素晴らしいマッチアップや素晴らしい試みでいつも我々ボクシングファンを湧かせてくれるA-SIGNとDANGAN。そんな日本ボクシング界の「龍」と「虎」がはじめて手を組んで行う興行が今回の「A-SIGN&DANGAN」と銘打たれて行われた興行です。
たった4試合、それも何のタイトルも絡んでいないのですが、その全てが非常に興味深いマッチアップであり、チケットは完売したそうです。
そして当然といえば当然なのですが、この試合映像をこれまでも提供し続けてくれたふたつのプロモーター同士の興行は、PPVで生配信。
今回のブログでは、10/30(土)に行われたA-SIGN&DANGAN興行、その観戦記です。
↓プレビュー記事
10/30(土)A-SIGN&DANGAN
63.0kg契約8回戦
藤田裕崇(三迫)7勝(6KO)1敗
vs
富岡樹(角海老宝石)7勝(2KO)4敗1分
王者クラスの力を持つ日本ランカー富岡に、中日本新人王の倒し屋、藤田が挑むという構図。富岡は今回、角海老宝石ジムに移籍しての初戦。洪トレーナーのもと、ファイタースタイルへのスタイルチェンジを試みているという話。
しかし、そのファイタースタイルを試すには、藤田裕崇というボクサーはあまりにも危険。1階級上のハードパンチャー藤田相手に本当にファイタースタイルでいくのか??
入場、金髪の藤田。今日限りでしょうか。。。リクルートという会社は金髪OK?
初回、当然のようにプレスをかける藤田。ジャブがよくでており、ジャブから右アッパーのコンビネーションが素晴らしい。
富岡はいつもと違いハイガードスタイル、そして自由自在なステップワークは封印し、どっしり目に構えています。藤田のジャブをパリングとブロッキングで受け止めて左ボディ、そしてやはりジャブは良い。
2R、よりプレスを強める藤田。富岡も押されないように受け止め、ジャブを放ちます。初回よりもやや距離を近くしたのはやはり打ち合いへ突入する伏線か。藤田は全弾フルスイング、富岡は藤田の入り際にジャブを放ち、藤田のフルスイングにはブロッキングで対抗しますが、このブロッキングは正解か、否か。
3R、富岡のジャブはバンバン当たりますが、まったく意に介さない藤田。この藤田のメンタルとフィジカルの強さ、パンチの強さは本当に素晴らしい。
常にクロスレンジの打撃戦、富岡も足を使って距離を取ろうとはしません。代わりにサイドステップを駆使して、様々なアングルから攻めようとしています。それにしても藤田のフルスイングは迫力十分、怖さ満点。
このラウンド、藤田のパンチにより富岡が左眼下をカット。アッパーでしょう。
4R、富岡は左ボディで藤田の動きを止め、その後もラッシュを仕掛けます。この辺りの回転力は富岡の方が上ですね。
しかしその富岡の攻勢を真正面から受け止めて耐え忍んだ藤田は、後半に入って逆襲!富岡のボディと藤田のアッパーの打ち合い、とんでもない大激戦!
5R、クロスレンジでのパンチの交換!藤田はおそらくボディにダメージを抱えていますが、とにかくパワーパンチがよくでます。富岡はそのパワーパンチをブロッキングで受けますが、身体が泳いでしまいますね。
少し離れれば富岡が素晴らしいジャブを打つぶん、クリーンヒットの数では上回る印象。
6R、どのラウンドもそうですが、開始と同時に両者がリング中央に駆け寄り、打ち合い。一発のパンチングパワーに勝る藤田は渾身のパンチを振るい続け、機動力と技術に勝る富岡はサイドからの攻撃とコンビネーションに活路を見出します。
前ラウンドは富岡が上回りましたが、このラウンドは藤田のアッパーがよく当たっている印象です。
まさに、一進一退の攻防。
続く7Rもよく手がでる藤田。サイボーグのような体つきの藤田、その体を目一杯使って富岡のボディへアッパーを押し込み、雑になりながらもとにかく休みません。
逆に富岡はボディヘのダメージなのか疲労なのか、やや手がでません。
ラストラウンド富岡は足を使い、速いジャブ、左のロングフック、下がりながらの右カウンター等従来の戦い方に近いボクシング。
懸命に追いかける藤田は闘争本能の塊。追いかけながらも手数は衰えず、ダメージをいとわずパンチをふるい続けて、ラストラウンド終了のゴング。
判定は77-75、75-77と割れ、最後のジャッジは77-76で藤田を支持。
藤田裕崇の2-1判定勝利!!
これは本当にどちらが勝利していたか、わからない試合でしたね。富岡は再起に失敗、自分のボクシングを封印し、ファイタースタイルへのスタイルチェンジを求めましたが、この試合では結果はついてきませんでした。
やはりこの藤田相手に、スタイルチェンジは非常に危険でした。富岡陣営としては、このパンチングパワーに秀でた一階級上のホープを降す事ができれば、富岡のスタイルチェンジは成功、と見ていたのかもしれませんが、目論見が外れてしまいましたね。
しかし、内容的には互角、フィジカル、パワーに秀でた相手に対してよく戦ったと思います。
この富岡のスタイルチェンジが成功か失敗かは、まだわかりません。この先、インもアウトもこなせるボクサーになった時にこそ、その成否はわかるのだと思います。
富岡はこれで7勝5敗1分、戦績としては平凡。しかしここからの大きな巻き返しに大いに期待したい。今日の敗戦は、そのための布石だと思っています。
そして勝利した藤田。このボクサーの試合は本当におもしろい。ガンガンと攻めるスタイルは、おそらく身体に溜め込むダメージも多く心配ではありますが、これでおそらく日本ランキングを獲得。
おそらくスーパーライト級でのランク入りとなると思いますが、スーパーライト級の王者はあの平岡アンディ(大橋)。すぐにタイトル挑戦とはいかないでしょうが、この階級にはアオキ・クリスチャーノ、岡田博喜の角海老勢、世界挑戦経験者の近藤明広(一力)等々強豪がたくさんいます。佐々木尽、湯場海樹も黙っていないでしょう。
藤田の今後も大注目ですね。
スーパーフェザー級8回線
渡邉卓也(DANGAN AOKI)37勝(21KO)10敗1分
vs
三瓶数馬(協栄新宿)20勝(9KO)6敗
煽りVが既に良い人そうな両者の対戦。歴戦の雄、渡邉と、同じく歴戦の雄、三瓶。ともに諦めない日本ランカー同士の一戦は、激闘が予想されます。
初回、様子見はさほどない状態から渡邉が仕掛けます。サウスポー三瓶に対して有効な右ボディストレート。前手で幻惑し、顔面にも巧く右ストレートをヒットするという展開。
渡邉のパンチ、特にストレート系のパンチにやや反応しきれていない三瓶、しっかりと狙って右をコネクトする渡邉。渡邉の軽く打つ右ストレートの、サウスポーへの当て勘が素晴らしすぎます。それをボディに持っていくパターンもあり、三瓶は既に苦しい。
2R、三瓶はよくジャブをつくようになりました。セコンドの指示でしょう。しかし、やや渡邉の正面に立ちすぎ、そうするとすぐに渡邉の右が飛んできます。三瓶の大きなパンチを外して右を当て、その後も右を当てると三瓶は尻もちをつくダウン!
再開後はチャンスとばかりに連打を叩き込む渡邉、三瓶はダメージがありなかなか打ち返せません。その後も渡邉の右でぐらつき、ロープに詰められる三瓶は、懸命にサバイブするものの、このラウンド終了ゴングとほぼ同時にレフェリーが試合をストップ。
渡邉卓也、2RTKO勝利。
終わってみれば圧勝のTKO劇、渡邉の出来が素晴らしかったですね。詰めに行った時の連打も見事で、上下の打ち分け、最後のストレートの連打なんかは本当に練習していなければ出ないパンチでしょう。
前戦では初のKO負けを喫した渡邉は、ここからまた再浮上なるか。ランカー対決の勝利で、また日本ランクは良い位置につけられそうですね。
53.0kg契約8回線
千葉開(横浜光)13勝(8KO)2敗
vs
高山涼深(ワタナベ)4勝(4KO)無敗
このセミファイナルは、メインを喰う可能性が大いにある試合。評価の高い千葉開、そして大器、高山涼深。
千葉は中嶋一輝戦、敗れはしたものの評価を下げるような内容ではなく、一時の不振を打ち破ったことは明白。そして高山はまだ底を見せず、あっという間のKO劇で日本スーパーフライ級10位まで駆け上がってきたボクサーです。
初回、高山のボディジャブからスタート。プレスをかける高山ですが、強引には行きません。ジャブや左ストレート、左オーバーハンドを飛ばし、様子見。
千葉はサークリングしつつジャブ、高山の打ち終わりにリターン。終盤、攻勢をかけた高山。
2Rも中間距離での落ち着いた攻防。高山はパワーパンチャーのイメージですが、非常にクレバー。距離をしっかりと把握し、プレスをかけて千葉を下がらせつつ、千葉の攻撃にあわせて距離ではずす等、巧さを発揮します。
3R、開始早々、高山が左ストレートでダウンを先取。千葉はダメージはなさそうですが、足がそろったところにもらってしまいましたね。
中盤、右フックのヒットから攻勢をかける高山!しかしここで千葉が逆襲、千葉の起死回生の左フックで今度は高山が下がります!!大きなダメージを負った高山、残りの時間は1分以上!!!
かなりのダメージを抱えていそうな高山ですが、ダウンは断固拒否、足に力が入っていませんが軽いながも打ち返します。
ダウンを奪った方がダメージが残る、とんでもないラウンドが終了。
4R、高山は先程よりは回復したように見えますが、まだ足取りは怪しい。自然と高山はプレスが弱くなり、千葉が逆にプレスをかけます。
高山の左ストレートはクリーンヒットしますが、少し力が入っていないように見えます。千葉も右ストレートをヒット。利き手のストレートの打ち合いです。
5R、千葉はここにきてジャブをよく出し、高山が手を出したところでその打ち終わりにしっかりと踏み込んでいきます。
千葉は序盤に比べ、かなり戦いやすくなってきた感じがしますね。ただ、高山も徐々にダメージからは回復してきており、ヒリヒリした展開が続きます。
そして終盤、左の相打ちで千葉がまたもダウン!立ち上がった千葉に対して高山はラッシュ、ここは千葉は持ちこたえます。
6R、ポイントはかなり厳しい千葉、鋭い踏み込みのワンツーで攻め込みます。高山は若干余裕が出てきたか、サークリングして千葉の攻撃をいなします。
そして千葉が入ってくるところに左ストレートをヒットし、千葉はバランスを崩します。
千葉の鋭い踏み込みに対して、見事なステップでのディフェンスワークで外し、高山は完全復活。このラウンドは巧くボクシング、千葉はもう倒すしかないかもしれません。
7R、サークリングしながらボクシングをする高山ですが、ふたりのボクサーはリングの中央から殆ど動かず、パンチの交換をしています。美しい試合です。
ともにクリーンヒットを奪い合い、このラウンドは比較的千葉の右が当たっているような感じがします。
ラストラウンド、行くしかない千葉はプレス。千葉は中盤に右フック、アッパーを決めて、ガードを固めて前進。高山はその千葉をいなし、千葉の打ち終わりにパンチを出します。
終盤は打撃戦、ともにベストショットの交換、これは素晴らしい力比べ状態。
倒しに行く千葉、それに応えた高山!
素晴らしい一戦は、8Rでは足りません。いつかまたタイトルが絡んだ試合で見たいですね。
判定は、76-75、77-74、77-73の3-0の判定で高山涼深。
2度のダウンを奪った高山ですが、結構追い上げられていましたね。千葉はこれで連敗となりましたが、やっぱり評価は落とさず。
高山にとっても大変苦しい試合だったとは思いますが、地力の強さを示しましたね。ただの倒し屋というだけでなく、その基礎的技術の高さ、クレバーさ、そういったものを見せてくれました。初の8Rを戦い抜いた高山、本当に良いキャリアになったと思います。
そして千葉は残念でしたが、また一歩及ばず。善戦続きながら、やはり勝利がほしいところでしょうね。連敗というのは精神的にもキツいと思いますが、再起に期待したいものです。
日本ライト級挑戦者決定戦
利川聖隆(横浜光)13勝(7KO)5敗
vs
鈴木雅弘(角海老宝石)6勝(4KO)無敗
そしていよいよメインイベント、前日本スーパーライト級王者、鈴木雅弘と、トップコンテンダーの位置をキープし続けた利川。
心情的には苦労人ともいえる利川を応援したくもなりますが、やはり鈴木の可能性に期待したい。
ゴング。まずは鈴木のジャブが速い。まずはともにサークリングしながらジャブの差し合い。後半に入るとやや距離が詰まる展開になり、鈴木の左ボディから左フックという得意のコンビネーションが利川にヒット。
2Rに入ると、やや利川がプレスを強めたように見えます。ワンツーで攻め込みます!
しかしそのワンツーの打ち終わりに、鈴木の左フックがヒット、利川がダウン!!
立ち上がった利川はそれでも後退はせず、しっかりとプレス。ただワンツーの打ち終わりの左フックは狙われています。
3R、相変わらず鈴木の左フックのタイミングは非常に怖い。中盤には右フックもヒット。
利川は本当に基本通り、そして豊富な練習量を感じさせる丁寧なボクシングで抵抗しています。
しかし鈴木は非常に冷静、力強い右ボディ、そして左フックアッパー等のパンチを利川にコネクト。
4R、中間距離での攻防は、やはり鈴木が上。サークリングして力を抜いた状態から、一気に力を込めて左フックを振るい、右ストレートを打ち抜きます。
しかしここに来て利川が鈴木のパンチの軌道に慣れてきたのか、鈴木のパンチは利川のブロッキング、ステップで外される場面も目立ちます。
5R、展開は変わらない中ですが、後半に鈴木の右アッパーがヒット。それでも退かない利川に今度は強いボディをヒット。
その後も右ボディから左ボディ、そして顔面への左フックというコンビネーションを効かせて優位に立った鈴木。ストップはもう時間の問題か、と思うのですが、利川もラウンド終盤に連打を仕掛け、意地を見せます。
6R、勝負をかけるか利川、頭を下げて前に出ます。鈴木は強い左ボディ!しかしガンガン前に出てくる利川の攻めにバランスを崩した鈴木、そこに利川の右が入りダウン宣告!!!
ダメージはなさそうですが、ダウン判定は鈴木も不運。
その後攻勢をかける利川、鈴木は強いパンチを放っていくもののやや疲れがあるのか、かなり雑になってしまいます。
7R、利川の手数は全くもって衰えません。鈴木のパワーパンチは派手ながら、やや手数が少なく、今は少し雑。
細かいパンチをコツコツ当てる利川、鈴木は強い一発に頼る状態、鈴木はかなり空振りが目立ち、スタミナもかなりきつそうです。
最終盤、強引に振っていく鈴木に対して、利川の右ストレートがクリーンヒット!
ラストラウンド、やはりグイグイ前に出てコツコツ当てる利川、鈴木は強引に振り回していくものの見た目に反してどれくらいの力が入っているのか。そして大いにミスブローが目立ち、ミスしたところに利川のボディが入ります。
これはまた本当に素晴らしい大激闘、手数は確実に利川、一発の見栄えは鈴木か。
序盤から中盤にかけては鈴木が地力の差を見せつけてプラン通りに戦っていたように見えましたが、後半のダウンを奪い返して以降、完全に盛り返した利川。
判定は、76-74、利川。76-74、鈴木。76-74、鈴木。
利川はこの一戦にかけていた、そんなボクシングを展開しましたね。素晴らしい戦いでした。特に後半の追い上げは、本当にすごかった。やはりライト級で長く戦ってきたトップコンテンダーは伊達ではなく、非常に評価の高い鈴木雅弘を相手にこの大接戦を演じたことは、利川にとっても今後大きな自信につながるのではないか、と思います。
鈴木はやや気持ちの弱いところがまた出てしまった、というところですが、なんとか生き残ったというのも事実ですし、やはりこの接戦を勝ち切る力のあるボクサーです。そして結局諦めないところはもしかするとハートは強いのかもしれません。
勝利者インタビューで、「一度チャンピオンになって甘えがあったのかもしれない」とかたった鈴木にとって、この一戦はまた非常に経験となる一戦になったはず。
見事に生き残った鈴木雅弘、この試合のみを見ると3冠王者、吉野修一郎とのチャンピオン・カーニバルは、吉野優位が大方の予想となるでしょう。
吉野の3冠に挑戦するのであれば、12Rの戦いとなります。戦い方も含めて、スタミナ、ハートの強さ、様々をレベルアップしなければなりません。
ここ一番で大きく力を発揮しそうな鈴木雅弘、是非より強くなって吉野と戦ってもらいたいですね。
しかし全4試合、本当に素晴らしい試合でしたね。こういった「注目のマッチアップ→素晴らしい好試合」というのだとPPVで2,000円なんて安いもんだ、と思います。終わってみれば、の話ですが。
セミもメインも、そして第一試合も、判定決着ではあったものの、最後の最後、判定が出るまでどっちが勝ったかわからない、本当に大接戦に次ぐ大接戦。
この試合を組んだ横浜光ジムの心意気は素晴らしいですね。セミファイナルの千葉開、メインの利川聖隆(こちらは挑戦者決定戦ではあったものの)、ともに下馬評としては有利と言えない中、予想以上のがんばりを見せてくれました。
勝者だけでなく、敗者も輝く、これぞまさにボクシング。本当に堪能させてもらいました。今後も国内ボクシングの雄、DANGANとA-SIGNには期待したいです。
しかしこれ、映像見るだけでも無茶苦茶疲れました。4試合なのに。ずっと身体に力が入っていた感じです。現地観戦の方は、もっとでしょうね。。。