リカルド・ロペスの来日はもっと騒いだ方が良い。
「フィニート」ロペスが伝説を作ったのはもう四半世紀ほど前のことで、今の若いボクシングファン(本当にいるのかどうかは定かではない)たちには馴染みがないのでしょうが、ちょうど私がボクシングを身始めた頃は「最も強い王者」としてこの最軽量級ボクサーの名前は度々上がっていました。
こんにち、ミニマム級が存在しているのは、ロペスの功績と言って差し支えがないかもしれません。体格に恵まれなかったアスリートたちが集うこの階級がなければ、埋もれてしまっていたボクサーたちはごまんといたでしょう。
そんなロペスをゲストに迎えて「ミニマム級祭り」というのは、さすが大橋会長といったところです。セミファイナル前にリングに上がったロペスは、想像通り紳士的であり、さまざまな配慮をしている様を見て取れました。引退したボクサー、特にレジェンドたちは、このような立ち振る舞いをして欲しいものだと思います。
リカルド・ロペスは現役時代もまさにお手本のようなボクサーでしたが、引退してからも元ボクサーのお手本。立ち振る舞いだけでわかるものです。
9/25(水)フェニックスバトル
OPBF東洋太平洋ミニマム級王座決定戦
ジョン・ケビン・ヒメネス(フィリピン)8勝(3KO)無敗
vs
石井武志(大橋)8勝(7KO)1敗
ヒメネスというボクサーのことは存じ上げません。ただ、弱冠20歳、戦歴としてはもちろん知っているボクサーはいませんが、全勝できていますから侮れるボクサーではありません。
さて、どのようなボクサーなのか。
初回、まずプレスをかけていくのは石井。ヒメネスは素早く、振り回すタイプのフィリピン人ではないようです。かなりしっかりとした技術を持っていそうなヒメネスですが、中盤、攻め出せば非常にワイルドにパンチを振ってくる場面も。これは結構なハイブリッドタイプで、これはかなり強い。
しかし石井がパワーで負けることもなく、グイグイとプレスして強い左右を叩きつけます。後半には左ボディで一瞬腰を負ったように見えたヒメネスですが、こちらも美しい左ボディをヒットしています。
初回からノンストップでバチバチ、ミニマム級らしいキビキビとしたボクシングです。
2R、ガードをしっかりと固めてぐいっと距離を詰め、後頭部側を狙うようなオーバーハンドの右フックの石井。ヒメネスは下がりながらこれに対応、このうち終わりに左フックを狙っています。
中盤、石井の激しい攻撃に対してヒメネスの体は泳ぐこともありますが、まだまだヒメネスも力強いパンチをリターンしています。後半、ヒメネスは左フックカウンターをヒット。この左フックはヒメネスのサンデーパンチでしょう。
3R、力強く攻める石井ですが、ヒメネスはディフェンス勘もタイミングも良い。体が柔らかく、絶妙なスウェーバックを持っているし、ブロッキング一辺倒の石井よりもディフェンス力は上のように見えます。
石井はどっしりと構えてジャブから入り、いくつかの被弾こそありますが間違いなくプレスは効いているはず。
4R、序盤にヒメネスのアッパーを喰らった石井ですが、フィジカルでゴリ押してコーナーに詰める場面。ここでもヒメネスは上手い。
ただ、この石井が幾度も出す右のフックは結構当たっているように見えます。ダメージを受けているようには見えないヒメネスですが、バランスを崩されることはしばしばで、やはりフィジカルで言えば石井に分がありそうです。
5R、ここでとうとう石井の右フックをヒメネスがダックでかわし始めます。ふとした瞬間にくるヒメネスのカウンターはタイミングがよく、怖い。
後半、ヒメネスがワンツーをヒットすると石井も左フックをヒット、両者譲らず。
6R、石井のジャブに対してヒメネスは右クロス。これはかなり危ないパンチです。
石井は頭がぶつかる距離まで詰め、インサイドで勝負をかけます。ただ、もしかすると石井には手応えがないかもしれません。
終盤に石井がコンパクトなパンチで攻めてもヒメネスの左カウンターが一閃、これは手強い。
7Rも展開は変わらず。ちょっと隙間に入れるヒメネスのパンチが効果的で見栄えが良く、終始前に出ているのは石井ながらも、ポイントはちょっとヒメネスに流れているのではないでしょうか。
8R、も展開は変わらずで、ちょっと石井のヒット率が下がってきたのでは?と思っていましたが、このラウンド終了後の公開採点では石井にポイントが流れていたようです。
9R、10Rも引き続き近い距離での打撃戦です。
ここで意外にも石井の右が大復活、若干長めの距離でオーバーハンド気味の右をヒットさせています。お互いに得意を押し付け合うような展開で10Rが終了。
11Rも近い距離でのボクシング。ここはヒメネスも退かず、ラストラウンドに入ってもこれは変わらず。石井は結構良いタイミングでパンチをもらっているように見えますし、ヒメネスもパワーがありそうには見えますが、石井はびくともしませんね。
素晴らしいタイミングでヒメネスがパンチをヒットするも、石井は全く動じないですから、ジャッジもヒメネスにパンチを与えづらいのかもしれません。
お互いに一歩も引かないラストラウンドを終え、勝負は判定へ。
判定は、115-113、116-112×2、3-0で石井!
石井武志、見事OPBF王座を初戴冠!
しかしあのペースで最後までしっかりと攻め続けた石井。とんでもないスタミナ、フィジカルを持っていますね。
ヒメネスも非常に良いボクサーで、うまくまとまっていますが少しずつ上回れたのかもしれませんね。
日本ミニマム級王座決定戦
松本流星(帝拳)3勝(1KO)無敗
vs
森且貴(大橋)12勝(3KO)3敗
森且貴というボクサーは本当に茨の道を進んできたから、報われてほしいと願う一人です。
初のタイトル挑戦はのちに世界タイトルにも挑戦することになる「マイクロ・タイソン」石澤開(M.T)に8RTKO負け。再起戦でユースタイトルを獲得も、その次の試合では高田勇仁(ライオンズ)に5RTKO負け。のちに日本王者となった高田に挑戦、今度は判定負けを喫しています。
そして3度目となるタイトルチャレンジは、スーパールーキー、松本流星を相手にしての日本王座決定戦です。
初回、まずは素早く動く森。サウスポー松本はどっしりと構えてリング中央に陣取りますが、森の出入りがなかなかに速い。森は機動力で戦うつもりか。
その序盤を過ぎると森が若干足を止め気味で、それでも上体は激しく動かして幻惑。ただ、松本は力強いワンツー、自然の流れで出すアッパーといったパンチで松本を攻めたてつつ、リングを回っています。
2R、松本が若干のプレスから先に攻めます。もりも中盤、距離をグッと潰して接近戦を挑む。松本がおそらく慣れていないであろう距離で戦おうというところでしょうか。
しかしこの森の入り際に松本はアッパーをヒット、それでも森は泥臭く距離を潰して左右を放っていきます。終盤、松本は左カウンター!一瞬森の動きが止まったようにも見えました。
3R、森がガードを固めて距離を潰します!激しい攻撃、この戦い方を徹底しています。中盤、森が右をヒットすると松本も左をヒット。森のガムシャラなアタックにも松本はカウンターとブロッキング、そして時にクリンチで対応しつつ、強打を返します。
これはなんという戦いでしょうか。
4R、森の距離の詰め方がエグい。少しでも離れるととにかくくっつき、後ろ手のアッパー。そんな森に松本も後ろ手のアッパーを放ち、両者ともにキーパンチは後ろ手のアッパーと前手のフック、そしてそこからどのように変化をつけるか、という戦いになってきます。
ともあれ、苦しいのは森の方か。森は距離を詰めなければならない、というのが前提条件としてあるわけで、松本よりもアクションが一つ多くなってしまうのが現状です。
5R、森の突進が弱まった、というわけではないのでしょう。松本が大きく足を使い出したからなのか、ちょっと距離が空くようになってきたラウンドです。
この下がりながら、回りながらの戦いもお手のものなのか、松本は足を使いながらのカウンターで優勢です。これはかなり森が苦労したラウンド。
公開採点は、49-46、50-45×2で松本。
6R、松本は引き続き大きく足を使ったカウンター戦法。この戦略変更も引き出しの多い松本だからこそできることで、ここは見事なステップワークとクリンチワーク。
その合間に入れるカウンター、こちらも一級品であり、森としてはかなり厳しい展開になってきています。このラウンドで森はカットもその闘志は全く衰えることなく、ドクターチェック後もすぐに距離を詰めんとしています。
7R、森が攻めたところで松本の右フック!これでバランスを崩した森は両手をマットにタッチ。ダウンです。
このパンチによるダメージはさほどないでしょうが、この再会後、松本が左ストレートをヒットして森の顔面を弾くと、ここでレフェリーがストップ!
松本流星、7RTKO勝利で日本タイトルを獲得!!!
これは強い、松本流星。
今日の試合では、強敵森且貴を相手に完璧な強さを見せつけ、はっきりいって全く穴が見えない状況です。このボクサーが、キャリアわずか4戦。
今後も非常に楽しみなボクサーです。
そして敗れた森は本当に素晴らしいハートを見せてくれました。「これしかない」戦いを貫き、結果的に敗れてしまったもののタイトルへかける意気込み、そのハートの強さを存分に見せてくれました。まだ若く、今後も成長していけるボクサーだと思います。森の今後にも期待したいですね。
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