10月29日、Life Time Boxing。
正直、実力差のあるカードばかりだと思ったので、さほど食指は動きませんでした。しかし、ABEMAには入りっぱなしにしているのに全然見る興行がないのでちょっと悔しいのと、そして井岡一翔が重大発表とのことなので視聴。
このカードでは致し方なし、とは思いますが、観客席は残念な客入りですね。

由良謙神(志成)
セミファイナルに登場した由良は、6勝(2KO)5敗というタイ人ボクサーとの一戦。このタイ人は昨年2月に来日し、由良と同門である高橋拓磨に初回KO負けを喫しています。
3勝(2KO)無敗の由良にとっては、もちろん勝ち方が問われる一戦です。
初回のゴング、ゆったりとした立ち上がりから由良の速いジャブ。タイ人はお世辞にも速いとは言えません。
中間距離で頭の位置を変える由良、タイ人はちょっと的を絞りきれないイメージ。
1分すぎ、由良が右のショートをガードの上から叩くと、もしかしてこれでダメージを受けたのかこのタイ人ボクサーは後退。その後、由良は右のボディを叩くとダウン。
その後由良がジャブを数発ついて、左アッパーをヒットすると2度目のダウン。試合終了。なんとも言えませんね。
由良謙神、1RTKO勝利。
大湾硫斗(志成)vsミカエル・ディアス(コロンビア)
前戦でWBOグローバルのタイトルを獲得し、WBOの世界ランクでは5位にランクインした大湾。かつてのホープは未だ日本では未冠ながらも、着々とステップアップしてきています。
対するミカエル・ディアスは7勝(4KO)5敗というノーランカーですから、大湾も勝ち方が問われる試合です。ただ、こういった南米のボクサーと対戦する、というのはどうあれ良いキャリアにはなるでしょう。
初回のゴング、がっつりベタ足のディアス、頭をふってジャブを突いてきます。トランクスが良いですね、シンプルなTITLE。
大湾はこのラウンド中盤に入ってから鋭いジャブを打ち始め、スピード差は歴然ですね。ただ、この柔らかい上体の動きと南米特有のリズムというのは大湾にとってもやりづらいはず。
しかしあまり反応が良いとは言えないディアスに対し、大湾は早々にコンビネーション。このコンビネーションに対してブロッキングしか芸のないディアス、随分と身体をブラされています。
2R、インサイドに入ってきたディアスに対して大湾は左のボディをリターン。スピードだけでなく威力も両者には随分と差がありそうです。
ディアスはさほど力強さも持っておらず、もはや後はディアスのタフネスのみが問題ですね。
上下の打ち分けが素晴らしい大湾、ディアスもおそらくボディスナッチは得意なのでしょうが、大湾はしっかりとガード。
後半にもコンビネーションでラッシュをしかける大湾、いくつも素晴らしいコンビネーションが出ますね。随分と余裕があるのでしょう。
3R、コンビネーションで煽った大湾、ディアスが前に出てきたところで右カウンター!これでディアスはダウン!
素晴らしいカウンターでしたね。
立ち上がってきたディアスですが、ここで大湾がラッシュ。左右を叩きつけながらディアスをロープに詰め、クリンチに逃げるディアスを気にすることなくラッシュを続けます。最後は右でディアスの顔面が弾かれると、レフェリーがストップ。
大湾硫斗、3RTKO勝利!
やるべきことをしっかりとやってのけた大湾。良いですね。
JBCが認可しているタイトル、日本王者は阿部麗也(KG大和)、WBOアジアパシフィック王者は藤田健児(帝拳)、そしてOPBF王者は中野幹士(帝拳)。中野はもうタイトル返上でしょうから、これで大湾がランキングを上げれば、現在5位につけるOPBFのタイトルは決定戦のチャンスにも恵まれるかもしれません。
来年が勝負の年か、非常に楽しみですね。
井岡一翔の「重大発表」
井岡が語ったのは、大きく分けて2つ。一つは、階級をバンタム級に上げ、日本男子史上初となる5階級制覇を目指すこと。そしてもう一つは、今年も大晦日のリングに上がることです。
5月にフェルナンド・マルティネスとの激闘の末に敗れ、王座返り咲きはなりませんでしたが、その試合でも10ラウンドにダウンを奪うなど、その実力が健在であることは証明済みです。試合後には現役続行を示唆していましたし、ここ1ヶ月くらいでしょうか、バンタム級の世界ランキングに入ったり、大晦日興行の話が出たりとしていたので、この報告自体は驚くべきことではありませんでした。
ただ、井岡が自ら口にした「最後の挑戦」という言葉は非常に重い。改めて思えば、36歳という年齢を考えれば、スーパーフライ級で再起を目指す道もあったはずです。しかし、彼はあえて体格的に不利になる可能性のある階級へのステップアップを選びました。これは単なる現役続行ではなく、自らのキャリアの最終章を、最も輝かしい形で飾るための、強い意志表明に他ならないと私は思います。守りに入らず、常に挑戦者の道を選ぶ姿は、やはり彼のボクシング人生そのものを表しているように感じます。
猛者集うバンタム
井岡が乗り込むバンタム級は、一時期、日本人ボクサーたちが4団体を独占していました。もともとは井上尚弥が一つにまとめた王座で、その後飛び散ったものを日本人ボクサーたちが集め直した王座。
そしてそこからも時は流れ、今は統一王者だった中谷潤人が転級、今現在は日本人世界王者はこの階級に1人もいない状態です。
WBA王者のアントニオ・バルガスは、本来12月に日本で休養王者、堤聖也と戦う予定でしたが流れ、12月はノニト・ドネアvs堤聖也となるとのこと。このドネアvs堤はおそらく暫定王座戦となり、その後バルガスvs「ドネアvs堤の勝者」でようやくWBAの王座がまとまる、という状態でしょう。なお、その後またWBAが暫定王座戦を組むかもしれませんし、その場合、WBAと関わりの深い志成ジムの井岡にオファーが来るかもしれません。まあ、この暫定王座戦は日本では認められないものなので、「5階級制覇」という目的を達成するものではないはずです。
WBCは那須川天心vs井上拓真で、IBFはホセ・サラス・レイジェスvsランディ・ギーケで王座決定戦、その後はトップコンテンダーとなるはずの増田陸が指名挑戦者として挑戦するはずです。
そしてWBOは武居を倒したクリスチャン・メディナ、いずれにしろ井岡一翔には厳しい道のりが待っていると言えます。
連打型のパワーファイターとは相性が良いとはいえない井岡一翔にとっては、もしかすると那須川天心vs井上拓真の勝者をターゲットにする、というのが理にかなっているのかもしれません。そうなれば日本国中は大盛りあがりです。
日本ボクシング史の新たな1ページは、井上尚弥とのレース
そして、井岡の5階級制覇挑戦というテーマには、もう一つ、非常に興味深い側面があります。それは、井上尚弥との「日本男子初の5階級制覇」をかけた、見えざる競争です。
ご存知の通り、井上尚弥もスーパーバンタム級の次にはフェザー級への転向、つまり5階級制覇が視野に入っているはず。おそらく、というかかなり高い確率で、井上尚弥は来年5月に予定されている東京ドームでの中谷潤人とのマッチアップをクリアすれば、フェザー級へ転級するはずです。
5月に中谷と戦い、9月というわけにはいかないでしょうが、遅くとも2026年末までには世界フェザー級王座への挑戦があるのではないでしょうか。そしてその挑戦は、これもかなり高い確率で実るのではないかと思います。
しかし逆に言うと、井上尚弥のフェザー級挑戦はどんなに早くても2026年の秋。ここに、井岡にとっての「好機」が生まれます。大晦日の試合をこなし、来年の前半にも世界戦にこぎつければ、井上尚弥よりも先に偉業を達成する可能性が十分にあるのです。
もちろん、これはどちらが優れているかという単純な話ではありません。絶対的な強さで階級を破壊していく井上尚弥の道と、卓越した技術と戦略で長くトップに君臨し続ける井岡一翔の道。二人のレジェンドが、異なるアプローチで同じ金字塔を目指しているという事実そのものが、今の日本ボクシング界の豊かさを物語っていると思います。
おそらくどちらのボクサーもさほど興味はないとは思いつつ、「日本人男子初の5階級制覇」という称号を手に入れるのは井上尚弥か、井岡一翔か。
異なる道をいく、当代きっての殿堂入り確実のボクサーたちのダービーに注目ですね。
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