現地(アメリカ)時間で2/20(日本時間2/21)、ミゲル・ベルチェルトvsオスカル・バルデスのメキシカン対決。
大方の予想はサイズ、パワーに勝るベルチェルト優位。
私はベルチェルト応援、願わくば全ての面で上回り、後半から終盤にかけてのノックアウトを期待していました。
↓プレビュー記事
ここから先は、試合の観戦記です。
2/22(月)21:00〜のWOWOWのタイムリーオンエアで放映予定のため、先行オンデマンドで見れず、レギュラー放送を楽しみにしている方はご注意ください。
セミファイナル スーパーフェザー級10回戦
ガブリエル・フローレスJr(アメリカ)vsジェイソン・バエス(プエルトリコ)
19勝(6KO)無敗、20歳のプロスペクト、フローレス。対してバエスは、前戦でオスカル・バルデスを相手に10Rまで粘ったタフなボクサー。
初回、プレスをかけたフローレスでしたが、2Rからはいつものサークリングしてカウンターを狙うボクシング。
フローレスは左手を下げたスタイルからジャブが素早い。ショルダーでブロックする感じではなく、顎前に掲げた右手でパーリングするパターンが多いので、このパーリングというのはミスったら怖い。相手の右ストレートをモロに食らってしまう危険性をはらんでいます。
ただ、フローレスのジャブは上下の打ち分けも、ジャブの連打も見事。その後の左フックも見事なんですが、正直ほとんどリードブローしか使っていない印象です。
サークリングしつつ、相手の入り際、打ち終わりに鋭いジャブを当て、まれに右ストレートを叩き込んで左フックで回す。このままのボクシングを10R続けるのか、と思った6R、中盤からワンツーを多用したあと、かすったような左フックでバエスがダウン!
立ち上がったバエスに荒々しく攻めるフローレス!バエスも打ち返しますが、効いているためそのパンチは的確性を欠き、最後はまたも左フックでダウンを奪い、フィニッシュ。
ガブリエル・フローレスJr、6RTKO勝利。
パワーレス、とは思いませんが、ジャブを主体とした攻撃的ではないボクシングが特徴のフローレス。今回のように一度効かせられればその後の詰めは非常に鋭いものがありますが、相手のボクサーの実力次第では単調な試合になりがちに思います。
メインのベルチェルトvsバルデスの勝者と戦いたい、と勝利者インタビューで語ったフローレスでしたが、時期尚早でしょう
ただ正直、フローレスがバエスを倒せるとは思ってもみませんでした。
WBC世界スーパーフェザー級タイトルマッチ
ミゲル・ベルチェルト(メキシコ)37勝(33KO)1敗1NC
vs
オスカル・バルデス(メキシコ)28勝(22KO)無敗
トップランクが用意した会場「バブル」。この隔離空間でも無観客試合は、コロナ禍の中でたくさんのボクシングを提供してくれました。
井上尚弥(大橋)のラスベガスデビューも、中谷正義(帝拳)の奇跡も、この会場で行われたのです。
そして、このバブルでの興行は、これが最後だそうです。
これからは有観客へと移行していく、たくさんの感動と名勝負を生み出してくれたこのバブル、最後を飾るに相応しいビッグファイトです。
テレビの画面で見ると、やはり体格には大きな差があるように見えます。
初回、先に仕掛けたのはバルデス。素早いフェイントから、右オーバーハンドを振っていきます。フェイントをかけつつ、プレスをかけていくバルデス。
ベルチェルトはサークリングしつつ、手数は控えめ。
バルデスの動きが非常に良い。ここ最近のこの階級でのテストマッチのときとは比べるべくもありません。ベルチェルトという強敵を迎え、完全に仕上げてきた雰囲気のバルデス。
対して、ベルチェルトはバルデスに対するリスペクトが過ぎる雰囲気。
2R、ベルチェルトは軽いジャブを突き始めます。バルデスのフェイントは秀逸、そのスピードも相まってベルチェルトは大きく惑わされています。
スピードではバルデスが圧倒的に速く、ハンドスピードだけでなく踏み込みのスピードも速い。バルデスは左右のステップも良く、更にはボディムーブも良い。このボディムーブのディフェンスについては、チーム・レイノソの専売特許か。
後半、バルデスの速く強いジャブが何発かヒット。距離が長いはずのベルチェルトですが、バルデスの踏み込み、距離感が上回っています。
3R、ジャブと同じ踏み込みで打つバルデスの左フックは脅威。この左フックはカウンターだけではありません。今日のバルデスは本当に出色の出来。
このラウンドはベルチェルトもガードを固めてプレス。ジャブの距離ではバルデスの方が上回っていると認めたのかもしれません。接近戦で、いつも通り連打を出したいベルチェルト、リーチ差での戦いは捨てて前に出ます。
しかし、出先に出てくるバルデスのジャブ、そしてロープにつまってもボディムーブとサイドステップでいなされ、距離で詰まればクリンチに逃げられる。バルデスはこんなにもボクシングが巧かったか、と驚愕させられます。
4R、ベルチェルトがジャブを打てば、それをかわしてジャブを当てられ、左フックのカウンターをとられてしまいます。どんどん攻めづらくなるベルチェルト。
距離を詰めていくものの、ベストな距離、ポジションで強いパンチを出させてもらえません。
中盤、ワイルドに攻めるベルチェルトですが、バルデスは下がりながらのディフェンスも良い。
そしてとうとう、バルデスの左フックカウンターがヒット!ぐらついたベルチェルトにダメージはありあり。その後詰めるバルデスに対して、ベルチェルトは果敢にも打ち返します!
しかしその後も効かされて足が言うことを効かないベルチェルトは大ピンチ!残り10秒、大きくぐらついたベルチェルトはロープにもたれかかり、ここでレフェリーがロープダウンを取ります。
ダウンして救われた感のあるベルチェルトでしたが、再開後残り1秒のところでもクリーンヒットを奪われ、よろめいたところでラウンドが終了。
あと5秒、いや3秒ほどあればノックアウトされていたかもしれません。。。
というか、この状態であれば、ストップの早いレフェリーであれば止められていたでしょう。
5R、ベルチェルトはまだダメージから回復していません。先程のラウンドを生き延びたのであれば、更に生き延びて欲しい。
バルデスは左右のフックを強振し、ベルチェルトに迫ります。
ベルチェルトは足が動かないために逃げることもできませんが、どっしりと構え力ないパンチで応戦。これは既に時間の問題か。。。
しかしベルチェルトは歴戦の雄、体を振り、攻め込まれないようにプレスをかけ、懸命にサバイブ。ラウンド終盤にはやや回復傾向が見られるベルチェルトはこのラウンドも何とか凌ぎ切ります。
このダメージがある中で、鬼気迫る戦いぶり。私は手汗が止まりません。
6R、先程のラウンドよりも更に回復したベルチェルト、しかしポイントは圧倒的不利。ベルチェルトはプレスをかけ、近い距離で回転力のある連打。
バルデスは下がりながらジャブを当て、ベルチェルトとの距離が詰まれば左フック、右フックを強振。これがまた怖い。
しかし、ここから全てのラウンドを取らなければならないであろうベルチェルトは、やはり近い距離での連打に活路を見出したいところです。
7R、ベルチェルトはここに来て、バルデスのジャブに対応できるようになってきているように見えます。しばしばもらう事はあるものの、これまでのように全く反応できていない、というわけでもありません。逆転KOに期待がかかるベルチェルトは、しつこく追いかけ、近い距離でパンチを放っていきます。
願わくば、もっといつも通り、いやいつも以上に手数がほしいところです。
このラウンド、バルデスは休んでいるのかベルチェルトの攻勢が目立っていましたが、終盤、バルデスは力強く、的確なパンチを打ち返します。ベルチェルトは変わらずピンチ。
8R、開始早々にバルデスがチャージ。やはり先程のラウンドは休んでいたのかもしれません。しかしその後はサークリングしつつカウンターを返すパターンに変更、やはりそのステップ、ディフェンスが良く、ベルチェルトはまったくついていけません。
時折見せるサウスポーへのスイッチも非常にスムーズで、ベルチェルトはいつの間にか足の位置が変わっている右フックのカウンターにも気をつけたい。
9R、もう倒すしか勝利の道筋が見えないベルチェルト。攻めるしかありませんが、ジャブで攻め入ったところでカウンターをもらいます。
やはりバルデスの左フックは怖い。ベルチェルトのジャブ、右ストレート、そのうち終わりに左フックを返し、ガードの上からでも効いているふうに見えます。
そして得意の左フックから攻め入ったバルデス、続く右アッパーをクリーンヒット、その後のフォローでとうとうベルチェルトはダウン。
ここは決めにいくバルデス!残り時間は40秒!!
こんな時でもベルチェルトは攻めの姿勢を崩さず、最終盤でもプレスをかけてバルデスの後続打を封じます。
10R、ここに来てバルデスは冷静にフェイントも織り交ぜつつジリジリとプレス。右ボディから顔面への左フックで効かせ、その後も右をヒット。
ベルチェルトのダメージを計測するかのようにサークリングし、誘い出します。完全にカウンターを狙っています。
ここまでバルデスが冷静であれば、ベルチェルトには為す術なしです。
最終盤、残り10秒を告げる拍子木のあと、ベルチェルトが前進した攻め入ったところで、バルデスの完璧な左フックカウンターがヒット!!!
前のめりに倒れたベルチェルトを見てレフェリーはカウントせずにストップ!!!!
オスカル・バルデスの10RTKO勝利。
とんでもないノックアウトでした。早々と、今年のKOオブ・ザ・イヤー候補と騒がれるのではないでしょうか。
倒れたまま、しばらく起き上がれないベルチェルト。ダメージは深刻です。
ようやく起き上がったベルチェルトに、バルデスは近寄ってその肩を抱きます。何かを語りかけていますが、検討を称え合っているのでしょう。
これまでこの二人は、変に罵り合うこともなく、互いをリスペクトしつつコメントを発表してきました。
メキシコの誇る非常に優秀な王者ふたりの決戦は、その試合前から決着まで、非常に美しいものだったと思います。
ベルチェルトのダメージは非常に心配ですが。。。
ともすれば、4Rの時点で止めてしまっても良かったかもしれません。ストップできなかったのはこれがビッグマッチだったからかもしれませんが。
ともあれ、オスカル・バルデス。
個人的には、ここ最近の出来だけを見て、いつの間にか過小評価してしまっていました。
スーパーフェザー級最強と呼び声の高かったベルチェルトを、完膚なきまでに叩きのめしたこの一戦は、大きくバルデスの評価を上げる事でしょう。
今日のバルデスは非常に巧く、速く、そして強かった。
試合の組み立て方もそうですが、とにかくジャブがものすごく良かったですね。ジャブで試合の主導権を握り、自身が休んでいる時もそのジャブと得意の左フックをちらつかせ、ベルチェルトに自分のボクシングをさせませんでした。
本当に天晴、次戦も非常に楽しみです。
さて、敗れたベルチェルトはまだ29歳。再起への道はいくらでも残されています。
まずはダメージをしっかり抜いて、またリングに戻ってきてほしいな、と思います。