国内ライト級ウォーズ。
非常に甘美な響きです。
世界的に強豪が揃うこの階級では、日本ボクシング界の歴史上、世界タイトルを手にしたボクサーは非常に少ないです。
ガッツ石松(ヨネクラ)に始まり、畑山隆則(横浜光)、小堀祐介(角海老宝石)。
ガッツ石松大先生が5度の王座防衛後、1976年に王座を陥落してから約4半世紀、日本人のライト級世界王者は現れず、畑山隆則が2階級制覇達成と同時に獲得したライト級王座は2000年のことでした。
そして2008年に小堀祐介が強打のホセ・アルファロ(ニカラグア)を逆転KOで降し、世界王者に。
↓世界ライト級への挑戦者の記録
その頃から比べると、JBCがIBF、WBOの王座を容認したことからタイトルは狙いやすくはなったはずです。
しかし、小堀佑介が初防衛戦でその王座を失った後、世界王者は現在まで生まれていません。
そして今、日本ライト級は、トップ選手同士が激突の機会を得たこと、そしてつい先日、中谷正義(帝拳)がプエルトリコの元トッププロスペクト、フェリックス・ベルデホを劇的な逆転KOで降したことで世界への期待が非常に大きい階級になっていると感じます。
中谷正義の衝撃的なKOを目の当たりにした、日本ライト級ボクサーの心境はどのようなものなのでしょう。
とりあえず気にせず、目の前の相手に集中するのか、それとも中谷との一戦を夢見るのか、あのラスベガスの舞台に自分も、と思うのか。
12/26に激突する、ライト級トーナメントの「準決勝」
吉野修一郎(三迫)が、細川バレンタイン(角海老宝石)を退けた一戦をもう一方のブロックの準決勝だとすれば、年末に行われるA-SIGN興行の伊藤vs三代ももう一つの準決勝。
伊藤雅雪(横浜光)と三代大訓(ワタナベ)
前WBO世界スーパーフェザー級王者、伊藤雅雪。高校卒業後ボクシングを始めたプロ叩き上げのこの元世界王者は、自らをこの国内ライト級ウォーズの監督、主演、脚本は全部俺だと憚りません。
2009年にデビュー、2011年の新人王戦にエントリーするも溜田剛士(当時ヨネクラ)と引き分け、敗者扱いで敗退。
翌2012年の新人王戦では末吉大(当時帝拳)を破り、そのまま一気に東日本新人王を獲得。全日本新人王決定戦では坂晃典(仲里)を破り全日本新人王に輝きます。
その後も2013年には源大輝(ワタナベ)を破り、WBC世界ユース王座決定戦でジェフリー・アリエンザ(フィリピン)を破ってユース王座を獲得。
その後は中村正男(当時渥美)も破り、日本タイトルに挑戦したのは2015年のこと。
この一戦では内藤律樹(E&Jカシアス)に0-2の僅差判定を落とし、初黒星。
しかしその後、OPBF東洋太平洋王座を獲得、渡邉卓也(当時青木)の持つWBOアジアパシフィック王座も吸収し、2018年にクリストファー・ディアス(プエルトリコ)とWBO世界スーパーフェザー級王座決定戦に臨みます。
この試合で大きく殻を破った伊藤は、アメリカの地で、ディアス相手にダウンを奪い、番狂わせともいえる王座獲得を果たします。
このタイトルをこの年の大晦日、日本で防衛したのち、2019年5月にジャメル・ヘリング(アメリカ)に明け渡してしまいました。
こうしてキャリアを振り返ると、闘ってきた相手はものすごいですね。
伊藤に敗北し、その後日本タイトルを獲った末吉、坂、源。そして中村は当時は元OPBF東洋太平洋王者であり、その後WBOアジア・パシフィック王座も獲得しています。
そして2019年9月に復帰した伊藤は、2020年2月に予定されていた復帰第二戦を自身の怪我で流し(その後にコロナのパンデミックにより結局興行が中止に)、今回の一戦を迎える事になりました。
A-SIGNのオンラインサロンにて、伊藤雅雪の移籍のゴタゴタについて話をしている動画を見ました。世界王座獲得前から移籍を希望する旨を話をしていて、かなり大変な時期だったようです。
本気で日本ボクシング界を引退し、アメリカに拠点を置いてボクシング人生を全うしようとしていたそう。
そのゴタゴタの中で、アメリカという地で世界タイトルを獲得したことは相当なメンタルの強さのなせる業でしょうし、今回の煽りも本当に素晴らしいですね。
あくまでもこの国内ライト級の主役は、この伊藤雅雪だと感じさせられます。
対する三代大訓は、ボクシング不毛の地である島根県で競技をスタート。高校時代にはインターハイでベスト8が最高位だったそうですが、請われて中央大学に進学。そこでは主将を務める等活躍しました。
関東リーグという日本最高峰のアマチュアリーグで揉まれた三代は、2017年3月、ワタナベジムからプロ入り。
アマエリートの相手はなかなか見つからないのが常であり、デビューから3戦はハイペースな試合間隔ながら外国から招聘した選手が相手でした。
真価を問われたのは4戦目、ホープ仲里周磨(ナカザト)との一戦でした。仲里繁を父に持つ2世ボクサーとの一戦をクリアし、2017年のA級トーナメントへ出場。
ここでホープ、正木脩也(当時帝拳)との一戦を制し、A級トーナメント優勝。
その勢いを駆って、6戦目でOPBF東洋太平洋スーパーフェザー級王者、カルロ・マガレ(フィリピン)に挑戦します。
このマガレを2-1の判定で降し、初戴冠を成した後、末吉大(当時帝拳)の持つ日本王座との王座統一戦でドロー、渡邉卓也(当時青木)、竹中良(三迫)、木村吉光(当時白井・具志堅スポーツ)を相手に4度の防衛を重ねました。
ただ、前戦では格下に思われた木村に大いに苦戦、2-1の僅差の防衛であり、対戦相手は強豪が揃っているとはいえ、なかなかスカっと勝ってくれない印象です。
ただ、いくつもの僅差判定をものにしている事を考えると、ポイントを獲る力が強い、とも言えますね。
伊藤vs三代の不確定要素とは
キャリア、実績ともに勿論元世界王者であり、ルーキー時代から数々のライバルたちと闘ってきた伊藤が上と言わざるを得ません。
三代はジャブと、「闘い辛さ」が武器といえますが、様々なボクサーとの対戦経験がある伊藤を捌く事ができるか、というと微妙な所でしょう。但し、三代がKOされるところもまた想像はつきません。
大方の予想は、伊藤の判定勝利、というのが多いのではないでしょうか。
いくつか気になる点のひとつとは、伊藤は世界タイトルを獲得したディアス戦以降、ファイタースタイル寄りになっていること。
そしてもう一つは、三代が明らかに格下であり、あくまでも通過点であること。
という事は、伊藤は三代対策というよりも、自分のボクシングを貫徹する方に舵を切ると思うのです。
こうなると三代としては闘いやすくなる可能性があります。
そして、その三代は伊藤をかつての憧れの人と語り、これまでの下馬評優位の戦いとは違い、モチベーションの高さは押して測るべしです。更に、今回は今までと違う、という事をインタビューで語っており、フィジカル面に自身を示し、ともすれば打ち合いも辞さない覚悟を持っているようです。
三代がこれまでとスタイルを変え、打ち合いに行くならばまた展開は読めなくなります。接近戦でもジャブの巧さは生きるのかもしれません。
伊藤が攻めなければ大凡戦にも終わる可能性がある闘いであり、スタイル、ボクシングのおもしろさに矜持を持つ伊藤はきっと前に出ていくでしょう。
その伊藤に対し、三代がどのように闘うか、それにより展開は変わってきます。伊藤の今回の試合のスタイルについてはわかり易く、三代については読めないという点を考えれば、戦略を選べる三代には一つのアドバンテージがあると考えます。
あくまでも奇策をつかっていいのは三代の方、ともいえます。
ここを全て飲みこんで伊藤が圧勝するようであればそれはそれでおもしろいですし、もしかするとヘリング戦のように思った通りにインファイト出来ない可能性もあります。
「三代の戦い方」これが今回の試合の不確定要素であり、楽しみな点ですね。
そしてこの試合の勝者は、吉野と対戦か。
JBCに認められている地域王座は、日本王座、OPBF東洋太平洋王座、WBOアジア・パシフィック王座の3つ。
その3つを現在同時保持している吉野修一郎(三迫)。
その吉野修一郎は、3冠を同時保持し、更には防衛戦では圧倒的な力で勝ち続けているため、国内ライト級最強の称号を欲しいままにしていました。
しかしここにきて、元世界王者の伊藤雅雪がライト級に転級、そしてその伊藤が対戦相手として選んだ三代大訓も転級。
そして極めつけは先日の中谷正義のアメリカでの衝撃KO。
正直中谷はこの国内ライト級ウォーズには加わらないでしょう。メリットがなく、自らがアメリカで切り開いた道をそのまま突き進むべきだとも思います。
中谷には後塵を拝してしまった感のある国内ライト級ウォーズですが、楽しみは変わりません。
伊藤vs三代の勝者が、吉野と拳を交え、その勝者は国内最強を示して、アメリカへの切符を手にする。そこで揉まれ、世界タイトルへたどりつけるのか否かは、わかりません。
それでも、このライト級という世界的大人気階級において、強い王者を倒し、世界チャンピオンとなってくれるボクサーの誕生は、間近に迫っているともいえます。
コロナ禍でなければ、実現しなかった闘いなのかもしれません。
あと1週間、楽しみですね。
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