驚異的なリーチと独特なリズム、決して上手く美しいボクシングではないものの、何故だか強いWBO世界フェザー級王者、エマニュエル・ナバレッテ。
1階級下、スーパーバンタム級の王者となってからもハイペースで戦い続けた王者は、あっという間に5度の防衛、そしてフェザー級に進出して王座決定戦に出場、戴冠してクリストファー・ディアス(プエルトリコ)を相手に初防衛戦をクリア。
そして2度目の防衛戦の相手は、かつてシャクール・スティーブンソン(アメリカ)と王座決定戦を争った、ジョエト・ゴンザレス。
この興行は、日本でもFITE.TVで見られるはずが、直前になって消えてしまいました。
私はESPN+で視聴しましたが、WOWOWでも10/18(月)21:00〜タイムリーオンエアの予定ですので、もし結果を知らずに見たい、という方がいればここでこのブログはシャットアウトしてください。
今回のブログは、ナバレッテvsゴンザレスをメインに据えた、ESPN興行の観戦記です。
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IBFミドル級挑戦者決定戦として、エスキバ・ファルカン(ブラジル)vsパトリック・ウォジスキ(ドイツ)が行われると思っていたのですが、いつの間にやら消えていましたね。私の勘違いなのか、なくなってしまったのかはよくわかりません。失礼しました。
ということで、セミファイナルから。
ウェルター級10回戦
ジョバニ・サンティリャン(アメリカ)27勝(15KO)無敗
vs
エンジェル・ルイス(アメリカ)17勝(12KO)1敗
誕生日が一緒(12月4日)ということで応援しているジョバニ・サンティリャン。地元、カリフォルニア州サンディアゴのファンたちに良いところを見せられるか。
ただ、凱旋試合というと結構敗けてしまうイメージもありますよね。さあ、どうなるか。
初回、ふたりのサウスポーは、非常にスピードも豊か、キビキビとした動きです。サンティリャンの踏み込みのスピードは非常に速く、コンビネーションも素晴らしいですが、ルイスも回転力のあるコンビネーションを打ちますね。
サンティリャンは特にジャブが冴えますが、ルイスは様々な角度からパンチを打ち、アッパーでサンティリャンの顔を跳ね上げる場面も。
2R、頭をつけての接近戦の場面が増えます。ルイスのアッパーには気をつけなければいけないサンティリャンですが、ショートの左フックをヒット、ルイスもボディを交えた素晴らしい攻撃を見せています。
3R、サンティリャンが少し戦い方を変えてきたか、テクニカルなコンビネーション。軽めのジャブをいくつも打って右、そこからコンビネーションにつなげます。ちょっとここまでは力みがでていたのかな、と思いますが、とにかく回転力のあるコンビネーション、そこに時折打ち込んでいく強打、という戦い方がこのサンティリャンの持ち味であり、それを思い出したかのような戦いぶりです。
4R、このラウンドもサンティリャンのジャブが冴えます。そして接近戦も上手い。終盤にはアッパーでルイスの顔を跳ね上げ、その後右ボディもヒット。
5R、コンビネーションの強弱で攻め込むサンティリャンは、ディフェンスも非常によく、ルイスは厳しい展開です。
しかしルイスもタフ、幾度となくフックやアッパーのクリーンヒットをもらいながらも、強いパンチを打ち返していきます。
6R、なかなか展開を変えられないルイス。サンティリャンは細かい手数で押し込んでいき、その細かい手数のアングルも素晴らしいですね。そしてフィジカルも相当なものを持っているのでしょう、身長はルイスの方が高いと思いますが、押し負けることは全くありません。
接近戦ではブロッキングだけではなくダッキング、ウィービングを駆使し、そこから攻撃につなげる術を持ち、利き手である左のダブル、トリプル等、勤勉にトレーニングをこなしている様が見えます。
8Rに入ると、ルイスは疲れからか、逃げ腰なのか大きくサークリング。それまでもプレスを賭け続けていたサンティリャンは更に前進。サンティリャン、地元のファンにノックアウト勝利を届けることができるか。
9R、強いプレスと速いコンビネーション、強いフィジカルで押し込み、ルイスをロープに釘付けにするサンティリャン。いくつものクリーンヒットを奪いながらも倒せず、いくつものクリーンヒットを奪われながらも効いたそぶりを見せないルイス。
ルイスは決して逃げ腰なわけではなく、時折強いパンチを打ち返しますが、その打ち返すタイミングがなかなか訪れない、というだけですね。
最終ラウンド、やっぱりいつもの通り、サンティリャンは多くのパンチを当てながらも、倒せる気がしません。このゴツい身体に似合わず、やっぱりパワーレスなのか。強そうなパンチを打つんですけどね。
サイドステップからの攻撃なんかも見事で、本当に惚れ惚れするボクシングなんですけどね。誕生日、私と一緒ですし。
結局ルイスにはチャンスが訪れないまま、規定の10Rを終了。100-90のフルマークがふたり、99-91がひとりという圧勝でした。
しかしこのサンティリャンはパンチを当てるのが非常に巧く、ステップワークも素晴らしく、ディフェンス技術も素晴らしいんです。コンビネーションからガードの間隙を縫うようにパンチを入れることができ、そして今回のようにフルランドにわたり、打ち続けることができるスタミナもあります。
この試合も、きっとWOWOWで放送されると思います。解説陣の、サンティリャン評を楽しみにしています。
WBO世界フェザー級タイトルマッチ
エマニュエル・ナバレッテ(メキシコ)34勝(29KO)1敗
vs
ジョエト・ゴンザレス(アメリカ)24勝(14KO)1敗
そしていよいよ、メインイベント。王者ナバレッテは、前戦のディアスに続いて強豪を迎えます。強敵を恐れないこのスタイルは素晴らしいものです。
クリストファー・ディアスにしろ、ジョエト・ゴンザレスにしろ、世界王者に手は届いていませんが、総合力が高く非常に良いボクサー。
ただ、変則的なタイミングで打ち込んでくるナバレッテは、こういった基本に忠実なボクサーからするとやりづらいかもしれませんね。
ということでゴング。
初回、キビキビと動くゴンザレスに対して、ナバレッテはいつもどおり、速いとはいえないボクシング。しかし上体は柔軟で、打ち切るパンチはモーションも大きくテレフォンパンチに見えますが、非常に強い。
早々に打撃戦に突入、スロースターターともいわれるナバレッテに対して、ゴンザレスはペースを取りたいのか、結構ガンガンいきますね。
ナバレッテは長いジャブと外から回すような右ボディ、まっすぐの右ストレートで対抗します。早くも好勝負の予感がする初回、やっぱりゴンザレスは良いボクサーです。
両者ともにセコンドは家族、親族だらけですね。
2R、ガードをガッチリと固め、上体を振って懐に入るゴンザレス。ナバレッテは強い左右のストレート。このナバレッテの右は、戻しが非常に遅いように見え、日本だと矯正されそうですね。それでもこのフォロースルーをしっかり効かせたパンチで、KOの山を築いてきました。
ゴンザレスは打てばすぐにガードポジション、そして頭の位置を変えることは忘れない、非常に緻密なボクシングを展開。ナバレッテは徐々に手数が増えてきましたね。ゴンザレスは早くも右目下が赤くなっています。
3R、ナバレッテが手数を増やし、プレスを強めての猛攻でラウンドが開始。ゴンザレスは打ち返しますが、ナバレッテの強烈なパンチを浴びて右目の下から出血。
ナバレッテはゴンザレスの固いガードの上からでもお構いなしに強打を叩き込みます!
しかし後半、ゴンザレスも逆襲、ともに示し合わせて交互に攻撃をしあっているような、マチズモに溢れた打撃戦!但し、ナバレッテの攻撃の時間の方が明らかに長い。
4R、ナバレッテは長い左フック、得意の左アッパー、左ボディを効果的に使って、ゴンザレスにガードさせます。ゴンザレスはなかなか手を出せない時間が続きますが、常にプレスを賭け続けていますね。ゴンザレスの右目の傷はどんどん目立ってきますが、このボクサーの心は全くもって折れません。強打を叩き込まれながらも前進、近い距離になれば本当によく手が出ます。非常に回転力に優れますが、的中率がさほどでないところが惜しいところです。しかしこれはナバレッテの柔軟なディフェンスによるものです。
5R、中間距離では手を出さないのか出せないのか。おそらく後者のゴンザレスは、接近戦にその生命力の全てをかけます。
ナバレッテの長いジャブの打ち終わりに踏み込む右ストレートは、徐々にタイミングが合ってきているようにも思います。
しかしナバレッテの手数、そしてパワーも恐るべし、ガードの上からでもゴンザレスは明らかにダメージを負っていっています。
どうでもいいかもしれませんが、観客席に犬が。ボクシング会場に犬連れて行っていいのか。
6R、ここまでのパンチスタッツが出ますが、ナバレッテが75/349、ゴンザレスが59/254と手数、ヒット数ともにナバレッテがリード。顔面に見えるダメージは、明らかにゴンザレスの方が負っています。
ナバレッテの猛攻に、とうとうロープを背負い始めるゴンザレス。しかしその猛攻をしのいだ後は逆にプレスをかけてナバレッテを追います。
そして後半、ナバレッテのジャブの打ち終わりに放った右がヒット、ナバレッテは顔を跳ね上げられます。この、おそらくずっと狙っていたパンチ、これはナバレッテももらえば危ういかもしれません。
インターバル中にアップになったゴンザレスの右目下のキズは、腫れ、そしてもうぱっくりと開いてしまっています。
いよいよ折返しの7R、プレスをかけるもなかなか手を出せないゴンザレスに対して、ナバレッテは次々とパンチを放り込んでいきます。それをしっかりとガードしたゴンザレスですが、おそらくガードする度にもダメージを負っているはずです。
それでも耐え忍び、ナバレッテの猛攻が終われば距離を詰めての連打を試みます。手数こそナバレッテに及ばないものの、このボクサーのハートは本物です。
8R、序盤に足がひっかかったナバレッテが転びます。ちょっと疲れているのかもしれません。ゴンザレスはダメージも疲労もあると思いますが、まだまだ元気、キビキビとした動き。このラウンドはナバレッテがロープやコーナー際で闘うことが多く、ゴンザレスのしつこさを嫌がっているようにも見えますね。
下がりながらパンチを出すナバレッテですが、このラウンドはゴンザレスも手数が多い。ゴンザレスは前進と相まって、このラウンドの印象は非常に良いように思います。
9R、序盤にナバレッテがローブローのアピール。こういうアピールをする時は、本当のローブローで注意を与えてほしいということもありますが、休みたいという思いから来る場合もあります。
画面ごしにも右目下の傷がひどくなってきたゴンザレスですが、ナバレッテの強打を恐れずに前進します。しかしナバレッテに中間距離を維持され、苦しい状況。
それでも後半、またもナバレッテのジャブへのリターンで右ストレートをヒットしたゴンザレス、その後も右をヒット。ナバレッテも疲れているように見えますが、とにかくパワーパンチはいくつもでます。このラウンドもやっぱりナバレッテでしょうか。
10R、このラウンド序盤、またナバレッテがローブローのアピール。しかしレフェリーがストップの指示をする前の一瞬の隙を縫って、ゴンザレスは右から猛攻!これはナバレッテは集中しておかなければ危ない場面が訪れるかもしれません。
そこから切り替えたナバレッテは、時にゴンザレスの反撃にあいつつもやはり素晴らしい上下の打ち分けと手数。
11R、あとがないゴンザレスはもちろんアグレッシブに出てきますが、ナバレッテも強烈なパンチでお返しします。
大激闘、ここまで二人のボクサーは死力を尽くして手を出し合い、素晴らしい打撃戦を展開しています。ダメージがあるはずのゴンザレスも一向にそのアグレッシブネス、そしてハートは衰えません。
しかしそれを上回るのはナバレッテの手数と、そしてこちらも強いハート。
最終ラウンド、ナバレッテはワンツーと左ボディ、左アッパー。そしてゴンザレスは身体を振って近づいてから左右のフック。
互いの武器を真っ向から受け止め合うこの一戦は、初回から最終ラウンドまでずっと打ち合いです。ゴンザレスの素晴らしいタフネス、そして固いガードに阻まれ、この36分間に渡って打ち合いを強いられたナバレッテですが、終了ゴングが鳴ったときに勝者と敗者は明らかでした。
スコアは118-110がひとり、116-112がふたり。
ポイント的にはナバレッテの完勝といって差し支えないのですが、ポイント差以上に苦戦したという内容だったと思います。
とにかくゴンザレスは非常によくがんばりました。決して退くことなく12Rを戦い終え、ナバレッテを大いに苦しめてみせました。やっぱり素晴らしいボクサーです。
しかし、前戦のディアスに続き、難敵を相手にしっかりと防衛したナバレッテ。やはりこの王者も並ではありません。
スーパーバンタム時代のような、明らかな体格差によるアドバンテージは薄らいだかもしれませんが、フェザー級としてもゴンザレスにあれだけのダメージを与え、自身の顔にはほとんどダメージを感じさせません。
ナバレッテのタフネス、そしてディフェンスは上手そうに見えませんが、あれでいてしっかりと芯を外し、ほぼまともにもらわないところはすごいですし、まともにもらったとしてもケロリとしています。
あれだけの力強いパンチをあれだけの手数出し、フルラウンド戦い抜けるスタミナも流石。
ジョエト・ゴンザレスは本当によくがんばりましたが、やっぱりナバレッテは強かった、それに尽きると思います。
階級をあげたことにより、アドバンテージは確かに減ったかもしれませんが。
ともかく、ふたりのボクサーの意地と根性がぶつかり合う、本当に素晴らしい試合でした。
WOWOWでのタイムリーオンエアを、楽しみに待ちましょう。