ボクシングファン小休止の週末。
タンクvsライアンのキックオフ会見が話題になっていますが、両者ともにリスペクトがあって非常に良い。
お前も強いけど俺はもっと強い、この表現こそが相手への最大の賛辞であり、ボクシング競技へのリスペクト、そして最も素晴らしいファンサービスでしょう。
巷では自称格闘家たちのトラッシュトークにもならないような罵り合いというものがエンターテイメント化されているようですが、格闘家が格闘家たる所以というものは、それぞれの格闘家たちの矜持にあると思っています。
その矜持にこそ人はついていき、その矜持を振らさなければファンは支持するのだと思います。
ということで、今回のブログはその「矜持」の塊であるゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)について。
ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)
さて、ゲンナディ・ゴロフキンの近況です。
2月はじめ、ゴロフキンはIBF世界ミドル級王座を返上。そして、日本時間で3/10、WBA世界ミドル級スーパー王座も返上した、とのニュースが流れました。
これにてGGGは無冠となりましたが、まだ現役は続行すると報じられています。
そもそもゴロフキンがIBF王座を返上した理由は、エスキバ・ファルカン(ブラジル)との指名試合の期限が迫っていたためです。
不惑の年を迎え、おそらく「ビッグマッチ」にしか興味のないゴロフキンにとっては、ファルカンはふさわしい相手ではなかった、と見るのが一般的な見解であるように思います。
このファルカンとの指名戦に意義を見いだせなかったゴロフキンは、王座を返上、IBF王座は王座決定戦により次期王者を決める流れとなりました。
ファルカンは我々もよく知るボクサーで、2012年のロンドンオリンピック、日本の期待を一新に背負った村田諒太が決勝で戦った相手であり、つまりロンドンオリンピックのミドル級銀メダリスト。あの時、運にも味方された村田はファルカンに勝利しましたが、はっきり言ってどちらが勝っていてもおかしくないような内容でもありました。
実力者で無敗ではあるものの、やや地味な印象があり、ブラジルというメインストリームではない出身のボクサーであるファルカンは、ゴロフキンのいなくなったミドル級世界戦線で大きなチャンスを掴むことになりそうです。
IBFはマイケル・ゼラファ(オーストラリア)とファルカンの王座決定戦の予定です。
そこから一ヶ月、次の指令はWBAからの指令であり、これはWBA世界ミドル級正規王者であるエリスランディ・ララ(アメリカ)との団体内王座統一戦。
村田戦、カネロ戦と随分と待たされたララは、ここにきてようやくWBAのたった一人の王者となることができました。
GGGvsララだとちょっと見たかったな、とは思うのですが、GGGにとってララも「ビッグマッチ」の相手とは言えないでしょう。
ララは現在でこそアメリカ国籍を取得していますが、出身はキューバ、いかほどの集客力があるか、というのは疑わしい。前戦、ゲイリー・オサリバン(アイルランド)戦はタンク・デービスvsロランド・ロメロのセミファイナルに甘んじています。
ゴロフキンの相手は誰だ
充分すぎるほどのレガシーを残したGGGには、もう自由に対戦相手を選んでほしいという思いが強い。
当然ビッグマッチというのは大きなリスクを伴うわけですが、ファルカン戦やララ戦はリスクこそあれどメリットは大きくありません。
何だったらこのまま引退しても良い、とさえ思っています。
ただ、GGGという中央アジアの戦士の先駆け的なアイコンは、まだ戦うのを止めないのでしょう。で、あれば、やはりビッグマッチを用意してあげることがボクシング業界としての彼へのリスペクトであるように思います。
現在、WBA王者にエリスランディ・ララ、WBC王者にジャモール・チャーロ(アメリカ)、WBO王者にジャニベック・アリムハヌリ(カザフスタン)。
ララはビッグマッチの要件にそぐわず、アリムハヌリは彼自身も語る通り同胞で、対戦可能性としては低い、というか無い。とすると、というか、としなくても、結局のところ「ビッグマッチ」ができそうなミドル級は現在ジャモール・チャーロだけであることは明白です。
30歳を超えてなお問題児ぶりを発揮しているチャーロは、2021年6月にリングに上って以来レイオフ。様々な問題があったことは周知の通りではありますが、その間、カルロス・アダメス(アメリカ)が暫定王座につき、あとは団体内王座統一戦を待つばかりの状況。
チャーロとしては6月に戦いたいと言っているようですが、まだ何も決まっていないのが現状だそうです。
GGGが門戸を広げ、スーパーミドル級にサイド進出しようとしたとしても、スーパーミドル級はサウル・アルバレス(メキシコ)により統一されており、その他には唯一デビッド・モレル(キューバ)というWBA世界スーパーミドル級正規王者がいますが、ここはエリスランディ・ララよりももっと「非ビッグマッチ」となってしまいます。(これはモレルが弱いという意味ではなく、知名度のこと)何せレギュラー王座削減に動いているWBAは、カネロvsモレルの団体内王座統一戦は1mmも触れたことがありません。カネロに失礼だとでも思っているのでしょうか。
と、こんな具合に八方塞がりなゴロフキンの対戦相手。果たしてどうなるのか。
ともあれ、決まった試合を楽しみにしたいと思います。
素晴らしいレガシーを残したゴロフキン
ゴロフキンは、バックボーンもなしに世界王者となり、17連続KO防衛という偉大な記録を打ち立てました。
戦う場所も様々で、さながら世界各国を渡り歩くアンダードッグのロード・ウォリアー的にキャリアを積んできました。そうして掴んだカネロ戦でビッグマネーを手にし、充分なレガシーと充分なマネーを手に入れたのではないかと思います。
かつてのハングリーさはもうゴロフキンにはないのかもしれません。
それはモチベーションの低下を招き、衰えも顕著な40歳ということも相まって、次の試合のパフォーマンスは芳しくない可能性が高い、と見ています。
それでも、なのか、だからこそ、なのか、このゴロフキンの判断に文句を言う人は少ないでしょう。ファルカン、ララとの試合を断って、王座を返上したことによる非難の声は、世界を見渡してもさほど多くはないはず。
さて、ここまで書いて私が結局言いたかったことは、未だに井岡一翔が中谷潤人から逃げた、みたいな言い方をする人がいることについてです。
ボクサーとして充分なレガシーを残し、だからこそすでに衰えの域にあると思われる井岡一翔というボクサーが、自身にメリットがないと感じる指名戦を受けなくて何が不満なのか。(井岡vs中谷が見たい、という意見には賛同します)
フランコとの決着戦を求め、その先にあるファン・フランシス・エストラーダ(メキシコ)という階級最強王者とのビッグマッチを求めることは、今の井岡にとって充分に納得のいくことだと思います。
ともかく井岡にはエストラーダ戦にたどり着いてもらいたいと思いますし、ゴロフキンには自らが戦いたいと思った相手と戦ってもらえればそれで良い。
今までたくさんの素晴らしい試合を、夢を見せてもらったボクサーたちの、エンディングに近づくその姿、しっかりと見届けようではありませんか。
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