日本時間10/31、「ビッグマッチ」と呼ばれるほどではないにしろ、非常に興味深い興行が連発された1日でした。
前日のA-SIGN&DANGANの国内興行に引き続き、本当にボクシングを堪能させてもらいました。
そしてそのどれもが素晴らしい試合ばかり。
トップランク興行では、ホセ・セペダが強さを見せつけ、パーフェクトレコードを持つバンタム級プロスペクト、カラバロをアンダードッグのフィリピン人、ジョナス・スルタンが破るというアップセット。
↓観戦記
しかし全米の注目は、どちらかというとラスベガスのPBC興行だったでしょう。
ライジングスター、ジャロン・エニスの登場と、そのエニスが狙うウェルター級王座戦。エニスの相手は歴戦の雄、トーマス・デュロルメであり、一筋縄ではいかない相手です。
今回のブログでは、日本時間10/31に行われた、ジャマル・ジェームスvsラジャブ・ブタエフのWBA世界ウェルター級タイトルマッチをメインに据えた、PBC興行の観戦記です。
10/30(日本時間10/31)アメリカ・ラスベガス
ミシェル・リベラ(アメリカ)21勝(14KO)無敗
vs
マティアス・ロメロ(アメリカ)24勝(8KO)1敗
WBA2位という位置までつけたプロスペクト、23歳のリベラ。モハメド・アリをリスペクトしたスタイルは話題ですね。
今回も白トランクスにブラックライン、トランクスには「ALI」の文字。トラッシュトーク関係はわかりませんが、髪型も含めてアリの模倣。これはこれでノスタルジーを感じさせ、良いものです。
↓リベラの前戦
今回も強さを見せられるか、ライト級コンテンダーのリベラと、アップセットを目指すノーランカー、マティアス・ロメロの一戦がゴング。
初回からリベラは積極的。左手を下げたオーソドックススタンスからジャブを飛ばし、プレスをかけます。このジャブが非常に長い。そこから右ストレート、左フックを放ちます。
ロメロはそのリベラの攻撃をバックステップ、距離が詰まったところで左右のフックを返そうという戦法。
しかし初回の終盤、リベラはロメロをコーナーに詰めて右をふるい、足を滑らせたロメロはロープにもたれかかったことで、ロープダウンを宣告されます。これは不運。
再開後、間もなく初回終了のゴング。やはり力の差はありそうです。
2R、早くも優位にたったリベラは、得意のジャブを上下に散らします。会場からは「アリ!!」コール。リベラはニックネームを「アリ」としています。
ロメロは自ら攻めることはせず、カメのようにガードを固めてチャンスを待ちます。ちょっと攻めづらそうなリベラ。ただ、主導権は完全にリベラです。
3R、リベラのパワージャブが引き続き有効、リベラが攻め込んだ時に堰を切ったようにコンビネーションを放ってくるロメロには気を付けないといけませんが、それだけかもしれませんね。
4R、リベラのジャブとストレートですが、狙うは上ばかり。それに対して、ガードを高く掲げるロメロ。もうちょっとボディに持って行ったほうが良いと思った後半、リベラはボディを打ち始めます。
5Rも展開は変わりません。ロメロとしては何とかしなければ、勝利は得られそうにありませんが。。。
6R、これまでのラウンドよりもリベラのジャブ、ストレートが入っているように見える序盤。終盤もリベラはノーモーションの右をヒット、ロメロは力が尽きてきたか。
7R、遠い距離ではノーガードのロメロ、リベラが攻めるとガードを上げます。序盤にロメロがフックをひっかけてリベラはリングに膝をつきます。会場が大きくどよめきますが、スリップ裁定。
リベラはジャブから左右のボディをたたき、ロメロのパンチは空を切り、ガードに阻まれます。実力差は明らか、ロメロの入り際に右アッパーを合わせるカウンターも披露したリベラ、ここは倒し切ってほしい。
8R、このラウンドもリベラのジャブ、コンビネーションが冴えますが、ロメロは極めてタフなのか、それともリベラがパワーレスなのか。
9Rも何も起こらず、ロメロが一生懸命攻め込んだ時だけ少しエキサイティング。そのほかは、リベラの的確なカウンターを打てば歓声が上がる感じですね。
ラストラウンドもリベラはパワージャブも右ストレートも当てますが、ロメロは耐えきり、終了ゴング。
ジャッジは3者ともにフルマークでミシェル・リベラを支持。
リベラはうまく、アグレッシブ。自ら試合の展開をつくるので、攻め込んだ時にともすればカウンターをもらうリスクこそあるものの、そのコンビネーションも非常にテクニカルであり、パンチを当てる技術にも優れた非常に良いボクサーです。
ただ、ややパワーレスに見えるのが気になるところですね。
前戦でWBAの指名挑戦権を獲得しており、12月に行われる超注目試合、ジャーボンタ「タンク」デービスvsロランド「ロリー」ロメロの勝者への挑戦権を得ています。
この試合はロメロがやらかしているようなので、挙行されるかどうかはわかりませんが。。。
ただ、ちょっとタンクやロリーに比べると、決定力に欠ける気がしますね。
ジャロン・エニス(アメリカ)27勝(25KO)無敗1ND
vs
トーマス・デュロルメ(プエルトリコ)25勝(16KO)5敗1分
ウェルター級プロスペクトの中でもピカ一の評価を誇る、ジャロン・エニス。素晴らしいキャリアを持つデュロルメにどのように勝利できるか、が今後のウェルター級戦線において非常に興味深いところです。
この興行のアンダーカードにこのカードが組まれているということは、ともすればメインのジェームスvsブタエフの勝者にエニスが挑む、ということなのでしょうか。
エニスの相手、デュロルメは、過去にジャマル・ジェームスと暫定王座決定戦を戦い敗戦、前戦ではプロスペクト、エイマンタス・スタニオニスの踏み台になっています。
元スーパーライト級王者、セルゲイ・リピネッツを完璧にノックアウトして勢いに乗るエニス、世界有数の高い壁を誇る、ウェルター級世界王座への試金石の一戦です。
↓エニス、リピネッツを衝撃TKO!の観戦記
大注目の一戦、ゴング。
ゆったりしたリズムから速いジャブを繰り出すエニス。デュロルメは低い姿勢からダッキングを駆使してこのジャブを外し、右オーバーハンドを狙います。
しかしこのエニスのジャブの的中率は、序盤からかなりエグい。
1分が過ぎたところで、ステップインしたエニスは巻き込むような右フックをヒット、やや後頭部よりに当たったこのパンチでデュロルメはダウン!!!
カウント8まで休んだデュロルメですが、立ち上がってもややよろめきます。
再開後、ここは当然のように出ていくエニスですが、ここでボディ中心の攻め。凶悪なボディブローでデュロルメを襲い、デュロルメの強い反撃にあいながらもその攻勢を緩めず、いつの間にかサウスポースタンスになっていたエニスは左ストレートをまっすぐに突き刺し、この左でデュロルメはまたもダウン!!!!
レフェリーがしっかりと10カウントを数え上げる間、デュロルメは何とか立ち上がろうとするものの、結局立てず。
ジャロン・エニス、驚愕の1RKOで歴戦の雄、トーマス・デュロルメを撃破!!
このボクサーはいつも想像を超えてきますね。。。個人的にウェルター級プロスペクトの中では一番好きなのはバージル・オルティスJr、一番評価をしているのはジャロン・エニス。
このふたりは、もう世界王座はすぐそこです。
但し、世界王座を獲得したからといって最強の証明にならないのがボクシング、とりわけウェルター級にはテレンス・クロフォード、エロール・スペンスJrという怪物王者が君臨しています。
ただ、このエニスについては、今日のパフォーマンスを見る限り、そこに食い込んでいく資格があるボクサー。
次戦は世界タイトル戦となるのでしょうか。
クロフォード、スペンス以外の王者に挑戦するならば、王者となってからが勝負の時でしょう。今後もウェルター級戦線から目が離せません。
WBAレギュラー世界ウェルター級タイトルマッチ
ジャマル・ジェームス(アメリカ)27勝(12KO)1敗
vs
ラジャブ・ブタエフ(ロシア)13勝(10KO)無敗1NC
WBAの施策により、暫定王者に続き絶滅危惧種となりつつあるレギュラー王者。ジェームスは暫定王座を獲得後、ヨルデニス・ウガスのスーパー王者昇格に伴いレギュラー王者に昇格したボクサー。
厳密にいうと、王者の証明はできていない仮王者ということができます。
対してブタエフも、無敗ではあるもののオレクサンデル・ベスプーチンに敗北、その後ベスプーチンのドーピング陽性反応によりノーコンテストに変更になっています。この激闘がNCになってしまうのはもったいないと思うほど素晴らしい試合でしたが、これは仕方のないことですね。
向き合ってみると高身長のジェームスに比べ、ブタエフの体の厚みが半端ないですね。
さて、ゴング。
まずは近づきたいブタエフ、体を振って接近。中に入られまいとジャブを飛ばし、ステップで動き回るジェームス。
長い距離でジェームスがストレートで攻めますが、ブタエフのガードは固い。ブタエフはボディジャブでステップイン、しかし遠い距離ではジェームスのジャブを浴びてしまう場面も多い。
終盤、ブタエフの右ボディが突き刺さりますが、ジェームスも左ボディをお見舞い、両者の持ち味がよくでた初回が終了。
2R、やっぱりジェームスは左の使い方が上手い。ジャブから左フック、右ストレートを見せて左ボディも非常に遠い距離から届かせ、そこからさらに右。素晴らしいコンビネーションです。
ブタエフは強いプレスをかけ続け、接近戦を挑みますが、このラウンドはジェームスのストレート、近づけばアッパーにやられているように見えます。
3R、ジェームスは余裕が出てきたか、速いステップでブタエフをいなし、右アッパーを3連打!会場を沸かせます。
しかしブタエフのボディショットも力強く、このラウンド後半にジェームスは打ち合いを選択する場面もありましたが、これはかなり危険な選択に思います。
4R、ブタエフはサウスポーにスイッチ、そこから飛び込みの右フック!サウスポーになってジェームスのジャブを封じようとしたのかもしれませんが、逆にジェームスの右を真正面から喰い、そのあとジャブももらってしまっています。
しかしまた右フックで飛び込んだブタエフは、ジェームスをロープに詰めてボディショットを乱打!これは迫力がすごい。
その後もステップイン右フックで距離を詰めてはボディをたたくブタエフ、ジェームスは体躯的にタフネスはなさそうですが、これはかなり雲行きが怪しくなってきました。
終盤にもブタエフはジェームスをロープに詰めて左ストレートをヒット、ジェームスのボディでの反撃にはびくともしません。形勢は、逆転か。
5R、ブタエフはオーソドックスタート。途中でスイッチ、サウスポーのほうがよさそうです。強いボディをジェームスのガードもおかまいなしに入れ、ジェームスはかなり苦しそうです。
このラウンドは踏み込んできたジェームスに対して後ろに回り込んでパンチを打ってしまったブタエフに減点。しかしダメージを感じさせるジェームスに対して、ブタエフはまだまだ元気。
6R、かなりの疲労、ダメージを感じさせるジェームスですが、手数は衰えません。ただ、ブタエフの飛び込みのフックには対応しきれていませんし、ボディショットはガードを固めても効いていそうに見えます。
そしてボディへの警戒心を強めるジェームスに、ブタエフの顔面へのフックがヒット。
7R、今度はブタエフにかなり余裕が出てきたイメージ。ジェームスの足の速さは序盤ほどではなく、出すパンチもかなり粗くなっていることからジェームスのパンチを外して踏み込むことができています。
Showtimeの放送では非公式スコアが出ており、6Rまでドロー。(たぶん減点は反映されていません)しかし現在ブタエフがかなり盛り返してきている展開で、今後ジェームスへの期待は薄い。
8R、改装層にブタエフがジェームスをロープ際に追いやり、左右のボディフックから上へのフックを叩きつけます。
その後リング中央に戻るも、ガードで固まってしまうジェームスに対して、ブタエフはサイドステップを駆使して多角的な攻撃を展開。
ちなみに、インターバル中の今後の放送カードの中で、ベラトールのバンタム級タイトルマッチ、堀口恭司選手が紹介されています。私でも名前をしっている数少ないMMAファイター、Showtimeに登場のようですね。素晴らしい。
9R、ノーガードで挑発するブタエフ。もうジェームスには倒せるパンチが残っていないかもしれません。もともとハードパンチャーとは言い難いジェームスにとっては絶望的な状況ではありますね。パンチがあれば、バンザイアタックに身を投じる頃かと思いますが、それをすればフィジカルの強いブタエフに返り討ちに合うことも明白。
足が止まるジェームスにブタエフは凶悪な左右のフックを叩き込み、またもロープ際。
ここで強いパンチを打ち込み、ジェームスをガード一辺倒にさせたところでレフェリーが割って入り、試合はストップ。
ラジャブ・ブタエフ、9RTKO勝利!!
止められたジェームスは「WHY??」ととストップに納得はいかないよう。わかりますが、勝ち目はほとんど、というかもう無いようにみえ、公平に見ている(つもり)側からみるとこのストップは妥当に見えますね。
余分なダメージを被らずに済んだことに対して、良いストップだったと思います。ジェームスを応援している立場だったとすれば、「ストップが早い」と文句を言っていた可能性はありますが。
ともあれ、ラジャブ・ブタエフは歓喜の初戴冠。非常にフィジカルが強く、パンチングパワーに優れ、ヘッドムーブも良い。そしてインサイドでのステップワークも見事でした。あと、タフネス。
ジェームスのパンチを意に介すことなくプレスをかけ続けてジェームスを疲弊させ、ボディショットでダメージを与えての強い勝ち方。
このボクサーはある程度完成されたボクサーに見えますね。
これからブタエフが進むのは、ヨルデニス・ウガスとの団体内統一戦か、それともライジングスター、ジャロン・エニスの挑戦を受けるのか。
盛り上がるウェルター級戦線、非常に楽しみです。情報遮断して見て良かった。