ビッグマッチ、とか、超ビッグマッチだとかという表現は多く、先日のエストラーダvsロマゴンなんかもビッグマッチでしたし、日本でいうと井岡一翔vs田中恒成なんていうのもビッグマッチでした。
しかし、「メガファイト」という表現は、ヘビー級にこそよく似合う、と思います。
そして、兼ねて噂のあったWBAスーパー・IBF・WBO世界ヘビー級統一王者、アンソニー・ジョシュア(イギリス)とWBC世界ヘビー級王者、タイソン・フューリー(イギリス)の、まさに「メガ」ファイトが合意に達したとのこと。
両者は3/13(土)にサイン、あとは日程と会場を残すのみです。
内容としては6月か7月に第一戦、11月か12月に第二戦と2試合の契約とのことで、初戦はファイトマネーの取り分が50-50、第二戦については初戦の勝者が60、敗者が40との契約のようです。
本日のブログは、とうとう合意に至った、このメガファイトについてです。
アンソニー・ジョシュア(イギリス)25戦24勝(22KO)1敗
2007年、18歳でボクシングを始めたジョシュアは、2012年にロンドンオリンピックで金メダルを獲得。このロンドンオリンピックでは接戦が多く、決勝はドローの優勢扱いでの金メダルながらも、18歳でボクシングを始めたというそのキャリアを考えると驚異的。
翌年、プロ転向したジョシュアは、デビューから20連続KO勝利という破竹の勢い。
その途中、16戦目でチャールズ・マーティン(アメリカ)からIBF王座を奪取、19戦目でかつての絶対王者、ウラディミール・クリチコ(ウクライナ)と倒し倒されの大激闘を演じ、WBAスーパー王座を獲得。
そして21戦目で当時のWBO王者、ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)と初の12Rを戦い抜き、3冠統一王者となりました。
この3冠の防衛戦は、アレクサンデル・ポベトキンをKOして1度防衛したものの、次の防衛戦で伏兵、アンディ・ルイスJr(アメリカ)にまさかの大番狂わせ、7RKO負けを喫して一気に無冠となってしまいます。
一度の大きな敗北を経験したジョシュアでしたが、ダイレクトリマッチでルイスJrとの再戦を制し、昨年はクブラト・プレフ(ブルガリア)を圧倒して9RKO勝利。もっと早くに倒せたと思うのですが、まるで何かを確かめるようにプレフを痛めつけた末のKO勝利でした。
「超合金」とも言われる美しい肉体美を持ち、そのボクシングもジャブ、ストレートがまっすぐ出て美しい。ルイスJr第二戦で見せたようなアウトボクシングも、クリチコ戦で見せたような熱いファイトもできる万能型ですが、おそらく一番得意なのはミドルレンジ、特に右ストレートでしょう。
非常に強そうな体躯をしていながらも、打たれて脆い面があり、ルイスJrとの初戦はそこに起因するところが大きいと思います。ルイスJrとの初戦、序盤はジョシュアのジャブの距離であり、もともと完封しようと思えばいくらでも出来たと思いますが、そこは人気者の「プロ」ボクサー、あえて接近戦を挑みます。倒しにいったのかもしれません。
そこから歯車が狂ってしまったジョシュアは、結果的にKO負けをしてしまうのですが、その事はジョシュアの今後のキャリアに、強い警戒心を産み付ける出来事となったと思います。プレフ戦でもそうだったように、今後のジョシュアはキャリア前半よりもエキサイティングに欠ける選手になりそうな予感がしています。
↓ジョシュアvsプレフの観戦記
タイソン・フューリー(イギリス)31戦30勝(21KO)1分
1988年、マイク・タイソンの世界王者時代に未熟児で生まれたフューリーは、タイソンのように強い人間になってほしいという願いを込められて、「タイソン」と名付けられたそうです。
12歳でボクシングを始めますが、北京オリンピックの選考で落選、プロ転向。
数々の地域タイトルをコレクトし、25戦目で当時の絶対王者、ウラディミール・クリチコ(ウクライナ)へ挑戦します。
ここまで、ライバルのいなかったクリチコは、WBAスーパー王座を8度、IBF王座を18度、WBO王座を14度防衛する絶対王者(他にもIBO王座も18度)。いつしか陥落は来るはずですが、まだその時ではない、全勝の挑戦者タイソン・フューリーを持ってしてもクリチコの勝利は確実視されていました。
しかし、この一戦でフューリーは見事なボクシングでクリチコを攻略、初戴冠でメジャー3団体王座統一タイトルを奪うというアップセットを成し遂げます。
しかし、こうして一気にトップに上り詰めたフューリーにとっては、おそらく環境が変わりすぎ、ここからは地獄のような展開。
指名戦に応じなかったとしてまずはIBF王座が剥奪され、その後は怪我、ドーピング違反の発覚、躁うつ病の発症。IBF王座の剥奪に次いで、WBAスーパー・WBO王座については返上し、ほぼ引退状態となってしまいました。
歴史的な勝利を手にしたからこそ、このフューリーのボクシング人生は狂ってしまったと言わざるを得ません。大きな事を成し遂げれば成し遂げた程、その落差が大きいのは、どんな世界でも同じです。
しかし、2015年11月に行われたクリチコ戦から数えて約2年7ヶ月のときを経て、2018年6月、リング復帰を果たしたタイソン・フューリー。
そして復帰2戦目でなんと当時最強とも謳われたハードパンチャー、デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)の持つWBC世界ヘビー級タイトルへチャレンジ。
12Rのうち、一発でももらってしまえば試合が終わる。そしてその強打から12R逃げる術はない。そんな強打の持ち主、ワイルダーとの死闘は互いの持ち味を出し合い、ドロー。
この一戦は、ブランク空け1戦しかしていないフューリーの大復活を印象づけた一戦でもありました。
その後一戦を挟んだ後、このワイルダーとの再戦に臨んだフューリーは、完璧なパフォーマンスで宿敵ワイルダーをノックアウト。ここに来てベストなパフォーマンスを見せています。
ワイルダー1戦目を見ると、フューリーの回復力は非常に高い。あとは、精神的なコンディショニングがそのパフォーマンスに影響すると思えますので、戦前からあまりに強くプレッシャーを感じるようであればコンディショニングに大きな影響を与えそうです。
↓フューリーvsワイルダーの考察記事
過去、躁うつ病を発症したというフューリーは、精神的に強くない可能性があります。もしかすると、母国イギリスで戦うよりも現在計画されている中東で戦う方がフューリーにとって良い方向に転ぶかもしれません。
おそらくイギリスでは、AJを応援するサポーターの方が多く、それによりフューリーが参ってしまう可能性も考えられなくはない。そういった繊細な部分がありそうなフューリー。
対してジョシュアは、その打たれ脆さが最大の難点、フューリーの当て勘は本物だけに、どんなにディフェンシブに戦おうとも被弾は免れません。
ただ、フューリーもガードには雑なところがあり、ディフェンスは危なっかしい時もあるので、ジョシュアの正確なコンビネーションを防ぎきれない可能性は大いにあります。フューリーが、ワイルダーの強打を1、2戦ともにほぼ完封できたのは、ワイルダーのパンチが単発気味だったことが大きいような気がしています。
どちらにも油断ができないこの一戦は、倒し倒されのエキサイティングな試合か、もしくはともに警戒しあっての超凡戦か、そのどちらか。
対戦相手が誰であれ、ウェンブリー・スタジアムに10万人を集められる集客力を持つ、AJ=アンソニー・ジョシュア。
捉えどころがなく、奇行も多いがなぜだか憎めないキャラのフューリー。
はっきり言うとボクシング自体はお固い感じのジョシュアの方が好みです。リング上でふざけたパフォーマンスをしたりする(例えば舌をベロベロ動かす等)のは好きではないのですが、とにかくフューリーは突き抜け過ぎてて許せてしまいます。
Miss A Thing、American Pie、次は何の曲を歌うのか、と気になる部分もあります。
試合の日程が正式に決まった後、プロモーションでの舌戦や、フューリーの計量時や入場時のパフォーマンス、そして試合内容と試合結果まで、全てが楽しみなこの一戦。
あと3ヶ月。(または4ヶ月。)そして、第二戦を楽しみにできるか、ということはこの第一戦にかかっています。