2021年12月31日。
大晦日は、本来であれば井岡一翔(志成)とジェルウィン・アンカハス(フィリピン)によるIBF・WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチが開催される予定でした。しかし、オミクロン株の水際対策によりアンカハスが来日不可となり、急遽対戦相手が福永亮次(角海老宝石)に変更。
アンカハスとの統一戦にこぎつけた井岡は、選択防衛戦となったことでモチベーションの低下は免れません。ここに、福永にとっての一筋の光明はあるでしょう。
福永は急遽の挑戦が決定しましたが、正式発表が2週間前。その数日前のオファーだったということなので、準備期間としては非常に少ない。1月上旬にもともと試合を予定しており、そのための準備をしていたことから、コンディションを整える事はできるでしょう。しかし、井岡対策となるとどうしても時間が足りません。
ともに万全のコンディション、万全の対策を備えての最高の準備ができたか、というとおそらく無理でしょうが、それぞれが制限の中、仕上げてきてくれて、好試合になることを期待。
個人的には、福永亮次のアップセットを期待しています。
↓プレビュー記事
アンダーカードのライブ配信も志成ジムのHPでありましたが、私は予定があって生配信は見れませんので購入できていません。もっと早くに言ってくれれば、予定を変更することもできたはずですが、いつもこういう発表は直前。この辺りは個人的にはなんとかしてほしいものですね。
さて、メインの方は妻の実家でチャンネル権をお借りして、視聴。超気まずい笑。
WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ
井岡一翔(志成)27勝(15KO)2敗
vs
福永亮次(角海老宝石)15勝(14KO)4敗
TV中継開始とともに、井岡の控室の様子が映りますが、佐々木トレーナーのミットに打ち込む井岡、そして傍らに野木トレーナー。陣営は、万全ですね。
福永は、結果的に日本・OPBF東洋太平洋・WBOアジア・パシフィック、3つのたイトルをすべて返上。退路を絶って井岡に挑みます。
さて、久々の地上波の生放送。
CMが多いのは仕方有りまんね。井岡の姿が映りますが、タトゥー消しのファンデーション、これで良いのか、というぐらい肌の色が合っていません。どうでもいいですが。
両者の入場、そして国歌斉唱まで流してくれるところはありがたい。
2021年ボクシング興行、最後の一戦がゴング!
まず仕掛けていくのは福永。これは当然、どんどんプレスをかけて井岡を崩したいところ。井岡はいつも通り慎重、福永の攻撃に対してブロッキングからのリターン。
やや、距離が近いかな、と思います。
後半、福永がワンツー、コンビネーションで攻め込みますが、井岡は左アッパーを巧打。
2R、福永が上体の動きを使ってフェイントをかけます。福永の左ストレートはよく伸び、効果的に思います。井岡のガードは全く乱れず、固い。ただ、福永もワンツーボディから左フックを顔面に返す、そして井岡の攻撃に対して左アッパーから右フックおこびネーションを返す、等々、良い攻撃を見せています。
3R、距離がさらに縮まり、福永の土俵ともいえる距離で戦う井岡。ここは福永がコンビネーションを打てば、その打ち終わりに井岡がコンビネーション。
福永は前手のガードを非常に気をつけており、井岡の左フック対策をしているように見えますが、やはり攻撃時はそのガードが下がってしまいます。それでも井岡のガードは全く乱れず、これこそがディフェンススキルの差ともいえます。
4R、このラウンド中盤の福永の左アッパーで、井岡は少々下がったように見えます。ふとした時にコンパクトなパンチを当てるのは井岡ですが、福永の攻撃は鋭く、井岡は下がらせられているようにも見えます。
しかし後半には井岡は左フックを3連打して反撃。その後ノーモーションの右を数発当て、井岡はリズムが出てきました。井岡に余裕を持たれると、福永にとっては苦しい。
5R、やはり身体の強さは福永か。福永のワンツーで井岡は後方に弾かれます。井岡は致命打は避けているものの、見栄えとしてはどうか?
6R、上体を動かし、前手を伸ばしたり叩いたり、そして鋭くワンツーで踏み込む福永。ただ、井岡はすでにこの福永の踏み込み、そしてパンチを見切っており、じっくりと、慌てず、騒がず、ステップとブロッキングで対応。
後半になるに従って井岡のパンチがヒットしていきますが、井岡は少し余裕を持ちすぎたか、挑発。ここで福永が攻め込み、クリーンヒットを奪います。
ただ、福永はもうちょっと攻めたいですね。ここまでのところ、徐々に井岡のペースとなってきていると思います。
7R、回が進むごとに井岡のレンジコントロールが精度を増します。福永はミスブローが目立つようになり、井岡は逆に的確なコンビネーションをヒット。
出すパンチ出すパンチが当たりまくる、というこのコンビネーションは、井岡がその距離感を完璧に掴んだ証でもあり、この井岡のラッシュの的中率は凄まじい。
このラウンド、福永は鼻から出血。
8R、福永が入ろうとすると井岡のまっすぐの右カウンターが飛んでくるため、前進することはできても効果的に踏み込めない福永。井岡は変わらず固いブロッキングからリターン、そして距離を詰めてコンビネーション。
このポジショニング、パンチのセレクト、やはり格が違います。
後半には福永も良い左ストレートをヒット、その後左ボディアッパーで井岡を下がらせます。
9R、前に出てパンチを放つも、12Rの世界戦という意味においてどんどん追い詰められているのは福永の方。井岡は相変わらずマイペースを貫き、決して無理せず、福永のパンチを無効化して反撃。
決して福永のパンチが当たっていない、というわけではありませんが、やはり井岡のディフェンス能力は高く、ブロッキングで殺し、時にいなし、決定的に「危ない」という場面を作ることはありません。まさに暖簾に腕押し。。。
10R、この終盤に来ても福永の鋭いワンツーは生きており、幾度となく井岡のボディを襲った左アッパーも素晴らしい。しかし井岡は自ら攻める事はほとんどせず、カウンター戦法に切り替えているため、中盤のラウンドに有効だった井岡のコンビネーションの打ち終わりに左ボディアッパーからの右フックという効果的なパンチは使えません。これは危険なパンチを出させないようにした、という井岡の対応力でしょう。
このラウンドは福永の攻勢も目立ちましたが、井岡のカウンターも光りました。
11R、開始早々のワンツーを皮切りに、グイグイと攻める福永。井岡をロープに詰めていきますが、それでも尚、決定打をもらわない井岡は流石。下がりながらパンチを出す井岡のコンビネーションの的中率は素晴らしい。
井岡、まったくもってガードの位置が落ちませんし、そのガードが強すぎます。これは攻める方が困りますね。
ラストラウンド、攻め続ける福永の闘志たるや素晴らしい。打てばカウンターを取られる、というこの絶望的な状況の中で、攻め続けるには勇気がいります。
諦めない心を持って、最後まで前進し続けた福永。そしてそれを迎え討ち、しっかりとカウンターを合わせた井岡。手数は福永、的確性は井岡。
最終ラウンドが終了、勝負は判定へともつれ込みました。
ジャッジは、115-113、116-112、118-110の3-0で井岡の勝利を支持。
井岡が4度目防衛 WBO世界戦、判定で福永下す: 日本経済新聞より
3-0の判定ながら、この判定は非常にポイント差がバラバラですね。
個人的には、序盤の4Rでドローくらいかと思ったので、118-110の8ポイント差というのはちょっと違和感があるかな、と思いました。ただ、ジャッジの仕事にケチをつけているわけではなく、これはこれでボクシングではあり得る事だと思います。
ただ、一つの事実として、井岡が勝利し、福永が敗北しました。これは覆しようのない事実であり、仮にポイントを計算していなかったとしても、やはり勝者は井岡に思えます。
果たして井岡は、井岡らしく戦った、と言っていいでしょう。やはり井岡は「待ちのボクシング」でこそ強さを発揮し、対戦相手に付け入る隙を与えません。福永を応援していた分、あえて言わせていただくと「非常に残念ながら」井岡は勝ちに徹し、自分のボクシングを貫きました。これは対・福永というボクサーにおいて、おそらく最上の選択だったでしょう。勝てるボクシングをする、これこそが王者としての矜持。決して手を抜いた訳ではないはずです。
精密機械である井岡一翔にとって、「モチベーション」という問題は、おそらく少々の影響こそあったものの、そのボクシングに大きな影響を及ぼすものではなかったのだと思います。
なので、福永の「付け入る隙」のはずであった部分は、非常に小さく、か細いものだったと言わざるを得ません。
その上で、福永は持てる力のすべてを出し切り、非常によく頑張ったと思います。
重いパンチを次々と繰り出し、いくつものクリーンヒットを奪いました。井岡の打ち終わりに狙って出す左ボディアッパーは、確かに井岡にダメージを与えていたと思います。現実的に、左ボディアッパーや顔面への左ストレートを喰らった井岡は、「下がった」のではなく、「下がらされて」いたはずです。
そこに光明を見出したかった福永ですが、井岡はこのパンチをもらわないようなボクシングに鞍替え、おそらく福永は、後半はこのパンチを出す事すら難しくなったと思います。
ここに井岡の怖さがあります。
恐るべきボクシングIQ、恐るべき引き出しの多さ。
そしてディフェンス面においては、やはり「ブロッキング」というものが一番大きい。
井岡のブロッキングは固く、全く崩れません。このブロッキングの上を叩いても効果はあるはずですが、全く乱れないがために思い切り打つということを躊躇してしまう気持ちは経験者ならわかるのではないでしょうか。
ブロッキングの上を思い切り打って、相手が体勢を崩せば打つ気にもなれますが、全く体幹がブレなければ「自分が疲れるだけだ」と思って打つことが無駄に感じてしまいます。
これが、福永が折角井岡をロープに詰めても、強いパンチを振り回していけなかった原因のような気がしています。
確かにあのボディは井岡に効いていましたし、福永の左ストレートだって井岡にとって脅威だったはず。しかし、それを感じさせないのが井岡一翔というボクサーの「ディフェンス力」のひとつだと思います。勿論、ディフェンス力の最たるものは、「芯を外す」ということになるのでしょうし、だからこそ12Rを戦い終えても大きな腫れ、出血がなかったのでしょうが。
ともあれ、勝者は井岡。「やはり」強かった。そして、対戦相手がアンカハスだった時と同じモチベーションでは臨めなかったはずのこの選択防衛戦において、間違いのない、素晴らしいパフォーマンスを見せました。
次戦は5月(6月とも?)と言われるジェルウィン・アンカハス戦。既に1度締結しているだけに、これは2月にアンカハスが防衛戦をクリアした後、一気に明確になるでしょう。
井岡は怪我なく、終えました。
こうなったからには、アンカハスにも怪我なく、すっきりと終えてほしい。
井岡、アンカハス、双方にとって「過去最強の敵」となる一戦、これは楽しみですね。
そして敗れた福永亮次、世界で戦える力を見せてくれました。35歳、ということが取りざたされていますが、ボクシングをはじめてからまだたったの10年。未だ成長過程にあるボクサーだと思います。
カムバックを期待したい。