パリオリンピックでのボクシング競技の話題、というのは想定外のことであり、大変に残念に思うことです。
パリオリンピックのボクシング競技における世間の最大の関心ごとは、女子66kg級に出場しているイマネ・ケリフ(アルジェリア)と女子57kg級に出場しているリン・ユーティン(台湾)のことです。
SNSなんか見る気にはならないですが、未だに両選手を批判している人もいるのでしょうか。
いっとき、ケリフが攻め続ける映像を「男性のパワー」などと拡散しているのを目にしましたが、別に女性でもパワーがあるボクサーはいます。周りと比べてどうだ、というなら井上尚弥はどうなるんだ。対戦相手とのパワー差、スピード差を比べたならば、そっちの方が明らかにおかしいでしょう。
この事柄(男性を女性の試合に出場させたこと)において、もし、批判にさらされる人(もしくは団体)があるとするならば、それは当然のことながら両選手ではなく、さらにIBA(国際ボクシング協会)でもなく、IOC(国際オリンピック委員会)のはずなのです。
リン・ユーティン(台湾)
アマチュアの女子ボクシング競技において、おそらく日本人ボクサーを除いて最も有名なボクサーであろうリン・ユーティン。
東京オリンピックのアジア予選では決勝で入江聖奈を破り、見事優勝を勝ち取っています。
本戦でリベンジを誓っていた入江でしたが、このリンは意外にも初戦で敗退、結果戦うことはなく、入江は東京オリンピックで金メダルを手にしています。
アジアどころか世界の絶対女王であり、翌年に行われた世界選手権で優勝、都合2度目の世界選手権制覇となりました。(ただ、この年の秋に行われたコンフェデーレションカップでは入江にリベンジを許しています。)
さて、事件が起きたのは2023年の世界選手権。
前年の王者、ディフェンディングチャンピオンとしてこの戦いに挑んだリンは、準決勝で敗れはしたものの、銅メダルを手にしています。いや、手にするはずでした。
しかしリンはここで性別テストによりメダルを剥奪されるという事態に陥っています。
この性別テストなるものは、2023年の世界選手権で初実施されたもの出そうで、その後、自国での再検査では異常なし、との報告がされています。
なお、このテストを実施したのはIBAです。
ホルモンを検査する上での血液の数値が「高すぎる」という結果だった、とのこと。
もちろん、リン・ユーティンは女性として性を受け、女性として育ってきたボクサーです。
私がこの時、最初、このニュースを聞いた時に思ったのは、「IBAは何を馬鹿なことを言ってるんだ」ということです。
イマネ・ケリフ(アルジェリア)
さて、イマネ・ケリフというボクサーについても、日本ではメジャーな名前ではないでしょうがかなりの実績を残しているボクサーです。
リンと同じくこちらも東京オリンピックに出場経験があり、その時は準々決勝で敗退しています。
2022年の世界選手権では準優勝、銀メダルを獲得しており、翌2023年の世界選手権でも決勝に進出、銀メダル以上を確定させています。
しかしこの決勝の前にリンと同じく性別テストなるものが実施され、結果、ケリフは決勝を戦うことができませんでした。そしてリンもそうですが、この2023年の世界選手権の記録は全てノーコンテスト、全ての勝利を奪われています。
ケリフはこの検査結果を不服としてすぐさまパリオリンピック・アフリカ予選への出場意思を示し、リンは「あの検査はフェイク」だと言いました。
なぜ予選には出場できたのか
今思えば、この疑念はどこかで晴らすべきだった、とは思いますが、すでに後の祭り。
この二人のトップボクサーはパリオリンピックに至る予選にそれぞれの地域でエントリー、いずれもこの地域予選で優勝してパリオリンピックへの切符を掴んでいます。
なぜ、二人のボクサーはパリオリンピックへの出場が前提の大会である各地域の予選には出場することができたのでしょうか。
今回のパリオリンピックでは、国際オリンピック委員会(IOC)は国際ボクシング協会(IBA)を追放処分としており、このパリオリンピックにはIBAは関わっていません。それは予選も同様です。
なのでIOCの出場規定において、リン・ユーティンにしてもイマネ・ケリフにしても、出場できる選手なのです。だって、生まれながらの女性ですから。
なぜIOCがIBAを追放するに至ったか、については、IBAに黒い疑惑(もしくは確証)があるからで、とかっていうのはGoogleで調べればわかることですのでいちいち言及はしません。このままIBAがアマチュアボクシング界を仕切るのなら、IOCは2028年のロス五輪にボクシング競技を採用しない、とまで言っています。つまり、IBAなんていう組織はもはやなくなる組織のはずなのです。
そもそもの発端とは
このリン、ケリフがXY染色体ウンタラカンタラ、なんていう情報は、一体どこからきたのか。
染色体が男性(XY染色体)だという確証を持てるような情報は見当たりませんでした。私のリサーチ能力が低いだけなのかもしれませんが。
出所としては、先に書いたようにIBAがリンとケリフを失格処分にした、ということなのでしょうが、これを拡散したのは世界中の人々のただの悪意であり、(ことケリフがトランスジェンダーだという事実と異なることが拡散されたという)何も知らない人たちの何気ない問題提起、もしくは過激なことを言いたいだけのネット民たちの自己承認欲求。
なお、真偽はよくわかりませんが、この発端は、IBAの声明、だとする記事は見つけました。声明の日付は7/31、これはオリンピック開始後のことです。
そもそもなぜ、IBAはこのタイミングでこの声明を発するのか。オリンピック予選に関わっていない、ハブられたとしても、予選が開催されていたことは当然知っているし、どのようなボクサーが出場するのかも完全にわかっていたはずです。もし、「安全性」を考えての提訴であるならば、間違い無くこのタイミングではない。アフリカ予選の開会前だし、アジア予選の開会前であるべきではないでしょうか。
もはやIBAのただの嫌がらせ、IOCへのイチャモンにしか思えません。IBAは結局ボクシングのことなんて何も考えてない、と感じる出来事です。
是か非か
もし、生まれた時から女性であり、心も体も女性であるならば、過去を遡ってみたとしてもオリンピックに出場できない謂れは全くありません。
ただ、現代のように科学的な根拠が出て、仮に女性の中でもXY染色体を持つ人がいるのならば、特にボクシングのようにフルコンタクトの競技においては一考されるべき事柄なのかもしれません。
ただ、このことは今、断ずるべきでないことではないでしょうか。
一つは、IBAの一方的な言い分に、訳もわかっていない人たちが乗っかっているだけのこと。私からすれば、リン・ユーティンやイマネ・ケリフが、男性と同じ染色体を持つ、だとか、テストステロン値が高い、だとか、それすらも信じられません。何せ不正だらけのIBAですから。IBAのことを信じているボクサーなんていない。知らんけど。
今までも散々見せつけられてきて、まだIBAを信じるのはどうかしている、とまで思います。
ただ、今後このようなことが想定されるならば、オリンピック・ボクシングとしては何かしらの対策を講じた方が良いでしょう。
いずれにせよ、責められるべきは選手たちではないことだけは確か。
リン・ユーティンもイマネ・ケリフも非常に強いボクサーです。そしてそれには、並々ならぬ年月と時間をかけ、そして己の人生を賭けてボクシングと向き合ってきた賜物です。
このことで何かを責めるのならば、IOCかIBAにしてください。誰も責めないのが一番良いのでしょうが。(私はIBAを責めます。)
リンやケリフがもしそう(XY染色体)を持っているならば、おそらく過去にもいたはずで、それでも勝ったり負けたりを繰り返しているはずなのです。
トーナメントで強い選手と当たるのは不運ではあると思います。が、可哀想なことではありません。男性であれ女性であれ、戦うためにそこにいるはずです。
こんな騒動があったからこそ、私はリン・ユーティンとイマネ・ケリフを圧倒的に応援します。セオンも原田も負けてしまったから、日本に応援するボクサーがいなくなったこともありますが。
ともあれ、少なくともこのブログを読んでくださった皆様は、ただの「噂」レベルのことに騙されないように、リンとケリフが「男性」だと主張している唯一のエビデンス(っぽいもの)は、IBAが彼女らを失格処分としたことであり、しかもその詳しい検査内容は明かされていないのですから。
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