サウジアラビアは、全てを可能にする。
少なくともボクシングという競技がビッグマネーを産むエンターテイメントとなってからというもの、「戦わざるライバル」が生まれたことは否めません。
そんな状況の中でも連綿と続いてきたこのボクシングという競技の底知れぬパワーには改めて驚かされますね。これまでが異常だったのか、ここからが異常なのか。
4KINGSの時代はリアルタイムで堪能できなくても、マイク・タイソンの全盛期に間に合わなくとも、つくづく良い時代に生まれたものです。今後、おそらく少なくともあと数年はこのサウジアラビアがビッグマッチを取り仕切ってくれることでしょう。
他の国々、特にアメリカはこの勢いに負けないように頑張って欲しいものです。
そんなわけでもう何度目かのサウジアラビア大規模興行、「Ring of Fire」のプレビュー。
5/18(土)サウジアラビア
世界ヘビー級4団体王座統一戦
オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)21勝(14KO)無敗
vs
タイソン・フューリー(イギリス)34勝(24KO)無敗1分
いよいよ、なのか、早くも、なのか。
ヘビー級の4団体統一戦なんていうものがこの二人の間で決まるとは到底思えませんでした。これはやるやる詐欺になるだろうと。
例えばマイク・タイソンのような絶対的なタレントがいる場合にのみ決まるのだろうこのメガマッチは、アンソニー・ジョシュアvsタイソン・フューリーであれば決まった可能性があるもの。
ただ、これがウシクとなるとその可能性は低い。
そう思ったファンは多かったに違いありません。そこがボクシング興行の歯痒いところだと。
ただ、それはサウジアラビアのトゥルキ・アラルシク氏により簡単にひっくり返され、あっという間に試合日程が決定。一度の延期こそ経たものの、すんなりとこの日を迎えることになりそうです。
身長206cm、リーチ216cmという大型ヘビー級、タイソン・フューリー。ここまで大きければ鈍くて然るべきですが、このフューリーは速い。素晴らしいジャブを持つフューリーは、ただそこに立ってジャブを突いてさえいればもうそれだけで近寄れるボクサーは少ないのですが、それにプラスしてあの巨体に見合わぬフットワークをも持っています。
ボクサーとして恵まれた長い手足、ヘビー級として恵まれた巨躯を誇るフューリーの唯一の弱点はメンタル面。パフォーマンスにムラがある、というのは周知の事実ではあるものの、このビッグマッチにおいてそれが出る可能性は低いとも言えるでしょう。
そして3団体統一王者として迎え撃つのは、オレクサンドル・ウシク。
イマイチ何を考えているのかわからないウシクは、非常にお茶目な部分もありつつ、眼光が鋭くとにかくボクシングスキルに長けています。
ウクライナ出身、ワシル・ロマチェンコと同世代のウクライナ代表であり、アナトリー・ロマチェンコに薫陶を受けているウシクは、当然のように豊富な運動量を誇るボクサー。今回は(ロマチェンコが前週オーストラリアで戦っているということもあり)おそらくアナトリーに師事を仰げなかったのではないかと推察しますが、このウシクのメンタルたるや恐ろしいものであり、そのことを差し引いても安定的なボクシングを展開するはずです。
世界ヘビー級王者という肩書きは、時にそのメンタルを崩壊させます。
マイク・タイソン然り、タイソン・フューリー然り、アンソニー・ジョシュア然り。これらのボクサーは複数のタイトルを持つことで、もしくはその複数のタイトルを失うことでそのメンタルを崩壊させ、そこから立ち直るのにかなりの時間を要しています。
しかしどうでしょうか、オレクサンドル・ウシク。
さすがに体格差が、と言われたジョシュアに完勝し、その後のダイレクトリマッチでも完勝と言って良い内容。
彼のメンタルは全くブレることはありません。
ヘビー級の4団体統一、かつてない偉業がかかったこの試合、しかも自国は未だ戦争の真っ只中。おそらく今回も大きな決意を持って臨む一戦、ここはウシクを応援したい。
ウシクの勝ち筋はどこにあるか、といえばやはりインサイドワーク。
身長191cmのウシクのパンチをフューリーに届かせるには、かなり深く入らないといけません。そこに待っているのはフューリーのジャブであり、ストレート。これを掻い潜って中に入らないことには勝負にならず、それにはフューリーのパンチをしっかりと見切った上でかわしながら入らないといけません。
この身長差15cm、と同じくらいのリーチ差というのは大きなディスアドバンテージ。
それでも何とか、ウシクに勝ってもらいたいですね。
オッズはウシクが+100、フューリーが-110とかの50-50で、拮抗しすぎていて賭けにならないレベル。ここまで競っていることはほぼありません。
とはいえ、やはり「でかい方が勝つ」が自然の摂理なので、フューリーが優位というのは動かないように思えます。おそらくオッズが拮抗しているのは、前戦でフューリーがフランシス・ガヌーにダウンを奪われ、負けそうになったことに起因している気がします。
IBF世界クルーザー級王座決定戦
ジャイ・オペタイア(オーストラリア)24勝(19KO)無敗
vs
マイリス・ブリエディス(ラトビア)28勝(20KO)2敗
さて、co-mainイベントは元IBF世界クルーザー級王者同士のリマッチです。
ジャイ・オペタイア、オーストラリア最後の砦とも言うべきボクサーは、12月のサウジアラビア興行に登場し、無敗のエリス・ソロ(イギリス)を相手に初回KO勝利。
マイリス・ブリエディスはというと2022年7月にオペタイアにタイトルを奪われて以来の復帰戦となっており、なぜこの二人が王座決定戦を戦うのかは謎です。
ブリエディスはかつてWBSSの準決勝でオレクサンドル・ウシクに敗北、しかし第2シーズンのWBSSで優勝。第1シーズン優勝のウシクは4団体統一王者となったのに、第2シーズン優勝者のブリエディスの手元にはIBFベルトのみ、というのはなかなか盛り上がりに欠けますが、その後絶対優位と思われたオペタイアに敗北、そこから試合をしていなかったとなると今回ブリエディス優位とはならないでしょう。
オペタイアはオーストラリアからほとんど出なかったががめに、ブリエディスに勝利するまで世界的には無名のボクサーでしたが、当時クルーザー級最強と謳われたブリエディス相手に殊勲の勝利、初防衛戦では当時無敗のジョーダン・トンプソン(イギリス)を敵地イギリスで4RTKO、その強さを見せつけています。
しかし2度目の防衛戦の際はブリエディスとのリマッチをIBFから指示され、これを無視。
防衛戦を強行したことでIBF王座は剥奪の憂き目に遭ってしまいます。これはたとえ王座を剥奪されたとしてもサウジアラビアでの戦いの報酬が桁違いだった、ということに起因しているようですね。
ともあれ、このオペタイアvsブリエディスは、すでに決着のついた戦いです。
↓第一戦の観戦記
はっきり言って、両者のスタイルから展開は変わらないでしょう。
オペタイアは王者となって自信をつけ、稼げるようになって夢を抱き、さらにようやく人気の出てきたオーストラリアに世界のベルトがない状態、を鑑みると、気合いのノリが想像できます。
対して2年近くぶりのリングとなるブリエディス、どこまでくらいつけるか。
IBF世界スーパーフェザー級タイトルマッチ
ジョー・コルディナ(イギリス)17勝(9KO)無敗
vs
アンソニー・カカス(アイルランド)21勝(7KO)1敗
ホグワーツ、もといウェールズ出身の魔法使い、ジョー・コルディナ。尾川堅一(帝拳)を見事な右ストレートでノックアウトして王座を獲得、その後シャフカッツ・ラヒモフ(タジキスタン)、エドワード・バスケス(アメリカ)というゴリゴリのファイターに対して薄氷の勝利。もしかするとあまり世間の評価は高くないのかもしれませんが、いずれにしろ難敵を相手にサバイブしています。
おそらくはもともとキレとタイミングで倒すタイプのカウンターパンチャー、それでも前に出れるハートの強さを持ち、フィジカルモンスターを相手にも渡り合っているので、総合力は高いと見ます。
対するはアイルランドのアンソニー・カカス。英語実況を聞くとカカチェと呼ばれていますが、日本語表記では多くの方がカカスと表記していると思うので倣います。
あまり試合を見たことがないのでなんとも言えませんが、かなり距離の長いタイプのサウスポー。ラヒモフやバスケスと比べるとフィジカルはさほどでもないようなイメージですが、やや前傾の構えから伸びてくる左ストレートはかなり遠くまで届くようなイメージですね。
IBOの世界スーパーフェザー級王者という肩書きを持っていますが、このタイトルはあのマイケル・マグネッシ(イタリア)を降して手に入れています。
ここはコルディナも得意としている中間距離の戦いとなるのではないでしょうか。
イギリスvsアイルランドというライバル対決は本来イギリス本土でやれば大いに盛り上がる戦いですが、それをすらサウジアラビアに呼び寄せるのがサウジパワーですね。
当然ここはコルディナが優位、相性的に圧勝やKO勝利とまではいかなくても完勝という戦いを見せて欲しいところ。
がんばれ、コルディナ。
【配信情報】
この興行は、日本時間5/18(土)23:00からDAZNで生配信。
かつて「PPVファイトは死んだ」と言ったDAZNのもう何度目かのPPVファイトですね。
日本ではたったの3,000円、国民性をよく理解してくれた値段だと思います。
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