さて、前日に日本では矢吹正道の出場するIBF世界ライトフライ級挑戦者決定戦が行われましたが、この週末でも最も注目なのはアルツール・ベテルビエフが登場するこのイギリス興行。
アメリカではESPNが放映するこの興行は、パーフェクトレコードを持つベテルビエフが、指名挑戦者、アンソニー・ヤーデを迎えるという大変興味深い一戦。
この試合をWOWOWオンデマンドが生配信、ということで今回はこのベテルビエフvsヤーデをメインに据えた、トップランク興行の観戦記です。
1/28(日本時間1/29)イギリス・ロンドン
WBA世界フライ級タイトルマッチ
アルテム・ダラキアン(ウクライナ)21勝(15KO)無敗
vs
デビッド・ヒメネス(コスタリカ)12勝(9KO)無敗
アルテム・ダラキアンが無敗の挑戦者、デビッド・ヒメネスを迎えるWBA世界フライ級タイトルマッチ。ほぼ自国からでていないダラキアンが、イギリスまで出張ってきた事は非常に珍しい事ですが、これを機にアクティブな王者となってほしいものです。
個人的には、変幻自在なボクシングとパワーをかけ合わせたボクシングを展開するダラキアンについては、フライ級最強だと思っていますが、何せブランクを作りまくっているために評価は一向に上がりません。今戦は、無敗挑戦者を迎え、どのようなボクシングをみせてくれるのか。
初回、リング中央に陣取ったダラキアン、低いガードから鋭いジャブ。ヒメネスはしっかりとガードを上げていますが、その間隙を縫ってダラキアンは飛び込んでの左フックをヒット。
これでスイッチが入ったわけではないでしょうが、ヒメネスは一気にプレスを強くし、ガードは上げた状態からグイグイ攻め込みます。
2R、引き続きヒメネスは強いプレス。しっかりとガードを固めて頭を振り、ダラキアンはバック、サイドに動きつつ対応します。
中間距離ではアングルを自由自在に変えてリードを放つダラキアン、近い距離ではクリンチワーク。やはり巧い。
後半はダラキアンがプレスをかけつつ、ヒメネスの出方にあわせてカウンターを狙っているように見えます。
3R、ヒメネスはかなり低い位置から入っていきますが、ダラキアンの右フックを被弾。なかなか近寄れないヒメネス、近づいたと思ったらダラキアンのクリンチにやられます。
4R、ヒメネスは非常に良い動きと強いプレスがありますが、ダラキアンのステップワークとボディワーク、ジャブ、左フック等のリードにより、なかなか自分のボクシングをさせてもらえないか。
それでも諦めないヒメネスは強いプレス。小走りになるような前進を繰り返し、これにはダラキアンも辟易としている感じ。後半、ダラキアンの左フックでバランスを崩したようにみえたヒメネスですが、ここでも全く前進の力は弱まらず。
5R、ダラキアンのジャブ、に対してヒメネスは激しいボディワーク。ボディワークでフェイントを賭けてプレスをかけ続け、ダラキアンを休ませる事はありません。
頭部から出血が見えるヒメネスですが、とにかくその闘志は衰えず、とにかくグイグイと距離を詰めていきます。これは嫌な戦い方。
そしてそのステップは見事なまでのカット・オフ・ザ・リング、これは多くのボクサーに見習ってもらいたい詰め方です。
6R、ヒメネスは前進というよりも突進で、打たれつつもその勢いは陰りをみせず、手数こそなかなかでませんが非常にしつこい。
そのヒメネスに対してギアを1段階上げたダラキアンは、見事なステップワークでヒット&アウェイ。
7R、ヒメネスは体でフェイントをかけつつ前進しますが、一発目から当てようとするためになかなか手が出ません。もっとコンビネーションを使っていくべきなのでしょうが、そういうボクサーではないのでしょう。
距離が詰まってのもみ合いの展開から何とか手を出すヒメネスは、中盤、ショートの右フックを浅いながらもヒット。その後もとにかくしつこく追いかけていきます。
8R、このラウンドはヒメネスも近い距離で手がでており、いくつかのヒットを奪います。後半にも遠い距離から飛び込んでの左フック、これはミスブローではありますが非常にエネルギッシュなボクサーです。
9R、とにかく接近戦に持ち込みたいヒメネス、体ごとダラキアンにぶつけていきます。基本的にはステップでいなすダラキアンですが、近づきすぎるとクリンチ。このクリンチを対策しないと、ダラキアン攻略は難しいということがわかります。
10R、変わらず強いプレスのヒメネス、頭をダラキアンの方に押し当ててのボディアッパーは少々ずるいが良い感じ。しかし中盤、ダラキアンの左ボディでちょっと効いてしまった、後退。
しかし少々の時間で回復したのか、また強いプレス。このヒメネスのハートとタフネスには関心しますね。ダラキアンは非常にパワーもあると思うのですが、全然へこたれません。
11R、展開は変わらず、とにかく近づいていこうとするヒメネス。しかし、あと2ラウンズで捕まえられる気はしませんね。これが20ラウンズぐらいあって、ヒメネスが落ちなければ可能性がありそうな感じがしますが。
このヒメネスのしつこいアタックを分断するのが巧いダラキアン。
ラストラウンド、向かってくるヒメネスに対してダラキアンはストッピングジャブ、時に打ち合い。しかし接近戦での打ち合いはダラキアンにとっても非常に危険で、ヒメネスの力強い左フックを被弾。
ヒメネスはこのペースで攻め続けていても落ちませんね。
頭を下げて接近、とにかく強打を放つヒメネス、この超やりづらい挑戦者を相手に、フルラウンドを戦い抜いたダラキアン。勝負は判定へともつれ込みました。
判定は、115-113×2、116-112でダラキアン。
思ったよりも競っていましたが、ダラキアン勝利は間違いのないところでしょう。
想像異常にヒメネスの攻勢が評価されたのか、ちょっと意外でしたね。
ダラキアンは衰えている、というわけではないのでしょうが、かつての怪物性は少し薄れているようなイメージで、フライ級ということもあり、是非日本人ボクサーが挑戦してもらいたいものです。
WBCインターナショナルライトヘビー級王座決定戦
キャロル・イタウマ(イギリス)9勝(7KO)無敗
vs
エセキエル・マデルナ(アルゼンチン)28勝(18KO)10敗
イタウマもマデルナも知りませんが、どうやらこのイタウマはイギリスのプロスペクトのようですね。重量級大国イギリスのライトヘビー・プロスペクトということで、これは期待。
初回、サウスポースタンスのイタウマ、ハの字の構えから鋭いジャブ。非常に良いジャブを持っています。
しかし中盤、マデルナの右がヒット、イタウマは顔を跳ね上げられます。
こちらも良いジャブ、良いストレートを持っており、空中戦とも言うべき中間距離での攻防が続きます。
2R、どうでも良いですがリング広告に「CREED3」の文字。もう英米では上映が始まっているのでしょうか。プレスをかけていくのはイタウマで、マデルナはサークリングしながら対応。徐々にイタウマのプレスが効いてきたように思えた後半、イタウマの右フックでマデルナがグローブをマットにタッチしたように見えましたが、レフェリーは無反応。ダウンではないようです。
後半はもみ合いから少し距離をとったイタウマに対して、マデルナが右をヒット。
3R、このラウンドは近い距離の攻防も増えていきます。これはマデルナの攻撃に対してイタウマがブロッキングで対応してリターンを決めてきたからです。
そして、近い距離ではイタウマの方が回転力に優れ、アングルも良く、優位は見て取れます。
中間距離ではやや危険を感じたのか、戦法を変えてきたのはやはりイタウマの方なのでしょう。
4R、続いてプレスをかけるイタウマですが、ちょっと距離が中途半端。詰めるなら詰めれば良いのですが、接近戦というにはあまりにも遠すぎる位置。
この距離では逆にマデルナの長い右ストレートが活きます。
それでも中盤はイタウマのプレスでロープからロープへ渡りあるくマデルナ。
後半になると今度は距離を詰めきれないイタウマに対して、マデルナの長い距離での左右がヒット、ここはスウィングラウンドではありますが、イタウマはもっと距離を詰めなければいけないことは明白です。
5R、マデルナはイタウマの打ち終わりに長い右ストレートをヒット。その後もワンツーをヒットすると、イタウマはちょっとバランスを崩したように見えました。
そしてその後、またもマデルナの右!これはかすったように見えましたが、イタウマはダウン!そしてこのままカウントアウトか、試合が終了!!!
エセキエル・マデルナ、5RKO勝利!!
これはアップセットと言って良いでしょうね。イギリスのホープ、イタウマを素晴らしいノックアウト。これはマデルナがものすごく強い、というよりも、ちょっと相性の問題もあったのかもしれません。イタウマは最初から最後まで、マデルナの右ストレートに対応することができなかったかもしれません。
WBC・IBF・WBO世界ライトヘビー級タイトルマッチ
アルツール・ベテルビエフ(カナダ)18勝(18KO)無敗
vs
アンソニー・ヤーデ(イギリス)23勝(22KO)2敗
予備カード、のようなクルーザー級戦は見ず、メインイベントへ。こういうのがアーカイブ視聴の大きなメリットです。
ということでいよいよメインイベント、パーフェクトレコードを持つベテルビエフが評価の高いヤーデを迎えます。
個人的には勿論、ベテルビエフのパーフェクトレコードの更新に期待しています。
ということで敵地に乗り込み、世界タイトルの防衛戦を行うベテルビエフのパフォーマンスに期待。
初回、いきなり速いジャブのヤーデ。細かいステップからフェイントをかけるヤーデに対し、ベテルビエフは強いプレス。ベテルビエフはやはり早く終わらせるつもり。
中盤、ベテルビエフが右で攻めてきたところにヤーデが左フックカウンター。ベテルビエフは打ち終わりに少し気をつけなければいけません。あまりにも大きなパンチは危険。ただ、ちょっとヤーデの動きは固いように見えます。
2R、ヤーデは左フックが素晴らしい。このラウンド序盤にも左フックをダブルで打ち、その後もベテルビエフのガードの間隙を縫って耳あたりに左フックをヒット。
中盤、ベテルビエフのプレスに下がったヤーデはコーナーを背負いますが、ここでは細かく速いコンビネーションでこの状況を脱出。回転力は非常にあります。
後半にもロープに詰まりそうなところで右から左を返したヤーデ、硬さはもうとれてきたか。
3R、ベテルビエフの強いプレスに、ロープを背負いがちなヤーデ。とはいえ、ヤーデのパンチも当たってはおり、ハードすぎるパンチを持つ二人がゆえにいつ終わるとも限りません。
中盤から後半にかけて、ベテルビエフが入ってきたところにしっかりとリターンを返すヤーデ、こうなってくるとベテルビエフも容易に距離を詰められず、リング中央付近での時間も増えてきます。
回を追うごとに動きが良くなっていくヤーデ、このラウンドはいよいよ柔らかな上体の動きも良くなってきた。と思ったところでベテルビエフの左フックがヤーデにヒット。
4R、ヤーデの動きがよくなったことで、更にプレスを強めたベテルビエフ。早々にヤーデをロープ際へ。
そこから右をヒットしたベテルビエフは、その後も強いジャブでヤーデの顎を跳ね上げ、そこに右をコネクト。ロープに詰まったヤーデは果敢に打ち返し、ジャブを突いてコーナーから押し返します。
中盤、ベテルビエフはジャブから巻き込むような右。しかしヤーデもベテルビエフのジャブを躱し、右ボディから左フック。この左がベテルビエフにヒット、ベテルビエフは顔色こそ変えないもののやや後退、もしかしてこれは効いた???
ここをチャンスと見たヤーデは更に右をヒットして攻め込み、今度はベテルビエフがコーナー際!ここでヤーデが放った右に対してベテルビエフの右カウンターがヒット!!
これは終わってもおかしくないようなタイミングでしたが、このパンチに耐えたヤーデは称賛を受けるべき。。。
その後、おそらく両者ともダメージがある中で、リング中央で駆け引きがある中での打ち合い。
5R、ベテルビエフが右クロス、そしてジャブをヒット。プレスをかけていくベテルビエフに対して、かわしてリターンを狙うヤーデも良いボクシングです。
カウンター、リターンという一瞬の技術の応酬の打撃戦、これは非常に素晴らしい技術のある打撃戦です。
ボクシングでパンチをヒットする展開というのは大きく分けて3つ。
1つ目は先手、これにはフェイントも含まれますが、俗に言う「自ら動く」こと。
2つ目はカウンター、これは相手のパンチを予測して打つ同時打ち。
3つ目はリターンで、かわして打つ、ブロックして打つ等、相手に対応してから打つ。
この3つすべての「攻撃」が複雑に絡み合ったこの打撃戦は、ずっと見ていられる至上のものです。
後半、ヤーデの長い右で顔を弾かれたベテルビエフ!ステップワークで距離を取ろうと試みます。しかしこのチャンスを逃すヤーデではなく、腹を括って距離を詰め、勝負をかけていきます。ヤーデは飛び込みの左フックで攻めますが、そのリターンにベテルビエフがショートの右。これがもしかすると効いてしまったか、体を入れ替えられたヤーデはコーナーポストのそばでガードで固まってしまい、そこにベテルビエフの猛攻!
というところでゴング。
6R、早々にベテルビエフの右オーバーハンドがヒット。ヤーデはかなりダメージがあるはずですが、その動きはまだまだ衰えません。
まだまだ勝負はわかりません。このラウンドはヤーデも積極的にプレスをかけ、ベテルビエフが逆に距離を獲るという展開も。
一瞬の隙をついてベテルビエフは力強いパンチを返し、これは気が抜けません。
7R、今度はベテルビエフがプレス。ベテルビエフの入り際をヤーデは狙います。
そこでヒットを奪ったヤーデは、中盤に入ると攻め入り、効果的にベテルビエフの打ち終わりを狙えています。ちょっと下がる事が多くなるベテルビエフですが、当然ベテルビエフも技術力のあるボクサー、動きながらも対応しています。
しかし後半、ヤーデの右で顔を跳ね上げられるベテルビエフ。今回の一戦では、幾度か目にするシーン。そしてこういうシーンが訪れた後は、必ずと言って良いほど何故かベテルビエフが連打を出すシーンが訪れます。
ここでもやはりそうで、ベテルビエフはこのあとコーナーにヤーデを追い込み、左右のフックを叩きつけます。これをブロッキングでしのいだヤーデは、アッパーをヒット!ベテルビエフを押し返します!!
最後はリング中央でゴング。
8R、ジリジリとしたプレスをかけて、一気に飛び込むベテルビエフ。ヤーデも下がる事なく対応します。
ここまで互角といえる戦いが続きましたが、フィニッシュは突然。
ハーフタイム頃、ベテルビエフの右がヤーデにヒット!この右が、ヤーデが右ボディを打とうとして体を傾けたところにカウンターとなって入り、ヤーデは一気にぐらつきます。
そこに追撃の右オーバーハンド、これでヤーデはダウン!!
立ち上がったヤーデですが、ダメージは明らか、ここで攻め込んだベテルビエフは右オーバーをもう一度叩き込み、ここでレフェリーがストップ!いや、ヤーデ陣営の棄権のようです。
ともあれ、アルツール・ベテルビエフ、8RTKO勝利!!!
なんともなんとも、素晴らしい試合でした。
一進一退と言える攻防の中で、ともに見せ場もピンチもあった本当に素晴らしい試合。
これは筆舌に尽くしがたい、本当に素晴らしいものを見せてくれました。
そして勝利のあと、マットにひれ伏して喜びを表現したベテルビエフ、試合後に称え合う両者。ヤーデは序盤こそ硬かったですが、本当に素晴らしいパフォーマンスでしたし、その更に上をいったベテルビエフも本当に素晴らしかった。
もし万が一、ライブ配信を見逃してしまった人は、WOWOWを見たほうが良い。見るべきです。2023年、1月の終わりには早々にFOTY候補の試合が生まれた、と言えます。
アルツール・ベテルビエフ、次は誰と戦うのでしょうか。そしてヤーデは、世界王者となって然るべきボクサーだとも思いますが、それはいつ、叶うのでしょうか。
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