ボクシングイベント目白押しだった5/30。
皆さんはどの試合が最も印象に残りましたか?
前回のブログでは、個人的には一番楽しみにしていたデビン・ヘイニーvsホルヘ・リナレスをメインとしたマッチルーム興行について書きました。
本日のブログでは、同様に注目された、ノルディーヌ・ウバーリvsノニト・ドネアのShowtime興行について書いていきたいと思います。ちなみに、こちらの方がアンダーカードは魅力的です。
WOWOWの生放送の放送回では、アンダーカードも放送してくれるようです。ありがたい。
スーパーライト級10回戦
ゲイリー・アントワン・ラッセル(アメリカ)13戦全勝全KO
vs
ジョバンニ・サンティアゴ(プエルトリコ)14勝(10KO)1敗1分
ラッセル家期待の、というかラッセル家の中で最もアグレッシブでおもしろいボクサー、アントワンが、エイドリアン・ブローナーに惜敗したサンティアゴとの一戦。
これまで4Rまでしか戦った経験のないアントワンが試される(かもしれない)一戦です。
初回からやはりプレスをかけ、積極的にパンチを放っていくアントワン。サウスポー、アントワンとオーソドックスのサンティアゴではやはりバッティングは怖いところです。
アントワンの左ストレートがいくつかヒットしており、非情に効果的に見えます。決着は、遠くなさそうです。アントワンの方がガードポジションがオープン気味で、どちらかというとサンティアゴの右ストレートの方が入りそうですが、プレッシャーが強いのかそこを活かせんません。
2R、攻めがややワンパターンなアントワン、サンティアゴの右カウンターを喰います。しかしパワーとプレスに勝るアントワンは自身の左ストレートを効果的に使い、このラウンドも優勢。
3R、安吾ワンはハンドスピード、身体の切り返しも非情に速いですね。これは兄譲り。やはりこの男はラッセル家の最終兵器。
4R序盤、よく出るスピーディなジャブから左ストレートにつなげる、非情に基本通りのボクシングのアントワン。そしてそこから右フックを返し、それがカウンターとなってサンディエゴにヒット!腰から崩れ落ちたサンディアゴ!
立ち上がったサンティアゴに猛然とラッシュをしかけるアントワン!若さゆえか、ここで仕留めきれなかった時のことは考えていないようです。最高です!
中盤、打ち疲れたかアントワンはやや落ち着き、ジャブから左ストレート、そして稀にいきなりの左ストレートという従来のボクシング。そして近寄ってからフック。
本当にこのボクサーは「当たり前の戦い方」しかしていません。
5R、アントワンにとっては未知のラウンドです。先程のラッシュの代償はどうか。
やや落ち着いた立ち上がりから、中盤には何度もアントワンが左ストレートをヒット、タフなサンティアゴはそれでも倒れません。
6R、ボディも交えた攻撃でサンティアゴを下がらせるアントワン。レフェリーがじっと見てすトプのタイミングを測ります。しかしやや打ち疲れが見えるアントワン、このラウンドも仕留めきれませんでした。
もう止めても良いくらい、サンティアゴは打たれていますね。。。
このラウンド終了後、サンティアゴは棄権。まあ、そうでしょうね。
ゲイリー・アントワン・ラッセル、6R終了TKO勝利!
プロスペクト、アントワンが強さを見せつけましたね。このアグレッシブネス、やんちゃに見えてなかなか基本に忠実な攻めを見せるスタイル、非情におもしろい、楽しみなボクサーです。
スーパーライト級、トップ戦線に食い込んでいけるのかはまたここからが正念場。やや打ち疲れも見えたこともあり、世界へ至る道程としては、もう少し、チューンナップ試合が必要かもしれません。
スーパーライト級12回戦
サブリエル・マティアス(プエルトリコ)16勝(16KO)1敗
vs
バティルザン・ジュケンバエフ(カザフスタン)18勝(14KO)2NC 無敗
スーパーライト級、世界王者候補同士のサバイバルマッチ。4団体統一後、近い将来に分裂するであろうスーパーライト級タイトル戦線に、いち早く食い込むことができるのはどちらか。
16勝中16KO、18勝中14KOという超強打者同士の対戦は、KO決着必至。
初回、サウスポーのジュケンバエフは左ストレート、右フックをマティアスのガードの上からガツンガツンと決めていきます。明らかに硬そうなパンチ。身長、リーチに勝るマティアスは少し距離を取った方がいいように思いますが、近接戦闘を挑みます。フィジカルの強さ、接近戦でガードの固いジュケンバエフの方が、この距離では上回るように見えます。
2R、身体と身体がくっつくほどの距離での打撃戦は、やはりジュケンバエフの硬質なパンチに分があります。またその攻めのアングルも良く、押し合いにも強い。
マティアスはバネのありそうなボクサーなので、もう少しストレートの伸びる距離の方が良いかと思いますが、とにかく接近戦を好みます。
後半、マティアスの左右のフックがジュケンバエフを捉えますが、ジュケンバエフもストレート系の力強いパンチで対抗。これは激闘です。
3R、前進してプレスをかけるのはマティアス!ジュケンバエフは下がりながら、迎え撃つ時は身体で止めてリターンを返します。押し合いではマティアスは後退を余儀なくされますが、このラウンドはマティアスのパンチがよく出て、それがしっかりとジュケンバエフを捉えているという印象です。終盤もマティアスのコンビネーションがジュケンバエフを捉えます。
4R、このラウンドも手数はマティアス。ジュケンバエフは体ごと攻めていきますが、マティアスは肩を使って距離をつくり、右フックから左フックをヒット!ジュケンバエフは後ろ倒しにダウン!
立ち上がったジュケンバエフにマティアスは襲いかかりますが、ジュケンバエフも全く下がることなく打ち返し、強気なところを見せます。終盤、ジュケンバエフは左カウンターを当て、マティアスは少し効いたかもしれません。なんという激闘。
5R、ジュケンバエフはおそらくダメージがあるのでしょう、ガードが打たれてやや崩れる場面があります。思い切りくっついてしまえばマティアスのパンチは殺せるものの、先程のように身体を使って距離をつくられるとまずい。
ともにクリーンヒットを奪い合う展開ながら、マティアスの手数はジュケンバエフを圧倒しています。しかしこのジュケンバエフのハートの強さよ。。。
6R、マティアスは前進、ジュケンバエフはステップを使って時に体で押しながら、接近戦という展開は変わりません。両者がその距離での戦いを望んでいるため、変わりようがありませんね。
序盤、ステップワークを組み込んだジュケンバエフが上手く戦っている用に見えましたが、中盤から終盤にかけてはマティアスの手数が出てきて、このラウンドもマティアス優勢か。ただ、おそらくどちらもダメージを溜め込んできており、もうどこでビッグパンチが入って試合が終わっても驚きません。いや、その時は驚くか。
7R、同じ展開で、停滞してきたか、と思いましたが、終盤に大きな動きが!ジュケンバエフの左フックがヒット、大きくバランスを崩すマティアス!一気に元気になってラッシュをかけるジュケンバエフ、またも左フックを当て、詰めにいったところでラウンド終了のゴング。
8R、ダメージが残っているはずのマティアス、やはり前進。このふたりの脳内はどうなっているのか。これまでのラウンド同様、マティアスは手数をどんどん出して攻めますが、ここまでのダメージからか足がもつれる場面も。
残り4R、ダウンを奪われ手数に劣るジュケンバエフにとってはもう後がありません。ここまで、ポイント的にはおそらくマティアスでしょう。
9Rは始まらず、ジュケンバエフが棄権。勝ち目がないと悟ったようです。
サブリエル・マティアス、8R終了TKO勝利。
運動能力の高そうなプエルトリカンには、きっともっと適した闘い方があるはずです。しかし、このマティアスというボクサーは、前に前に出ることで自身のハードパンチを活かし、かつ、相手の心を折るほどのしつこい前進を繰り返して、結果勝ち星すべてがKO勝ちという素晴らしいボクサー。
その常に前に出るボクシングは見ていておもしろく、今後も期待できるボクサーですね。
及ばなかったジュケンバエフも、素晴らしい技術、そして強いフィジカル、そして強いハートを見せつけました。まだまだ、世界のトップ戦線に浮上するチャンスはあると思いますので、がんばってもらいたいですね。
しかし、スーパーライト級も化け物ばかりです。
WBC世界バンタム級タイトルマッチ
ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)17勝(12KO)無敗
vs
ノニト・ドネア(フィリピン)40勝(26KO)6敗
紆余曲折を経て、とうとう開催されるWBC世界バンタム級タイトルマッチ。38歳ドネアが、無敗の王者、ウバーリへ挑みます。
日本では大きな注目を集めているタイトルマッチではあるものの、やはり客席には空席が目立ちます。DAZNとは比べるべくもなく。
注目の初回、ウバーリのステップは軽やかで、コロナ感染からの復帰後とはいえ調子は良さそうです。ドネアはずっしりと構え、こちらも調子は悪くなさそう。サウスポーへの基本戦術として、右ストレートを多用しています。
初回から両者ともに持ち味を発揮しつつありますね。
2R、ウバーリは踏み込みがなかなか鋭く、一発で踏み込むのではなく2発3発と踏み込んできますので、距離の遠いドネアも油断はできません。
ヒットアンドアウェイを繰り返す相手には、ドネアもカウンターは取りづらいかもしれませんが、そこは想定内でしょう。
積極的に攻めるのはウバーリ。どちらかというと攻め込まれないための攻撃、という雰囲気も感じますが、ドネアもウバーリのスピードを持て余しているように見えます。
3R、ウバーリのスピードに対抗するためか、ドネアがややステップを刻み始めます。ウバーリの左ストレートをかわしてのドネアの右ストレートが浅くヒット。このタイミングを掴みさえすれば、KOパンチとなりえます。
後半、攻め込むウバーリに対して右ストレート、左フックのカウンターを取り始めたドネア!これはもう。。。もしかするとドネアはタイミングを掴んだかもしれません。
そして残り1分を切った終盤、ロープに詰まったウバーリが出たところで伝家の宝刀、左フックのカウンターでウバーリがダウン!!!立ち上がったウバーリ、残りはあと30秒、サバイブできるか??
懸命に打ち返すウバーリですが、明らかに足にきています。残り10秒ほどのところでもドネアの左フックを浴び、大きくぐらつくウバーリ、ここをこらえての反撃はウバーリのハートの強さを物語ります。
しかし、終了ゴングとともに放たれたドネアの左フックがカウンターとなり、ウバーリは崩れ落ちるようにダウン。これで終わってもおかしくないダウンを喫したウバーリでしたが、レフェリーはカウントを数えたあと続行を指示。
4R、ウバーリの回復具合はどうか。少しステップが怪しいか。ドネアはやや一発狙いの悪い癖が出始めているかもしれません、手数が減っています。それでもドネアは中間距離の打ち合いで自分のパンチだけを当ててウバーリを下がらせると、ロープに詰めたところで左アッパー。
気を失ってロープにもたれかかってしまったのではないか、と思うほど痛烈なダウンで、今度はレフェリーが試合を止めました。
ノニト・ドネア、4RTKO勝利。
「レジェンド」ノニト・ドネア、強し。レジェンドと呼ぶにはまだ早すぎるかもしれません。
38歳という年齢、キャリア晩年に来たはずですが、ここまで素晴らしいノックアウトを、無敗の王者相手にできるというのはなんとも驚きです。
ウバーリもブランクを感じさせない動きでいたものの、結局はドネアのパンチングパワーにほとんどなすすべなく、やられてしまいました。
百錬成鋼
とんでもないですね。戦前、ドネアが「井上戦の出来をつくれれば」云々と多くの人が言っていましたし、私もそう思っていましたが、単純にバンタム級のドネアは強く、あの時の、また今回のコンディションが特別良かったか、というとそういうわけではないのかもしれません。
改めて言うとすれば、バンタム級のドネアは最強です。
今日のウバーリvsドネアを見て、ああ、バンタム級の4団体統一戦、最後の一戦は、井上尚弥vsノニト・ドネアで良い、と思うのです。ラスボスは、カシメロでも、リゴンドーでもない。
3Rのあの最後の左フックは美しく、そして本当に戦慄を覚えるほどでした。
「百錬成鋼」鍛え上げれば、鋼ができあがると書く熟語で、長い鍛錬により強くなる、という意味あいです。38歳という年齢は、ドネア自身は「ただの数字」と言い切っていましたが、この重ねてきたキャリアこそが、今のドネアの強みでもあると思います。
年齢は、ただの数字でもない。年齢は、懸命に、そしてコツコツと積み上げてきた「鍛錬」の数字なんだと思います。だからこそ、38歳という一見「不利」な条件にもかかわらず、素晴らしいパフォーマンスを示せたのだと思います。
とにかく、アッパレです。
しかしあれですね。帝拳の浜田代表がWOWOWの解説。ホルヘの方も気になっていたでしょうに。。。
ともあれ、5/29のMVPは、超激闘を制したサブリエル・マティアスではなく、レジェンドの3階級制覇王者、ホルヘ・リナレスを退けたデビン・ヘイニーでもなく、間違いなく大復活を遂げたノニト・ドネア、その人です。
↓同日、ヘイニーvsリナレスの観戦記