いよいよ明日に迫った、Prime Video Boxing 15。
あとは明日を待つばかりというところなのですが、前日のこのタイミングで少し先のことに思いを馳せてみたいと思います。「天心がエストラーダに勝ったら」という前提での話です。
ただその前に、一つ気になっていることがあります。
今回の試合前、那須川天心(帝拳)の記者会見でのピリピリ具合が、これまでとは一線を画すものだったように感じました。
余裕がない、というか、いつものあの飄々とした雰囲気が影を潜めていた。もちろん、ここで余裕がなくて当然ではあるのです。
プロ初黒星を経験し、再起戦でいきなり元世界2階級制覇王者との挑戦者決定戦という舞台。気が抜けるはずがない。ただ、気負いすぎることがベテランのエストラーダのペースに乗せられることに繋がらないか、という懸念は正直あります。
エストラーダは、ローマン・ゴンサレスとの三部作という歴史的な死闘を経験し、スーパーフライ級で世界の頂点に立ち続けた選手です。あの手のピリピリした若者を何人も見てきただろうし、焦りを誘い出すことに長けているとも言えます。
天心が本来持っているスピードと感覚の鋭さを最大限に発揮するためにも、まずは平静な状態でリングに上がってほしいところです。まずは明日、天心らしいボクシングが見られることを願いながら、その先の話に移ります。
さて、今回のブログは、天心がエストラーダを倒した後、次に待っているのは誰か、という話です。
↓プレビュー
エストラーダ撃破のあと
今回の試合はWBCが指令したエリミネーターであり、勝者はWBC世界バンタム級王者への正式な指名挑戦者となります。
現在のWBC世界バンタム級王者は井上拓真(大橋)。つまり天心が勝てば、次のターゲットは拓真への再挑戦という構図が自然に浮かび上がってきます。
ただし、その前に5月2日のTHE DAYがあります。THE DAYでは井上拓真vs井岡一翔(志成)のWBC世界バンタム級タイトルマッチが組まれており、この結果次第でシナリオは大きく変わってきます。
まず、拓真が防衛した場合。
天心がエストラーダに勝つということは、「ボクシングにおける経験値という壁を一つ超えた」ことを意味するのではないかと思っています。
前戦でのあの敗戦は、単純なスキルや体格の差というよりも、ボクシングというスポーツのキャリアが持つ重さのようなものに阻まれた部分があったのではないか、という気がしています。
拓真のあの淡々とした試合運び、距離の詰め方、序盤から終盤にかけての試合の変え方——あれはプロとして積み重ねてきた経験値そのものが形になったものではないかと思うのです。
一方のエストラーダは、拓真とはまた別の種類の経験値を持った選手です。ロマゴンとの三部作、フライ級とスーパーフライ級での2階級制覇、無数のビッグファイトをくぐり抜けてきた35歳のレジェンド。
このエストラーダを倒して得る経験値は、前戦で感じた「プロの壁」とはまた別の何かを天心に与えるのではないかと思います。その経験値を携えた天心が再び拓真と拳を交えるとしたら——「前戦とは違う天心」が「前戦と同じ拓真」に挑む構図になるわけで、これは前戦以上に興味深い試合になりうるのではないかと思っています。
個人的には、再戦となった場合ももちろん拓真を応援するのですが、この再戦は非常に見てみたいと思っています。天心がエストラーダ越えという経験値を積んだ上で、あの拓真と再び戦うとしたら、前戦の結果が全く別の意味を持ってくるのではないかという気がします。
そして、井岡一翔が拓真に勝利した場合。
これはこれで、非常に面白いシナリオが生まれます。天心がエストラーダという経験値の壁を乗り越えたとしても、さらにもう一段上の壁が待っているとすれば、それが井岡一翔ではないかと思っています。
かつて田中恒成を手玉にとったあの試合は今でも忘れられない、まさに井岡のベストバウトと呼べる内容でした。あのリングIQと経験の深さ、試合を支配するクレバーさ、そして局面局面での判断の正確さ——それは天心にとって、エストラーダとはまた異なる種類の壁になりうるのではないでしょうか。
エストラーダは「経験と実績の重さ」という壁、そして井岡は「試合巧者としての知性と老練さ」という壁——どちらもボクシングキャリアの蓄積がなければ持てないものですが、その性質は微妙に異なる。
天心にとってはどちらも乗り越えなければならない壁であり、「経験値の段階」という文脈で言えば、エストラーダをクリアした先にさらに大きな壁が聳え立っているという構図は、天心のボクシングキャリアの物語として非常に読み応えがあると思います。
いずれにしても、明日の結果によってどちらのシナリオに進むかが変わってくるわけで、5月2日のTHE DAYの結果と合わせて、夏から秋にかけてのWBCバンタム級の景色は大きく変わっていく可能性があります。
天心のその先
では、その先の階級はどうなるのか。
那須川天心はボクシング転向時から「世界王者になること」がゴールではない選手だと思っています。複数階級制覇、あるいは4団体制覇というのが世界王者になった後のさらなる目標として見えてくるタイプのボクサーでしょう。
キックボクシング時代に53戦無敗という圧倒的な記録を作り上げた選手が、なぜプロボクシングに転向したのか——その根底には「世界で戦える選手になりたい」というシンプルかつ強烈な欲求があるように思います。
その欲求が満たされるのは、バンタム級の一王者になることだけではないでしょう。
現時点で天心がどこまでの複数階級制覇を成し遂げられるかを明言することはできませんが、バンタム級に留まり続けた場合に浮かんでくる対戦相手として名前が挙がりそうなバム・ロドリゲスとの一戦は、なかなか実現しにくいのではないかと思っています。
バム・ロドリゲスは帝拳プロモーション所属の選手であり、ミスター本田(帝拳・本田明彦会長)は自分のジムが抱えるボクサー同士をぶつけることをそもそも好まない傾向があります。
このライジングスター同士の対戦を実現させるには、プロモーション上の構造的な難しさがある。アンチからすれば「逃げた」と騒ぐ向きも出てくるかもしれませんが、それはプロモーションの論理というまた別の話でもあります。
そんな中で、どこかで実現してほしいと個人的に強く思うのが、やっぱり天心vs武居由樹(大橋)です。
武居が今後スーパーバンタム級を主戦場にするのか、バンタム級に戻ってくるのかはまだわかりません。
THE DAYのセミファイナルで再起戦を行う予定であり、今後のキャリアの方向性はその試合の結果も踏まえて見えてくるのではないかとも思います。
ただ、この二人が互いに評価を下げてしまう前に、リングで交わる姿を見てみたい——そういう気持ちは強くあります。天心と武居、格闘技のトップランナーがそれぞれボクシングに転向し、ともに世界を目指して戦っている。
この二人の交差点がいつかリングの上に来るとしたら、それは日本のボクシング史において記憶に残る一戦になるのではないかと思います。
話は大きく広がりましたが、これらはすべて天心が明日のエストラーダ戦に勝つことが前提の話です。
エストラーダという壁を越えることで初めて、ここで書いたシナリオたちが現実の話として動き出す。
逆に言えば、明日の両国国技館は那須川天心にとって、そういう未来の入り口に立つ夜でもあるのかもしれません。気負いすぎず、しかし全力で——天心らしいボクシングで、大きな一歩を踏み出してほしいと思っています。
配信情報
この興行は、Amazon Prime Videoでライブ配信。
配信開始は4/11(土)17:00からなので、メインの那須川vsエストラーダが20:00過ぎ頃でしょうか。
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