いよいよドミトリー・ビボルvsヒルベルト・ラミレス。
ビボルのもつWBA世界ライトヘビー級王座の防衛戦として行われるこの一戦は、前戦で稀代のパフォーマンスを披露したビボルと、ライトヘビー級転級後、スーパーミドル級王者時代よりも良いパフォーマンスを披露し続けているラミレスとの、大注目マッチ。
日本人にはあまり関係のない重量級とあって、日本での知名度が低いのは頷けるものの、世界的な注目はもっと大きくて良いほどの素晴らしいマッチアップ。
無敗の王者と、無敗の元王者の対決は、オッズではビボルの優位ながらも、50−50に近い戦いではないか、と思います。
ということで今回のブログでは、DAZNで放映されたUAEでの興行、ドミトリー・ビボルとヒルベルト「スルド」ラミレスの大一番。
↓プレビュー記事
11/5(日本時間11/6)アラブ首長国連邦・アブダビ
UAEといえばドバイ、と勝手に思っていましたが、今回の開催地はアブダビ。アラブ首長国連邦の首都ですね。プレビュー記事では間違っていました。申し訳ありません。
とはいえ、日本に住む我々からすると大勢に影響がないのもまた事実で、だから何だという話。
IBF世界スーパーフェザー級王座決定戦
シャフカッツ・ラヒモフ(タジキスタン)16勝(13KO)無敗1分
vs
ゼルファ・バレット(イギリス)28勝(16KO)1敗
セミファイナルだと思っていたらセミセミだった、IBF世界スーパーフェザー級王座決定戦。ポスターの時点で気づいていたんですが、訂正するのをうっかりしておりました。ごめんなさい。
ともあれ、ここはラヒモフの実力勝ちが期待される一戦であり、恵まれぬラヒモフにタイトルを獲ってもらいたい一戦です。
初回、頭を振ってプレスをかけていくのは勿論サウスポーのラヒモフ、バレットは下がりつつ鋭いジャブからコンビネーション。
バレットはこれでもかというほど左右と後ろに動き、さらにガードもしっかりとあげ、ラヒモフの強打を警戒しているように見えます。
バレットはロープからロープへエスケープするようなフットワーク、からの右ボディアッパー。ラヒモフのプレッシャーに押され気味ながらも頑張って戦っている、という印象。
2R、さらに動きを大きくするバレット、ラヒモフのプレスに対して左右に動いてそこから力強いパンチを見舞おう、という作戦。作戦、というかこうしかできない、というほどの強いプレスをラヒモフはかけていき、的中率こそ高くないものの、グイグイとバレットに迫ります。
これはアウトボクサーとしては非常に嫌な展開で、かなりのプレスがかかる上、バレットが攻めてもラヒモフはその場でブロッキングで受け、一歩たりとも下がりません。
後半、下がらないラヒモフに対してバレットはコンビネーションの力を強くしていきます。
3R、序盤にラヒモフの左オーバーハンドが浅くながらもヒット。その後も攻めるラヒモフでしたが、攻め入ったところにバレットのカウンター!これでダメージを受けたか、バランスを崩すラヒモフにバレットはここがチャンスとばかりに連打!
バレットは見事なリターンであり、この一瞬のチャンスでのチャージは素晴らしい。
ラヒモフはダメージを負い、バレットは少し余裕が出たのか肩の力が抜け、その後も右アッパーという良いリターンをヒット。これは危険なパンチ、だと思っていたら、後半、このラヒモフの攻めに対して右アッパーをカウンターでヒットしてラヒモフはダウン!!
ダメージが残りながらもとにかく前進するラヒモフ、休んでも良いような気がしますが、このラヒモフはやはりファイターです。
4R、ラヒモフがカウンターを警戒してプレスが弱まったのか、バレットが余裕をもったのか、はわかりませんが、これまでよりもやや距離が遠い。バレットの距離です。
途中、バレットのローブローでラヒモフがアピールする場面もありますが、これをみてもラヒモフがピンチに立たされていることがわかります。優勢の時は、こういうアピールはしません。
後半もラヒモフは前進するも、なかなか距離を縮めることができません。
5Rもラヒモフはプレス、バレットは回りながら戦う展開。1〜2Rはロープからロープへ跳ぶようにステップしていたバレットですが、このラウンドはリング中央で戦うことも多く、中盤には(ローブローっぽい)ボディでラヒモフを下がらせるに至ります。
後半に入るとラヒモフも強い攻めを見せますが、余裕を持ったバレットはカウンター。
6R、ちょっとラヒモフには焦りもあるのか、慌てたようなプレス。少しずつ、距離も詰まっているようにも感じますが、バレットのリターンで出すコンビネーションは鋭く、また回転力も高い。
7R、バレットの足捌きは見事だし、コンビネーションを出すタイミングも良い。ただ、ラヒモフの追い方も良いですね。それでも、より思い通りに戦えているのはバレットの方で、普段よりも力強く、速いとさえ思えるバレットのカウンターは非常に危険なタイミングです。
8R、ラヒモフは焦ってプレスをかけるのをやめ、足で追っていきます。パンチを出さずにプレスをかけ、近づいて乱打。バレットはブロッキングに回る時間も多いため、これは良い戦い方ですね。
バレットのカウンターを強く警戒し、しっかりとよく狙って「強打」というよりもコンパクトなパンチで攻め入るラヒモフ。
9R、このラウンドもプレスをかけ、丁寧に仕掛けていくラヒモフ。バレットはちょっとオーバーペースだったのか、足が止まりかけているように見えます。
代わりに足を止めて打ち合う場面が増え、強打でラヒモフを押し込む場面もありますが、やはりこの距離では馬力のあるラヒモフが優位、すぐに押し返されてしまいます。
このラウンド中盤にはフラフラになっていったバレット、コーナー際でラヒモフに押し込まれてダウン!!
立ち上がったバレットに対して、ここもコンパクトに連打を集めるラヒモフ!バレットも意地を見せて良いパンチを返しますが、ラヒモフは気にすることなくパンチを出し続け、バレットをコーナーに詰めます。
パンチを打ち込み、サイドに回りつつもそこでもパンチを出すと、バレットは崩れ落ち、ここでレフェリーはストップ!
シャフカッツ・ラヒモフ、9RTKO勝利!IBF世界スーパー王座を初戴冠!
いやー、面白い試合でした。もっと序盤からラヒモフがそのプレッシャーを持って圧倒するイメージでしたが、バレットのパフォーマンスは出色でしたね。
しかし、それはおそらくオーバーペースであって、12ラウンズにわたり続けられる戦いではありませんでした。
ラヒモフは前王者であるジョー・コルディナとの一戦となりそうですね。
コルディナに頑張ってもらいたいですが、何があっても動じないラヒモフ相手だと厳しいか?それでも、ラヒモフもパーフェクトなボクサーではなく、被弾も多い印象もありますので、コルディナにもチャンスがある、これもまた、非常に興味深い一戦ですね。
世界女子スーパーライト級4団体王座統一戦
シャンテル・キャメロン(イギリス)16勝(8KO)無敗
vs
ジェシカ・マッカスキル(アメリカ)12勝(5KO)2敗
髪型もトランクスのカラーもグローブのカラーもほぼ同じのため、どっちがどっちなのかは非常にわかりにくい。
初回からガンガン攻め込むのはマッカスキルで、超強引なボクシング。
ただ、あまりバランスが良いとはいえず、攻め込んだ時に足が揃ってしまうことも多々あり、そこにキャメロンは右ストレートをコネクト。
マッカスキルは攻撃偏重すぎて、もうキャメロンのことを見ずにパンチを振り回しているようなイメージ。打ち終わりのパンチの戻しも速いとはいえず、ときに出しっぱなしになる程なので、しっかりとボクシングをしているキャメロンはそこを狙います。
超猛烈どファイターのマッカスキル、完全に頭を下げて突っ込んでくるのでこれは非常にやりにくいでしょうね。。。やりにくい、というか普通はこういうボクサーとはやりたくない。
もうこうなると頑張れキャメロン、です。
5R頃になるとマッカスキルの前進も弱まり、更にはどんどんガードも剥がれてきているので、キャメロンの「正しく、ボクシングのパンチらしい軌道を描くパンチ」は非常によく入ります。
後半以降、無意味で危険な突進をやや控えめにし、瞬発系のプレッシャーボクシングを展開したマッカスキル。このボクシングの方が十二分に可能性はあったと思うのですが、おそらく前半に飛ばしすぎた影響から被弾も多く、規定の10Rを修了しての採点は97-93、96-94×2の3-0の判定でシャンテル・キャメロン。
WBAスーパー世界ライトヘビー級タイトルマッチ
ドミトリー・ビボル(ロシア)20勝(11KO)無敗
vs
ヒルベルト・ラミレス(メキシコ)44勝(33KO)無敗
そしていよいよ、メインイベント。無敗の王者、ビボルはカネロ戦で随分と格を上げました。これまでの防衛戦も危なげなく勝利しており、このラミレスを退けた暁には、もう戦う相手はアルツール・ベテルビエフくらいのもの。
下馬評不利のラミレスは、カネロの雪辱を果たし、スターの地位にとって変わることが出来るか。
どうでも良いですが、リングアナウンサーのディアマンテさん、今日は非常に調子が悪そうです。お馴染みTHE FIGHT!STARTS!NOW!!で思いっきり声が裏返る。頑張れ、ディアマンテ。
初回、並んでみると随分フレームに違いを感じます。ラミレス、でかい。
リング中央、若干プレスをかけているのはビボルのように見えます。これは意外。そして会場からはビボルコール。これも意外。アブダビだからでしょう。
得意のジャブを繰り出し、そこからコンビネーションにつなげるビボル、非常に静かな立ち上がりながらも、早々にラミレスは攻めあぐねているように見えます。
絶妙な距離感で対峙する両者は、終盤、互いにパンチを出し合ったところでラウンドが終了。
2R、ラミレスは思ったほどいきません。ビボルに対して、この中間距離のボクシングで上回るつもりか。
互いに非常に優れた反応をもつボクサー同士、ジャブの次はなかなか出ない時間。片方が動けば呼応するようにパンチを返し、このラウンドは中盤にラミレスの左でビボルがのけぞる場面。
後半にもラミレスは遠目の距離から軽いコンビネーション、これはガードの上ですが、ラミレスにとっては安全圏のパンチ。ただ、やはり踏み込んで打たなければクリーンヒットは難しいのではないでしょうか。そして、ラミレスはビボルを下がらさなければいけないと思います。
3R、それでもややプレッシャーを与えているのはビボルの方で、ジリジリと下がってしまうのはラミレス。ラミレスのパンチはこんなモンだったか?と思うほど迫力に欠き、ビボルのパンチは相変わらずシャープ。
あのカネロですら、プレッシャーを与えられなかったドミトリー・ビボルというボクサーは、映像なんかでみるよりも圧倒的に攻めづらいボクサーなのかもしれません。いや、確実にそうなのでしょう。
中間距離での攻防、これはビボルのパンチもラミレスのパンチも当たる距離であるにも関わらず、ラミレスは思い切った攻撃ができずにいます。
代わりに、ビボルはシャープなコンビネーションで攻め入る場面を作り、的確にヒットを奪っています。
4R、もっとアクションの多い試合になると予想していましたが、ここまでほぼリング中央。これはつまり、ビボルが全く下がっていない、ということですね。
このラウンドも序盤にビボルがコンビネーションで優勢、そこからもう一段階攻め入るという場面を作ります。
ラミレスは、というと、攻めれば必ずビボルの速いリターンが飛んでくるため、全然力のあるパンチを打てていません。
5R、そろそろ攻めないとやばいラミレス、やはりここで様々な策を講じて攻め入ろうと試みます。序盤、アグレッシブに攻め入るとここでビボルはスッとバックステップで無効化、この機動力こそがビボルの真骨頂です。
その後、中盤にはビボルがストレート系のコンビネーションを続けてヒット、これもラミレスの打ち終わり。後半にもラミレスをロープに詰めて、コンビネーションを出す場面もあり、今日はビボルもアグレッシブです。
6Rもジャブの差し合い、ラミレスはもう強引にでも打って出なければいけませんが、ジリジリと後退。ビボルの隙を作ろうと軽いパンチ(強いパンチで隙を作ると、ビボルの強いリターンをもらってしまうため)で探りを入れますが、ビボルは全然乗って来ません。
ビボルは守りすぎもしないし、攻めすぎもしない、マイペースボクシングを展開。
7R、このラウンドもジリジリとプレスをかけるのはビボルの方で、ラミレスは何もできないに等しい状態。ラミレスが動けばビボルも動き、ラミレスがパンチを振れば倍のスピード、倍の手数でコンビネーション。
後半、しっかりとしたコンビネーションで攻め入ったビボルは、ポイントのピックアップにも余念がなく、本当に後輩ボクサーを教える随分先輩のボクサーのようで、これが「スクール」というやつかと感嘆します。
8R、このラウンドは序盤、ラミレスがロープに詰まります。ラミレスはもう頭をつけてガンガン行くべきで、こういう時こそ一か八か、セミのマッカスキルの序盤のボクシングのようになるべきです。
本当は、リーチにも勝るラミレスの方が距離が遠いはずなのですが、ビボルの方が距離が遠い。これは、ビボルがウマール・サラモフと戦った時もそうでしたが、このビボルの距離感というものは異次元レベルで意味不明。
後半、ラミレスをロープに詰めたビボルはコンビネーションで攻め立てます。チャンスの時にも行かないビボルとしては珍しく、今日の試合はこういった場面が目立ちます。
9R、変わらず中間距離でスタートながら、ようやくラミレスがまともなプレッシャーをかけ始めます。頭を低めにして振る、いわゆるメキシカンスタイル。
中盤、ビボルをロープに詰める場面を作っています。やはり、こうあるべきです。
しかし後半、そのロープ際からビボルがコンビネーションで反撃すると、ラミレスは下がり、ビボルの的確なパンチを次々と浴びてしまいます。
このラウンド、ほとんど下がる時間ながらも、しっかりを見せ場を作ったのはドミトリー・ビボル。
10R、とにかく頭を振ることが少ないラミレス。そういえばこのラミレスは、どんな相手に対しても体格面で優位となっていたので、インサイドに入る必要があまりなかったはずです。だから、このように中間距離を支配されてしまうと、厳しいのかもしれません。
まあ、頭を振れたところで、カネロですらアレだったので、アレなんですが。
ラミレスはよくパンチを出し、前進。しかしビボルはハイガードのままステップするため、全く隙を作ることができません。さらにあまりに深追いすると、すぐにリターンが飛んでくるため、攻めながらもジリ貧というラミレス。
ただ、さすがにここはラミレスのラウンドでしょう。ビボルは多分、休憩。
11R、今度はビボルがプレス。序盤に比べればラミレスも下がらず、打ち合いを仕掛けますが、ビボルの方が回転力で勝り、ビボルは打ってすぐに動いてしまうので打撃戦とはなりません。
かといってラミレスが攻めればビボルはうまく周り、そのうち終わりにコンビネーションをああせてきて、それに対してラミレスはブロッキングで対応してしまうためこれもラリーとしては続かず。いやもうラミレスは倒される覚悟で行くしかないんです、この場合。
ラストラウンドもラミレスが打てば退いてリターン、打ち返してこなければコンビネーションを続けて優位に立つビボル。中盤には攻勢に出て会場を沸かしたビボルは、終盤に頭から突っ込んでくるラミレスを迎撃してゴールテープを切りました。
判定は、118-110、117-112×2、3-0の判定でドミトリー・ビボルの勝利。
見事すぎて怖いくらいのボクシングでした、ドミトリー・ビボル。
ラミレスは非常にフレームにも恵まれ、パワーで押し切れば良い戦いになると思っていたのですが、ラミレスはそれができず。というか、おそらくビボルにそれをさせてもらえず。
あまりにも無策にも感じる内容ではありましたが、ビボルに相対すると皆そうなる、というのが不思議なものです。
ビボルは何か特別なことをしているようには見えないのですが、自分のボクシングを貫いています。
「慎重すぎるほどの安全運転、交差点では青信号でも減速します」という雰囲気だったビボルは、チャンスにはコンビネーションを続けて出すようになる等、カネロ戦を経ての変化も見えたような気がします。今はまだ、黄色信号なら止まる、という状態ながら、このビボルが、もし序盤から劣勢に立った時を見てみたい気もします。
2022年、カネロ、そしてラミレスと二人の強豪メキシカンを完勝で降したドミトリー・ビボル。
「メキシカン・キラー」という称号のほか、2022年のファイター・オブ・ザ・イヤーという称号も獲得できそうですね。
カネロとの再戦(マネー)よりもレガシー(ベテルビエフとの統一戦)を目指したい、と語ったドミトリー・ビボル。今後の戦いも楽しみです。
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