今週もイギリスでは注目試合。
先週はヨークホールにプロスペクトを集め、ダニエル・ジェイコブスという世界的強豪を呼び込んだイギリスボクシング界、今週末は待ち焦がれたであろう国内スター対決に進みます。
場所はロンドンから離れ、マンチェスター。
デビュー以来、待ち焦がれた世紀の一戦は、互いに盛りを過ぎ、この試合を最後に引退でも全くおかしくないところまできました。
日本にいる我々や、アメリカのボクシングファンが思うよりも、きっとこの一戦はイギリスのボクシングファンにとって非常に重要なものだと思います。
ということで今回は、十数年の時を経て、初めて邂逅したビッグマッチ、アミール・カーンvsケル・ブルックのプレビューです。
Kell Brook's private messages suggest boxing fans favour him over Amir Khan - Mirror Online
2/19(日本時間2/20)
アミール・カーン(イギリス)34勝(21KO)5敗
vs
ケル・ブルック(イギリス)39勝(27KO)3敗
結局交わることのない2人だと思っていましたし、もうカーンvsブルックが決まれば面白いな、とかいうことすらも忘れていました。
いつ発表になったか、明確に覚えていなかったので調べると、2021年11月29日、現地での記者会見により発表されたようです。
イギリスでは大いに盛り上がっているはず。日本でいうと、辰吉vs鬼塚、大橋vs井岡といった同時代の世界王者が、ピークを過ぎてから対戦する、というようなイメージです。全盛期の力を有していないことは明らかではあるものの、未だ「ビッグネーム」という2人のボクサーが相見える。これを仕組んだ人は、よほど良いファイトマネーを積んだと思われます。
ともあれ、こうしてレジェンドボクサー同士がガチで雌雄を決すると言うのは、旬を過ぎてもワクワクするものです。(厳密に言うと、ワクワク「してきました」)
デビュー年もほぼ変わらず、階級もほぼ変わらない、同い年の2人。
まずは2人の軌跡を振り返ります。
ともにアマ経験があり、カーンはライト級で2004年のアテネオリンピックに出場。見事銀メダルを獲得しています。
ブルックはライト級の一つ上、ライトウェルター級の選手だと思いますが、オリンピック出場を逃しています。
2004年
アミール・カーン、17歳でオリンピック出場、銅メダルに輝く。
ケル・ブルックは9月にプロデビュー、この年は5戦戦っています。
2005年
1年遅れてカーンも7月にプロデビュー、4戦戦っています。
2007年
カーンがコモンスウェル英連邦ライト級タイトルマッチに挑戦、勝利してタイトル初戴冠
この年は2度、このタイトルを防衛しています。
2008年
ブルックがBBBofC英国ウェルター級王座決定戦に出場しこれを獲得、ブルックのタイトル初戴冠です。このタイトルをこの年は1度防衛。
カーンは英連邦タイトルを保持したまま、WBOインターコンチネンタルライト級タイトルマッチに臨み、これを獲得します。英連邦タイトルは、その後も防衛して、合計4度の防衛ののち、返上。
しかしこの年の9月、WBOインターコンチネンタル王座の初防衛戦に臨んだカーンは、ブレイディス・プレスコット(コロンビア)にまさかの初回54秒KO負けを喫して初黒星。
アミール・カーンというボクサーが、打たれ脆さをオープンにした一戦となりました。
しかしその3ヶ月後には復帰、WBAインターナショナルライト級王座を獲得しています。
2009年
ブルックは保持する英国ウェルター級タイトルをコツコツと2度防衛。
カーンは既にピークを過ぎたレジェンド、マルコ・アントニオ・バレラ(メキシコ)戦のチャンスを掴み、このバレラを圧倒。初回のバッティングでバレラがカットしたがために、5R負傷判定勝利となりましたが、残念ながら続けていてもバレラに勝ち目はありませんでした。
名を売ったカーンは、次戦でWBA世界スーパーライト級王座に挑戦、そして見事に世界タイトル初戴冠を果たします。
衝撃の初回KO負けから10ヶ月で世界初戴冠、並ではありませんね。さらにこの年は初防衛戦もクリア。
2010年
ブルックは英国タイトルの他に、WBOインターコンチネンタル・ウェルター級タイトルもコレクト。
カーンはポール・マリナッジ(アメリカ)、マルコス・マイダナ(アルゼンチン)を相手に防衛を重ねています。
2011年
ブルックは英国タイトル、WBOインターコンチネンタルを返上、WBAインターコンチネンタル王座とIBFインターナショナルの王座を獲得します。
カーンは4月に4度目の防衛戦をクリアすると、当時のIBF王者、ザブ・ジュダー(アメリカ)との王座統一戦に臨みます。この一戦でカーンは5RKO勝利を収め、見事王座を統一しています。
しかし、12月に迎えたWBA6度目、IBF初となる防衛戦において、レイモント・ピーターソン(アメリカ)に判定負けを喫して陥落。しかし、その後ピーターソンがドラッグテストで陽性となり、無効試合にはなりませんでしたがWBAはカーンのWBA王座を復活させます。
2012年
改めてWBAスーパー王者に認定されたカーンは、当時無敗のWBC王者ダニー・ガルシア(アメリカ)との統一戦で4RTKO負けで王座陥落。序盤、そのスピードでガルシア相手に優位に立ち回ったカーンでしたが、3Rにダウンを奪われ、続く4Rにストップ負け。
この試合はダニー・ガルシアのハイライトの一つに数えられる試合となりました。
痛烈な敗北を喫したカーンでしたが、その後、12月荷再起戦で勝利を飾っています。
ブルックは3月に保持するIBFインターナショナル王座の防衛戦が、IBFの挑戦者決定戦となりこれに勝利、挑戦権を得たブルックはIBFインターナショナル王座を返上、調整試合を続けていきます。
2013年
なかなかタイトル挑戦の機会の回ってこないブルックはこの年2試合のノンタイトル戦、カーンもフリオ・ディアス(メキシコ)にかなり危ないパフォーマンスで小差の判定勝利を挙げたのみ。カーンはこの一戦、ウェルター級のウェイトで戦っています。
2014年
ウェルター級でのテストマッチを終えたカーンは、ルイス・コラーゾ(アメリカ)、デボン・アレキサンダー(アメリカ)といった中堅どころを撃破。地域タイトルの獲得とともに、徐々にウェルター級でもその存在感を出していきました。
そしてブルックは、この年の8月、当時無敗だったIBF王者のショーン・ポーター(アメリカ)に挑戦。2-0の判定でこの試合をものにしたブルックは、とうとう世界王座を戴冠しました。
カーン、ブルック。両者が同じウェイトで戦うこととなった前年からこの年以降、カーンvsブルックは英国でのスーパーファイトとしてこれまで以上に待望されることになりました。
2015年
ブルックは順調に2度の防衛。カーン戦は次か次かと待たれていました。カーンは5月にクリス・アルジェリを降しますが、カーンが熱望しているのはブルックではなく、当時のPFP、フロイド・メイウェザーJr戦。
2016年
メイウェザー戦が叶わないカーンは、ここでなんと2階級上げてサウル・アルバレス(メキシコ)戦を締結。無謀だろう。。。。いや、カーンのスピードがアルバレスをかき回す事も。。。と思いましたが、やはりそんな事はなく、無謀でした。
カネロのノックアウトシーンのハイライトには、必ずと言っていいほどあがってくる戦慄のノックアウト劇。2016年のシンコ・デ・マヨ(メキシコの祭日)興行で行われたこの一戦は、カネロの強さと、カーンの脆さが相互に絡み、そして階級制のスポーツであるという事を再認識させてくれる一戦です。カーンの負けっぷりの凄さにも注目です。
そしてブルックは、というと、まるでカーンの後を追うように、IBF世界ウェルター級王者でありながらも2階級上のWBC・IBF世界ミドル級統一王者、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)に挑戦。
いや、無謀だろう。。。これはさすがに無謀としか言いようがなかった一戦。何せ当時のゲンナディ・ゴロフキンは16連続KO防衛中。このブルックを倒せば17連続KO防衛という世界記録を持つウィルフレド・ゴメス(プエルトリコ)に並ぶという一戦。
当然、ブルックはまったくもって歯が立たず、5RTKO負け。
2017年
カーンはお休み。
ブルックはゴロフキン戦での敗戦後もIBF世界ウェルター級王座を保持したままだったので、その防衛戦でライジングスター、エロール・スペンスJr(アメリカ)を迎えます。
これは両者が持ち味を出した素晴らしい戦いでした。しかし抜け出したのはスペンス、ブルックは10Rにはダウンを喫し、11Rには自ら膝を付き、試合がストップしています。
2018年
連敗したブルックですが、この年再起、2連勝を飾ります。カーンもカネロ戦の敗北から再起、2連勝。
2019年
ブルックはお休み。
4月、カーンはテレンス・クロフォードの持つWBO世界ウェルター級王座へ挑戦。
完全にコントロールされたあと、ローブローを受け(とアピールし)て試合続行不可能となり、6RTKO負け。
しかし7月にはビリー・ディブ(オーストラリア)を相手に復帰。ビリー・ディブはスーパーフェザー級で三浦隆(帝拳)に挑戦したボクサーですね。この時、ディブはウェルターまで上がったのか??と不思議に思ったものですが、多分この一戦のみ。
2020年
ブルックは2月にWBOインターコンチネンタル・ウェルター級タイトルを獲得、11月にWBO世界ウェルター級王者、テレンス・クロフォードに挑戦。
序盤の序盤、ジャブの差し合いでは非常に素晴らしい場面を作りましたが、やはり傑物・クロフォードには敵わず、4RTKO負け。それでもほんの一瞬の期待感はありました。
2022年
。。。という、濃密なキャリアを歩んできたふたり。一応、記憶を頼りに、調べながら書いては見たんですが、違ってたらすみません。
カーンは2019年のディブ戦以来の一戦となり、実に2年7ヶ月ぶりのリング登場。
ブルックはクロフォード戦以来の再起戦となり、1年3ヶ月ぶりのリング登場となっています。
全体的なキャリアを見てみると、オリンピックのメダリストで、プロでも統一王者に輝いたアミール・カーンの実績が上回るでしょう。
しかし、ウェルター級での実績としては世界王者となっているブルックが上回ります。
さて、個人的な意見を申しますと、どうしてもカーンがブルックに勝てる絵が思い浮かび辛いです。カーンは、スピードにこそ優れていますし、素晴らしいコンビネーションを持ったボクサーであるものの、攻められて弱い部分があります。
その打たれ脆さというものが最たるものですが、グイグイとくるプレッシャーファイターには苦戦も非常に多い、要は明確な弱点を持っているボクサーです。
そしてブルックは、ボクシングスキルはもちろんのこと、そのアグレッシブネスにも優れたボクサーであり、長くウェルター級で戦ってきた分、カーンに比べてフィジカルにも勝る。
もしかすると序盤、カーンのスピードが活きるかもしれませんが、ブルックを倒せるほどではない気がします。そのうちにブルックが捕まえてしまうのではないでしょうか。
ブルックがカーンにスピード勝負を挑んだら?とも思いますが、そんな事はしないでしょう。ブルックは自分の有利な土俵で戦いたいはず。
半分引退状態だったアミール・カーンは、この一戦を花道にしようとしているような気がしてなりません。
ともあれ、ここまで熟成に熟成を重ねてきたこの一戦について、どんな展開予想だああだこうだいうのは無粋なのかもしれません。
まずは「英国ボクシング界を大いに盛り上げてくれた元スーパースター同士」という、およそ決まらなそうだったマッチメイクを決めきったイギリスのボクシング界に敬意を評します。
そして、ともにいがみ合い、罵り合ってきたこのライバル対決で、どちらかが「負ける」という事実が、それぞれの今後の人生に及ぼす影響を考えた時に、非常にリスキーであり、そのリスクをとったという二人のボクサーの勇気に敬意を評します。
この試合は「勝敗」とか「試合内容」、「両者のパフォーマンス」で語ってはいけないかもしれません。願わくば、試合が終わった時、ノーサイドとなることを願っています。
放送・配信
後半雑になっているかもしれませんが、それは疲れたからです。長い長いキャリアを追うのは一苦労ですね。色々思い出せてよかったですが。
さて、日本でのこの一戦の放送・配信情報は、現在のところありません。
イギリスでは「スカイスポーツ・ボックスオフィス」で生中継、アメリカではESPN+が生配信することが決まっているようです。
ESPNでやる、ということは、もしかすると日本のFITE.TVでやってくれるのかもしれませんね。情報が出次第、こちらのブログと私のツイッターで報告したいと思います。
日本時間での放映日時は、2/20(日)AM3:00〜。メインはおそらくAM6:00頃かな、と思います。