カナダのケベック州。
ここが今、ボクシングが非常に熱い。らしい。
今年の1月、アルツール・ベテルビエフvsカラム・スミスをメインとしたトリプルヘッダーが開催されたことも記憶に新しいですが、確かに振り返ってみればアドニス・スティーブンソンやジャン・パスカル、この地をホームとしていたボクサーも多かったですね。
このケベック州に属するモントリオール、ここを拠点とする「アイ・オブ・ザ・タイガー」(以下EOTT)というプロモート会社がこの地のボクシングを手掛け、結果的に今はESPNを通じて全米での放送ができている状態。ベテルビエフはトップランクの所属であり、その日リングに上がったジェイソン・マロニーも同じくトップランク、ただ、その日のセミファイナルでリングに上がったクリスチャン・ムビリはこのEOTTの所属です。
もちろん、ベテルビエフもカナダを拠点とするボクサー(ベテルビエフは現在は国籍もカナダ)であり、他にも多くのボクサーがカナダを拠点として活動をしていますが、このEOTT社がほしいのはやはり自前のボクサーの躍進でしょう。
その期待を双肩に受けるのが、クリスチャン・ムビリです。
カナダのボクシング会を背負って立つクリスチャン・ムビリ。と言ったら大袈裟かもしれませんが、ともかくEOTTがこのボクサーに期待することは大きいようです。
ということで今回のブログは、そんなムビリの試練となり得る一戦、「不運なボクサー」セルゲイ・デレビヤンチェンコ戦の観戦記。
8/17(日本時間8/18)カナダ・ケベック
アブドゥラ・メイソン(アメリカ)vsマイク・オハンJr(アメリカ)
トップランク興行ではないですが、EOTTと協力関係にある(多分)ということからトップランクボクサーも数多く登場した今回の興行。アンダーカードの注目は、やっぱりアブドゥラ・メイソン(アメリカ)です。
前戦でルイス・レブロンに勝利したのが7月、約40日ぶりのリング登場です。
広いスタンスからまずは様子見したメイソン、まずは鋭いジャブ、空の左ボディ。これが速い。
中盤、近い距離になったところからオハンJrの打ち終わりに左フックからのコンビネーション。これまたとんでもない回転力、それも事前に決められたコンビネーションではなく、空いたところを狙ったものです。
この時点で実力差は明らか、次に近づいたところで今度は左アッパーを顔面にヒット、これでオハンJrはダウン!残り時間は15秒、メイソンは焦ることはなく、オープニングラウンドが終了。
2R、もはや弱気に見えるオハンJr、下がりながら明らかにメイソンを遠ざけるためだけのジャブ。威力もなく、非常に弱々しい。
メイソンはそこに遠慮なく近づいて、ジャブからワンツーフックをヒットするとオハンJrは崩れ落ち、試合は終了。
初回で明らかな実力差を見せつけられ、諦めた感じのマイク・オハンJr。ここまでの戦績は19勝2敗というもので、過去にはタイガー・ジョンソンとも戦っている(5RTKO負け)選手でしたが、全く相手になりませんでしたね。
オスレイ・イグレシアス(キューバ)vsセナ・アグベコ(ガーナ)
IBOの世界スーパーミドル級王者、イグレシアス。キューバ出身、現在はドイツを主戦場としていますが、ここ数戦はカナダで戦っています。
今回の対戦相手はセナ・アグベコ、前戦でデビッド・モレル(キューバ)に挑戦して2RTKO負けを喫したボクサーですね。
さて、ゴング。
まず強気にプレスをかけてガンガン攻めていくイグレシアス。アグベコは大きく足を使いエスケープ、ですが早くもこのイグレシアスのプレスを持て余しているイメージです。
イグレシアスは非常に手足が長く見え、そのパンチはモーションバリバリのような感じですが、なんだかどこからでもパンチを出せる柔軟性がありますね。
普通に歩いていて長い距離から当たり前のように右ジャブを当てる。当然のようにジャブを当てる姿を見て、ここも実力差がありそうなイメージを持ちます。
終盤、アグベコが左へ回ろうとしたところにイグレシアスの右フックがヒット、これでアグベコはダウン!!
立ち上がったところで残り時間は数秒、イグレシアスがプレスをかけてラウンドが終了しています。
2Rです。モレルはこのアグベコを2Rで片付けていますし、イグレシアスにもその可能性が出ています。
イグレシアスはもちろんプレスをかけて強いコンビネーション。アグベコに休む隙を与えず、とにかく追っていきます。ガードを強いられるアグベコ、イグレシアスの猛攻の中で1発返すのがやっとであり、その1発も逆転できるような類のものではありません。
とにかくガードポジションを崩せないアグベコ、コーナーに詰まってイグレシアスの猛攻を浴びたところでレフェリーがストップ、オスレイ・イグレシアス、2RTKO勝利!!
タイトルチャレンジャーを相手に強さを見せつけたオスレイ・イグレシアス。この階級の無敗ボクサーたちも非常に面白いですね。
アルスランベック・マフメドフ(ロシア)vsグイド・ヴィアネッロ(イタリア)
ロシア出身、現在カナダ在住というマフメドフは、EOTTの契約選手であり、カナダボクシング隆盛を担うボクサーの一人。
対戦相手のグイド・ヴィアネッロは前戦でエフェ・アジャグバと好勝負を演じた「グラディエーター」です。
比較的どっしりと構えるマフメドフに対して、15lbsほど軽いヴィアネッロはステップワークから出入りのボクシング。このボクサーはヘビー級という階級において非常に運動量が多く、また、スピードがあり、素晴らしい戦い方です。
初回はちょっとヴィアネッロのスピードについていけない風だったマフメドフも、2Rに入ると激しく攻め入ります。しかしヴィアネッロはフェイントを含めてやはり先手を取れており、こういうスピードのあるボクサーに先に動かれてしまうとマフメドフとしてはなかなか対応が難しくなりますね。体格の利を活かしてジリジリと攻め入るべきかとは思いますが、なかなかそう簡単なことではないのでしょう。
加えてアングル、コンビネーションも多彩なヴィアネッロは、ワンツーで入ると見せかけてツーをアッパーにするなどして続く3Rも優勢、回転力もあり、マフメドフが1発打つ間に3発打つくらいの差があります。
5R、マフメドフにドクターチェックが入ります。カメラの画角で見えませんでしたが、どうやら左眼がかなり腫れているようです。これは眼窩底骨折レベルで腫れているように見え、ほとんど見えていないのではないでしょうか。
焦りの色も見えるマフメドフは6Rにプッシングで減点、ヴィアネッロは容赦無くマフメドフの右側へまわり、右のオーバハンド。もはや止めても良いのでは、という戦いになってきました。
しかし7R開始直後のドクターチェックでも試合は継続。とにかく自らの豪打を当てなければいけないマフメドフ、ヴィアネッロの入り際を狙います。しかし素早いヴィアネッロのステップインに間に合わずカウンター失敗、逆にヴィアネッロのコンビネーションをしっかりと浴びて両手をキャンパスにつきます!ダウン!!!なんですが、なんとこれをレフェリーは無視!!なんということでしょうか。。。このレフェリー。。。もしかして地元贔屓なのか。
ともあれ、その後もほとんど滅多打ち状態、マフメドフは片目になったことでさらにヴィアネッロの動きについていくことはできず、ヴィアネッロはやりたい放題でマフメドフにとって非常に危険な状態が続いています。
8R開始直後のドクターチェックでようやくストップが宣告、グイド・ヴィアネッロの8RTKO勝利が決まりました。マフメドフの左目は完全に塞がってしまっています。かなり危険な状態でしたね。
ともあれ、グイド・ヴィアネッロは敵地で素晴らしいパフォーマンスでした。
クリスチャン・ムビリ(フランス)27勝(23KO)無敗
vs
セルゲイ・デレビヤンチェンコ(ウクライナ)15勝(10KO)5敗
デレビヤンチェンコをして「不運なボクサー」というには理由があります。彼は過去8試合で3勝5敗、これまで3度のタイトルショットを経験するも未だ世界タイトルの獲得経験がありません。どころか、地域タイトルの戴冠すらもない、というのは驚きです。
ダニエル・ジェイコブス、GGG、ジャモール・チャーロ、カルロス・アダメス、そしてハイメ・ムンギア。負けた相手にも肉薄しており、特にムンギア戦ではあのダウンさえなければ、というようなポイント差でもありましたね。
そんなデレビヤンチェンコも38歳、終わりは近いでしょう。
ここを乗り越えてスーパースター、カネロ戦へ繋げられるか、クリスチャン・ムビリ。
フランス国籍のムビリはそのキャリアの多くをカナダで戦っており、このケベック州というところがフランス語圏であることから、非常に融和性も高いのでしょう。
ということでゴング。
初回から早々にムビリが強いプレス。やや気負いすぎでは?とも思えるアクションの中で、早々にムビリの右クロスが浅くもヒット。「ソリッド」のニックネームの通り、そのパンチにはキレがあり、怖いパンチャーです。
デレビヤンチェンコはステップワークでしっかりと距離をとってエスケープ、リングを大きく使いつつ、時折コンビネーションという戦法です。こちらの運動量も侮れません。
後半、デレビヤンチェンコをロープに追い詰めたムビリは、フェイントからまたも右をヒット。
2R、引き続きプレスをかけるのはムビリ。デレビヤンチェンコはステップワークとジャブでボックス、特にボディジャブは良い。
中盤には右も上手く使い始めたデレビヤンチェンコ、右を打ってサイドへ回るという動きが奏功してムビリはついていけないことが多くなってきています。
しかしこのラウンド後半に入ったところでまたもムビリが右をヒット。この外川回ってくるオーバーハンド気味の右、デレビヤンチェンコにとって、これは気をつけなければいけません。
3R、デレビヤンチェンコのステップワークは素晴らしいですが、ムビリのプレスもまた、素晴らしい。巻き込むように打つ右のオーバーハンド、鋭い左のフックはデレビヤンチェンコのサイドステップを封じられるものだと思います。
体全体を使って思いっきり振るムビリ、コンパクトでアングルの良いパンチを返すデレビヤンチェンコ。このラウンドはデレビヤンチェンコのショートのアッパーがよく当たっているイメージです。ボディを交えたコンビネーションも良いですね。
ただ、ムビリはやはりパワーが破格で、ガードの上から受けたデレビヤンチェンコはバランスを崩します。こうなるとちょっと見栄えが悪い。
4R、ムビリがボディからのコンビネーションで右フックをヒット。デレビヤンチェンコは右をダブル、トリプルと突いてヒットを奪っています。互いに利き手であるライトハンドを当てており、どちらも右パンチがこの試合の鍵となりそうです。
5R、前ラウンドからデレビヤンチェンコもかなり内側で戦っています。要は打撃戦ですが、パワーは明らかにムビリが優位。
その中で、デレビヤンチェンコはサイドに周りポジショニングと手数で対抗、そして距離で外すべきところはステップで外します。
ただ、苦しくなるのはやはりロープに詰められた時であり、距離が空いた時に飛んでくるムビリの右。デレビヤンチェンコは必死に食らいついている、というイメージですが、打ち込まれることも時折ありますね。
6R、ムビリのプレス、ステップを使うデレビヤンチェンコ。ムビリのリングカットによりロープに詰まったデレビヤンチェンコはムビリの猛攻を許しています。
ムビリには雑さもあり、攻める時やただただ追っている時はガードがかなりおろそかなので、デレビヤンチェンコにもチャンスがあります。事実、ムビリが打ち込んできた時にデレビヤンチェンコが右を決めるシーンも。
しかし後半、ムビリが右をヒット。若干動きが止まったように見えるデレビヤンチェンコは、ステップワークでエスケープ、追ったムビリは再度右でデレビヤンチェンコの顔を跳ね上げています。デレビヤンチェンコはちょっと厳しい戦いになってきたか。
7R、ムビリの右からちょっと距離を遠くしようということなのか、デレビヤンチェンコはサウスポーにスイッチ。しかしこれは長くは続けません。
1分が経とうか、というところでムビリの右に合わせてデレビヤンチェンコが右のボディ!これで大きくバランスを崩したムビリ、ダウンかと思わせるほどのバランスの崩し方!ここぞとばかりに猛攻をかけるデレビヤンチェンコ、ムビリは手が出ません!!効いているか、ディフェンスに徹するムビリ!!
この嵐を凌いだムビリは復活、今度は逆に猛攻を仕掛けていきます。うち疲れもダメージもあるか、今度はデレビヤンチェンコがディフェンスに徹し、エスケープ。ムビリはこのラウンド目一杯を攻め続けました。
デレビヤンチェンコは千載一遇のチャンスを逃したか。。。この決定力の欠如が、一流どころに勝てない理由なのかもしれません。
8R、早々にステップワークのデレビヤンチェンコ。あとは凌いでのカウンター狙いでしょうか。迫力あるムビリのプレス、攻撃に下がりながら右のカウンターを使うデレビヤンチェンコ。時折サウスポーにスイッチしてムビリの右を遠ざけますが、ちょっとジリ貧感が強いですね。
この状態でムビリは右のオーバーハンドをボディに持っていくなどして対応、これは素晴らしい判断です。思いっきりボディを打ちつつ、時にカウンターももらいつつですが終始攻め続けるのはムビリです。
9R、あとはムビリがフィニッシュできるか、というところが焦点です。デレビヤンチェンコも逃げ回ることはせず、打つべきところはしっかりとカウンターを打って諦めることはありません。その分、倒すチャンスはありますね。
このラウンドに来て、ダメージも甚大でしょうが動きの落ちないデレビヤンチェンコ。アラフォーとは思えませんが、ちょっとエスケープの時間が増えてきたようなイメージ。
ラストラウンド、フィニッシュを狙って攻めるのはムビリ。これまで一度もKO負けのない強豪を倒し切ることは大きなアピールになるはずです。
中盤、デレビヤンチェンコをロープに詰めて上下に打ち分け、その後もグイグイとプレスをかけて右を幾度もヒット。しかし倒れないデレビヤンチェンコ、いつもながらもこのボクサーの意地は脅威でもあります。
最後は打ち合いでラウンドが終了、勝利を確信してハンズアップしたのはクリスチャン・ムビリ。
パワーパンチのスタッツはムビリが193/446、デレビヤンチェンコが113/308。
そして判定は、100-90、99-91、98-92でムビリ。もったいぶらない、めちゃくちゃサラッとした発表でしたね。。。
デレビヤンチェンコはもちろん頑張りましたが、ムビリの完勝という内容。試合を通して、デレビヤンチェンコの勝ち筋は見えませんでした。
ただ、この試合、デレビヤンチェンコが右を多用した背景には、3Rには左腕の筋断裂を起こしていた、ということらしいのです。
腕は上がってはいたので、程度の程はわかりませんが、デレビヤンチェンコ曰く、片手しか使えなかったと。確かに序盤の素晴らしいジャブは、いつの間にかなりを潜めてもいましたね。
そうなると片手のデレビヤンチェンコを倒せなかった、と言われるのがムビリ。このことは、もしかするとカネロが相手を選ぶ時、優位に働く事象となるのかもしれませんね。
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