さてさて、昨日の横浜BUNTAIは本当に熱かったですね。
実力差こそありましたが、松本流星にチャレンジし続ける高田勇仁の意地。
ベテランに挑み、そして勝った岩田翔吉のニュースタイル。
そしてレジェンドを切り裂いた、増田陸の鮮烈の左。
そのどれもが素晴らしかったですが、私の心に最も残ったのは、アンソニー・オラスクアガの強さです。
その強さは、もうP4Pの議論に出てきても良いのではないか、と個人的に思うほど。
粗さもあり、見方によっては不安定にも見えますが、あのオラスクアガの規格外のパワーはボクシングのロマンそのもので、現代的なボクシングが失いそうになっているエキサイティングがあります。
ということで今回のブログは、オラスクアガを中心としたフライ級について書いていきたいと思います。

WBO王者、アンソニー・オラスクアガ(アメリカ)
加納陸を倒してWBO王座を戴冠したオラスクアガは、ここまで5度の防衛のうち、3度を日本人ボクサーを相手にしています。
「日本人キラー」と呼ばれてもおかしくはありませんが、オラスクアガは我々日本人にとって「日本」側のボクサーですから、そうは呼ばれません。
飯村樹輝弥は本当によくがんばったと思います。圧倒的な攻撃力を誇るオラスクアガのあのプレス、あのスイング、外から見ていても身の毛がよだつものですが、飯村はそれを逃げ回る事なく、自らが勝利を手繰り寄せられる距離でしっかりと戦いました。
もちろん、それで12ラウンズにわたりオラスクアガと渡り合う、ということは至難の業。
寺地拳四朗との激闘から約3年、あの頃の粗削りな「トニー」はもういなくて、今のオラスクアガはもう「フライ級のモンスター」と呼んでいい段階に来ていると思います。
以前はパワーの爆発力で押しのめしてくる印象が強かったのが、今は相手のジャブを完璧に見切って、最小限の動きから最大の出力を引き出すという、非常に理知的なスタイルに仕上がってきました。
被弾こそあれど、ブン回している途中にもヘッドムーブ、ステップを駆使しており、力だけで攻めるようなことはもうありません。
その帝拳プロモーションのバックアップで日本を主戦場にしてきた彼ですが、V5という節目を越えたとなると、さすがにそろそろ「次のステージ」が見えてくる。防衛回数を伸ばすよりも、他団体のベルトを力ずくで取りにいく統一戦という選択肢が現実味を帯びてきましたね。
そういえば、WBO王者って5度の防衛で「スーパー」って冠がつくんじゃなかったでしたっけ。
個人的にはオラスクアガをここまで引き留めてきた日本での試合というのが、彼のキャリアにとってすごく重要な意味を持っていたと思っています。日本のリングで、日本のファンと向き合い続けることで磨かれた部分は確実にある。それが今の「完成形」に繋がっているのかな、と。ただ、こうした「居心地の良い場所」にいつまでも留まっていていいのかという問いかけも、彼自身が一番感じているはずです。
WBA・WBC世界フライ級統一王者、リカルド・サンドバル(アメリカ)
このフライ級戦線を語るうえで、今や避けて通れない名前がリカルド・サンドバルです。
2025年7月30日、当時WBA・WBC統一王者だった寺地拳四朗をスプリット・デシジョンで破り、一気にこの階級の「新支配者」として台頭しました。
正直、あの夜のインパクトは凄まじかったです。寺地拳四朗が「強くて崩しきれなかった」と語るほどのボクシングを見せたわけですから。
サンドバルの強さは突出した飛び道具があるわけではなく、基本に忠実なオールラウンドぶりにあります。ガードを固めながらジャブから丁寧にコンビネーションにつなぐ、その積み重ねでいつの間にか試合をコントロールしてしまう。相手に「何をされているかわからないまま負ける」という感覚を与えるタイプで、これは厄介極まりない。1999年2月生まれの27歳、まだまだピークを迎える前の選手です。
寺地から奪ったWBA・WBCの2冠を持ち、リングマガジンのフライ級ランキングでも1位に君臨するサンドバルが、次に向かう先はガラル・ヤファイとの団体内統一戦です。
WBC暫定世界フライ級王者、ガラル・ヤファイ(イギリス)
2024年11月30日、バーミンガムでサニー・エドワーズとWBC暫定王座決定戦を行い、6回TKOで圧倒。「難攻不落」と言われたエドワーズを完膚なきまでに粉砕したヤファイは、そのパフォーマンスで世界に強烈な印象を残しました。
当時私がプレビューで書いたように、このWBC暫定王座という存在にはツッコミどころがないとは言えません。正規王者の寺地拳四朗が負傷していたわけでも、試合ができない状況にあったわけでもない。エディ・ハーンの執念と、WBCのいつもの采配が交差した結果なのですが……まあ、そこはいつも通り「WBCだから」で済ませておきましょう。
ただ、ヤファイの実力そのものは本物です。東京五輪の金メダリストという肩書は伊達ではなく、サウスポーからの強いプレス、パワフルなコンビネーション。173cmという長いリーチを活かした左ストレートの威力は、この階級では規格外に近い。まだプロ10戦目前のキャリアで「底を見せていない」という怖さがあるのは本当のことです。
その彼と、サンドバルの入札が3月13日に行われ、ヤファイ側のマッチルーム・ボクシングが62万5,000ドル(約9,400万円)で落札しました。ゴールデンボーイ・プロモーションズの41万1,000ドルを大きく上回る金額。エディ・ハーンの「ヤファイを世界の頂点に押し上げる」という執念が、そのまま数字に表れています。
この一戦は単なるベルトの統合ではなく、勝者が3団体、4団体統一への「王手」をかける試合です。フライ級の覇権争いという意味では、間違いなく2026年で最も重要な一戦になる。
もちろん、ヤファイには大きな不安要素があります。
それは、もちろん昨年6月のフランシスコ・ロドリゲスJr.(メキシコ)戦で、PEDボクサーを相手に12Rを戦い、傷つけられた点です。
そこから9ヶ月、その心と身体のキズは、回復したのかどうなのか。
試合はノーコンテストとなりましたが、一度は「敗北」がついたヤファイは、しっかりと復活できるかどうかが今後のフライ級戦線を占う一つの鍵。
これはおそらく、リカルド・サンドバル戦で明らかになるのでしょう。
本当は拳四朗と戦ってもらいたかったですが、こればかりは致し方なし。この試合を楽しみに待ちましょう。
IBF世界フライ級王者、矢吹正道(緑ジム)
今、オラスクアガの対戦相手として、最も楽しみなのはこの王者です。
次戦の激突はない、それは矢吹正道が、自身のSNSで次戦が「6月」という言葉をすでに放っているからです。
矢吹正道のキャリアを振り返ると、本当に波乱万丈の一言に尽きます。あの寺地拳四朗をビッグアップセットで破り、リベンジされた後、IBFライトフライ級王者として返り咲き。
そして2025年3月、フライ級王者アンヘル・アヤラとの激戦を制して2階級同時制覇。その是非はともかくとして、日本人男子として史上初という偉業です。しかも、それだけでは終わらず、指名挑戦者のフェリックス・アルバラードを最終回KOで仕留めて初防衛まで成し遂げた。
戦うたびに強さを見せつける矢吹正道というボクサーは、心、技、体、全てが完璧に揃った今こそが間違いなくプライムタイムです。拳四朗第二戦では、拳四朗の猛アタックに心が折られたようにも見えましたが、今、同じ事が起こったとしても同じ轍は踏まないでしょう。
矢吹のボクシングは、豊富な試合経験に裏打ちされた「勝負強さ」に尽きると思っています。技術的なスケールで言えば寺地拳四朗の方が上かもしれない、サンドバルの方がオールラウンドかもしれない、でも「ここ一発で仕留める力」という点では、今のフライ級でも最上位に位置するのが矢吹正道です。
あのアルバラード戦の最終回、ダウンを奪った後の詰め方なんか、背筋がゾクッとしましたね。
ライトフライ級王者時代から「オラスクアガ」の名前を出していた矢吹。この先も目指す先は同じでしょうか。
矢吹vsオラスクアガ。万が一、これが6月に実現すれば5月の井上尚弥vs中谷潤人の熱狂が冷めやらぬ日本で、また歴史が動く瞬間になりますよね。
名古屋の緑ジムから世界に牙を剥いてきた矢吹が、帝拳の秘蔵っ子オラスクアガに挑む。あるいはオラスクアガが矢吹に挑む、ということなのかもしれませんが、いずれにせよかつて寺地拳四朗を倒したあの「矢吹正道」が、再び世界を震わせる準備を整えているのは間違いありません。想像するだけでゾクゾクします。
問題はたった一つ、「大人の事情」であることは現実的にあるのですが、これについては、長くボクシングを見てきた我々は納得セざるを得ないところ。
そろそろ、関わる大人たちは壁を取っ払ってもらいたい。
高見亨介、フライ級戦線に投下される劇薬
そして忘れてはいけないのが、4月11日の両国国技館です。
元WBA世界ライトフライ級暫定王者の高見亨介が、フライ級転向初戦の相手に前IBF王者アンヘル・アヤラを選びました。
アヤラは矢吹と激闘を演じ、初黒星を喫するまで無敗を貫いていたタフなファイターです。「転向初戦の相手がアヤラ」というのは、並大抵のことではありません。
那須川天心のアンダーカードという注目度の高い舞台で、あえて「楽な道」を選ばなかった。これはフライ級各王者への、わかりやすすぎる宣戦布告ですよね。
高見亨介というボクサーを改めて振り返ると、その強さに「底知れない何か」を感じさせる選手です。
ライトフライ級では減量苦ということもあったと思いますが、フライ級に上げることでその本来のポテンシャルが開花するのではないかという期待感を持っているのは私だけではないでしょう。
試合内容次第では、フライ級のランキングを一気に駆け上がり、世界挑戦も現実的な話になってくる。那須川天心の試合を見に来た観客が「なんだ、この選手は」となる試合を見せてくれれば、フライ級の物語は一気に複雑さを増します。
ほぼ同胞であるオラスクアガvs高見というのはいきなりはないにしても、サンドバルorヤファイvs高見、そしてともすれば矢吹vs高見。
誰に挑むとしても、大変に興味深いカードになりそうです。
フライ級、完全統一へのカウントダウン。
改めて整理してみると、現在のフライ級のベルト事情はこうなっています。
WBA・WBC:リカルド・サンドバル(アメリカ)
WBO:アンソニー・オラスクアガ(アメリカ)
IBF:矢吹正道(日本・緑ジム)
WBC暫定:ガラル・ヤファイ(イギリス)
まず、サンドバルvsヤファイの入札が決まり、WBA・WBCとWBC暫定の統合が確定的な流れになっています。いずれにしろ、まずは2冠王者が残ります。
これでサンドバルが勝てば統一戦は進むでしょうし、ヤファイが勝てば、イギリスから彼を出す事には苦労する分、統一戦は停滞するかもしれません。
残るIBFは矢吹正道が保持しており、WBOはオラスクアガ。
矢吹vsオラスクアガが実現すれば4冠のうちの2冠が統一され、その勝者がサンドバルvsヤファイの勝者と戦えば、ついにフライ級の完全統一が見えてきます。
2025年は、寺地拳四朗vsユーリ阿久井という日本人同士のWBA・WBC統一戦があり、その勝者の拳四朗がサンドバルに敗れ、ベルトが海を渡りました。
一方で矢吹がIBFを取り、オラスクアガがWBOを守り続けた、この流れのすべてが、2026年後半から2027年にかけての「4団体統一」というゴールに向けて収束しようとしている。
特に「高見という新たな劇薬」が投入されることで、この階級の物語はより複雑に、そしてよりエキサイティングなものへと変貌を遂げようとしています。
フライ級の主役は誰なのか。4月の高見亨介、6月の矢吹、そしてサンドバルvsヤファイのゴングが鳴る頃、その答えはより鮮明に、より過酷な形であぶり出されることでしょう。
ということで伝統のフライ級、今後も楽しみですね。
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