5/19、ボクシングの日。
白井義男氏が日本人として初めて世界選手権を獲得した日を祝して制定されたこの日、サウジアラビアではヘビー級の4団体統一戦が、そしてアメリカではWBOのダブルタイトルマッチが挙行されました。
この2つの興行を見れたことは大変に幸福なことで、都合5つの世界タイトルマッチを視聴できて大満足の1日となりました。中にはつまらない試合(失礼)もありましたが、全てが名勝負足り得ないのもまた真剣勝負だからこそ。
という事で今回は日本時間5/19、2024年奇跡の1日となるかもしれない日の感想戦。
オレクサンドル・ウシクvsタイソン・フューリー
オッズは確かに競っていました。どちらに賭けてもその見返りは小さい、というほぼ50-50の戦い。
ただし、これはもしフューリーがフランシス・ガヌー戦で大苦戦していなければここまで競らなかったでしょうし、もしあの時フューリーがガヌーに負けていたならば大きくウシク優位と働いていたはず。
オッズとしては競っていたとしても、おそらくフューリーとの体格差をウシクが克服できるか、ということについては懐疑的な見方が多かったのではないか、と思っています。
タイソン・フューリーではウシクに勝てないだろう、と考えた人は少なく、ウシクならばフューリーに勝つ可能性がある、と考えたようなイメージで、応援や期待を込めての50-50だったように思います。
だからこそ、ウシクの勝利に沸いていると思うのです。
そしてこの試合は、終わった瞬間に2024年のファイト・オブ・ザ・イヤーだと感じるほど濃密で、最後までどちらに転ぶかわからない試合でもありました。
間違いなく、少なくともFOTYへのノミネートはされるでしょう。
序盤、最高のスタートを切ったウシク。対してフューリーも鋭いジャブを使い、コーナー際で挑発、非常にコンディションは良さそうでした。
ウシクの運動量がフューリーを凌駕していると感じた序盤、それでもフューリーの一撃は明らかにウシクを上回っており、怖さがありました。
中盤にはフューリーが長いボディを使い出すと状況が変わり、最大の特異性である「リーチ」という体格さを存分に活かした、遠くまで届く強いパンチ。ここにフューリーが活路を見出し、ウシクはかなり苦しくなる展開でした。
その後しばらくの間はフューリーが体格さを活かした戦いを続け、ウシクは徐々にダメージを溜めているようにも感じました。そしておそらく、このままの流れで終わってしまうのかもしれない、とも。
でもこの体格差を考えると、これでも十分によくやった、とも思っていました。
潮目が変わったのは8Rの終盤、フューリーの強打をもらいながらも一切の躊躇のないウシクが、綺麗なワンツーをヒットしてからです。
インターバルを挟んだ9R、前ラウンドから強い踏み込みのウシクが一気呵成に攻め立て、幾つもの連打の中でとてつもない着弾率、ダウンを奪取。このダウンシーンは声を上げたファンは多かったでしょう。
そこからのオレクサンドル・ウシクは、もはや「人を超越した何か」でした。
ウシクはヒグマにも勝てそうです。
中盤、ウシクは温存を図ってペースダウンしたわけではありません。
あの中盤は、フューリーが自らペースを奪い取った、というに相応しいパフォーマンスでした。
そして一度奪われたペースを再度自分のところに呼び戻す作業は、ウシクの持つ全スキルを誘導しての攻撃。この戦いはお互いに良いところを出し合い、それでもなお今回はウシクが上回った、という戦いだったのです。
2023年はルイス・ネリvsアザト・ホバニシャン、2022年はリー・ウッドvsマイケル・コンラン、2021年はタイソン・フューリーvsデオンテイ・ワイルダー。どの試合も拮抗した試合展開の中で勝敗が決している戦いです。(※いずれもリングマガジンのFOTY)
この戦いは、この中にあっていずれのものよりも勝るとも劣らない、最高の格付けの戦いなだけでなく最高の内容の戦いでした。
これを超える試合が今年執り行われるのか。もしそうだとすれば、2024年は伝説の年になるかもしれません。
ジョバニ・サンティリャンvsブライアン・ノーマンJr
この戦いもまた、本当に素晴らしい戦いでした。
ノーマークのブライアン・ノーマンが、突出したプロスペクトであるジョバニ・サンティリャンを10RTKO勝利。アップセットともいえる勝利で、23歳の若きプロスペクトが一気に世界タイトルを獲得しました。
しかもこの時のKO勝利は、2024年のKO オブ・ザ・イヤーではないかと囁かれているのです。
場所はカリフォルニア、メインイベントがあまり良い試合にはならなかったことから、この日、この興行で最も歓声を集めたのはこの試合となりました。
振り返ってみれば序盤からその兆候は現れており、ボリュームパンチャーであるはずのサンティリャンはノーマンのジャブになかなか近づくことすらままならず、入ろうとすれば右を叩きつけられていました。
サウスポーとオーソドックス、逆ならわからないでもありませんが、こうまでしてオーソドックスの何でもない右ストレートを食うものなのか、と不思議に思いましたが、とにかくノーマンのポジショニングが良かったことと、スピードとタイミングが素晴らしかったこと、そしてサンティリャンを躊躇させるだけのパワーがあったということなのでしょう。
とにかくこのノーマンJrというボクサーはタイミングに優れる上、スピードもあってパワーもある。さらには今回の戦いを見た限りではハートもフィジカルも強い。
非常に総合力が高いボクサーと言うことができると思います。
ただ、一般的に「総合力が高い」というのは突出したものがない、とも捉えられがちで、爆発力が少ないとの印象にもなり得ます。しかしこのノーマンJrは爆発力まであるのだから、かなり厄介なボクサーではないでしょうか。
このサンティリャン戦が過去イチの出来で、実力以上のものを出せたのかもしれません。
そうでなければ、ここまで大きな注目を集めなかったのが不思議なくらいのパフォーマンスでした。
序盤から素晴らしい動きを見せつつ、ポイントはピックアップしていたノーマン。それでもサンティリャンのしつこいアタックに劣勢を強いられる場面もあり、中盤にはややスローダウンしていたように見えました。初の12Rということで気合いが入りすぎ、もしかしたらオーバーペースで試合を進めてしまっていたのかも、とも思いました。
しかしここはおそらく少しの休憩のラウンドも入れていたようで、なんともまあ23歳なのにペースを操るという試合巧者だったのでしょう。私には、もう疲労もダメージも蓄積してしまっているようにも見えましたが、完全な勘違いだったようです。
最後にノーマンが爆発した10ラウンド、これは本当にお見事なアングルでのアッパー。サンティリャンのガードの感激を縫って、素晴らしいアングルのアッパーを打ち込むことで試合を終わらせたブライアン・ノーマンJr.。
なんともBrutalなKO勝利は、各所でKOTYだと話題になっています。
THESE REPLAYS ARE FIIIIIIILTHY. pic.twitter.com/roYuCPdGzH
— Top Rank Boxing (@trboxing) May 19, 2024
このボクサーがウェルター級に来ることで、一体何が起こるのか。
ウェルター級は、ここからが戦国です。
絶対王者テレンス・クロフォードが去る(と思われる)わけで、その後釜が続々と名乗りを上げている状況。
このブライアン・ノーマンJrも現在のところはWBO世界ウェルター級「暫定」王者となっているわけですが、この「暫定」の二文字は8月頃、取れる可能性が高い。
他にWBAにはエイマンタス・スタニオニス(リトアニア)というレギュラー王者が、そしてWBCには暫定王者のマリオ・バリオス(アメリカ)。さらに、IBF王者にあのジャロン・エニス(アメリカ)がいます。
スタニオニスとバリオスが29歳、そしてエニスが26歳と一気に若返ったと思っていたウェルター級は、ここに来て23歳のブライアン・ノーマンJrが加わります。
ただ、このノーマンJrは、例えばエニスのように、例えばスタニオニスやバリオスのように、実績ある強敵を倒してのし上がってきたボクサーではありません。あくまでもまだ立ち位置は「プロスペクト」の部類であり、だからこそ未知で、伸び代もある。
これからどのような戦いがウェルター級で繰り広げられるのか。ブライアン・ノーマンJrは、どのタイミングで、どの相手とその実力を証明してくれるのか。
まだまだこの中では「穴王者」、今後の王者の証明に期待したい。
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