井上尚弥の次は、中谷正義。
日本が世界に誇るボクサーが、2週にわたりラスベガスに登場するトップランク興行。
異なるのは、井上は完全なAサイドとしてリングに上がったのに対し、中谷はBサイド。相手はかつてのPFPキング、ワシル・ロマチェンコ。テオフィモ・ロペスに敗れたとはいえ、肩の怪我という不調もあったこと、そして後半には大いに盛り返して見せたことで、評価を落としたか、というと否。未だPFPキングとしての力を有しているはずです。
ロマチェンコがAサイドで、中谷がBサイド。違いは、中谷はトップランクと契約するに至っていないことです。この一戦で中谷がロマチェンコに勝利することができれば、更に世界的な注目度が中谷に注がれ、トップランクも中谷は放ってはおかないでしょう。夢が広がります。
日本における注目度とは違い、現地アメリカでは、いや世界ではこのロマチェンコvs中谷の方が圧倒的に上。
今週末も非常に楽しみな興行です。
↓プレビュー記事
さて、その対抗馬としてPBC興行。こちらも注目、WBA世界スーパーライト級王者、マリオ・バリオスにジャーボンタ・デービスが挑む一戦。今回のブログでは、こちらのShowtime興行のプレビューです。
6/26(日本時間6/27)
WBA世界スーパーライト級タイトルマッチ
マリオ・バリオス(アメリカ)26勝(17KO)無敗
vs
ジャーボンタ・デービス(アメリカ)24勝(23KO)無敗
Photos: Gervonta Davis, Mario Barrios - Tense Face To Face at Presser - Boxing News
このスーパーライト級という階級は、先月(2021年5月)、ジョシュ・テイラー(イギリス)によって4団体が統一されました。
このテイラーvsラミレスというのは4団体統一戦に相応しい、素晴らしい一戦でしたね。個人的にはラミレスに期待していましたが、テイラーあっぱれです。
さて、4団体統一を果たした王者がいるにも関わらず、勿論残るWBAの「レギュラー」王者。その名もマリオ・バリオス。
このバリオスは、2019年9月29日、バティル・アフメドフ(ウズベキスタン)との無敗対決を制して世界王座を初戴冠。アフメドフとほぼ互角の展開ながら、4Rと12Rにダウンを奪い、そのダウンポイントを持って勝利をつかみ取りました。
中盤、アフメドフにペースを持っていきかけられましたが、そこから最終回にダウンを奪う等、気持ちの強さを見せた一戦でしたね。
そして初防衛戦では、ライアン・カール(アメリカ)に6RKO勝利。この一戦は、ジャーボンタ・デービスvsレオ・サンタ・クルスの注目試合のアンダーカードで行われた一戦です。
この一戦は、序盤、カールの勢いにやや戸惑ったかにみえたバリオスでしたが、中盤以降はそれに慣れ、カウンターをあわせてダウンを奪い、そのまま詰めきりました。
ダウンを奪ったあとの詰めはなかなかのものであり、バリオスはカウンターでよくダウンを奪っていますので、カウンターも得意なのでしょう。
ただ、スーパーライト級のWBSS開催期間中に、突然出てきたこの「レギュラー」王者は、認められていない部分も多いのではないかと思います。何しろ、本当の強敵との対戦はあくまでもこれからであり、この階級には4団体制覇王者がいるわけですから。
そんな、ある種「狙い目」王座に挑戦するのは、ジャーボンタ・デービス。
WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者で、WBA世界ライト級レギュラー王座も保持する人気者、デービスが、WBAのスーパーライト級レギュラー王座に挑みます。ボクシング界の「業」を知らない人はここで離脱かもしれませんが、構わず続けますね。
※WBAとべったりのデービスは、現在裁判の真っ最中だと思いますが、それも割愛(笑)。
このデービスは、スーパーフェザー級でずっとやっていくのであれば、とんでもないスターになっていたはずのボクサーです。
2017年、IBF世界スーパーフェザー級王者、ホセ・ペドラサ(プエルトリコ)に挑戦したデービスは、7RTKOでこれを獲得。ペドラサはその技巧、スイッチヒッターであることから、多くのボクサーに敬遠される存在でもありました。そのペドラサに、初黒星をつけたのがこのデービス。とにかく強かった。
初防衛戦を3RTKOであっさりと片付けたデービスでしたが、2度目の防衛戦で体重超過。王座を剥奪されます。(試合は行われ、8RTKOで勝利。)
しかし復帰戦でWBA世界スーパーフェザー級スーパー王座決定戦に出場、3RTKOで獲得すると、初防衛戦も1RTKOでクリア、2度目の防衛戦も2RTKOでクリアして、一度この王座を返上、WBAライト級王座の決定戦に臨みます。
ここまで、圧倒的な強さを誇示してきたこのトラブルメーカーは、次の一戦で大きく評価を落とすことになりました。
WBA世界ライト級王座決定戦の相手は、老雄、ユリオルキス・ガンボア(キューバ)。かつての3階級制覇王者は、既に全盛期の力は有していませんでした。しかも、このガンボア、2Rにダウンした際にアキレス腱を断裂。フットワークのなくなったガンボアに、デービスは次々とパンチを浴びせますが、ガンボアは倒れず、試合は最終回へもつれ込みました。
終盤に行くに従って、デービスの被弾も目立ち、デービスはディフェンス面での課題、初のライト級戦でスーパーフェザー級での戦いとは違い、速攻型のハードパンチャーというイメージが薄れてしまいました。
この最終ラウンド、ガンボアを倒しきったデービスでしたが、この一戦で、デービスは大きく評価を落とすとともに、やはり「階級」という大きな大きな壁に阻まれてしまった、そう考えるファンも多かったと思います。
さて、このガンボア戦後、WBAスーパーフェザー級スーパー王者、レオ・サンタ・クルス(メキシコ)との一戦に進みます。サンタ・クルスの持つスーパーフェザー級のタイトル、そしてデービスの持つライト級のタイトルがかけられる変則マッチは、スーパーフェザー級のウェイトで行われることになりました。
これはもう、デービスが体重を作れない、という匂いがプンプンしていました。
なぜなら、ガンボア戦でも実はデービスは前日計量で体重超過、2度目の計量でなんとかクリアした、という経緯があったからです。その辺りは非常にだらしなさそう。
スーパーフェザーがきつくて、ライト級に上げたけど、そのライト級で(結果クリアしたとはいえ、一度は)体重超過を犯してしまったデービスが、スーパーフェザー級のウェイトを作れるとは思いませんでした。
しかし、大方の予想(?)に反して、ここをクリアしたデービスは、この一戦で、ものすごいパンチャーぶりを発揮。
互角の序盤、勝負がどう転ぶのかわからないような展開の中で、結局はデービスの左アッパー一閃、歴戦の雄、サンタ・クルスを失神させるというとんでもないノックアウト劇。
この一戦は、その年のノックアウトオブ・ザ・イヤーにも選ばれました。
↓観戦記
またもここでとんでもない強さを見せつけました、デービス。同日に、井上尚弥vsジェイソン・マロニーという素晴らしいノックアウトもあったのですが、このデービスのKO劇に霞んでしまいましたね。
但し、この一戦はスーパーフェザー級での一戦。
デービスは、ライト級でもほとんど何も成し遂げてはおらず、そして今回はスーパーライト級の戦いです。体格は、身長にして10cm以上の差があり、デービスの体格的不利は否めません。
これは不確定要素が多い分、なかなか予想が難しい、だからこそ非常に興味をそそられる一戦ではないでしょうか。
個人的には、やはりテイラーやラミレス、レジス・プログレイス、モーリス・フッカー等のスーパーライト級の猛者たちから、1段階落ちる感じがするマリオ・バリオス相手であれば、デービスが喰ってしまうのではないか、と思っています。
というか、個人的には「タンク・デービスのボクシング」が好きなのです。人間性とか、その他諸々は置いておいて。
階級の壁は勿論侮れませんが、バリオスは正直フィジカルの強い方ではない、と思っています。つまり、階級の壁は、身長意外では感じにくいのではないか。
バティル・アフメドフにも、ライアン・カールにも、やや押される展開だったバリオスは、起死回生ともいえるカウンターを当てることができれば、タンク・デービスの突進を止めることができるのでしょう。ただ、アフメドフ、カールに比べ、才能溢れるファイターであるデービス、ディフェンスに難があるとはいえ、その攻撃力、パンチの当て勘はふたりを上回ると思います。
ただ、やはり最も不確定な要素は、デービスの身体の調子であり、メンタル面の調子だと思っています。もしかすると、シャバにいられる期間もあとわずか、その後実刑をくらって罪を償わなければならないかも、と思うと、ここで有終の美を飾ってもらいたい、との思いもあります。ある種の「永遠のチャンプ」となれるか、タンク・デービス。
デービスがアメリカ人だから、興味深くこの試合を見たいと思うのですが、日本人だったら絶対応援しないだろうな、とも思いつつ、デービスの豪快なノックアウト劇を期待してしまいます。
この興行は、ShowtimeでPPV。74.99$と、非常に高額です。
ただ、日本ではWOWOWがオンデマンドで生配信。これは本当にありがたい。テレビの方はロマチェンコvs中谷なので、これは致し方ありませんね。メインの時間がかぶらないことを祈ります。
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セミファイナルには、これまた注目カード!
エリクソン・ルビン(アメリカ)23勝(16KO)1敗
vs
ジェイソン・ロサリオ(ドミニカ共和国)20勝(14KO)2敗
ジャメール・チャーロ(アメリカ)に敗北を喫してしまった同士のサバイバルマッチ。プロスペクト、ルビンは、2017年10月、大きな期待を背負ってチャーロに挑戦しましたが、まさかの1RKO負けを喫してしまいました。
そこから這い上がって、ここで元王者との一戦というチャンスを掴みます。
対してロサリオは、2020年1月、WBAスーパー・IBF世界スーパーウェルター級王者だったジュリアン・ウィリアムスを番狂わせで破って戴冠、その後WBC同級王者のチャーロとの統一戦に敗れて無冠になっています。
その敗北からの再起戦で、評価の高いルビンを倒し、再浮上を目指します。
3団体統一王者、チャーロは7月にブライアン・カスターノとの4団体統一戦を迎えます。ここでチャーロが勝てば、1戦くらいは挟むかもしれませんが、階級を上げるというのが既定路線でしょう。
その後、おそらくそれぞれの王座で決定戦が行われることになると思いますが、その決定戦への出場へぐっと近づく一戦だと思います。
チャーロに負けた者同士、次のスーパーウェルター級を背負って立つかもしれない、そんなボクサーが決まる一戦、非常に楽しみですね。
そして、アンダーカードにはバティル・アフメドフも登場するというこのPBC興行、どんなことが起こるか楽しみな興行でもあります。
前回のトップランク興行(井上vsダスマリナス)と、PBC興行(チャーロvsモンティエル)のメインは、奇跡的にかぶらなかったんですよね。ただ、あれはトップランク興行が野球中継のため、開始が遅れたのが要因の一つとしてありそうです。そうでなければどんかぶりだったかも。
どっちかの進行が早くて、かぶらなければ良いですね。そこに、期待。