日本では、井上尚弥というモンスターのおかげでボクシングが注目されるようになっていますが、オーストラリアにもティム・チューをはじめとした強豪ボクサーがひしめき、日本とはまた違った形で盛り上がりをみせている、と言って良いのではないでしょうか。
欧米諸国からみると、アジア・オセアニアという地域で日本とひとくくりにされるオーストラリアですが、米英と同じ英語圏ということもあってやはり欧米と距離が近いように感じます。
かといって、ボクシングが人気競技かというとそうではなく、オーストラリアで盛んなのはサッカー、オーストラリアン・フットボール・リーグやラグビー、クリケット、テニスといった英国由来のスポーツが多いようですね。(サッカーは違うけど)
キックボクシングやボクシングはマイナー競技に位置するものの、その歴史は比較的長い。
オーストラリア史上初のボクシング王者はジミー・カラザースというバンタム級のボクサーで、カラザースは1948年のロンドン五輪に出場したオリンピアンであり、1952年に世界バンタム級王者となったボクサー。この1952年というのは白井義男がダド・マリノを破って王座についた年であり、こう考えると非常に身近に感じやすいですね。
そんなオーストラリアですが、この5月、期待の兄弟ボクサーが世界タイトル奪取へと向かいます。
ということで今回のブログでは、目前に迫るマロニー・ブラザーズの世界獲りについての第一回目。賭けられるタイトルは、かつてカラザースが君臨したバンタム級のタイトルで、WBO世界バンタム級王座決定戦、ジェイソン・マロニーvsビンセント・アストロラビオのプレビューです。
5/13(日本時間5/14)アメリカ・カリフォルニア
WBO世界バンタム級王座決定戦
ジェイソン・マロニー(オーストラリア)25勝(19KO)2敗
vs
ビンセント・アストロラビオ(フィリピン)18勝(13KO)3敗
ジェイソン・マロニーは3度目の正直なるか。2014年にプロデビュー、2018年にはエマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)の持つIBF世界バンタム級王座へ挑戦するも、スプリットの判定で惜敗。
これはWBSSの初戦として行われていますが、その前戦では元世界王者の河野公平(当時ワタナベ)に対してストップ勝利を収めています。
決してハードパンチャーというわけではないものの、非常に旺盛な手数を持ち、また継ぎ目なく放たれる上質なコンビネーションを持っています。そしてその一番の特徴は、忙しく動き回るその機動力と、それを活かしたハイテンポなボクシングにあると思っています。
そんなマロニーが「メイヘム」と呼ばれ始めたのは、2020年10月に行われた井上尚弥(大橋)戦前からで、それにはモンスターを混乱させてやれ、みたいなニュアンスが含まれているそうです。
健闘及ばず、当代随一のバンタムに切って落とされたマロニーでしたが、強敵に挑むその姿に心打たれた日本のファンも多かったはず。そして、その正統派から派生したような美しいボクシングは、オールドファンをも楽しませてくれる物を持っていると思います。
井上戦での敗戦後も、アメリカで現地のプロスペクト、ジョシュア・グリアを再起戦で破り、地元オーストラリアではドニー・ニエテス(フィリピン)と引き分け、井岡一翔(志成)と王座を争ったアストン・パリクテ(フィリピン)を3Rでストップ。そして2022年10月の前戦では、ナワポン・カイカンハ(タイ)を破ってWBC世界バンタム級の指名挑戦権も勝ち取っています。
そんな今、絶好調と思われるジェイソン・マロニーと雌雄を決するのが、こちらも絶好調のビンセント・ストロラビオ。
アストロラビオは2015年にプロデビュー、デビューから10連勝も11戦目でジョン・アポリナリオ(フィリピン)に判定負けで初黒星。このアポリナリオは日本でもおなじみのフィリピン人で、幾度化来日して山下賢哉(JBスポーツ)や久我勇作(当時ワタナベ)にKO負けを喫しているボクサーです。
当のアストロラビオも、2018年7月に来日、ストロング小林佑樹(当時六島)にしっかり倒されています。
しかし、現在のアストロラビオは、当時とは全く別のボクサー、と言って良いでしょう。
2018年12月、何宋礼(中国)に判定負けを喫してからは4連続KO勝利。いったい何が彼を変えたのか、はよくわかりませんが、このアストロラビオは(たぶんずっと)マニー・パッキャオ率いるMPプロモーションの所属であり、マネージャーは悪名高きショーン・ギボンズ、そしてトレーナーはノノイ・ネリ。陣営が変わって一皮剥けた、という感じでもなさそうですが、4連勝のあとギジェルモ・リゴンドー(キューバ)からダウンを奪っての判定勝利を挙げ、世界ランキング入りを決めています。
当時のリゴンドーは、「史上最大の退屈ファイト」となったカシメロ戦でスプリットの判定を落としたあとで、復帰戦という位置づけ。リゴンドーまさかの連敗ということで話題になりましたが、その裏で、このアストロラビオは大きく台頭したわけです。
この勝利により、世界ランクを手にしたアストロラビオは、IBFの挑戦者決定戦に出場することになります。
相手はニコライ・ポタポフ(ロシア)、かつてオマール・ナルバエス(アルゼンチン)に挑戦した強豪です。
そのポタポフを相手に印象的なノックアウト勝利を飾ったアストロラビオは、フィリピン人ボクサーによくいるような思いっきりぶん回す系のハードヒッターとは少し異なります。強弱を織り交ぜつつ、当たるパンチを強く振る、みたいなイメージですね。
反面、強く振った時の打ち終わりのケアはやや甘い部分があり、付け入る隙があるならば、このアストロラビオの強打を恐れず前で躱してのカウンター、でしょうか。
↓ポタポフvsアストロラビオの観戦記
このポタポフ戦の勝利で、IBF世界バンタム級挑戦権を獲得したアストロラビオは、先に挑戦権を獲得していたエマニュエル・ロドリゲスとの王座決定戦に臨むかと思われていました。
しかしこの勝利で他団体のランキングも上がったアストロラビオは、各団体で上位にランクしていたマロニーの選択もあり、ここでWBOの王座決定戦としてマロニーvsアストロラビオが決定するに至ったのです。
オッズは拮抗!
さて、アストロラビオを知らないファンにとっては、もしかするとマロニーが順当に勝つんじゃない?と思っている人も多いかもしれません。
しかし、海外のオッズは拮抗しており、マロニー勝利が-140、アストロラビオ勝利が+140(5/1現在。これはマロニーに140$賭ければ100$儲かる、アストロラビオに100$賭ければ140$儲かる、という意味合いです。)。
私も、この試合は50-50だと思っていて、これは両者の戦略が勝負を分ける、というレベルの試合になるのではないかと思っています。
「今の」という注釈こそつきますが、リゴンドーすら捕まえたアストロラビオ。そのプレッシャー、ハードヒットはマロニーにとっても驚異であり、やはり前半からマロニーが打ち合う可能性は少ないはずです。
ただ、マロニーが12Rにわたりアウトボックスを敢行する、というイメージはないため、どこかでインサイドでの戦いを試みるはずです。それはおそらく試合の後半であり、多少なりともアストロラビオのパンチ力やスピード、スタミナが衰えたタイミングで、マロニーの小さく細かな動きは初回からそのままでしょうから、そこで優位に立てそうな気がします。
さて、問題は、マロニーが自信満々で初回からインファイトを仕掛けた時。先に当てたもん勝ちみたいな試合になってしまうと、やはりパワーに勝るアストロラビオが上回りそうな気がします。
ともあれ、インテリジェンスと基礎技術の高い、ボクシングを非常によく理解している動きをするジェイソン・マロニーにとっては、アストロラビオ攻略の道筋は見えているはず。アストロラビオも非常に魅力的なボクサーではありますが、今回はやはりマロニーを応援しようと思います。
配信
ジェイソン・マロニーvsビンセント・アストロラビオの一戦は、5/13(日本時間5/14)のトップランク興行のセミファイナルにセットされています。
この興行のメインはジャニベック・アリムハヌリvsスティーブン・バトラーですが、これはよほどのことが起こらない限り結果は見えている一戦であり、このセミファイナルこそがメインイベントと言って良いと思います。
アメリカではESPNで放送されるこの興行の日本での配信情報は今のところ無く、もしかすると数日前(ともすれば当日唐突に)FITE.TVあたりで配信があるかもしれません。
これは非常に興味深い戦いですが、残念ですね。
ちなみに書き終わったあとに飛び込んできたニュースを追記。
IBF世界バンタム級王座決定戦は、エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)vsメルビン・ロペス(ニカラグア)で承認され、日程は7/15(日本時間7/16)、ラスベガスで開催されるとのこと。
残るバンタムの行方は、ドネアvsサンティアゴのみで、あとは日程を待つのみ、ですね。
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