とうとうこの日が来てしまった。
ジャック・キャトラルvsホルへ・リナレス。
衰退が著しい「ゴールデンボーイ」ホルへ・リナレス、その戦いを見届けるのは非常に憂鬱な気分にもなりますが、ここまでボクシング観戦を楽しませてくれたリナレスに敬意を表し、リアルタイムで見届けようと思います。
ボクシングという競技を長く見ていると、同様に全盛期にワクワクしたボクサーが少しずつ、または突然に衰えたりする様を見てきたので、こればかりは致し方ない、とは思いつつも、やはりどこかで一縷の望みを持ってしまうのも事実。
とはいえ、リナレスに関してはもうすでに3連敗中、強豪相手とはいえここからさらにステップアップするのは非常に厳しいというのが現実。ボクサーが諦めていない限りはファンは応援するべき、ではあるのですが、なんともあまり気の進まない観戦でもあります。
ということで今回のブログは、イギリスはリバプールで行われた、ジャック・キャトラルvsホルへ・リナレスの観戦記。
10/21(土)イギリス・リバプール
セミファイナルに登場はピーター・マクレール(イギリス)。日本のリングにも立った元英国トップアマは、サウスポーのスタンスからテンポよく素早い攻撃を仕掛けて試合をスタート。
相手の攻撃に対してはバックステップが絶妙で、そこからのリターンがまた速い。対戦相手のメンドサ(コロンビア)というボクサーも17勝(7KO)無敗というプロスペクトであり、素晴らしいボクサーです。両者ともかなり気合が入っています。
のっけからかなりハイペースで進んだこの試合は、マクレールが2Rにはボディショットを決め、3Rにはコンビネーションを決めて優勢かと思います。この3Rにはメンドサはややペースダウン、そのパンチはまだまだ力強いものの、ちょっとマクレール見切られ初めているように感じます。
徐々に打つ手のなくなってきたメンドサ、サイドに素早く動くマクレールを相手にはキレの良いフック系のパンチが意味を為さず、強振気味のメンドサの打ち終わりにマクレールは良いリターン。
5Rに入るとマクレールも足を止めての撃ち合いに応じる場面も出てきており、これは劣勢のメンドサにもチャンス。ここでいくつかのパンチを被弾したマクレールはまたサイドに動き、修正。このリカバリー力。
6Rは比較的近めの距離でサイドステップを駆使して戦うマクレール、近い距離での反応も素晴らしく、上下に打ち分けるコンビネーションも良い。メンドサは時折思い出したように連打で反撃しますが、防戦の時間が長くなっていきます。7Rも明確に攻めたマクレールは、後半のラウンドに入ってもその運動量を落とさず、近い距離でのディフェンスはその精度を増し、ねじ込むような左ストレートを放っていきます。
9Rにはメンドサをロープに詰めて左強打を放つなど終始攻め続けるマクレールでしたが、メンドサのガードも固く、時折の反撃は苛烈で、圧倒しつつも倒せないまま規定の10ラウンズが終了。
後半には右フックカウンターをヒットして見せ場を作る等、このボクサーの魅力はスピード、コンビネーション、そしてアグレッシブネスとたくさんありますね。
判定は99-91、97-93×2でピーター・マクレール!
ここからKO率は低くなっていく可能性はありますが、人々を魅了できるボクサーだと思います。今後に期待です。
ジャック・キャトラル(イギリス)27勝(13KO)1敗
vs
ホルへ・リナレス(ベネズエラ)47勝(29KO)8敗
当時世界スーパーライト級4団体統一王者だったジョシュ・テイラー(イギリス)にスプリットの判定負けを喫するも、その判定には大いに物議を醸したキャトラル。この試合は当時ほぼ無名だったジャック・キャトラルというボクサーを全国区にし、破れはしたものの大きく評価を上げた試合でもありました。
かたや3階級を制覇し、ロマチェンコからダウンを奪う健闘を見せたホルへ・リナレス。ここ最近はデビン・ヘイニー(アメリカ)、ザウル・アブドゥラエフ(ロシア)らに3連敗中、年齢も38歳となったリナレスは、明らかに反応が鈍り、その撃たれ脆さには磨きがかかっているようにも思います。
「どうか無事にリングを降りてほしい」。勝利を願うファンよりも、そのようなファンの方が多いのではないか、とも思える一戦です。
待ち時間もなく、サクサク進んで初回のゴング。
リナレスはVENUM、キャトラルはFLYのグローブ。キャトラルはボクシングシューズもFLYですね。
リナレスが細かく速く前足の外側を取るようにサークリング。対してキャトラルは広いスタンスで右ジャブを投げるように放ち、やはり頭が先行するので危ない。サウスポースタンスから、左のストレートと同時に飛んでくる頭は非常に危険で、対戦相手としては上体を立ててしまいます。これがキャトラルの狙いなのか、単なる癖なのかはよくわかりません。
2R、間合いの勝負となり、後の先を制するのはどちらか、という戦い。互いに利き手を放った後は相手のリターンが飛んでくる、みたいな展開で、一歩踏み込めば当たるところでのボクシングです。リナレスが先に仕掛けるのが多く、これは敵地であるが故に仕方ありません。このラウンドは予想通りバッティングが起こっていますね。
3R、リナレスは悪くありませんが、打った後にやや体が残ることが多く、そこを狙われているか。この辺りは単に衰えと呼べるものかもしれません。
4Rも同様に距離の探り合いから「いかにストレートを当てるか」という戦いであり、キャトラルの右フックからの左にやや反応が遅れ気味のリナレスはこれを距離で外せず、浅くながらも被弾。キャトラルのストレートは体ごと(頭も含めて)入れてくるので、想像以上に伸びるのかもしれませんね。
5R、キャトラルがリターンを単発で終わらせず、繋ぎ始めたか。場所柄、キャトラルの攻めに対してはブロッキングしてても大歓声、は仕方ない。
ですがこのラウンド後半、キャトラルの左をブロックしたかに見えたリナレスはぐらついて後退、そこにキャトラルはチャージ!
ここは何とかサバイブしたリナレスですが、打たれ脆さに磨きがかかっていることを露呈してしまいます。
6R、キャトラルは当然このチャンスにもいかず。これには、リナレスがダメージから回復したように見えたことも影響していると思うのですが、結局キャトラルというボクサーはそういうボクサーで、いわゆる判定タイプ。この試合は、リナレスがよほど良いものをもらわなければ、判定までいくのかもしれません。
7R、自身の打たれ脆さを理解しても、前に出なければ勝てないと悟るリナレスは、このラウンドも自ら積極的に仕掛けます。叩きつけるような、オーバーハンド気味の右はキャトラルの体に触れており、これは期待を戴かせるパンチです。
このリナレスは敗戦濃厚となった時、自らを奮い立たせることができるボクサーであり、その辺りが「ベネズエラの侍」と呼ばれる所以でもあるのでしょう。
8R、抑揚のない試合展開に会場はややブーイングか。これはキャトラルのせいであり、イギリスの観客はキャトラルの試合を見るのであればその辺は覚悟しておいて欲しいものです。
リナレスのハンドスピードは明らかにキャトラルよりも速いですが、如何せん反応が遅れています。ジャブをもらってしまうし、リターンも思うように決まりません。後半攻め込まれたリナレスはピンチに陥りますが、ここもタイムアップでサバイブ。
9R、出てくるキャトラルに対してディフェンスに専念するリナレス。こうするとキャトラルのヒットは少ない。10Rも外すことはできるも攻めることには繋げられないリナレス、スピードこそ維持しているものの限界は近いのかもしれません。
11R、そんな中でも攻め時を探すリナレス、キャトラルの明らかなローブローにも集中力をキープ。勝負をかけるリナレスは速いワンツーで攻め入っていますが、このタイミングを完璧にキャトラルは学習しているように見えます。
ラストラウンド、一発逆転を狙って強いパンチを振るうリナレスですが、基本的にディフェンス主体のキャトラルには当たらず。踏み込んだ時にその場にいてしまう分キャトラルのリターンが有効。
ホルへ・リナレス、12Rを戦い抜いて笑顔でフィニッシュ。やはり最後まで、リナレスのボクシングは美しかった。
判定は、117-111、116-112×2、ジャック・キャトラル。
もっと大差がつくかと思っていましたが、意外と公平だったジャッジ。3階級制覇王者に大きなリスペクトを持って戦ったキャトラル、今できる全てを注ぎ込んだリナレス。
試合内容は「面白い」というものではありませんでしたが、リナレスの最後となるかもしれない勇姿、しかとこの目に焼き付けられました。そして折も折、アリスの「チャンピオン」が脳内に流れてきたことに関しては、伝えるべくもなく。
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