週末の最注目カードは、ジャニベック・アリムハヌリvsデンゼル・ベントレイ。
ラスベガスで行われたこの一戦は、ESPNで放送されたトップランク興行です。
日本で見る事ができないのは非常に残念ですが、世界中のボクシングファンの間では「カザフ・スタイル」ジャニベック・アリムハヌリの正統派の強さは、浸透してきているはずです。
冷徹なマシーンのようなアリムハヌリは、村田諒太とも戦ったロブ・ブラント、アッサン・エンダムらを次々と倒し、WBO世界ミドル級暫定王座を獲得しています。
そして正規王者に昇格し、迎える初防衛戦の相手はデンゼル・ベントレイ。
ミドル級最強を目指すジャニベック・アリムハヌリが、どのようなパフォーマンスを見せてくれるか楽しみです。
ということで今回は、アリムハヌリvsベントレイのトップランク興行の観戦記。
↓プレビュー記事
11/12(日本時間11/13)アメリカ・ラスベガス
アンダーカードでは、フロイド・ディアスというスーパーバンタム級のプロスペクトが、トランクスに「COMING FOT INOUE」という文字(結果は4RTKO勝利)。ちなみにトランクスの後ろ面には「I WANT FULTON」と書いていましたが、まあ、まだ先の話でしょう。
その他、チャーリー・シーヒーが順当な初回TKO勝利、そしてフェルナンド・バルガスの息子の一人、エミリアーノ・バルガスが2RKO勝利と非常に順当なアンダーカードが消化されていきました。
そしてセミセミには、ライト級プロスペクトのレイモンド・ムラタヤが登場。
レイモンド・ムラタヤ(アメリカ)15勝(12KO)無敗
vs
ミゲル・コントレラス(アメリカ)12勝(6KO)1敗1分
ライト級のプロスペクト、レイモンド・ムラタヤの16戦目。
初回、ムラタヤの上体のデカさが目立ちます。互いにステップワークからジャブの差し合い、コントレラスは早々に右ボディも使い、攻め込んでいきます。
やや手数の少ないムラタヤですが、ジリジリとプレスをかけていきます。
2R、ムラタヤは徐々にコンビネーションを出し始めます。ムラタヤは見た目の通りパワーにも優れますが、その本質はコンビネーションパンチャーです。
コントレラスも非常に頑張り、強いワンツーを次々と繰り出していきます。アップセットを起こす気概は満々です。
3R、コントレラスが攻め込んで来たところをバックステップでかわし、そのまま踏み込んでコンビネーションのムラタヤ。これは見事。
30秒過ぎ、ムラタヤのパワーに押されて下がるコントレラス、そこに非常に的中率の高いパワーパンチをヒットしたムラタヤはそのまま接近戦を挑みます。コントレラスはこれを受けて立つも、パワー差、パンチのセレクト、的確性とムラタヤに分があります。
諦めないコントレラスは文字通り歯を食いしばって手数と回転力で対抗、危ないシーンは度々訪れますが、見事に打ち合ってラウンドを終了。
4R、このラウンドも近めの距離でパンチを出し合う両者。コントレラスは距離を潰して連打、この突進力は侮れませんがムラタヤはパワーパンチを的確にヒット。
5R、コントレラスは突進、その打ち終わりにヒットを重ねるムラタヤ。ちょっと戦いにくそうにはしていますが、ここまでのポイントはもちろん問題なく、後はこのタフでガッツあふれるコントレラスを倒せるかどうか。
今日は、コントレラスが非常に多い手数で弾幕を張っているイメージで、ムラタヤもコンビネーションを出す暇がありません。
6R、もしかすると前ラウンドはコントレラスに流れてしまっているかもしれないこのラウンドは、ムラタヤが非常に攻撃的。コンビネーションでせめてコントレラスのリターンをバックステップでかわすと、またコンビネーションで攻めるという波状攻撃。
コントレラスは中盤、手数で攻め立てるもムラタヤは冷静にディフェンス、カウンターからコンビネーション。後半、右クロスから攻めに転じたムラタヤは、そのコンビネーションパンチのほとんどをコントレラスに命中、ダメージを見て取ったレフェリーがストップ。
レイモンド・ムラタヤ、6RTKO勝利。
余裕を持ってのTKO勝利は圧巻、レイモンド・ムラタヤ。クリーンな被弾はほとんどなく、コントレラスの顔面はかなりのダメージが見て取れます。そろそろ強豪との試合が見たいものですね。
WBA世界女子ミニフライ級タイトルマッチ
セニエサ・エストラーダ(アメリカ)22勝(9KO)無敗
vs
ジャスミン・ガラ・ビラリノ(アルゼンチン)6勝(1KO)1敗2分
2階級制覇王者、セニエサ・エストラーダのミニフライ級(ミニマム級)の防衛戦です。
初回、ビラリノがサークリング、エストラーダがプレスをかけてスタート。まずはパンチの当たらない距離での駆け引き、エストラーダは見るからに手足が長いですね。
積極的にジャブを突いて距離を測り、右を放っていくのはエストラーダ。ビラリノはエストラーダが打ってきたところに合わせようと試みますが、その機会は殆ど訪れません。
2Rも同様、エストラーダが攻め込んだ時にビラリノは右オーバーハンドから連打、というパターンですが、これしかない感じ。エストラーダは距離が詰まってからの回転力があり、この入り際の一発さえ躱してしまえば怖くないかもしれません。エストラーダはスイッチもしてますね。
3Rになるとビラリノが前進。これは良い判断で、カウンターボクシングでは通用しない事がわかっての戦略変更。というか、身体を振ってグイグイ前に出るこのスタイルこそ、ビラリノ本来のボクシングかもしれません。非常に堂に入っています。
しかし、下がりながら応戦するエストラーダは非常にうまくパンチを当て、このスタイルのビラリノも寄せ付けません。
4R、続いて前に出るビラリノですが、エストラーダが力強い手数で応戦すると後退。ここで下がってはいけませんが、これはエストラーダが一枚も二枚も上手か。
それでも闘志をみせるビラリノは、後半、身体で押していきます。
5R、プレッシャーボクシングを展開するビラリノに対し、エストラーダはストレートのコンビネーションで行く手を阻み、それを突破されると左右フックのコンビネーション。これが非常に的確にビラリノを捉えます。
6R、ビラリノはしつこく前進、このプレッシャーは飲み込まれてしまうボクサーもいるかもしれませんが、エストラーダはしっかりと対処しています。ジャブ、ストレートを突き、近寄られても負けません。ビラリノは万策尽きたような感じで、これ以上は引き出しがなさそう。
7R、近い距離からバックステップをして打つ、サイドに回りながらのカウンター、前に出るビラリノを数段上回るボクシングを展開するエストラーダ。ディフェンスも見事なもので、中間距離でのビラリノの攻撃はダック、スウェー、ステップでかわし、近い距離ではブロッキング。この展開は8Rも変わる事はなく、8Rを終わってのパンチスタッツはエストラーダ177/457、ビラリノ88/326と圧倒的です。
9R、10Rに入ると流石にエストラーダもやや疲れを見せ始めるものの、最後までしっかりとしたボクシングを貫きます。ビラリノは顔面も腫れ、厳しい戦いながらも最後まで諦めずに前進、それでも、チャンピオンの牙城を崩すことはできませんでした。
判定は、100-90×3でセニエサ・エストラーダ。
これは全く付け入る隙がなかったですね、セニエサ・エストラーダ。ちなみにESPNの表記はストロー級です。ミニフライ級、ミニマム級、ストロー級、全部同じ階級というのはライト層のファンにとっては意味不明でしょうね。ライト層のファンがこの試合を見るとは思えませんが笑。
WBO世界ミドル級タイトルマッチ
ジャニベック・アリムハヌリ(カザフスタン)12勝(8KO)無敗
vs
デンゼル・ベントレイ(イギリス)17勝(14KO)1敗1分
アリムハヌリはアグレッシブネスを持ったクレバーなボクサー。初防衛戦の相手はデンゼル・ベントレイ。このベントレイは、非常にパワフルで、荒々しくも思えるボクサーで、こちらも同じくアグレッシブなボクサーではあるものの全くタイプの違うボクサーです。
ベントレイのKO率を考えると決して侮れないボクサーではありますが、ここはアリムハヌリに強さを見せつけてもらいたい、と思います。
初回、フェイントをかけつつプレスをかけるのはアリムハヌリ。開始早々、ロープ近くでのボクシングを余儀なくされるベントレイ。ベントレイはカウンターを狙っている風はあり、互いにパンチを出さない様子見状態が続きます。
アリムハヌリは単発でパンチを放ってベントレイの出方を窺いますが、ベントレイはまだ完全に見ている段階で、効果的なカウンターを打てる状態ではなさそうです。アリムハヌリの単発ブローにはとりあえずブロッキングでしのぎます。
ちなみに、ESPNの今後の放送のCMで井上vsバトラーの宣伝がちょっと長め。これは嬉しい。日本では全然プロモーション、始まっていないのにね。。。
2R、アリムハヌリはギアを上げ、プレスから速いコンビネーション、もしくはベントレイにパンチを出させてのリターンを狙います。サウスポースタンスから放たれるジャブからの左ボディストレートが効果的で、このパンチを数発放ったあとにワンツー、今度は顔面に着弾。
ベントレイはアリムハヌリの動きにまだ対応できておらず、カウンターをちらつかせ、攻められればブロッキングとステップワークで何とかしているものの、このままでは何もできなかったダニー・ディナムの二の舞です。
3R、前半、そして中盤にアリムハヌリは左ストレートをヒット。中盤にヒットした左は良い距離感で、ベントレイはぐらついたようにも見えました。
4R、アリムハヌリはプレスを強め、積極的な左。この左を、ベントレイが自分の左足を軸にピボットでかわそうとするので、左足がアリムハヌリの右足に当たってよろけてしまいます。前ラウンド、アリムハヌリの左でぐらついたように見えたのもこれが原因かもしれません。これはつまり、アリムハヌリがしっかりと外側をとって、左ストレートを着弾させている、ということなのですが。
ベントレイは序盤ラウンドに比べ、上体の動きも出てきて、アリムハヌリのパンチにも反応できるようになってきたように思います。それでも、手数は多くはなく、どうしても下がりながらの戦いで、後手。
5R、ベントレイは非常にガードを高く掲げ、アリムハヌリの強打を警戒しているため、パンチは出しづらいのかもしれません。
しかし、このラウンドは自分から行く場面も多く、アリムハヌリのリターンではブロッキングしていてもバランスは崩してしまうものの、ようやく自分から攻めようという意識が出てきたような感じ。手数がこれまでのラウンドに比べ非常によくでています。逆に、アリムハヌリは控えめです。
6R、ベントレイにリズムが出てきて、アリムハヌリもプレスをかけて、しっかりと手を出すというラウンド。先に動いた方に、後で動いたボクサーがリターンで攻め込む、という攻守の入れ替わりが激しいラウンド。
7R、開始早々に攻め込むアリムハヌリ。ベントレイもパンチをつなげて応戦、中間距離での攻防は非常に見応えのあるものです。
8R、ベントレイのジャブ之内終わりに右フックから左ストレートという見事なコンビネーションをみせるアリムハヌリ。しかしベントレイも中盤、巧く右ストーレトと左フックをヒットして譲りません。
着実にヒットを重ねているように思うのはアリムハヌリの方ですが、その差は縮まっているような気もします。
9R、序盤にベントレイは前手を巧くつかい、左アッパーをヒット。アリムハヌリは踏み込んでパンチを打つものの、ちょっとワンツーだけというワンパターンさと、単発気味なところが心配なところ。
それでも、アリムハヌリ主体でこの試合が進行していっている事は事実です。
10R、前半から中盤にかけて、アリムハヌリは力を抜いたスタイルで波状攻撃をしかけます。このベントレイは良いディフェンススキルを持っており、今日は特にブロッキングが素晴らしい。これはアリムハヌリ対策なのかもしれませんが。
ベントレイも幾度か右ストレートをヒット、アリムハヌリも後半、右フックをヒットして逆襲。
11R、このラウンドはベントレイの右ストレートが冴えます。幾度かこの右がアリムハヌリを襲い、結構良いタイミングで入っています。
もしかしたら、という空気が漂ってきた中盤、この右ストレートとアリムハヌリの右フックが同時打ち、一瞬速く体制を立て直したアリムハヌリはその後、パンチをまとめる場面もありました。
ラストラウンド、序盤にアリムハヌリの左で明らかにぐらついたベントレイ!そこからアリムハヌリは見ずを得た魚のようにチャージ!
かなり苦しいベントレイですが、何とかステップワークでエスケープ、追いかけるアリムハヌリ!ベントレイはクリンチワークも駆使して耐え、アリムハヌリも打ち疲れ。
後半に入ると息を吹き返したベントレイが攻め入る場面もありますが、アリムハヌリは疲れていても良いカウンターを打っています。最終盤、ともに気力を尽くして打ち合ったところで、ゴング。
勝負は判定へともつれ込みました。
良い試合でした。良い試合になってしまった、と言うこともできると思います。序盤、圧倒しかけたアリムハヌリでしたが、ベントレイは後半勝負だったのかもしれません。
序盤は捨て、アリムハヌリのパワーに慣れるための時間であり、後半に入ると、危ない場面もありましたが非常にうまく戦っていました。
パンチスタッツ、特に振るったパワーパンチの数はベントレイが大きく上回っています。序盤、ほとんどパンチを出さなかった(出せなかった)にもかかわらずです。
判定は、116-112×2、118-110の3-0の判定でジャニベック・アリムハヌリの勝利。
試合全体を通してアリムハヌリが支配していたのは間違いありません。そして、両者の試合後の顔面を見ても、ダメージがどちらにあるかは明らかです。
ただ、ベントレイはよく頑張ったというのが感想で、アリムハヌリはちょっと良いパフォーマンスではなかった。
攻撃のつなぎは甘く、これはもしかするとベントレイが常に狙っていた、ということがあるのかもしれませんが、自身が「カザフ・スタイル」とする(と、私は思っているのですが)攻撃的ボクシングは見せる事はできなかったと思います。
これで連続KO記録がストップしてしまったこことも残念ですね。
ともあれ、ミドル級最強を目指すジャニベック・アリムハヌリ、今後素晴らしい戦いを見せてくれる事に期待したいものです。
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