信太のボクシングカフェ

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ボクシングが大好きです。大好きなボクシングをたくさんの人に見てもらいたくて、その楽しさを伝えていきたいと思います。

ポジショニングの極意。ウクライナ発、ワシル・ロマチェンコとオレクサンドル・ウシクが変えた、現代ボクシング。

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テレンス・クロフォードが天下をとり、それに続くのがジャロン・エニス。

2人のボクサーは今はまだ珍しいスイッチヒッターでありますが、彼らの活躍を目の当たりにした若いボクサーたちは、オーソドックスとサウスポーの垣根を超えていくトレーニングをこれから行っていくことでしょう。

センスも必要で、トレーニングの時間も必要ですから、このスイッチスタイルが主流になる、ということはないかもしれませんが、いずれにしろ、一つのスタイルとしては確立されていくものでしょう。

そうなってくると、BoxRecのStance欄にも、「Switch」というのが表示されるようになるのかもしれません。

さて、このスイッチと同様に、ボクシング界に大きな革命をもたらしたボクサーがいました。それはワシル・ロマチェンコであり、オレクサンドル・ウシクであり、ウクライナのボクサーたちです。

流れるようなステップワークを使う彼らのスタイルは、主流にこそなりませんでしたが、そのエッセンスはおおいに取り入れられており、とりわけポジションを変えるための素早いサイドステップで空間をつくり、アングルを変えるという手法は多くのボクサーの真似るところになりました。

ロマチェンコがプロボクシングの世界に激震を与えてからもう10年以上の月日が経った、という事実に驚きつつ、今回のブログはロマチェンコとウシクが起こした革命について。

Oleksandr Usyk pays tribute to Vasiliy Lomachenko

 

 

 

パワーだけがボクシングではない

なぜ、体格で劣るはずのオレクサンドル・ウシクがヘビー級の巨人たちを支配できるのでしょうか? なぜ、ワシル・ロマチェンコは相手に何もさせずに翻弄し続けられるのでしょうか?

その答えは、派手なKOシーンではなく、彼らの「足元」にあります。彼らは殴り合うのではなく、常に相手の「死角」を取り続けることで試合を制圧します。これこそがウクライナ流ボクシングの神髄であり、ポジショニングという名の"魔術"です。

ポジショニングが生み出す「絶対的優位」

では、ポジショニングの重要性とはどのようなところにあるのでしょうか。

① 相手の強打を無力化する

ボクサーのパンチが最も強く伸びるのは、相手の真正面です。ウシクやロマチェンコは、常にその「正面」から半歩ずれることで、相手に無理な体勢でのパンチを強要します。これにより相手のパワーを殺し、クリーンヒットを許さないのです。相手に体の正面を向けないことは、被弾面積を減らす基本的な防御であると同時に、相手の攻撃の起点そのものを崩す積極的な防御と言えます。

相手はサイドに動く彼らを見失い、見失わずとも体制を崩し、すでに強打を打てる体制にありません。「パンチを足で外す」ことはブロッキングやパーリング、ダック、スウェーといったどんなディフェンス技術よりも、最も安全な方法であり、さらに、彼らのポジショニングはパンチを出させることすらさせない、という至高のディフェンステクニックと言えます。

 

 

 

② 自分のパンチだけを当てる

相手のパンチは届かず、自分のパンチだけが届く「黄金の角度」を作り出すことがポジショニングの鍵です。特に、相手のリード(前手)の外側を取る動きは、必殺のポジショニングです。サウスポーの彼らがオーソドックスの相手と対峙する際、相手の左手の外側に回り込むことで、相手の強打である右ストレートを警戒しつつ、自分は安全な位置から攻撃を組み立てることが可能になります。

サウスポースタンスから相手の前足の外側を取る、というのは、至極当然のことですが、彼らは足の置き場所だけでなく、体までしっかりと入れ込み、自らの体の角度を変えることで相手に対して優位なポジショニングを確保しています。

その状態であれば、相手の攻撃が届かず、自らの攻撃を当てることができる、という状態になるのです。

③ 相手に「見えない」攻撃

相手の視界の外、つまり死角からパンチを打ち込むことで、反応すらさせずにダメージを与えることが可能になります。特に"ハイテク"の異名を持つロマチェンコは、この技術の真骨頂を見せます。彼は相手のガードそのものを利用して視界を塞ぎ、その隙にサイドへ移動して死角から攻撃します。結局のところ、ボクシングの「効くパンチ」というのは、相手が見えないパンチです。

ロマチェンコが強打を放つ、ということはほとんどないですが、軽打でも当て続け、相手を棄権に追い込んで「ノー・マス」勝利を量産していったことは記憶に新しいですね。

 

 

 

④ 精神を削るフットワーク

常に的を絞らせない動きで相手を追いかけさせ、空転させる。これにより、相手は肉体的だけでなく精神的にも疲弊していきます。アンソニー・ジョシュアはウシクとの初戦で、平均より40%も多いパンチを放ちましたが、ヒット率はわずか19%でした。的確なパンチを当てられず、スタミナと集中力を削られていくことは、ボクサーにとって大きなストレスとなります。

もともとメンタルが強くなかった疑惑のあったジョシュアは、ウシクに完全に心を折られ、今後の動向が心配されたものです。

二人の魔術師、そのポジショニングの違い

同じ哲学を共有しつつも、階級や個性の違いから、そのポジショニングのスタイルは異なります。

"ヘビー級の支配者" オレクサンドル・ウシク

彼のフットワークは、「絶え間ないサークリングと出入り」が基本です。常に動き続けることで、自分より大きくパワフルな相手に的を絞らせません。アンソニー・ジョシュア戦では、大きな相手の周りを回り続け、相手が打ち疲れたところに的確な連打を浴びせるという戦術が光りました。彼のフットワークは、巨大戦艦を翻弄する高速艇のようです。

 

 

 

"精密機械" ワシル・ロマチェンコ

彼のポジショニングは、より「爆発的で予測不能なステップイン」が特徴です。相手の攻撃に合わせて、一瞬でサイドに回り込み、死角から連打を叩き込みます。もともと対格差のあった戦いではありましたが、ギジェルモ・リゴンドー戦では、同じく天才と謳われた相手の周りをバレエのように舞い、全くパンチを貰わずに試合を棄権させました。彼の動きは、相手の思考の"裏"をかくマトリックスのようです。

ボクシングは、足で戦うスポーツである

ウシクとロマチェンコの戦いは、「殴り合い」というボクシングのイメージを覆し、いかにこの競技が知的で、高度な駆け引きに満ちているかを教えてくれます。

彼らの強さは、天性の才能だけでなく、父アナトリー・ロマチェンコから受け継いだ、気の遠くなるような反復練習によって培われたものです。アナトリーは息子ワシルに、ボクシングを本格的に教える前に、ウクライナの伝統舞踊や体操を徹底的に学ばせました。その目的は、ボクシングの根幹となる卓越したフットワークとバランス感覚を養うことにありました。この哲学は、当然のことながら、同じくアナトリーに学んだウシクにも受け継がれています。

彼らのボクシングを、一部分だけ真似る、ということについては、反復練習をすれば可能なことだと思われます。

 

 

しかし、ロマチェンコやウシクのように、非常にナチュラルにこれを実行するためには、彼らのように長く学べるような土壌が必要だと思います。そしてそれは、おそらく、今のところウクライナにしかありません。

ワシル・ロマチェンコが引退し、オレクサンドル・ウシクの現役生活もそこまで長くはないでしょうから、次に彼らのボクシングを昇華させてくれるボクサーは「次の時代」のボクサーなのかもしれません。

それは10年後か、それとも20年後か。

ともあれ、ウシクが現役でいる間はそのボクシングを愉しみ、そして引退した後は、この美しいボクシングの後継者をただひたすらに、待ちたいと思います。

 

 

 

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