今、にわかにクルーザー級が熱い。
日本人にとって最も馴染みの浅い階級と言っても過言ではないクルーザー級。
200lbs(約90kg)以下というこの階級は、少しあげればヘビー級という花形階級。そしてクルーザー級にはライトヘビー級があり、おおよそ中量級から上げてくればこのあたりでストップしてしまうから、非常に中途半端感が拭えない階級です。
この階級自体ができたのも1980年と比較的新しく、印象に残る王者もそう多くはありません。
大きく盛り上がったのはWorld Boxing Super Series(WBSS)が開催されたことで、この時、クルーザー級は史上初めて4団体の王座を統一。これはまだ記憶に新しい、オレクサンドル・ウシクの残した偉業です。
そのウシクがヘビー級へ転級、当初無謀に思われたこの「ヘビー級として小兵」であるウシクの挑戦は、果たして2m級のバケモノたちを次々と打ちのめし、結果ヘビー級でも4団体を統一しています。
クルーザー級上がりのウシクが示したのは、ヘビー級のボクサーの何倍も動くその運動量と、そしてクイックネス。
このことは、クルーザー級の面白さを伝えたことでもあると思っています。
そして、先日のジャイ・オペタイアのパフォーマンスです。
↓観戦記
ということで今回のブログは、2025年に大きな盛り上がりが予想されるクルーザー級について。

低迷期のクルーザー級
元々不人気階級であったクルーザー級が注目を浴びたのは、ウシクが4団体王座を統一したという本当に最近の話でしょうか。
本来はその前、1980年代後半にイベンダー・ホリフィールドが3団体王座統一を成し遂げた時に注目されるべきだったのかもしれませんが、その時はまだまだ歴史が浅かったこともあり、大きな話題にはなっていなかったのではないでしょうか。1980年代後半というと、正直私もボクシングの競技の素晴らしさを知らなかったし、今ほど海外の情報は入ってきていなかったので本当のところはよくわかりませんが。
ともあれ、ウシク後のクルーザー級というのはなかなかひどいものでした。
あ、ちなみにこのブログをずっと読んでくれている人はお気づきでしょうが、私はクルーザー級を応援しています。面白いので。
↓当時書いた記事
非常に国際色が豊かな階級であるにも関わらず、注目度が低いがゆえにファイトマネーも安い。
WBSSシーズン1でウシク登場に沸いたクルーザー級はシーズン2でもWBSSが開催されますが、スパンが短すぎたのかさほど盛り上がらず、さらに決勝まで行ってもIBFタイトルのみしかかけられなかったという有様。当初のコンセプトを大きく逸脱したこのトーナメントは、さほどの盛り上がりを見せない中でシーズン1でウシクを苦戦させたマイリス・ブリエディスが制覇しています。
当時もローレンス・オコリーなどの有望株、そしてつい先日まで王者だったアーセン・グラミリアンといった強豪もいましたが、ビッグファイトは実現せず。グラミリアンは論外にしても、コロナ禍もあってかクルーザー級の王者たちはマッチアップにも恵まれませんでした。
ジャイ・オペタイアの登場
そんな「どこまで行っても並走状態」だったクルーザー級を最初に動かしたのは、ジャイ・オペタイアでした。
2022年7月2日、本当に「突如」現れたといっても過言ではないこのオーストラリア人は、初の世界タイトルマッチで当時階級最強と謳われていたマイリス・ブリエディスに見事な勝利。オーストラリアのボクサーらしく、非常にオーセンティックなスタイルなテクニシャンで、「良いボクサー」だと思っていたオペタイアは、「素晴らしいボクサー」でした。
↓観戦記。「人知れぬ」とか書いちゃってる。
この勝利で自信をつけたのか、ここから大きくパフォーマンスを向上させたオペタイアは、ノックアウト勝利を量産。ブリエディスとの初戦以降、これまでオーストラリアから出て戦ったことのなかったボクサーは、イギリスのウェンブリーアリーナ、リヤドのキングダムアリーナで戦い、今日まで5勝(4KO)です。(なお、唯一KOできなかったのはブリディスとの再戦)
メキシコ人とイギリス人
オーストラリアのボクシングがここ最近調子が良い、とはいっても、やはりオーストラリアだけでは限界があります。
しかしオペタイアにとって幸運だったのは、リヤドシーズンが始まって戦う場所を得たこと、そして人気者であるメキシカンボクサー、ヒルベルト「スルド」ラミレスがクルーザー級に来たことと、特に重量級のボクシング人気の高いイギリスからクリス・ビラム-スミスが来たことです。
ラミレスについてはライトヘビー級を主戦場としていたジョー・スミスJrとクルーザー級のテストマッチを行い勝利、その後完全に不活動だった王者、アーセン・グラミリアンを引っ張り出して判定勝利、WBA世界クルーザー級王座を獲得。
ビラム-スミスについては正直オコリーでもよかった(オコリーの方が良かった)のですが、同国人のローレンス・オコリーに判定勝利してWBO王座を獲得しています。この試合もアップセット勝利でしたが、オコリーの打たれ脆さには驚いたものでした。
そんなこんなで一気に入れ替わった王者たち、そしてこのメキシコとイギリスというボクシング大国に王座が渡ったこと、そしてサウジアラビアの仕掛けにより一気に王座統一戦が実現。
2024年11月、ラミレスとビラム-スミスはリヤドで戦い、WBAとWBOの王座は統一を見たのです。
↓観戦記
ちなみに、WBC
WBC世界クルーザー級王座というのは現状、あってないようなものです。
一応、現在の正規王者はバドゥ・ジャックらしい。
ジャックは2023年2月、当時の王者だったイルンガ・マカブを最終12ラウンドTKOに降して王座を獲得しましたが、結局その後は試合が決まらずいつしか休養王者に。
その間隙をついて、ノエル・ミカエリアンとイルンガ・マカブの間で王座決定戦が行われ、ミカエリアンが3RTKOで王座を初戴冠。これが2023年の11月です。
その後2024年6月にミカエリアンの防衛戦が組まれますが、ミカエリアンの怪我により9月に延期、しかしこの9月の興行も興行自体が延期。これはプロモーターのドン・キングの体調不良によるものだとか。
そしてさらに繰越の日程が12月に決まりますが、この時ミカエリアンは契約問題でドン・キングを相手に訴訟を起こしており、その関係で試合はまたも延期。しかしその12月の興行ではWBCの暫定王座決定戦なるものが組まれ、それがまたドローで暫定王者誕生ならず、という事態に。
で、試合を行えないミカエリアンに対してWBCは休養王者への格下げ、これまで休養王者だったバドゥ・ジャックを正規王者に据えています。結局ジャックが防衛戦をやれば王者でいられるのでしょうか?ミカエリアンの訴訟にケリがつけば、その時の正規王者と対戦する運びになるのでしょうか?
いかんせん、この辺りのカギを握っているのがドン・キングだというのは、亡霊を見る思いですね。
おいといて、間も無く3団体統一戦か
WBCはもはやどうでも良いかもしれません。もう40歳を超えたバドゥ・ジャックが出てきても、ミカエリアンが出てきても、もはやヒルベルト・ラミレスvsジャイ・オペタイアの敵ではないでしょう。むしろ別の意味で敵になりそうなのはドン・キングだったりジャックのプロモーターを務めるフロイド・メイウェザーJr.かもしれません。
ともあれ、ヒルベルト・ラミレスvsジャイ・オペタイアはもうすぐです。
ラミレスはビラム-スミス戦前からオペタイアのことを意識する発言をしており、オペタイアもそれは同様です。今回のオペタイアのパフォーマンス、いつもよりも強引に見えるそれは、おそらく王座統一戦を実現させようという気概に満ち溢れたものだったのだと思います。
思えば、ここで足元を掬われなくて本当に良かった。
ラミレスが嫌いなわけではありませんが、やはり統一王者に相応しいのはジャイ・オペタイア。
先の観戦記のブログにも書きましたが、オペタイアはブリエディス2戦目でかなり慎重な戦い方をしていたので、もしかするとラミレスを相手には警戒してかなりの塩っぽい試合をするかもしれません。しかしこのビッグファイトには、是非とも打ち合い上等のニーカ戦のようなパフォーマンスを見せてもらいたいものです。
ということで2025年のクルーザー級は大いに楽しみにしましょう。
ちなみに個人的にはオペタイアが完勝する、と思っていますし、何ならウシクの相手になるのはもしかするとヘビー級のボクサーではなく、このジャイ・オペタイアかもしれない、ぐらいに思っています。
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