いよいよやってきます、6月最大のビッグマッチ。しかし、試合の日が近くなってはきたものの、やはり今ひとつ盛り上がりに欠けます。
これはいったい、なぜなのか。
無冠で臨んだWBSSで初のタイトルを獲得し、レジス・プログレイス(アメリカ)らのライバルたちを降してWBSSを優勝。そしてホセ・カルロス・ラミレス(アメリカ)をも降し、世界スーパーライト級の4団体統一王者となったジョシュ・テイラー(イギリス)と、リチャード・コミー(ガーナ)を抜群のカウンターで仕留め、「時期尚早」と謳われながらも絶対王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)を降し、世界ライト級3団体統一王者となったテオフィモ・ロペス(アメリカ)。
この二人の激突を、ビッグマッチと呼ばずして何と呼ぼう。
本来、PPVファイトとなっても全くおかしくない二人の対決は、絶頂を極めたその後のパフォーマンスによって通常のESPN放送、注目度こそあれどビッグマネーが動くファイトではなくなってしまいました。
そして日本での放送がないことから、日本での話題もことさら少ない。
ということで今回はやや寂しさの漂うビッグマッチ、ジョシュ・テイラーvsテオフィモ・ロペスについて。
6/10(日本時間6/11)ニューヨーク
WBO世界スーパーライト級タイトルマッチ
ジョシュ・テイラー(イギリス)19勝(13KO)無敗
vs
テオフィモ・ロペス(アメリカ)18勝(13KO)1敗
ジョシュ・テイラーは2015年にプロデビュー、早々に頭角を現し、2017年にはオハラ・デービス(イギリス)との無敗プロスペクト対決を制し、更に評価を高めました。
その後のキャリアも非常にファンが好むもので、世界タイトル獲得を前にして元世界王者のミゲル・バスケス(メキシコ)、ビクトル・ポストル(ウクライナ)らの強豪を退けています。この頃のバスケスも、ポストルも、まだまだ力を有しており、非常に危険なマッチメイクに思えましたが、バスケスには9RKO勝利、ポストル相手にもユナニマスの大差判定で勝利と、「タータン・トルネード」はスコットランドを代表するボクサーに駆け上がっていきました。
そして迎えたWBSSでイバン・バランチェク(ベラルーシ)に判定勝利を挙げ、IBF世界スーパーライト級王座を獲得。これは2019年5月18日(日本時間5/19)、井上尚弥vsエマニュエル・ロドリゲスをセミに従えた、イギリス人ボクシングファンの歓喜の日でしたね。
その後決勝でレジス・プログレイスを破ってWBA王座を吸収、この統一王座をアピヌン・コンソーン(タイ)を初回KOで破り、ホセ・ラミレスとの頂上決戦を迎えることになるのです。
ちなみにIBFの指名挑戦者としてテイラーに相対したコンソーンだって強豪で、当時無敗、挑戦者決定戦では近藤明広(一力)をアッパーカットでノックアウトしたボクサー。
ラミレスとの試合は4団体統一戦にふさわしい素晴らしい試合で、3者ともに2ポイント差でテイラーを支持、それでもダウンを奪ったジョシュ・テイラーの勝利に文句はつけようのないものでした。
それが2021年5月の話。そこからたった一戦の再起戦で、本当に多くの評価を失いました。
2022年2月、4団体統一王座の初防衛戦で、ジャック・キャトラル(イギリス)を迎えたジョシュ・テイラーは、スプリット判定で辛勝。しかし、テイラーはダウンを奪われていたこともあり、この判定結果は非常に物議を呼びました。
この試合のあと、テイラーは指名試合期限等々で様々なベルトを手放し、残る王座はWBO王座のみ。今回は1年4ヶ月ぶりのリングで何を見せてくれるのでしょうか。
個人的には、このキャトラル戦はテイラーの油断が招いた結果だと思っていますが、もし4団体統一を果たすことで既にモチベーションが切れていたとすれば?今回自らを奮い立たせてリングに上がるのか、はたまたテオフィモ・ロペスというファイターがテイラーのモチベーションを引き戻してくれたのか。
テオフィモ・ロペスは、テイラーがWBSSを戦っている頃、日本の中谷正義(当時井岡)とのIBF世界ライト級挑戦者決定戦を制し、テイラーがWBSSを制した2ヶ月後に当時のIBF王者、リチャード・コミーにアタック。
とにかくこのコミー戦はロペスの素晴らしいカウンターが炸裂した試合であり、テオフィモ・ロペスのベストバウトといって良いでしょう。
このコミー戦も、挑む前は「時期尚早」と囁かれていたロペスでしたが、8ヶ月後には当時のPFPキング、ワシル・ロマチェンコとの統一戦を迎えることになりました。
時はコロナ禍、様々なことが絡み合い、とにかくロマチェンコは統一戦を急いでいました。だから、ロペスのファイトマネー値上げ要求も飲んだし、自身が肩を怪我していたにも関わらず延期という選択肢は捨て、この一戦が挙行されることになったのです。
ロペスには運があります。
もしロマチェンコが万全だったならば、とか、もしロマチェンコが中盤くらいから終盤のような動きができる状態だったならば、とか、タラレバを語ることはいくらでもできるわけですが、結局この日、勝利したのはテオフィモ・ロペス。
たった一つ、運がなかったというのならば、本来4団体統一戦として挙行されていてもおかしくなかったこの一戦は、WBCがロマチェンコをフランチャイズ王者に(格上げのような)格下げをしてしまったことから、3団体統一戦になってしまったことですね。
このことで絶頂に登ってしまったテオフィモ・ロペスは、この3団体統一王座の初防衛戦でジョージ・カンボソスJr(オーストラリア)にアップセットの判定負け。その後ヘイニーに完封されたカンボソスを見てみても、カンボソスは総合力こそ高いですが名王者となれる器にはいないボクサーです。これは非常に残念な敗戦でした。
さて、ライト級が限界となったロペスは、スーパーライト級へ転級、ペドロ・カンパ(メキシコ)を7RTKOで破って再起、転級2戦目ではマイキー・ガルシア(アメリカ)をアップセットで降して勢いにのるサンドール・マーティン(スペイン)にスプリットの辛勝。
マーティンは非常に良いボクサーですが、だからこそ眠れる力を発揮してもらいたかったですが、試合はどちらが勝っていてもおかしくないような接戦でした。
カンパ戦も非常に荒かったことを考えると、未だスーパーライト級で良いパフォーマンスは出せていない、と思われるテオフィモ・ロペス。
勝敗は、不明
ともに絶頂期を経験し、「落ち目」と思われてもおかしくないタイミング。ロペスはまだ25歳で、落ち目と言われても困るとは思いますが、かつての勢いはないように思います。
さて、この試合はWBO世界スーパーライト級のタイトルマッチではありますが、ある種のサバイバルマッチでもあります。どちらが、かつての勢いを取り戻せるのか、否、かつての勢いを取り戻せるきっかけを作れるのか。
お互いに、この名のある相手に快勝することは、統一王者だった頃の評価を取り戻すきっかけに必ずなるであろうものです。だからこそ、互いに絶対に負けられない戦いだと思います。
もし、テイラーが4団体制覇を成し遂げ、ロペスがロマチェンコに勝利した頃に戦っていたならば、これは大注目のPPVファイトとなったはずです。次期でいうと2021年の冬頃、ちょうどロペスがカンボソスと戦った頃に実現していれば。。。と悔やまれるような試合。
ただ一つ、変わらない事実として、この試合の勝敗は非常に予想し辛いものだということです。
テイラーは総合力が高く、技術に優れ、穴の少ないボクシングではありますが、テオフィモ・ロペスのような閃きは持っていません。ロペスは一見穴だらけに見えますが、「待ちのボクシング」をさせれば強いのです。
そして逆にテイラーは、自ら試合を作っていくことができ、その基本的技術は高く、勤勉に見えます。
真逆とも言える両者のファイトスタイルですが、戦績は非常に似ている両者。
この勝敗予想困難な試合は、オッズメーカーでもテイラー勝利が-160、ロペス勝利が+174と非常に競っており、勝敗だけで見ても非常に楽しみな一戦です。
個人的には、やはり無視できないのがテイラーのキャリア。ここ6戦の相手はすべて無敗のボクサーたちであり(その前が当時1敗のポストルなわけですが)、この素晴らしい茨の道を進んできたボクサーが、たった一つの試合で評価がガクッと落ちたことはあまり納得のいかないものです。
テオフィモ・ロペスは大好きなボクサーの一人ですが、個人的にはテイラーにこそ、報われてほしいとも思うのです。
アンダーカードと配信
この興行はトップランク興行ですが、アメリカではESPN、イギリスではSKY SPORTSが中継します。
アンダーカードにはプエルトリコのスター候補、スーパーフェザー級のヘンリー・レブロン(17勝10KO無敗)やロマチェンコに善戦したアメリカン・プロスペクト、ジャーメイン・オルティス(16勝8KO1敗1分)、ロブソン・コンセイサン(ブラジル)やザンダー・ザヤス(プエルトリコ)なんかも出ますね。なかなか豪華な興行です。
ただ勿論、いわゆる勝負論のありそうなカードはなく、その辺りはトップランク興行の通常運転ですね。
日本での配信がないのが非常に残念。
FITE.TVさん、前日のエイドリアン・ブローナーをPPV(3,500円)で流すくらいならこっちを流してもらいたい。ちくしょうめ。
まあわたしはESPNでみますけれども。
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