この週末(3/12、3/13)は海外興行が控えめ。
ということで、イギリスの興行に集中、それでもこのイギリス興行は、さほど派手な興行ではないと思っていました。
しかし、蓋を開けてみれば皆さんも御存知の通りの超がつくほどの大激闘、好試合。
ファイト・オブ・ザ・イヤー候補か、とも考えられるメインのリー・ウッドvsマイケル・コンランの一戦については、ボクシングの魅力が詰まった一戦となりました。
ということで今回は、ウッドvsコンランをメインに据えたマッチルーム興行、DAZN視聴の観戦記です。
↓プレビュー記事
3/12(日本時間3/13)イギリス・ノッティンガム
アンダーカード
個人的に、アンダーカードで最も目を引いた試合は、アイルランドのプロスペクト、ゲイリー・カリー(13勝7KO無敗)が元王者のミゲル・バスケス(メキシコ/44勝17KO10敗)と対戦した試合。
カリーはライト級で188cmという長身、ひょろりとしたサウスポー。この体型なのでどうしても打たれ強くなさそうで、押し合いにも弱そうなイメージです。
しかし、このカリーは非常に長いジャブとワンツーを持ち、ステップワークも良いボクサーで、大きな体をキレイに折りたたんでのダッキングやウィービングも使えます。
何よりもその長身と長いジャブ、ストレートは大きな武器で、そこにまたステップでの運動量も多いので、バスケスはなかなか捕まえられない時間が続いていました。
アウトボックスを主体としながらも、おそらく気が強く、自ら攻めて試合を作りたいカリーは、2Rにも3Rにもバスケスをロープに押し込んで連打。見た目の割に、フィジカルも強い。3Rにはバスケスが入ってくるところにまっすぐの左ストレートカウンターでダウンを奪います。
そして4Rには流れを変えようと強引に打ってくるバスケスにしっかりと応戦、後半にはまたも右カウンターを効かせてバスケスを下がらせます。その後は5R、開始30秒ほどでワンツーでフィニッシュ。
バスケスは10敗しているものの、KO負けは2度というタフファイター。そのバスケスをこうまであっさりと倒してしまうのは驚きです。
長いリーチとサウスポーという利点、両方のメリットを十二分に活かした、面白いボクサーがライト級に登場しました。これは要注目のボクサーです。
セミファイナルはミドル級プロスペクト、ケイミン・アジャルコ(イギリス)とファン・カルロス・ルビオ(メキシコ)の一戦。
このルビオは前戦(スーパーウェルター級戦)でチャールズ・コンウェル(アメリカ)に3RTKO負けを喫しているボクサーですので、比較されてしまいますね。
一見するとパワフルなプレッシャーファイターのような分厚い体つきのアジャルコですが、非常にスピードが速く、距離のとり方が上手い。下がりながらのジャブや、非常にスピーディなバックステップ、そしてカウンターが武器のようです。
ルビオも高い技術とハートを持ったボクサーですが、アジャルコが常にカウンターを狙うそぶりを見せるため、なかなか攻め入ることができません。
アジャルコは一発一発を強く打つタイプのパンチャーで、やや単発気味ではありますがそのパンチングパワーは目を見張るものがありますね。そのパンチの軌道は非常にコンパクトで、体を上手く使ってパワーパンチを繰り出しているように見えます。
試合は終始アジャルコが優勢に進め、ほぼフルマークの3-0判定勝利。
後半までそのパンチのパワー、キレともに衰える事はなかったので、もう少しチャージしてストップ勝ちを狙ってもらいたかったです。この階級でこの体躯では、出入りのスピードがカギとなりそうで、それができるポテンシャルは持っていると思います。ただ、今回は「出」の方は存分に見せつけてくれましたが、「入」の方はもう少しアグレッシブに行ってほしかった。自ら試合をつくるようになれれば、化けるかもしれません。
WBAレギュラー世界フェザー級タイトルマッチ
リー・ウッド(イギリス)25勝(15KO)2敗
vs
マイケル・コンラン(アイルランド)16勝(8KO)無敗
初回のゴング。はなから大盛り上がり、大歓声の会場で、先に攻め入るのはやはりウッド。こんらんはまずはジャブを突いて距離をキープする戦法、コンランのボディジャブは距離を取るのに有効です。しかし手数は少ないか。
徐々に右フックや左ボディストレートを使っていくようになったコンランは、終盤に左ストレートでダウンを奪取!!
左ボディストレートを何度か見せて、左ボディを打つフェイントを入れてからの顔面への左ストレート!!これはお見事、左ストレートよりもボラードのようなやや弧を描いたパンチ。
完全に死角をつかれたウッド、早くもピンチ。
2R、良い滑り出しのコンランは一気に戦いやすくなったと思います。サークリング してばかりだったのがプレスをかけられるようになり、序盤にまた同じ左をウッドにヒット、ダメージの残るウッドはこのパンチでまたぐらつくピンチ。サウスポーのこのパンチはよく当たりますが、この序盤で当てられると今後もかなり苦しいです。
コンランのラッシュをなんとかクリンチでやり過ごすウッド、コンランはいつになく強振を繰り返します。
この揉み合いでか、こんらんは左目ふきんから出血しています。
しかしその出血をものともせず、非常にアグレッシブに攻めるコンラン。試合を早々に決める気なのかもしれません。後半に入るとウッドはややダメージが抜けたか、前進しますが、ここでもコンランのカウンターに阻まれます。
3R、早々に今度はコンランのまっすぐの左ストレートがヒット。やっぱりこのボクサーは巧い。落ち着きを取り戻したコンランは、ディフェンスを主体として距離をキープしてて戦うボクシングに戻しますが、こうなるとなかなかウッドは付け入る事ができません。
このラウンド後半、こんらんはウッドの入り際に左から右のフックをカウンター、そのごも左ストレートを当て、ウッドはまたもダメージを負います。
かなり差が出てきてしまった印象です。
4R、コンランはいつの間にかジャブが出ないようになっていますが、左のボディ、左のフックと奥手の使い方も巧い。ディフェンス勘もよく、ロープ際でもウッドの攻撃をボディムーブとガードで無効化しています。
ただ、このラウンドはウッドが終始エネルギッシュに攻め、対してコンランは近づいたウッドにショートのボディを打つ、といった具合なので、ややウッドよりのラウンドのように見えます。
5R、コンランが左ストレート、それも2発ヒットしてスタート。前ラウンド、コンランは休んでいたのかもしれません。2、3Rをアグレッシブに攻めすぎ、オーバーペース気味だったのかもしれませんね。
良いジャブが出始めたコンラン、手数はウッドですがクリーンヒットはコンランが上回っているでしょう。近い距離でもコンパクトな右フックは、ウッドの大回りな左フックよりも先にヒット。
6R、オーソドックスとサウスポー、頭が当たるのは多少は致し方のないこと。とくにこの2人のボクサーは、ダックする時に大きく頭を下げる傾向にあり、危険な香がします。
このラウンドはウッドが攻め入る場面が多い気がします。クリンチ状態からでも強引にパンチを放っていくウッド。
序盤の劣勢から随分立て直している上、コンランのカウンターに全くびびるところを見せないウッドは、強いハートを持った戦士です。
7R、コンランは誘ってカウンター、自ら攻めるときは左を強振。ややディフェンシブに見える、省エネとも消極的とも取れる戦法の裏にあるものは、もしかするとスタミナへの不安なのかもしれません。もしくはウッドがアグレッシブすぎて、コンランがディフェンシブに見えるだけなのか。
中盤に力強い左オーバーハンドを振ってスイッチ、右フックを振ってスイッチという変則的な攻めを見せたコンラン。この左に慣れたのか、ウッドも序盤ほどこのパンチでダメージを被ることはありません。見えているのかもしれませんね。
8R、中盤以降は一進一退と見えるこの一戦において、ウッドのやることは全く変わっていません。とにかく距離を潰し、回転力をもってコンランにパンチを見舞う事。
その過程でカウンターをとられ、これまで阻まれてきたウッドの突進は、このラウンドの序盤に報われ、コンランにようやくラッシュを仕掛けるまでに至ります。これまではかわされていたものが、ガードの上とはいえその体に当たり、ラッシュを出せたということは大きいかもしれません。
しかしコンランもさすがのもので、中盤には左ストレートをヒットして反撃、このパンチに慣れたかと思っていたウッドですが、ここはしっかり効かされます。
ここをチャンスと見て攻めいったコンランに対して、ウッドはガンガンと打ち返し、結果後退したのはコンラン!
その後もウッドがコンランをロープに詰めて連打を見舞えば、コンランもカウンターをヒット、終盤にダメージを負ったのはウッド!
ともにダメージを与えあった、ビッグラウンドとなりました。
9R、プレスをかけるウッド、サークリング からカウンターを狙うコンラン、この構図は変わりません。ウッドが距離を詰められなければ、ややコンランがやり易いように戦っている、と見ることができますね。
ただ、コンランはこのラウンドはまた休憩にあてたように見えます。エンドレスファイターと化したウッドと比べると、余りにも手数が少ないです。
10Rも変わらず、プレスをかけるウッド。コンランが狙うのはやはり左のオーバーハンドで、このパンチはやはりウッドにヒット。
このラウンド中盤に、コンランの左ボディフックをもらったウッドは、明らかに体がくの字に折れます。ウッドはボディが効いてしまったか、そしてそれに気づいたコンランもボディにパンチを集めます!
ここをしのいだウッドは、おそらくまだダメージの残る体でそれでも前進、お返しとばかりにコンランのボディを右で打ち、コンランが嫌がればそれを顔面へ返します。コンランのお株を奪うような、右オーバーハンドです。
その攻めを起点として、後半コンランをロープに詰めてラッシュ!やはり、コンランはかなり疲れているように見えます。終盤にかけてはディフェンスに終始。
11R、展開は変わらず。コンランは稀に強い左オーバーを放ちますが、これは単発。ウッドは手数こそ多いものの、的中率は高くありません。
このラウンドは互いに勝負をかけるべきラウンドだと思いますが、互いに突破口を開くことができないという展開が続きます。
しかし後半にはコンランが近い距離でボディを連打、ここでまた腰が折れたウッド!ボディの打ち合いから顔面へのフックの打ち合いとなったこの打撃戦の中で、終盤、滑って倒れたように見えたコンランにダウンの宣告!!!
スローシーンが流れますが、確かにウッドの左フックがかすっているようにも見えますが、当たっていないようにも見えます。これをダウンとするにはややコンランには不運であり、ウッドにとっては幸運と言って良いでしょう。
これでポイントは本当にわからなくなりました。
ともすればラストラウンド勝負。
ここにきて非常にアグレッシブな攻めを見せるウッド!エネルギッシュすぎてプッシング、レフェリーから注意を受けます。
逆にかなり疲労の色濃いコンラン、時折ビッグパンチを放りますが、この試合中盤以降はほとんど単発になっています。
それでも気力を振り絞り、大振りながらパンチを出すコンラン、ウッドはコンビネーションと手数で対抗!
そして中盤、ロープに後退したコンランは、突然腕がだらりとなり、腰を落としてロープから転落!!!
なんと!!ここでリー・ウッドのTKO勝利が決定しました!!
一体何が起こったのか。。。
スロー映像を見ると、映像の画角により映っていなかったですが、どうやらウッドの右ストレートがコンランにヒット、それによりコンランは意識が飛んでしまったのか、無防備な状態になってしまったようです。
コンランが避け損なったというよりは、避けている途中にウッドの右が追いかけてきた、みたいなイメージの一発かと。
ともあれ、とんでもないシーソーゲームからの、とんでもない劇的な最終回TKO。
リー・ウッドというボクサーのことを、完全に見誤っていました。そしてこのウッドvsコンランは、正直(激闘という意味で)「面白い試合」にはならないと思っていました。本当にごめんなさい、と謝りたい。
コンランは巧く、強かった。しかしそれを乗り越えて見せたのは、ウッドの持つハートの強さ、決して諦めないこころと、身体的な打たれ強さ。これこそが「根性」という不確定なものが、スキルを凌駕した試合であり、ボクシングという競技の数ある魅力のうちの一つなのだと思います。
フィジカルとか、タフネス、そして強いハート。こういうものがあったからこそあの連打型プレッシャーファイター、シュ・ツァン(中国)にも勝てたし、そのツァンのプレッシャーを躱しきれたのでしょう。
今回のウッドは、「vsコンラン」というウッドだったと思います。元来はスキルのあるボクサーで、非常に良いバランスを保持したボクサーです。ただ、ファイタースタイルでここまで戦えるとなると、そのスタミナも含めてこれは脅威。相手によってはこの戦い方で押しきれそうです。
さて、勝利したウッドは、今後どうするのか。WBAスーパー王者のレオ・サンタ・クルス(メキシコ)との統一戦というのがオーダーされるかもしれません。
今後のフェザー級、どう動いていくのか楽しみです。
↓フェザー級戦線についての記事
尚、リング外に落下し、安否を心配されたコンランは、控室でも応答はしっかりしており、その後病院でのCTスキャン等でも問題はなかった、とのこと。再起を待ちましょう。