サウル「カネロ」アルバレスがテレンス・クロフォードに敗北したことは、「一つの時代が終わった」と感じることです。
これまで長らく「Face Of Boxing」、まさにボクシング界の顔としてそのキャリアを築いてきたカネロですが、この敗北は彼をPFPランキングから除外しようとするところまでその評価を落としています。
このPFPランキングから外れる、ということになれば、もはやカネロはボクシング界の顔としての求心力を失うことになります。
では、次の王は誰か。
ここで言う「王」とは、単にパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキング1位のボクサーを指すのではありません。私たちが語りたいのは、ボクシング界の象徴、「Face of Boxing」(ボクシングの顔)という、ただ一人にしか許されない称号の行方です。
それは、実力、人気、興行力、発信力、そしてカリスマ性の全てを兼ね備え、ボクシングを知らない層にまでその名が届く、まさに「時代の象徴」。アリがそうであったように。タイソンがそうであったように。そして、メイウェザーからそのバトンを受け取ったカネロが、そうであったように。
その玉座は、今、空になりました。
ということで今回のブログは、、ポスト・カネロ時代の混沌の中、次なる「ボクシングの顔」という玉座に最もふさわしいのは一体誰なのかを検証していきたいと思います。

テレンス・クロフォード
「ボクシングの顔」として、通常は最も正統な後継者と言えるのがテレンス・クロフォードです。何よりも、彼が前の王であるカネロ・アルバレスをリング上で直接打ち破ったという事実。これ以上の説得力はありません。男子史上初となる3階級での4団体統一という、もはや漫画の世界でも描かれないような偉業を達成した今、「実力」という点において彼に異を唱える者は存在しないでしょう。
しかし、その絶対的な実力に比して、彼のスター性はまだカネロ級には及びません。どころか、クロフォードの場合は逆立ちしてもカネロのような人気者にはなれません。
これまでも偉業を成し遂げながらも人気は低く、故郷オマハにとどまるのみ。カネロを破ったことで、彼の存在が世界中のカジュアルファンにまで届いたことは間違いありませんが、年齢のこともあり、彼がカネロのようなビッグマネーを手にする日が来ることはあまり考えられないことです。
ここ最近のアフリカン・アメリカンのボクサーたちの人気は低迷気味と言えますから、クロフォードやそのファン層を引き継げる可能性のあるジャロン・エニスですら、その実力に見合った人気を取得することは難しいことなのかもしれません。
ジャーボンタ・デービス
そんなアフロ・アメリカンであり、「興行力」、つまりどれだけファンを熱狂させ、お金を動かせるかという点において、現役No.1の座にいるのがジャーボンタ・デービスです。特に若者からの支持は絶大で、彼の試合のPPV売上は常に高い数字を記録します。危険な香りのする「悪童」的なカリスマ性と、恵まれない環境から成り上がったストーリーは、多くのファンを惹きつけます。
しかし、その絶大な人気と裏腹に、対戦相手の質については常に厳しい目が向けられてきました。「人気者」や「稼ぐ男」ではあっても、PFPトップ10にランクされるような誰もが認める強敵との対戦を避けていると見なされる限り、ボクシング界全体の「顔」として認められるのは難しいでしょう。彼が真の玉座に座るには、誰もが納得する強敵を打ち破り、「実力」の証明を果たすしかありません。
11月にジェイク・ポールとのエキシビションマッチに臨むというタンクを、もうボクシングファンは許すことはないでしょう。
ここからでもシャクールやヘイニーと戦うことができるのならば、それ相応の評価を受ける事はできると思いますが、もはや遅し。どうにかポールとのエキシビションが破談になることを願うのみですね。
ジェシー・ロドリゲス
「今すぐの顔」ではないかもしれませんが、「5年後の顔」になる可能性を最も秘めているのが、"バム"ことジェシー・ロドリゲスです。若くして無敗、そしてすでに複数階級制覇を達成している実績は、同世代のボクサーの中で頭一つ抜けています。ファンを熱狂させるアグレッシブなスタイルは、見る者を飽きさせません。
そしてレジェンドキラーであるバムは、これまでにカルロス・クアドラス、シーサケット・ソー・ルンビサイ、そしてファン・フランシス・エストラーダといった人気実力ともにトップクラスのライバルたちを良い形で退けてきており、そのことがファンの目に留まったという超がつくほどの本格派。
米英のボクシングファンたちも、以前と比べて軽量級に目を向けている今は彼にとっても大きなチャンスです。
そして何より、彼がカネロに次ぐヒスパニック系のスーパースター候補であることが重要です。カネロが築き上げたアメリカの巨大マーケット、特にメキシコ系ファンの熱狂を引き継ぐことができるのは、彼しかいないかもしれません。今後のキャリアの歩み方次第で、このリストの頂点に躍り出るポテンシャルを秘めた、まさに次世代の希望です。
オレクサンドル・ウシク
ボクシングの歴史を振り返れば、「ボクシングの顔」とは、すなわちヘビー級チャンピオンのことでした。その伝統的な価値観に立ち返るならば、4団体のベルトを全て統一した現ヘビー級絶対王者、オレクサンドル・ウシクこそが「顔」であるべきなのかもしれません。ウクライナの英雄として、その背負う物語も壮大です。
しかし、やはりホームグラウンドでビッグマッチができない、というジレンマを持ち、ボクシングの中心となる米英の出身ではない、というところは痛いところ。どうしたって米英のボクサーから見ればウシクは「敵役」であり、その部分においてボクシング界の顔とはなり得ないかもしれません。
さらに、現代ボクシングの潮流は、PFPという階級を超えた概念が浸透し、クロフォードや井上のような中量級以下のスーパースターに注目が集まっています。アリやタイソンの時代のように、ヘビー級王者というだけで世界中の誰もが知る絶対的な存在とは言えなくなってきているのも事実です。ウシクは最も伝統的で、最も権威ある玉座に座っていますが、現代の多様化したボクシング界において、それが唯一の「顔」を意味するとは限らないのです。
井上尚弥
ウシク、クロフォードとPFP1位の座を唯一争う存在、それが日本の「モンスター」井上尚弥です。力強く打てば劇的なノックアウトを量産し、ヒットアンドアウェイに転ずれば芸術のようなボクシングを披露する。見る者すべての感情を揺さぶるボクサーとしての能力の高さは、他の候補者にはない唯一無二の魅力です。何しろこの31戦のうち、怪しい判定はただの一つもなく、苦戦、負けそうと思ったことすらありません。さらに日本国内では東京ドームを満員にするなど、その人気と興行力はすでに証明されています。
その一方で、ボクシングの本場アメリカのPPVマーケットにおいては、まだその真価が問われていません。また、言語の壁が、彼の持つ謙虚な人柄や知的なボクシング観を海外のカジュアルファンに伝えにくくしている側面も否定できないでしょう。「パフォーマンスの衝撃度」では全候補者中No.1かもしれません。彼が真の「顔」となるためには、アメリカ戦い続けることが不可欠です。
今の大配信時代、無料のFacebook配信とはいえ井上vsMJは1300万件が視聴したとか。NETFLIXで有料配信されたカネロvsクロフォードが4100万件と考えると、そのいただきははるか遠くですが、プロモーションとライバル事情が充実しさえすれば、少なくともリングに上がりたがらないトップボクサーたちと比べてチャンスがあるのかもしれません。
玉座はもう一つではない
ロイ・ジョーンズがPFPだった頃、PFPはロイ・ジョーンズでした。(小泉構文みたいになってしまった)
ロイ・ジョーンズこそがPFPであり、他は考えられませんでした。
同時にフロイド・メイウェザーJr.がPFPの頃、気に食わないファンも多かったかもしれませんが、そこに大きな異論はなかったでしょうし、それはカネロがPFPキングだった時代もそうでしょう。
このPFPとFace Of Boxingは密接な関わりを持っており、少なくともボクシング界の顔はその実力を認められていなければなりません。
今現在、PFPランキングに絶対的なPFPキングはいません。
クロフォード、ウシク、井上が3者でしのぎを削っているような状態。
それと同時に、もうこの「ボクシング界の顔」という玉座も一つではないのでしょう。
そう考えると「ボクシング界の顔」という表現にすら違和感を覚えるわけですが、この価値観が多様化した現代において、それはもはや無意味なのかもしれません。
タンクのように、エンタメファイトに走りながらも衝撃的なノックアウトを見せるボクサーや、クロフォードやウシクのように技巧で不利を覆す猛者、どのように戦っても結局は圧倒してしまうモンスター。そしてメキシコというボクシング大好きキッズたちを従えやすい土壌を備える、次世代スターのバム。
それぞれが、ボクシング界の中でも多様化した価値観の「顔」である、と考えれば、あえて一人に絞る必要はないのでしょうね。
ともあれ、カネロの次の「ボクシング界の顔」は人気、試合の面白さを考慮してジャーボンタ・デービスと思っていたわけですが、その線はなくなり、ここもまた、戦国時代に突入したと言えそうですね。ボクシング界としては、スターをつくるべく一般層向けのプロモーションをしてほしいものです。
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