前回のブログでも触れましたが、WBAの暫定王者撤廃の件。
WBAにしては非常に珍しく有言実行、そしてこの迅速な行動については裏がありそうな匂いがぷんぷんしていますが、今のところ、結果的には歓迎できるものです。
最初の報道では確か、10月くらいからとりかかるというようなこと言っていましたが、突然の暫定王座廃止。その発言のすぐ後、WBA世界フェザー級暫定王座決定戦が行われる等、誰も信じていなかったと思いますが、これはなかなか強引にやった感じがあります。
個人的に思うのは、ABC(The Association of Boxing Commissions)が、王座を乱発するWBAに対して「アメリカで積極的に承認しない。WBAのオフィシャル陣、スーパーバイザーを受け入れない」とかなり強い主張で抗議をしたことが大きいのだと思っています。
アメリカは各州にコミッションがあり、それを統括するABC。そこにニラまれてしまうと、アメリカでのWBAの認定試合がなくなり、大打撃、ということなのではないか。
この突然の処遇の被害者は、日本時間で8/26に突然発表され、「今日からあなたたちは元王者です」と言われた先日までの暫定王者たち。今後は指名挑戦者としてレギュラー王者(又はスーパー王者)に対する挑戦権が与えられるか、もしくは挑戦者決定戦に出場する機会を与えられる、とのことです。
今回のブログでは、そんな被害者?たち、元暫定王者たちをピックアップしていきます。(厳密には元王者ですが、「暫定王者」と表記しています。)
ミニマム級
エリック・ロサ(ドミニカ共和国)4勝(1KO)無敗
ボクシングモバイルを参考にしようとサイトを開くと、いきなり知らないボクサーが登場してビビっています。若干21歳のボクサーで、2021年7月21日に暫定王者となっているようで、同じ興行に同国のWBA世界スーパーライト級暫定王者、アルベルト・プエリョも出場しています。
この階級のスーパー王者はノックアウト・CPフレッシュマート、レギュラー王者はビック・サルダール(フィリピン)。
ライトフライ級
ダニエル・マテヨン(パナマ)12勝(6KO)無敗2分
かつて矢吹正道に勝利したマテヨンは、2020年2月に決定戦を経て戴冠。その後防衛もしています。
この階級のスーパー王者は京口紘人(ワタナベ)、レギュラー王者は先日、カルロス・カニサレスを倒して戴冠したエステバン・ベルムデス(メキシコ)。
京口vsベルムデスの王座統一戦がオーダーされ、交渉中のはずです。なのでこのマテヨンは指名挑戦者として、その勝者に挑む事になりそうですね。
ちなみに、挑戦者決定戦となった場合は、WBA2位にジェシー・ロドリゲス(アメリカ)がつけています。これは恐ろしい。
フライ級
ルイス・コンセプシオン(パナマ)39勝(28KO)8敗
コンセプシオンて暫定王者だったか。。。マテヨンが暫定王座を獲得したのと同じ興行で、コンセプシオンもこの王座を獲得。そこから試合は行われていませんので、かなりのブランク状態。歴戦の雄、コンセプシオンももうすぐ36歳、ここからの浮上はあるのか。
このまま引退しても誰も文句は言わないでしょう。
この階級のスーパー王者は存在せず、レギュラー王者はアルテム・ダラキアン(ウクライナ)。こちらも強豪ながら34歳、最新試合は2020年2月です。
WBAのフライ級、かなり不活動ですね。山内涼太(角海老宝石)が2位につけているので、ともすればコンセプシオン(※暫定王者が1位)との挑戦者決定戦があるかもしれません。
スーパーフライ級
暫定王者はいません。
バンタム級
暫定王者どころかレギュラー王者もいません。
スーパーバンタム級
ライース・アリーム(アメリカ)18勝(12KO)無敗
評価の高いアリームは2021年1月の興行でビクター・パシージャスをボコボコにして暫定王座を獲得しています。アンジェロ・レオvsスティーブン・フルトンのセミファイナルのこの試合は、アリームの良さが際立った試合でした。
BoxRecを見ると、次戦は9/18に暫定王座の防衛戦となるエドゥアルド・バエス戦が組まれていますが、さて、どうなるか。(フルトンvsフィゲロアのアンダーカード)
スーパー王者はムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)、レギュラー王者にはブランドン・フィゲロア(アメリカ)がいるものの、フィゲロアは上記の9/18にリングに上がった時点でWBA王座は剥奪される予定です。
フェザー級
マイケル・コンラン(イギリス)16勝(8KO)無敗
つい先日、TJドヘニーに勝利して暫定王座を初戴冠した、人気者コンラン。在位期間としては半月ほど、となってしまいましたね。
ただ、その暫定王座獲得時点から、同じイギリスを主戦場とするレギュラー王者、リー・ウッド(イギリス)との対戦が取り沙汰されていましたので、この一戦は叶いそう。
ウッドはシュ・ツァンを攻略してレギュラー王者となりましたが、スター性はやや乏しい。ここはコンランがレギュラー王座の指名挑戦者となって挑む、というのが最も現実的な方法でしょうね。
スーパー王者にレオ・サンタ・クルス(メキシコ)。もう3年以上、フェザー級リミットでは戦っていません。そしてレギュラー王者にはリー・ウッド。とすれば、どれか一本に絞るのであればこの階級にスーパー王者はいらないでしょうね。
スーパーフェザー級
クリス・コルバート(アメリカ)16勝(6KO)
2020年1月、ジェスレル・コラレス(パナマ)を圧倒して王座を戴冠、ここまでハイメ・アルボレダ(パナマ)、ツグスソグ・ニャンバヤル(モンゴル)を降して2度防衛。
スーパー王者には、みんな大好きジャーボンタ・デービス(アメリカ)、レギュラー王者にはロジャー・グティエレス(ベネズエラ)。
グティエレスvsコルバートであればスピード、試合運び等々に勝るコルバートが優位になるかもしれませんが、グティエレスも簡単な相手ではありません。
そして、デービスにはいつも「スーパーフェザーのリミットをつくれるのか」という疑問符がつくものの、2020年11月のサンタ・クルス戦ではスーパーフェザー級リミットをつくってみせました。
その後スーパーライト級にあげても素晴らしいパフォーマンスを見せています。
vsデービスとなれば圧に潰されてしまう可能性が高いでしょうが、果たしてスーパーライトにまで上げたデービスが、この階級まで戻してこれるかはわかりません。コルバートが誰に挑むとしても、非常に興味深い闘いになりそうです。
ライト級
ロランド・ロメロ(アメリカ)14勝(12KO)無敗
プロスペクト、ロメロの初戴冠は2020年8月。その後2度防衛。前回は2021年7月、5ポンドのオーバーウェイトをかましてきたアンソニー・イギット(スウェーデン)を7RTKO。ただ、代役挑戦者であったこと、2年のブランクがあったこと等、決して評価の上がる相手ではなかったのも事実。
このライト級はスーパー王者にテオフィモ・ロペス(アメリカ)、そしてレギュラー王者にジャーボンタ・デービス。
これは激アツです。
3団体統一王者であるテオフィモ・ロペスは次戦でWBOの指名挑戦者であるジョージ・カンボソスJr(オーストラリア)の挑戦を受ける事が決まっており、これがおそらく10月。その後はワシル・ロマチェンコとの再戦が来年春に期待されています。
ジャーボンタ・デービスはスーパーフェザー、ライト、スーパーライト級でWBA王座を保持しており、どこに留まり、誰と戦うのかは注目が集まります。プロモーターであるメイウェザーの話では、PBCファイターと戦うとのことなので、このコルバート戦については、無くはありません。
スーパーライト級
アルベルト・プエリョ(ドミニカ共和国)19勝(10KO)無敗
2019年7月、当時無敗のジョナサン・アロンソ(スペイン)との王座決定戦を制して戴冠。その後2度の防衛に成功しています。
最新は同国人のエリック・ロサと共演した2021年7月、次戦は10月9日にランセス・バルテレミー(キューバ)との対戦を控えています。この一戦はタイトル戦の予定(12R)ですが、今後どうなるのかはわかりません。バルテレミー(WBA8位)相手であれば、多少のランキング操作で挑戦者決定戦となるかもしれません。
この階級は、スーパー王者にジョシュ・テイラー(イギリス)、レギュラー王者にジャーボンタ・デービス。
WBSSを制し、ホセ・ラミレスとの素晴らしい統一戦を制したジョシュ・テイラーですが、WBAのせいで他にも王者がいるという状態。テイラーがこの後どうするのか、で非常に変わってきますね。
もしテイラーが返上、デービスも返上となると、このプエリョが王座に就くのかもしれませんが、この階級は強豪だらけです。
ウェルター級
暫定王者はいません。
スーパーウェルター級
暫定王者はいません。
ミドル級
クリス・ユーバンクJr.(イギリス)30勝(22KO)2敗
2019年12月、マット・コロボフ(アメリカ)を破って戴冠したユーバンクですが、このタイトルはしばらく放ったらかし。2021年5月に、1年半ぶりにリング二上り、マーカス・モリソン(イギリス)に勝利を飾りますが、このタイトルはかかっていませんでした。
スーパー王者に村田諒太(帝拳)、レギュラー王者にはエリスランディ・ララ(キューバ)。
ララは2021年5月にトーマス・ラマンナ(アメリカ)を相手に王座決定戦を制して戴冠してばかりで、村田は2019年12月依頼、リングから遠ざかっています。
話は逸れますが、早く村田の試合が決まってもらいたい。
スーパーミドル級
暫定王者はいません。
ライトヘビー級
ロビン・クラスニキ(ドイツ)51勝(19KO)6敗
2020年10月、3度目の正直で暫定ながら王座を獲得したクラスニキ。おそらく下馬評不利の中、ドミニク・ボーセル(ドイツ)を2Rで見事にノックアウトした姿には感動を覚えました。
しかし、そこから動きはなし。もうすぐ1年が経過してしまいます。
ライトヘビー級はスーパー王者に、カネロとの対戦が決まりかけたドミトリー・ビボル(ロシア)。そしてレギュラー王座は空位となっています。
そして2位にジョシュア・ブアツィ(イギリス)!
是非是非、このクラスニキvsブアツィという挑戦者決定戦を見たいですね。ちなみに3位には先日ブアツィに11RTKOで敗北したリチャード・ボロトニクス(ラトビア)。もうこれは1位と2位の決定戦をやるしかない。
クルーザー級
暫定王者はいません。
ヘビー級
ダニエル・デュボア(イギリス)16勝(15KO)1敗
2020年11月、ジョー・ジョイス(イギリス)に初黒星を喫するものの、何故か次戦、2021年6月に暫定王座決定戦に出場、ボグダン・ディヌ(ルーマニア)に2RKO勝利で初戴冠を果たしたデュボア。
次戦は8/29(8/30)にアメリカデビュー戦が決まっていますが、当然暫定王座はかけられません。
このヘビー級はスーパー王者にアンソニー・ジョシュア(イギリス)、レギュラー王者にトレバー・ブライアン(アメリカ)。更には休養王者にマヌエル・チャー(ドイツ)。
コンプリートです。
ジョシュアはもうすぐ、WBAの指名挑戦者であるオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)戦を迎えます。これは個人的に非常に楽しみですね。
マヌエル・チャーの王座はさっさと剥奪してしまった方が良いような気がしますが、さてこのデュボアにチャンスは来るのか。
ジョシュアvsウシクでジョシュアが勝利し、その後に控えるフューリーvsワイルダーでフューリーが勝てば、今度こそジョシュアvsフューリーの4団体統一戦の話が進むはずです。そうすると、空いているトレバー・ブライアン(アメリカ)がどうなるのか。さすがにWBAも指名戦のすぐあとに、レギュラー王者とスーパー王者の指名戦をオーダーするようなことはしないはずです。
何ともややこしい、色々な利権が絡み合っていそうなヘビー級は一番ぐちゃぐちゃかもしれません。身から出た錆とはいえ、これはなかなか一人に王者を絞るのは骨が折れそうです。
暫定王者(だったボクサー)はなんと11人
WBAさん、これはある種偉業です。
Wikipediaには、「暫定王座」とは「ある団体のある階級の王者が存在するが、その王者が負傷・病気などやむをえない事情で長期的に防衛戦を行えないというような場合に設けられる。」とあります。
その王者が、17階級のうち、11階級にわたるとは本当にすごい。
さて、この暫定王者たちは、「暫定王座」というタイトルで満足していたのでしょうか。ボクサーによっては、「暫定」という枕詞がついていようが、タイトルを獲ったことを喜んでいる場合もありますが、多くのボクサーはこの「暫定」という言葉を取りたいと思っているはずです。
そして我々ファンにとっては、正しく「暫定王座」の運営をお願いしたく、これからレギュラー王者やらスーパー王者やら、もっというとWBCのフランチャイズ王者等々もしっかりと整理していってもらいたいですね。
仮にこれでWBAが各階級に王者が一人ずつ、という状態になったらなったで、今度はWBCが暫定や別の名前の王者を乱立しそうで怖い。これが杞憂に終わる事を願いますが。