WHO'S NEXT DYNAMIC GLOVE。
第6回目を迎える新生ダイナミックグローブは、「ダイナミックグローブ」らしいマッチメイク。
ダイナミックグローブといえば、帝拳のプロスペクトたちがアンダードッグの外国人選手たちを倒していく、という感じがしています。これはなかなか国内で相手が見つからない、ということもあるでしょうし、キャリアを積ませたい、ということもあるのでしょう。こういうマッチメイクはきっとトップランク・ボクシングを参考にしているのでしょうが、そろそろこのスタイルは流行りません。今はアマキャリアを持つボクサーも多く、元トップアマを恐れない叩き上げも一定数いると思います。「無敗神話」みたいなものも、昔に比べると随分薄れてきているように思います。
ということで、毎試合厳しいマッチメイクをしろとは言いませんが、それなりに初期の段階から「おっ」と唸るようなカードを提供してほしいものですね。
ということで、今回のブログは9/2(土)に行われたダイナミックグローブの観戦記
9/2(土)ダイナミックグローブ
松本流星(帝拳)・嶋田淳也(帝拳)・矢代博斗(帝拳)
帝拳プロスペクトたちは、それぞれフィリピン人たちと対戦です。このあたりのフィリピン人たちはなかなか実力が分かりづらく、正直勝っても(ファンとしては)あまり評価をしづらい相手。
松本流星は非常に冷静なボクシング、対戦相手のダーウィン・ボヨネス(フィリピン)はなかなかパンチがあり、松本の打ち終わりや同時打ちでヒットを狙う展開。想像以上の強豪に対してしっかりと対処した松本が勝利しましたが、ボヨネスの右ストレートも怖さがありましたね。
この勝利で松本はA級に昇格、今後に期待です。
続いて登場の嶋田はプレスをかけつつの非常にバランスの良いボクシングを展開、素晴らしいジャブを起点にしてからの上下に打ち分けるコンビネーションでマイケル・カサマ(フィリピン)を攻め立てます。
じわじわとダメージを与えた上での5R、「決めに行った」タイミングでも上下へのコンビネーションをまとめ、TKO勝利。5戦目にして初のKO勝利とは思えないほどの素晴らしい完成度の高いボクシングを披露しました。
そして矢代博斗の相手はアンドロ・ラウリオ(フィリピン)という思い切りの良いボクサー。比較的大きなラウリオに対し、プレスをかけて鋭い踏み込みを見せて下から上へのコンビネーション、左ストレートカウンターをヒット。それでも怯まないラウリオに対して、矢代は下がりならの右フックカウンター!
このとてつもない、ハイライトの数えられるような素晴らしいカウンターでレフェリーは即刻試合をストップ、矢代が5RTKO勝利!これは恐るべし。
齋藤麗王(帝拳)vs李鎮宇(角海老宝石)
こういうカードを待っているのです。デビューからアンダードッグぽい相手に3連続KO勝利の齋藤が、2021年度の全日本新人王、前戦では日本タイトル挑戦者、リドワン・オイコラ(平仲)と引き分けた李鎮宇と対戦です。
これは大変に興味深い一戦ですね。デビューから3戦目とか4戦目あたりでは、このような「本当の実力がわかる相手」とのマッチアップを期待したい。
初回、齋藤がアグレッシブに攻め入り、ジヌが迎え撃つ展開。かと思えばジヌもしっかりと距離を詰めていきなりの接近戦。ジヌの右ショートフックがパワフルです。
両者ともにアマ経験が非常に豊富なもの同士、非常に技術の高さが光る接近戦を展開します。
2R、距離が空けば鋭い踏み込みからのワンツー、身体がくっつく距離ではアッパーを効果的に使う両者。この二人がゴリゴリの打ち合いをするとは思いませんでしたが、気持ちの入った素晴らしいファイトです。
3R、ハイレベルな我慢比べ、このラウンドは序盤にジヌのショートの右クロス、齋藤はダメージを負ったかやや手数が減ります。ここをしのいだ齋藤は、打ち合いの中で力強さを取り戻すも、後半、ジヌの右カウンターがヒット!齋藤はダウン!
ここは当然決めにいくジヌですが、齋藤も反撃!気持ちを見せてサバイブ。
4Rも打撃戦、互いに被弾が多いですが、齋藤の回復力は素晴らしく、前ラウンドの痛烈なダウンのダメージは感じません。
5Rも互いに上下を打ち合い、アッパーを効果的に使っています。このラウンドは齋藤のプレスがジヌを上回ったような印象で、徐々にジヌが下がる場面が増えてきているようにも思います。
6R、頭をつけての打撃戦が続きます。齋藤はコンパクトで力強いコンビネーションを繰り出していますが、ジヌは疲労からかやや足元が怪しくなってきました。ただ、その中で齋藤の攻め入り時にカウンターをあわせる等随所でアピールもしています。
7Rに入っても齋藤のバランスはさほど乱れず。ジヌはかなりキツそうですが、時折放つカウンターは素晴らしいタイミング。
ただ、このラウンドは後半にかけて齋藤がパンチをまとめていき、ヒット数は確実に上回ります。
ラストラウンド。ともすればこのラウンドをとったほうが勝利か、というこのラウンドで、齋藤は一つのヒットから一気にチャージ。素晴らしい回転力をもってジヌを攻め立て、ここでジヌもいくつかのカウンターを試みるも齋藤の勢いは止まらず!
中盤、齋藤が右ストレートから左フックをヒットしたところでレフェリーが割って入り、試合がストップ!!
齋藤麗王、最終8RTKO勝利!!!
いやー、なんという試合なんでしょうか。ジヌは止められてしまって無念、ちょっとストップは早かったかもしれませんが、ダメージを溜めている事実もあったと思います。
勝利して雄叫びをあげた齋藤、本当に素晴らしい戦いでした。
日本ウェルター級タイトルマッチ
坂井祥紀(横浜光)27勝(15KO)13敗3分
vs
能嶋宏弥(薬師寺)11勝(5KO)1敗1分
さて、本日のほぼメインイベントのセミファイナルは、坂井の初防衛戦。
日本に戻ってきてはや3年、なかなかタイトルに縁がなかった坂井ですが、前戦で重田裕紀(ワタナベ)との3度目の対戦を制し、見事初戴冠。王座決定戦での戴冠のため、初防衛戦は指名試合となり、その相手は元WBOアジアパシフィック・ミドル級王者の能嶋。
これはどちらが勝ってもおかしくない、五分五分の戦いと見ています。
初回、当然のようにジリジリと前に出る坂井、能嶋は大きくサークリング。坂井のプレスはきついか、能嶋は非常に動きが大きく、あまりジャブも出ません。両者ともにクリーンヒットはありませんが、このままではどちらかというと坂井、というラウンドになってしまいそうです。
2R、引き続き坂井がプレス。この坂井のカット・オフ・ザ・リングというのは素晴らしいですね。歩くようなプレス、非常にナチュラルなこの追い方は、相手にとって大きなプレッシャーになるのでしょう。
3R、マイペースでプレッシャーをかける坂井。相手がどんなに速く動こうとも、自分のペースで追う、というのはとても大切なことで、おそらくこの展開で疲弊していくのは能嶋の方でしょう。
4R、前ラウンドから比較的ジャブが出始めた能嶋は、回りつつも先にジャブを打ちます。坂井はそのジャブをヘッドスリップでかわしながら右ボディストレート、そこから距離を詰めるパターンが良い。
5R、ハイガード、頭を低くしてインサイドに入る坂井。能嶋のジャブを意に介することなく前進してくるこのスタイルは能嶋は嫌でしょうね。
クリーンヒットが多い、というわけではないこの流れで、幾度か坂井の右が能嶋を捉え、顎が上がってしまうのはジャッジの印象的には坂井に流れてしまいそうですね。
途中採点は、48-47、49-46×2で坂井。
6R、ここから更にギアを上げた坂井は能嶋のジャブの打ち終わりに右クロス。能嶋は公開採点を機に戦い方を変えなければいけませんが、このラウンドは坂井のギアアップについていけない印象で、ちょっと後手を踏んでいる印象です。
7R、攻める気持ちが強い坂井はフィジカルも強く、攻めれば能嶋の反撃を受けるも全く止まらず。反して能嶋は坂井にヒットを許すと止まってしまう場面が散見され、ちょっとフィジカル差が出てきているか。
8R、このままのペースではまずい能嶋ですが、なかなか突破口を見つけられないでいます。どこかで特攻しても良いくらいのラウンドになってきました。
中盤、能嶋がパンチをまとめる場面を作りますが、その後坂井は強い反撃。勝負をかければ、その分リスクもありますが、勝つためには能嶋はこれを続けなければいけません。
9R、ちょっと疲れなのかダメージなのか、バランスを崩す場面が多くなっている能嶋。坂井は相変わらずなので、能嶋の勝ち目がどんどん薄くなっていくようなイメージです。
序盤から大きく速く動いてきた能嶋、徐々に動きが鈍くなる中で後半には足を止めての打ち合いを選択、気持ちを見せるも頭が低くなりすぎて踏ん張りが効かなそう。
ラストラウンド、坂井はチャージ。手数を出して攻め入ります。何とか起死回生の一打を放ちたい能嶋は、何とか強打を打ち込みますが、疲労なのかダメージなのか、ちょっとバランスを崩しがち。
最後まで諦めず手を出し続けた能嶋でしたが、坂井のマイペースを崩せなかった10R、採点は98-92×3で坂井の勝利。
お見事な初防衛、坂井祥紀。前戦でダウンを奪われ、もしかすると打たれ脆くなっているのでは?とも思っていましたが、今戦ではその部分は露呈せず。
能嶋は良いアウトボクサーですが、ちょっと坂井に対しては無策すぎた印象でしたね。捲土重来に期待しましょう。
尾川堅一(帝拳)27勝(19KO)2敗1分1NC
vs
マービン・エスクエルド(フィリピン)17勝(11KO)2敗1分
2019年から2020年初頭にかけて行われた、KOダイナマイト賞金トーナメントの覇者、マービン・エスクエルド。このボクサーは日本で2戦2勝(2KO)、当然ある一定の強さを持つボクサーです。
しかし当然世界レベルのボクサーではないはず、なので、ここは尾川の右に期待したいところです。
初回、尾川がプレス。エスクエルドは左手を下げたスタイルで下から突き上げるようなジャブ。
尾川は初回から積極的にワンツー、中盤にはエスクエルドのガードを弾いてこの右がヒット。
エスクエルドのオーバー気味の右はよく、このパンチは尾川にとって鬼門のようなパンチなので、侮れませんね。
2R、エスクエルドは非常に柔らかいボクサーで、上体の動きも速い。この柔軟に頭の位置が動くボクサーに、右ストレートを当てるのはなかなか骨が折れそうです。
ただ、今日の尾川はジャブが鋭く、キレています。
3R、尾川のジャブは良いですが、エスクエルドのディフェンス勘も素晴らしい。こんなにも良いボクサーだったんですね。
尾川はジャブを見せてからの右ボディ。これはまた良い判断。
4R、エスクエルドはディフェンス主体、互いに山場をつくれないというラウンドが続きます。5Rもとにかくもらわないを主軸としてどちらかというとリターン狙いのエスクエルド、こうなると尾川としてもミスブローは避けたいところなので必然、強く攻め立てることは難しい。
6R、尾川としては「のれんに腕押し」みたいな感じかもしれません。それくらい、エスクエルドはとらえどころがありません。尾川は焦らずじっくりと攻めることが必要そうですね。
7R、尾川は元々コンビネーションパンチャーではないので、この上体の柔らかいエスクエルドに当てるのは相性的に難しいところがあるかもしれません。
それでもこのラウンドは左フックや右ストレートをヒット、やや浅いかもしれませんが、明確にポイントは取れているでしょう。
8R、このラウンドの序盤、エスクエルドの踏み込みが目立ちます。が、それは序盤だけで残りはディフェンシブな戦い。控えめにいっても面白い試合とは言いづらいですね。
9R、自由自在に動き回るエスクエルド、時折当たる尾川のパンチもさほど深くはありません。
非常に「ごまかし」が上手いボクサーで、身体を柔らかくつかって余裕があるように見せているものの、その実は何もできない、というのが状況かと思われます。
ラストラウンド、エスクエルドはとにかく逃げの一手。どうやら勝つ気はないようです。
こうなると尾川にとっては辛い展開が待ち受けており、プレスをかけてアグレッシブに攻めるも捕まえることはできず。
特に何も起こることのない10Rが終了し、判定は98-92、99-91×2で尾川。
尾川の動きにはキレがあり、非常に期待ができただけに残念。エスクエルドのような勝つ気のないボクサーを仕留めるのは、やや単発気味である尾川のボクシングでは非常に難しいミッションだったかもしれません。
なんだか消化不良のメインイベントでしたね。
【宣伝】
ボクシング用品専門ショップ、やってます。
是非覗いてみてください!