週末は、アメリカではジャロン・エニスのスーパーウェルター級戦デビューがあります。
それは未来のP4Pが新たな扉を開く(ことが期待される)試合であり、そのパフォーマンスに注目が集まります。
一方で、同日、イギリスで行われるヘビー級ファイトは、それとは全く毛色の異なるものです。
世界のトップコンテンダーとは言えない戦績(24勝7敗2分)。しかし、なぜ英国のファンはこれほどまでにデイブ・アレンという一人のボクサーを熱狂的に愛するのでしょうか?そして、デビュー以来18連勝17KOを誇り、”怪物”と呼ばれたアルスランベク・マフメドフは、あの悪夢のような2つのKO負けから本当に立ち直れるのでしょうか?
この一戦は、ランキングやベルトを巡る戦いではありません。エリートではない叩き上げの人気者と、プライドが傷ついた元KOモンスターが激突する、魂の物語です。勝者には再びトップ戦線への道が拓かれ、プロモーターのエディ・ハーンはデオンテイ・ワイルダーとの対戦の可能性すら示唆しています。しかし、敗者にはキャリアの岐路が待っている。これは、究極のサバイバルマッチなのです。

10/11(日本時間10/12)イギリス・シェフィールド
デビッド・アレン(イギリス)24勝(19KO)7敗2分
vs
アルスランベック・マフメドフ(ロシア)20勝(19KO)2敗
デビッド「White Rhino」アレン、Rhinoはサイなので、「白サイ」です。そしてマフメドフのailiasは「The Lion」であり、当然これは「ライオン」です。
自然界でサイとライオンがどっちが強いのか、私にはわかりません。サイのパワーはものすごい、と聞きます。
白いサイ
デイブ・アレンの魅力は、戦績の数字だけでは決して測れません。彼は英国ボクシング界における「カルトヒーロー」であり、その人気は彼の人間性そのものに根差しています。
アレンが絶大な支持を得る理由は、彼の驚くべき率直さにあります。彼はマチョイズムが支配するボクシングの世界で、自身の弱さを隠すことなく語ってきました。深刻なギャンブル依存症に苦しみ、借金を返すために準備期間の短い危険な試合を受けざるを得なかったこと。うつ病との闘い、そして自殺未遂に至った過去まで、彼は赤裸々に告白しています。
この弱さを見せる勇気が、ファンとの間に強固な絆を築きました。彼は完璧なアスリートではなく、「ごく普通の英国の若者」("everyman quality") として、多くの人々の共感を呼んだのです。この共感は単なる人気に留まりません。彼の地元シェフィールドで開催されるこの試合では、9,000枚近くのチケットが売れ、熱狂的なホームの応援がマフメドフに計り知れないプレッシャーを与えるでしょう。アレンの弱さの告白は、巡り巡って彼の戦略的な武器となっているのです。
アレンのキャリアは、まさに不屈の精神の物語です。ディリアン・ホワイト、ルイス・オルティス、トニー・ヨカといった世界のトップコンテンダーたちに、準備不足のまま挑んでは跳ね返されてきました。キャリア最大の危機は、2019年のデビッド・プライス戦でしょう。10ラウンドにわたる壮絶な打撃戦の末に敗れ、脊髄を損傷。担架でリングを降り、引退も囁かれました。しかし、彼はそこから這い上がり、再びアリーナのメインイベントに立つ権利を自らの拳で掴み取ったのです。この何度打ちのめされても立ち上がる姿こそが、ファンの心を掴んで離さない理由です。
アレンは単なるタフなファイターではありません。彼自身が試合を分析する能力に長けているように、そのボクシングIQはしばしば過小評価されています。彼の勝利への最大の鍵は、マフメドフを崩壊させた唯一の武器、ボディブローにあります。アレンは元WBA世界王者ルーカス・ブラウンを戦慄の左ボディ一発で沈めた実績があり、この試合で求められるゲームプランを遂行する技術とパワーを兼ね備えています。序盤の猛攻を凌ぐための意外と器用なジャブとクリンチワーク、そして中盤以降にマフメドフの巨体を削る執拗なボディワーク。これらが噛み合った時、大番狂わせへの道が開かれます。
ライオン
対するマフメドフは、キャリアの崖っぷちに立たされています。彼は失われた威光を取り戻し、自らが単なる破壊者ではないことを証明しなければなりません。
アギト・カバエル戦以前のマフメドフは、恐怖の象徴でした。レスラーのように威嚇しながらリングインし、ゴングが鳴ると同時に相手をなぎ倒す「KOモンスター」として、ヘビー級戦線で恐れられていました。デビューから18戦17KOという戦績が、その破壊力を物語っています。しかし、2023年12月、リヤドのリングでその神話は脆くも崩れ去りました。アギト・カバイェルが、彼のパワーを恐れず、的確な戦術で巨人を解体したのです。ボディへのショートフックで3度のダウンを奪われ、4ラウンドTKO負けを喫した姿は、世界に衝撃を与えました。
この敗戦は、マフメドフにとってキャリア最大の試練であると同時に、成長の機会でもあります。彼のトレーナーであるマーク・ラムゼイは、以前から「ファイターは逆境を経験し、ラウンドを失うことで学ぶ必要がある」という哲学を持っていました。カバイェル戦は、まさにその究極の「教訓の時」だったのです。マフメドフ自身も敗戦後、「誰も無敵ではないことを学んだ」と語り、試合前に手の骨折を負っていたことも明かしています。
しかし、ここには大きな心理的な罠が潜んでいます。かつての「怪物」というペルソナは、今や彼の最大の足枷になりかねません。復活を証明したいという焦りから、再び序盤のKOを狙って大振りになれば、それこそがアレンの思う壺です。彼の真の復活は、かつて自らを最強たらしめた「怪物」の仮面を脱ぎ捨て、これまで見せたことのない冷静さとボクシングIQを発揮できるかにかかっています。
その後、再起戦をクリアしたマフメドフでしたが、再起2戦目で強敵グイド・ヴィアネッロに8RTKO負けで敗北。主戦場としているカナダでの試合であり、この敗北はもはや言い訳もできないものでしょう。
その後は今年6月、無敗のリカルド・ブラウンを初回TKOで再起、この勢いを続けられるか。
序盤から勝負か
おそらく、マフメドフは最初からいくでしょう。そして類稀なるKOパンチャーであるマフメドフの猛攻を、まずはアレンが防げるかどうか、がまず勝負の分かれ目です。
但し、デイブ・アレンがこの序盤を「サバイブ」することに注力すれば、クリンチ、フットワーク、そしてタフネスというアレンの武器を駆使してそれだけに集中すれば、そこを生き残ることは可能かもしれません。
まずはこのライオンの攻撃を、サイが耐えきれるか。
そしてアレンにとっては勝負は中盤以降で、ここでマフメドフが行けば行くほど消耗は早くなります。そこにアレンがボディを中心に攻めれば、逆転のストップ勝利という芽が出てきます。
この試合には、極上のテクニック、ボクシングという美しい競技性は現れないかもしれません。それでも、いや、だからこそ、血で血を洗うような、泥臭く、それでまた美しいファイトが見れるような気がしてなりません。
ある種、予定調和とも思われるエニスのスーパーウェルター級デビュー戦よりも、こっちの方が面白いかもしれませんね。
配信情報
配信はDAZN、日本時間12/12(日)3:00の開始です。DAZNではプレリムスから配信、こちらは0:30からの開始のようですね。
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