日が経つにつれ、注目度が上がっていくボクシング世界選手権。
日本代表として10名のボクサーがセルビア共和国のリングに立ち、銅メダル以上が確定するベスト4に残った岡澤セオン、坪井智也というふたりのボクサー。
↓日本代表、それぞれの戦い!
ミニマム級の荒竹一真は、陣営がBOUT Reviewを申請し、協議してもらったようですが判定は覆らず。BOUT Reviewというのは判定に不服があれば異議を申し立てられる制度で、大会を通して2度まで認められています。
しかしあの試合は勝っていたと思いますが。。。あのカットの印象が悪く、2Rを持っていかれたのかもしれません。(本来はそうあるべきでありません。)本当に残念。
さて、今回のブログでは、前回のブログで綴ったのちのこと、岡澤セオンと坪井智也、ふたりのボクサーのセミファイナル以降の戦いについてです。
11/4(木)
54kg級準決勝
坪井智也vsBillal BENNAMA(フランス)
今日もリズム&ステップが冴える坪井。長身の選手を相手にボディジャブ、近づいて回転力のある連打で勝負。ただ接近しての手の出し合いはフランス選手も得意なようで、なかなかの回転力。初回はほぼ互角の3-2。
ステップだけでなく、頭の位置を変えながら連打する坪井と、やや上体の動きが少ないフランス選手。坪井のワンツーがキレイにヒット、このラウンドはクリーンヒットの数で坪井が優勢か。と思ったらまたも3-2。
ラストラウンド、中盤に坪井の右カウンターがヒット。終始リズムを崩さない坪井に対して、やや雑になっていったフランス選手!これは勝った。。。!と思います。
判定は、4-1で坪井の勝利!!
この勝利により、銀メダル以上を確定させました!目指すは金のみ!
決勝はカザフスタンのMakhmud SABYRKHAN。カザフスタイルの強いプレスを持つ、超強豪ですね。ここに巻き込まれず、出入りのボクシングとスピードで翻弄してもらいたいですね。
67kg級準決勝
岡澤セオンvsAblaikhan ZHUSSUPOV(カザフスタン)
セオンの得意のボディジャブからスタート。また今日も楽しそうなボクシングをしています。細かなステップで岡澤を追い詰めようとするカザフ選手にとって、岡澤の長いボディジャブは非常に邪魔。ただ、もみ合いの展開は避けたいですね。初回は3-2で岡澤。
2Rによりプレスを強めたカザフ選手。岡澤はジャブで牽制も、やや中に入られている印象。クリーンヒットはもらっていないように見えますが、ポイントはちょっと厳しいか。
このラウンドは2-3、カザフ選手がリード。ここまで全くの互角で、ラストラウンド勝負。
ラストラウンドも両者の戦い方はもちろんかわりませんが、序盤、ロープ際でおびきよせてからのカウンターのボディジャブをヒットさせた岡澤。ロープを背にした上体での戦いで、非常にクレバーに戦っているように見えます。
カザフ選手は右頬あたりから出血も再開。
その後もロープ際で攻めさせてからのリターンのジャブをヒットさせる岡澤が、優勢に見えます。
判定は、岡澤セオン!こちらも4-1!ラストラウンド、きっちり取りましたね!
決勝はアメリカのOmari JONES。準決勝を相手選手の怪我による棄権勝利、非常に運を持っていますね。USAチームは、2007年の世界選手権でルーシー・ウォーレンとデメトリアス・アンドレーデが金メダルを獲得して以降の金メダルを狙います。侮れない相手ですが、岡澤はやってくれるでしょう!
11/5(日本時間11/6)
目指すは日本ボクシング史上初の世界選手権優勝。2人のボクサーが、この偉業にチャレンジします。
54kg級決勝
坪井智也vsMakhmud SABYRKHAN(カザフスタン)
カザフスタンという国は、アマチュアでも超強豪国。ゲンナディ・ゴロフキンのような重厚でしっかりとしたアグレッシブなスタイルは、カザフスタイルとも言われ、アマチュアボクシング界を席巻しています。
坪井は、そんなカザフスタン選手との決勝戦。
初回のゴングと同時に前に出てボディジャブを放ったのは坪井。アグレッシブなカザフスタイルに対して、よりアグレッシブにジャブをうち、右オーバーハンドを放ちます。今日も坪井のリズム&ステップは健在、カザフ選手の攻撃を躱し、そこから繰り出す連打も素晴らしい。と思いましたが、初回は3−2でカザフ選手。
2Rは早々にワンツーをヒットした坪井!初回の後半から、カザフ選手はなかなかクリーンヒットが奪えないことに対して焦りが見える気がします。ワンツー、サイドステップ、ボディショット。ここは坪井が明確なラウンドを作ったと思います。2R目は5−0で坪井!
ラストラウンド、カザフ選手はプレスを強めますが、その強いプレスに対して時に打ち合い、時にいなす坪井。中盤、坪井は下がりながらの印象的な左ジャブカウンターをヒット!
その後さらにプレスを強めるカザフ選手ですが、坪井はジャブから右ボディストレートでその接近を阻み、詰められてもサイドステップ。終盤にも強い右オーバーハンドをヒットした坪井、これは勝利が確定でしょう!!
判定は、5−0で坪井!ファイナルラウンドも5−0のポイントを獲得、結局互角だったのは初回のみ、後は完璧なボクシングでした!
勝者がコールされた瞬間、雄叫びを上げました!そして一緒に雄叫びを上げたファンも多いでしょう。
坪井智也、世界選手権バンタム級優勝!!!!
67kg級決勝
岡澤セオンvsOmari JONES(アメリカ)
そして日本勢としては最後の試合となるこの67kg決勝に、日本のエース、岡澤セオンが登場。相手のJONESは準決勝を相手選手の棄権により勝利しており、運をもち、またコンディションも万全なはずです。この極限状態が続くトーナメントで、1試合をパスできるというのはアドバンテージになるはずです。
アメリカ勢もここ10年以上、世界選手権での金メダルはなく、ここは意地を見せるところでしょう。それでも尚、岡澤セオンには勝って貰いたい。
初回のゴング、岡澤は得意の右ボディジャブ!遠い距離から大きく踏み込み、顔面が無防備になってしまうこの勇気の必要なパンチが岡澤のサンデーパンチ。そこからボディへの左ストレート。リングを大きく使う岡澤、JONESはフェイントをかけながら岡澤を追い詰めようと試みます。しかしこのJONES、大きく、リーチがかなりありますね。
このラウンド後半、岡澤に笑顔が見え始めました。このスマイルが出てからが、きっと岡澤の真骨頂。初回のポイントは、3−2で岡澤を支持しますが、ほぼ互角。
2R、共に技術のある者同士、前手の攻防に緊張感があります。探り合い、カウンターを狙い合います。JONESは岡澤のボディジャブのリターンを狙います。普通に攻めても届かないので、岡澤の打ち終わりに大きく踏み込み、連打。
クリーンヒットはほぼありませんが、このラウンドは1−4でJONESを支持!総合ポイントでは岡澤がやや優位。
ラストラウンド、岡澤は打ち終わりに気をつけながら大きくボディへの左ストレート。遠い距離での駆け引きから、近い距離での一瞬の攻防、これぞアマチュアボクシングです。
前ラウンドよりもやや距離が近い、打ち合う時間がやや長い、という印象を受けますが、離れたところ、ここで岡澤のボディジャブが有効に見えますね。JONESの反撃は、岡澤のサイドステップで無効化しているように思います。
ラストラウンド終了、岡澤を贔屓してみてしまっている私としては勝利だと思いますが。。。
判定は、3−2で岡澤!!!岡澤セオン、見事世界選手権ウェルター級優勝です!!
判定の内訳を見ると本当に薄氷の勝利でしたね。しかし、3R目に打ち合いを辞さない覚悟を持ったことで、接戦をものにした感じがします。
いやー、本当に素晴らしかった!岡澤セオン、世界選手権優勝!!
激闘を終えて
今回の世界選手権は本当に見応えがありましたね。10人の日本代表のうち、8名が初戦を突破。ベスト8に3人が残り、うち2人が金メダル。
ベスト8には残れませんでしたが、堤駿斗はラザロ・アルバレスを破る殊勲を上げましたし、坪井智也はゾイロフを破った勢いそのままに優勝を果たしました。
そして何より、岡澤セオン、アマチュアボクシングを背負って立つボクサーの悲願の世界選手権優勝は、ボクシングを楽しんでいる様を見ることができたことも含めて、本当に感動しました。
以前のブログにも書きましたが、これまでの世界選手権での日本人の最高成績は、2011年の村田諒太のミドル級での銀メダル。
その前は2007年の川内正嗣、1978年の石井幸喜の銅メダル、この3つのみ。
そんな中で、金メダル二つという快挙を成し遂げた日本ボクシング界は、歴史的偉業を達成したと言っても良いでしょう。
村田諒太も、清水聡も、須佐勝明も、井上尚弥ですらも届きませんでした。
もう少し遡ると、プロではスーパー王者となった内山高志も、国内で絶対王者だった飯田育夫も届きませんでした。
プロの世界王者になるにはマッチマイクの妙が必要な場合が多いですが、アマの世界王者はそれが不要で、違う言い方をすれば、地方のジムで練習したとしても、強豪ジムや強豪大学で練習していたとしても、その差はプロよりも小さく、チャンスがあると思っています。(違うのは練習環境だけ)
東京オリンピックで、女子含めてメダル3個、という過去最高の成績は、決してフロックではありません。日本のアマチュアボクシング界のレベルは非常に上がっており、かつて「国際大会では勝ち方がわからない」と言われた時代はとっくに終わっています。
しかも、トップ選手だけが抜きん出て強いというわけではなく、やはりアマチュアボクシングのトップ層のレベル全体が上がっている、そう思います。これにはやはりジュニア世代(高校)より以前の、アンダージュニア世代の育成が機能してきた、ということだと思います。
昨今、減少しているプロボクサーの数も、きっとまだまだこれから。
アンダージュニアをしっかりと育成し、次の世代にしっかりとバトンを手渡していくことが肝要ですね。
更に、「大学」という場が主体だったアマチュアボクシングで、続けるなら自衛隊体育学校のみ、という状態だったものが、岡澤セオンの登場で少し変わっていることも事実。もっと自由にアマチュアボクシングを続けられる環境があればいいな、と思います。
岡澤は自分で道を切り開きましたが、それを一つの見本として、連盟の方で大学卒業後のボクシングキャリアについて何かしらのサポートをしてもらえる流れになると良いですね。
さて、岡澤セオンと坪井智也。
日本ボクシング界、史上初の偉業を成し遂げた2人のボクサーには、2023年の世界選手権での連覇、そして2024年パリオリンピックでの金メダルを期待したいと思います。
そしてもちろん、今回はメダルに届かなかったボクサーたちの今後にも期待しています。
ともあれ、過去最高の世界選手権をありがとうございました。
そしてこの快挙に女子ボクシングも続くはず。女子の世界選手権は12月初旬、イスタンブールに手開催です!