8/8、東京オリンピックが閉幕。
賛否両論ありながらも開催されたオリンピックでしたが、開催に至る経緯や開催中の政府のコロナ対策は別問題として、本当に楽しませてもらいました。
開催期間中、毎日のようにアマチュアボクシング、それも世界最高峰のものが行われているというのは非常に幸せな時間でした。
オリンピックのボクシングをここまで視聴できたことは、過去、記憶にありません。
日本人ボクサーが出場した試合や、話題のボクサーが出場した試合をかいつまで視聴してきましたが、折角の機会なので決勝ぐらいは全て見ておこう、と思いアーカイブ視聴。(本当は準決勝も見たいのですが、なかなか時間が作れません。)
今回は東京オリンピックボクシング競技、観戦記のvol.2。男子ボクシング、フライ級〜ウェルター級です。
男子フライ級決勝
カルロ・パアラム(フィリピン)vsガラル・ヤファイ(イギリス)
準決勝で、田中亮明のプレスとハードパンチをかわし、カウンターを決め続けたカルロ・パアラム。フィリピンボクシング界、史上初となる金メダルを狙います。決勝の相手はプロの元世界王者、カリド・ヤファイ(イギリス)の実弟、ガラル・ヤファイ。
初回からガードを固めて前進するヤファイ、前戦同様アウトボクシングのパアラム。ヤファイのガードはなかなか固く、ステップインが速い。パアラムはボディを交えたコンビネーションが良いですが、ヤファイのプレッシャーに押され気味。
と思ったところで、ロープに詰められたパアラム、ヤファイの左ストレートでダウン!
再開後もガンガン攻め込むヤファイ、左ストレートが当たりやすいオーソドックスのパアラムに対して、左を伸ばしながら攻め込むのは非常に巧く、また少々の被弾にも怯みません。
終盤にはパアラムの良い右ボディも入りましたが、このラウンドは5-0でヤファイ。
2R、ヤファイのプレスを捌ききれないとみたか、パアラムは足を止めての打ち合い。接近戦での攻防は、ともにクリーンヒットを取り合い、ヤファイの顔も何度か跳ね上がります。
しかし、ガードの硬さ、そして接近戦へのサイドの動きという点ではヤファイが良い。ただ、パアラムも一発のパンチ力では上回っており、ここは互角の展開と言っていいでしょう。
ポイントは4-1でヤファイ。
3R、パアラムは迎え撃つ体勢で攻めてくるヤファイにカウンター。しかしヤファイは逃げ切り体勢。そうと見ると先手で仕掛けるパアラム。パアラムは自ら攻めても非常にパワフルで良いですね。
パアラムのワイルドなスイングパンチが幾度となくヤファイを襲いますが、ヤファイは冷静に対処してコンパクトなパンチを返します。こちらもディフェンシブに戦っても上手い。
3Rを通しての判定は、4-1の判定で、ガラル・ヤファイ。
最終回のパアラムの攻勢はジャッジの評価を得ましたが、1、2Rを取られた後では挽回は難しかったですね。ヤファイは非常に冷静でした。
このガラル・ヤファイも様々な闘い方ができる、基礎的技術の高いボクサーですね。インかアウトか、と問われればあのプレスのかけ方はきっとインファイトの方が得意なのでしょうが、パアラムはパアラムで非常にパワーがあり危険なボクサーだったので、両者の初回の入り方が明暗を分けたともいえます。
ともあれ、闘い方ひとつで勝敗をわけてしまった感じのあるこの金メダル争い、それぞれの持ち味を十分に発揮した、好ファイトでした。
男子フェザー級決勝
デューク・ラガン(アメリカ)vsアルベルト・バティルガジエフ(ROC)
2017年の世界選手権で銀、2019年のパンアメリカ大会で銀メダルを獲得したデューク・ラガン。この時はバンタム級でした。
しかし、東京オリンピックではバンタム級の開催がなし、フェザー級にあげての挑戦です。このラガンは既にプロに転向しており、ノーシードながら決勝まで勝ち進んできたボクサーです。
対してバティルガジエフは競技をはじめたのが2016年と遅いですが、もともとキックボクシングの土台のあったボクサーで、昨年の東京オリンピック・ヨーロッパ予選で優勝。シードを勝ち取り、準決勝ではロンドン、リオの銅メダリストであるラザロ・アルバレス(キューバ)を破る殊勲。
どちらも優勝候補ではない、という意味でいうとフェザー級はなかなか波乱のトーナメントだったようです。
ハイガード、クラシックスタイルといっても良いバティルガジエフ、前手をやや低めに構え、スピードと瞬発力重視のボクシングを見せるラガン。これこそアメリカvsロシアという感じのボクシングですね。
序盤をすぎるとバティルガジエフはプレスをどんどん強め、頭を振って低く入り、接近戦を挑んでいきます。後半には良い左ストレートを数発ヒット、どちらもクリーンヒットは多いもののややバティルガジエフか。このラウンドは4-1でバティルガジエフ。
2R、ラガンが左手を伸ばし、バティルガジエフの前進を阻みます。そこからのカウンターはやはり上手い。バティルガジエフはやや突進力がなくなってきたように思います。
ラガンの右ストレートのカウンター、ボディへの右ストレートがバティルガジエフを襲いますが、バティルガジエフの手数は止まりません。
フィジカル面はバティルガジエフか、後半は押される場面も目立ったラガン。
このラウンドのポイントも4-1でバティルガジエフ!
3R、ラガンの右ストレートのカウンターが素晴らしい。このラウンド序盤は、バティルガジエフの入り際にラガンの右が何度もヒット。バティルガジエフの足が初回ほど前に出てこない事がこのカウンターを容易にヒットさせる原因となっていそうです。
ラガンのカウンターは素晴らしいですが、基本的には先手をバティルガジエフに取られています。ラガンとしては自ら攻めて倒しにいきたい所ですが、バティルガジエフは全然止まらない。バティルガジエフはポイントで優位に立っており、無理をする必要はありませんがこれがスタイルとばかりに前進。このボクサーは激闘型、プロにいけば耐久力次第ですがおもしろい。
最終的な判定は、スプリット、3-2でバティルガジエフ!
最終ラウンドは、やはりラガンに流れていましたね。あの何度も決めた右カウンターは秀逸でした。
バティルガジエフ、競技歴たった5年でオリンピック金メダルというのはそれだけですごい。キックボクシングの土台があるとはいえ、キックの世界で活躍していたとしてもボクシングの世界で成功できるかどうかはわかりません。
ちなみにこのラガンも、バティルガジエフも若干23歳。ラガンはプロでもキャリアを積み始めていますが、このバティルガジエフもスタイル的にはプロ向きかもしれません。
男子ライト級決勝
キーショーン・デービス(アメリカ)vsアンディ・クルス(キューバ)
アメリカ期待のキーショーン・デービス。既にプロ入り、以前には「東京オリンピック断念」というニュースも流れていましたが、しっかり出場してくれました。これは本当にありがたい。
2019年のパンアメリカ大会、同年の世界選手権で銀メダル。その両方の大会で、キーショーンの優勝を挟んだのが、アンディ・クルス。
現代キューバを代表するボクサーであり、2017年、2019年の世界選手権で優勝しているライト級優勝候補筆頭のボクサーです。
順当にいけば、今回もクルスの勝利は固い。しかし、オリンピックには魔物が住んでいると言われます。若干22歳のキーショーン・デービスの、その伸びしろにも期待です。
両者がテクニカルすぎてかなりクリーンヒットが少ない。。レベルが高すぎて端っから何をやっているのかよくわかりません。しかし瞬時の攻防の中ではやはりアンディ・クルスの方が上回り、キーショーンのコンビネーションの打ち終わりにヒット。キーショーン、追撃打は貰わないものの、初回はクルスのラウンド。
色々な速すぎるパンチがさまざまな角度から出てくるコンビネーション、それをかわし、ガードし、押したり引いたり。まるで示し合わせた「型」のような両者の攻防でのなかで、このラウンドはキーショーンの右ストレートが印象的。そしてそのせいか、このラウンドはキーショーン!ここまで五分、ラストラウンド勝負の胸アツ展開!
超絶技巧同士の一戦は、ハイレベルなライト級決勝戦に相応しい、とんでもないレベルの戦いです。これはジャッジも大変。瞬きもできない。
観戦記とか言いつつも、何も言葉で表現できません。
クルスの長いジャブと浅いながらも右カウンターのヒットがいくつか見られ、個人的にはクルスかな、と思いますが。。。
判定は、、、、、アンディ・クルス!!!
見事、キューバのアンディ・クルスが金メダル。アマチュアボクシングのPFPと言われるこの完全無欠のボクサーは、やはり伊達じゃない。しかしこの二人は本当に素晴らしい技巧の持ち主、そしてそのテクニックを存分に披露してくれました。
3Rという短い時間の中では、この勝敗はどちらに転んでもおかしくなかった、とも言えます。まだまだ、まだまだ見たりない、そんなボクシングを見せてくれた両者のおかげで、もしかすると日本ボクシング界のレベルはまた一つ上がるのかもしれません。今回のように、誰でもどこでも観戦できるような状況でなければお目にかかれなかった至高の一戦でした。
アンディ・クルスはもうすぐ26歳、プロ入りするにも遅すぎる事もありません。ただ、キューバというお国柄上、プロ入りするには亡命するしかありませんが。このクルスのボクシングは、プロでも見てみたいですね。
男子ウェルター級決勝
パット・マコーマック(イギリス)vsロニエル・イグレシアス(キューバ)
初回、絶妙な距離での探り合いからスタート。マコーマックもイグレシアスも本当に速い。展開も非常に速く、息をつく魔もない攻防が繰り広げられます。
クリーンヒットでいうと、イグレシアスのボディへのジャブ、ストレートが時折ヒットしているように思います。後半はイグレシアスがプレスをかけ、マコーマックがサイドへまわるという展開の中、イグレシアスがコンビネーションで仕掛けます。
初回は4-1でイグレシアス。
2R、そうそうにマコーマックの右ストレートがヒット!と思った瞬間、イグレシアスがコンビネーションで逆襲!今度はイグレシアスの左ストレートがヒット、ここでマコーマックはダウン!
その後もイグレシアスは伸びのあるストレートを巧打、パンチの回転の早さは尋常ではありません。ガードを固めてマコーマックを追いかけるイグレシアス、初回は拮抗したラウンドでしたが2Rは完全にイグレシアスが支配しています。
判定は5-0でイグレシアス。
3R、マコーマックのワンツーは見切られ、距離で外されガードに阻まれます。イグレシアスは近づいてはボディ打ちを敢行、後半にはかなり余裕をもって戦っているように見えます。
終わった瞬間、勝利を確信したような笑顔のイグレシアス。マコーマックもおそらく潔くそれを認め、終了ゴングが鳴ると同時にイグレシアスを称えています。
判定はユナニマスで、ロニエル・イグレシアス。
このイグレシアスがトーナメントでもっとも苦戦した相手は、岡澤セオン。
イグレシアスの圧巻の金メダルにより、奇しくも我らが岡澤セオンが、世界のトップで十二分に戦える事が証明されました。
そしてこのロニエル・イグレシアスは2008年の北京オリンピックで銅メダル、2012年のロンドンオリンピックで金メダル(いずれもライトウェルター)。そしてウェルター級で出場した2016年のリオオリンピックでは準々決勝敗退でメダルに届きませんでした。
それでも尚、ここにきての大復活。この大会で、文句なしのウェルター級最強を証明してみせました。本当に素晴らしいボクサー。現在32歳、まだまだいけそうで、岡澤セオンにとって大きな壁になりそうです。そしてこの壁をセオンが乗り越えた時こそ、胸を張って世界一を名乗れるのかもしれません。
ということで今回は、東京オリンピック・ボクシング競技、フライ級〜ウェルター級までの観戦記でした。この先、次のオリンピックやプロの舞台で、このトップボクサーたちの名前がまた世界を賑わせる事を期待しています。