大変に遅くなってしまった観戦記。
12/17(日本時間12/18)に行われたPBC興行は、非常に興味深いラインナップでした。
この興行については、書いて残しておきたいと思っていたので、ゆっくりと腰を据えて視聴。
ということで今回のブログは、12/17(日本時間12/18)にShowtimeで放映された、フランク・マーティンvsミシェル・リベラをメインに据え、井上尚弥の後継王者へと一歩近づくバンタム級のエリミネーション・バウトも組み込まれたPBC興行の観戦記。
IBF世界バンタム級次期挑戦者決定戦
ビンセント・アストロラビオ(フィリピン)17勝(12KO)3敗
vs
ニコライ・ポタポフ(ロシア)23勝(11KO)2敗1分
アストロラビオはアメリカデビュー。リゴンドーに勝利したのがフロックでなかった、ということをここで示せるか。
初回、様子見段階、とは思えないほど、両者ともに鋭いジャブを飛ばします。リーチが短いはずのアストロラビオのジャブは長く、また鋭いですが、鋭さならポタポフも負けていません。
そしてステップワーク、パンチへの反応も両者ともに素晴らしく、打っては下がり、さすがトップコンテンダーというところを見せてくれます。
開始30秒、アストロラビオの鋭いワンツーでバランスを崩したポタポフが膝をつきます。これはスリップ裁定。当たったかと思いましたが、アストロラビオの右はポタポフの後頭部をかすめ、そのままアストロラビオが右手を下げたため、それに押されるような形でポタポフが膝をついています。これはレフェリー、よく見ていました。
高いガードを持つアストロラビオはカウンターも非常に上手い。ポタポフも危険なタイミングのカウンターを持っています。これはすさまじい戦いになりそうです。
そして残り30秒ほどのところで、攻め込んだポタポフにアストロラビオは左フックのカウンター!これでバランスを崩したポタポフはグローブをマットにつき、今度はダウン判定!ダメージはなさそうです。
2R、ダウンを奪われてやや慎重な戦い方になったポタポフ。インサイドに鋭く切り込めば、すぐにバックステップをして距離をとるという戦い方。
ただ、このヒット&アウェイの最中にもアストロラビオはカウンターをヒット、ポタポフをぐらつかせる場面を作ります。後半にはポタポフも飛び込みの左フックや左フックカウンターをヒット。
3R、序盤にポタポフのサイドに動きながらのジャブが非常に冴えています。その後もポタポフは素晴らしいタイミングのカウンター、しかしアストロラビオも素晴らしいカウンターを返し、基本的にはほぼ同時打ちの嵐。
どちらがより、相手を欺けるか。
4R、プレスをかけるのはアストロラビオ、それを迎え撃つポタポフですが、ポタポフもロープに詰まることはなく、前でボクシングをしています。これはサイドに回れていることと、カウンターを打てていること、打ち終わりにしっかりと反撃することができているためですね。
ポタポフは素晴らしいジャブに加え、良いコンビネーションも出始め、アストロラビオのパンチにも慣れてきたか?
と思った終盤、アストロラビオの左フックカウンター!その後右アッパーで追撃、ポタポフはダメージを被ったように見えました。
5R、ややプレスを強めたように見えるアストロラビオ。しかしそのアストロラビオの攻撃のリターンで、ポタポフは良いコンビネーションを返します。
しかしそれに怯まないアストロラビオは右アッパーを強く打ち、ポタポフを下がらせて追撃の左フック。これはガードの上ですが、ここまでのダメージもあったか、ポタポフは動きが止まります。追撃しようとしたアストロラビオですが、ここでポタポフは膝をつき、ダウン。
ポタポフはブロッキング、クリンチ、そして時にジャブのシングルショットでこのピンチをしのぎ、「試合を決めようと出てくる」という感じはないアストロラビオの戦い方も手伝い、後半にはステップワークも戻っていきます。
6R、ジリジリとプレスをかけるアストロラビオ。ポタポフは完全にダメージから回復したわけではないはずですが、よく動き、ジャブからコンビネーションにつなげます。
中盤に入ったころ、アストロラビオの右(これはポタポフが頭を下げたために、後頭部をかすめたように見えましたが)、そして左フック。下がるポタポフを追いかけて右アッパーから左フックをガードの上から当てたアストロラビオ、最後は右アッパーカウンター!これでふっとばされるようにダウンしたポタポフ!
レフェリーはテンカウントを数え上げ、試合はストップ。
ビンセント・アストロラビオ、6RTKO勝利!!!
伊達ではない、アストロラビオ。一気に振っていく、というフィリピン人ボクサーとはまた違った怖さのあるボクサーですが、その攻撃は大迫力。どちらかというと当たるパンチを強く振る、というインテリジェンスも感じさせるボクサーで、打ち終わりのケアはやや甘い部分こそあれど、ハードパンチを持っているからこそそこを狙えるボクサーは少ないのかもしれません。
これでIBF王座への次期挑戦権を獲得したアストロラビオは、現在2位のトップコンテンダー、エマニュエル・ロドリゲスとの王座決定戦へ臨む事が濃厚になりました。
抜群のカウンターパンチを持つロドリゲスにとって、アストロラビオはおいしい相手のようにも思いますが、ロドリゲスは強打に対してやや弱気な姿勢をみせることもあり、ほんの少しの不安もあります。
順当にいけば、打ち始め、打ち終わりに難のあるアストロラビオに対して、ロドリゲスのカウンターが炸裂する絵が浮かびますが、アストロラビオも良いジャブを持っており、鋭い踏み込みも持っているため、特に序盤、ロドリゲスが読みを誤る可能性だってあります。
これは楽しみな一戦ですね。
IBF世界スーパーミドル級次期挑戦者決定戦
ホセ・ウステカギ(メキシコ)32勝(27KO)4敗
vs
ウラディミール・シシュキン(ロシア)13勝(8KO)無敗
ここ数戦はアメリカのリングで戦っているシシュキン、本日ラスベガスデビューだそうです。
初回、お手本のようなファイティングポーズ、肩口からまっすぐ伸びるジャブと軽快なステップワークのシシュキン。このジャブを上下に打ち分け、プレスをかけるウステカギのパンチを拳一つ分外し、ボクシング。
ウステカギも体を振って的を散らし、右クロスを狙います。
2R、序盤、シシュキンのジャブの打ち終わりにウステカギの右クロスがヒット!さすがの攻撃力、というウステカギは、その後も右も左も関係なくパンチを放ち、前進。
ここでシシュキンは打ち合う場面を作るも、やや押され気味か。そのままこのラウンドはウステカギのラウンドか、と思われましたが、後半に入るとシシュキンはコンビネーションで反撃、終盤にはスリーパンチコンビネーションのすべてをヒット。
3R、シシュキンはまっすぐのジャブからのコンビネーション、ウステカギは頭を振ってビッグパンチを放ちます。この勢いは前半はシシュキンを十分に困らせますが、ラウンド後半になるとシシュキンのストレートの距離から近づく事がほとんどできません。
シシュキンは頭の位置をずらすウステカギに上手くアッパーをヒット。巧い。
4R、ややアップライト気味のシシュキンは、打っては躱します。ウステカギは連打が出なくなってきており、中盤、後頭部への打撃をアピールして休憩。その後、鋭いフックで攻め込むもそのうち終わりにクリーンヒットをもらい、苦しい展開です。
5R、ウステカギが頭を低くして接近してくるので、結構ゴツゴツと当たっています。シシュキンは打ち終わりにクリンチもよく使いますが、その際に頭を下げてクリンチに行くのはちょっと危険です。
6R、左手を下げて誘い、カウンター狙いのシシュキン。時折軽めのコンビネーション、ウステカギを近づけさせないためのジャブ。
ウステカギはもうちょっと手数とプレスがほしい。
7R、ウステカギが強いプレス!勝負をかけてきたように見えます。そうなるともちろんリスクも大きくなり、前半、シシュキンの右カウンターがヒット。しかし、ここまでシシュキンペースで進んでしまうと更に行くしかありません。
中盤、シシュキンのジャブに合わせて右オーバーハンドをヒットしたウステカギですが、その後はシシュキンの軽いジャブになかなか近づけません。やっぱりもっとプレスをかけ続け、詰まらせないといけません。
8R、序盤は元気の良いウステカギ、これはありがたくないシシュキンは逆に距離を潰してクリンチ。距離が空けばボディ、アッパー等をヒット、試合巧者とはこういうボクサーのことを言うのでしょう。
後半、たまたま、とも言うべき同時打ちのタイミングでウステカギの右がヒット!ちょっとダメージを受けたように見えたシシュキンでしたが、その後すぐさまコンビネーションをいくつもヒットして帳消しに。いやぁ、戦い方が巧い。これで「ダメージはない」をアピールしたとも言えます。
9R、シシュキンはワンツーを打つとフィリーシェル状態で身体をくっつけ、右アッパー。左手を下げたスタイルはリスクもあり、ウステカギの右がシシュキンにヒットすることも。
離れては勿論シシュキン、ウステカギが接近戦を仕掛けるとすかさずクリンチ。
10R、シシュキンも集中力が切れているのか、スタミナの問題か、ちょっと被弾が増えているイメージです。ウステカギは良くも悪くも変わらず、頭を振って近づこうと試みます。全体的にシシュキンの戦い方は上手いですが、優劣の差は明らかに詰まってきています。9R、10Rは、明らかにウステカギのラウンドでしょう。
インターバル中、会場に訪れているチャンピオンたちが紹介されますが、レオ・サンタ・クルス、マリオ・バリオス、ロランド・ロメロ、ショーン・ポーター、カレブ・プラント、デビッド・モレルと錚々たる顔ぶれです。
11R、これはシシュキンの動きが落ちているのか、それともウステカギがタイミングを掴んだのか、同時打ちでウステカギのパンチが良く当たる様になってきているように見えます。
ラストラウンド、それでもやっぱり前半の失点を挽回するには、倒すしかないウステカギ。前半にシシュキンが打ってきたところに右オーバーハンド、上手く入ります。
ただ、結局は攻めきれず、シシュキンのコンビネーションに反撃を許したウステカギは、決定打を打ち込めないままラウンドを終了。
パンチスタッツは、ウステカギ162/520、シシュキン238/750と圧倒的な差がでています。
判定は、115-113、117-111×2でシシュキンの勝利。
115-113はちょっとビビりますが、シシュキンの完勝といった内容です。ただ、危なかった場面がなかったわけではなく、「もしも危険なタイミングで当たったあのパンチを、ウステカギが強振していたら」というタラレバはでてきそうな内容です。
IBFの現在のトップコンテンダーはウィリアム・スカル(キューバ)。そして空位の2位にこのシシュキンが収まるのでしょう。
チャンピオンはもちろんサウル・アルバレスですが、果たしてスカルにしてもシシュキンにしても、カネロに挑戦できる日は来るのでしょうか。
WBA世界ライト級挑戦者決定戦
フランク・マーティン(アメリカ)16勝(12KO)無敗
vs
ミシェル・リベラ(ドミニカ共和国)24勝(14KO)無敗
無敗のライト級のプロスペクト同士の一戦!心なしか今日のリベラは、より気合いの入った角刈りになっているような気がします。両者のキャリアにとって、分岐点の一戦でしょう。
初回、リベラが積極的に速いジャブ。サウスポー、リベラはこのジャブを警戒し、右手をこめかみあたりまで掲げ、左手は顎前にまで持ってきています。その顎前の左手がやや弧を描いてリベラを襲います。
まずは互いに中間距離で距離の把握に努めた、というイメージで、ジャブとワンツー合戦の第一ラウンド。
2R、リベラはインサイドからジャブ。マーティンは隙を見てコンビネーションで攻め込みます。マーティンはもみ合いの展開も辞さないイメージで、リベラはあくまでも中間距離でストレート系のパンチを主体として戦いたい、というイメージ。
中盤、マーティンがコンビネーションからサイドステップを使って攻め込み、見せ場を作ります。
マーティンの前足はリベラの前足の外側に陣取りつつ、内側からジャブを放ち、左ストレートを放ってサイドに回る、これにちょっとリベラは対応できていません。
3R、リベラのジャブに対するマーティンのリターンは非常に速い。そして、このマーティンの下半身の安定具合は半端ありません。
このラウンド序盤はリベラも右をヒットしますが、中盤にはマーティンが左をヒット。
後半はリターンを狙い合うという展開。
4R、互いにリターン狙いの展開は、必然的に手数は少なくなります。この中で、マーティンのリターンはよりシャープに見えますし、純粋なハンドスピードはマーティンの方が上のように感じます。これは、パンチの引きのスピードがそう見せているのかもしれません。とにかくマーティンは下半身が乱れません。
5R、反応の良い両者、クリーンヒットが無茶苦茶多いわけではありませんが、打てば打ち返されるという緊張感があります。
モハメド・アリのようにリズムを刻み、その中から攻撃に移る「サルサ・アリ」リベラと、ビタっと止まった状態から突然攻撃に移る「ザ・ゴースト」マーティン、似ているようでそのボクシングは全然違ったものですね。
インターバル中の客席。エロール・スペンスJrまで来てますね。
6R、序盤、ワンツーで攻め込んだリベラに対してマーティンは左をリターン。その後も非常にスムーズなコンビネーションでリターンを返すマーティン、「流れるようなコンビネーション」とはまさにこのことです。
リベラは少し疲れが見えるか、打ち終わりにやや身体が流れる雰囲気。そしてやはり、マーティンのサイドステップに対応できていません。
7R、リベラのジャブをパリングでいなしたマーティン、鋭いステップインでコンビネーション。上下の打ち分けも秀逸で、打ち込めばスッと退き、リベラのリターンは届かず。
中盤、リベラの右に左をリターンしたマーティンは、間違いなくタイミングをつかんでいます。
そして後半、ワンツーで攻め込んだリベラの打ち終わりに左から右をフォロー、リベラはダウン!!!スローで見ると右はあたっていなかったですね。素晴らしいリターンの左でした。
8R、こうなるとリベラはかなり右を使うのに神経質になってしまいます。と、逡巡しているとマーティンは自ら攻め込んでワンツーをヒット。しかもこのツーがボディにも来るので、リベラはどんどんと対応が難しくなっていきます。
そして手数が減っていくリベラ、それに対して攻めやすくなったマーティンは得意のコンビネーションで撹乱しつつ、攻め込んでいきます。
9R、もう後がないリベラ、リターンをもらってしまう恐怖はありつつも、自ら攻め込みます。しかしガードも固いマーティン、ジリジリとプレスをかけてのリターン狙い、鉄壁のボクシングには隙がありません。
後半、またもリベラの右に対しての左のリターンを決めたマーティン。
10R、懸命に攻めるリベラ。ただ、リベラはここまでほとんどがストレート系のパンチであり、距離が遠く感じてしまっているのか、フック、アッパー等のアングルをつけたパンチを打てていません。
このラウンドはマーティンは休憩のラウンドとしたのか、さほどリターンは打たず、ディフェンスに徹します。これはこれで上体の動きも非常に多彩で、ステップワークもよく、非常にやっかい。どこかゲイリー・ラッセルJrを彷彿とさせるボクシングです。
11R、明らかにリベラの右に対する左リターンを狙うマーティン。その中で中盤に左アッパーをヒット。非常に余裕があるためか、こちらはアングルも多彩。
後半にも次々とコンビネーションを打ち込むマーティン、レフェリーはリベラを注視しているようにも見えます。
ラストラウンドもマーティンのリターンが冴え渡ります。当たらない、とわかっていても攻め込まざるを得ないリベラ、完全にリベラの攻撃を見切り、素晴らしいリターンをコンビネーションで返すマーティン。
マーティンは決して無理をしないボクシングですが、リベラも打つ手なし。そしてラウンドが終了。最終的なパンチスタッツは、リベラ67/439、マーティン174/561という圧倒的な大差。
判定は、117-110、118-109、120-107、3-0の判定でフランク「ザ・ゴースト」マーティン。
まさか、あのミシェル・リベラがダウンを奪われてのフルマークの判定負け、というのはにわかに信じがたい。
Showtimeとしては、リベラの方を売り出したいような雰囲気でしたが、マーティンに完敗でした。
非常にセンスのある両者の戦いでしたが、マーティンのボクシングは非常に完成されており、安定した下半身から繰り出されるコンビネーションはそのスピード、軌道、戻りの速さ、どれをとっても一級品に見えます。
おそらく、フィジカル的に相当な強さを誇っているのではないでしょうか。推測ですが、おそらく接近戦でも強いタイプでしょう。
初黒星を喫したリベラ、敗戦濃厚のところで作戦変更ができなかったところが憂うべきところ。もう少し何とかしようが合ったような気がしてなりません。今後の復活に期待です。
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