのダウン。
映像で見ると膝をついただけに見えましたが、スローでみると右と右のカウンター。
しかし不屈、中谷は平然と立ってボクシングを続けました。
何が起ころうとも慌てず、どんな劣勢にも諦めず、本当に素晴らしい戦いだったと思います。
そして流れの変わった7R。ベルデホはやはりスタミナ難だったのでしょうか。
集中力は保たれていたように見えましたし、スピード、パワーも落ちた印象はありませんでした。しかし、手数は減り、自ら仕掛けるという場面が減っていたように思います。
それでも、自ら攻めなくとも、中谷が攻めたところにカウンターを合わせる、それだけでもものすごい脅威。身体の柔軟性も相まってディフェンスも良く、中谷のパンチが空を切る場面は非常に多かったと思います。
それでも一瞬たりとも諦めず、終始プレスを緩めることのなかった中谷は本当に天晴です。本当に気持ちのこもった、素晴らしいボクシングでした。
中谷が急激に強くなった、という訳ではなく、元々世界レベルのボクサーだったこと。
そしてベルデホも、かつての調子を取り戻し、素晴らしいボクサーに戻っていたこと。
勝利したのは、より「諦めない強い心」を持つ中谷正義だったこと。
その全てが素晴らしい試合でした。
この試合がファイト・オブ・ザ・イヤーだったら良い、そう思える一戦でした。
感動を与えてくれた中谷正義に、本当に感謝です。
今日はこの一戦だけで、残りはまた後日。
↓いつまであるかわかりませんが、見てない人の為に一応。