帰ってきた「ロマゴン」
ローマン・ゴンサレスが世界戦線に帰ってきました!
2017年9月9日、前戦で物議を呼ぶ判定でシーサケット・ソールンビサイ(タイ)に敗れたあとのダイレクトリターンマッチ。そのリターンマッチで、シーサケットのパワフルなパンチに屈し、自身初のKO負け。
その後、再起するも、自国(ニカラグア)の政情不安や怪我も重なり、コンスタントに試合はできませんでした。
しかし2019年12月23日、日本でディオネル・ディコス(フィリピン)を2Rで危なげなく片付けると、早くもチャンスが巡ってきました!
ローマン・ゴンザレスはどんなボクサー?
ローマン・ゴンサレスは1982年6月17日、ニカラグアで生まれました。幼少期には、ニカラグア初の世界王者で、かつ、3階級制覇王者、アレクシス・アルゲリョの指導を受けた事もあるそうです。
アマチュアで87戦全勝、プロに転向。日本の帝拳ジムとマネジメント契約を結び、しばしば日本のリングに立つことになります。愛称はチョコラティート。
敬虔なクリスチャンで、リング内外で非常に素行が良く、日本のボクシングファンからの人気も高い、非常に好感の持てるボクサーです!
ファイトスタイルは、高いガードを保ちながらも、やわらかなボディーワークで相手のパンチをかわす。上下へのスムーズなコンビネーションと、いつやむのかわからない多彩なパンチの連打、連打。その全てがハードパンチ。
体躯も強く、接近戦でも押し負けない。美しい左ボディー、右から左、または左から右のアッパーカット。
本当に穴がなくて、対戦者は攻略の糸口が見つからない。
そして、ダウンした相手を心配する優しさ。
そのボクシングから、きっと真面目で堅実な人柄だろうと推察しています。
母国ニカラグアでも人気は相当なもので、ボクシングファンでもない(ニカラグアに青年海外協力隊で派遣された)私の友人も、チョコラティートのことは知っていました。
ローマン・ゴンサレスの激戦譜!
そんなロマゴンですが、2020年1月現在、50戦(48戦40KO2敗)もの戦績を誇ります。
初めて世界タイトルを手にしたのは、2008年9月15日、パシフィコ横浜で新井田豊(横浜光)のもつ、WBA世界ミニマム級王座に挑戦した時です。
当時、王座を7度防衛中の新井田に対し、20勝18KO無敗という軽量級では驚異的な戦績で臨んだロマゴンは、新井田につけいる隙を与えず、4RでTKO。その後、3度の防衛に成功します。(2階級制覇挑戦のため、返上)
そして2010年10月24日、両国国技館で WBAライトフライ級暫定王座決定戦でフランシスコ・ロサレス(メキシコ)に2RでKO勝ち。この暫定王座は当時の正規王者、ファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)の病気により設けられたものでしたが、結局レベコは返上、統一戦はせずにロマゴンは正規王者に昇格しました。
その後の防衛戦は危なげなく勝ち続け、退けた対戦相手の中には現在PFPランキングにも名を連ねるファン・フランシス・エストラーダ(メキシコ)の名前も。
この頃から無類の強さを誇ったロマゴンは、井岡一翔(当時井岡ジム)との対戦も噂されました。当時、「軽量級最強」のロマゴンと、「負ける姿が想像できない」井岡との一戦は実現すれば相当注目されるタイトルマッチになったと思いますが、実現に至らず。事実はわかりませんが、当時無敵のロマゴンを井岡は避けた、との見方もあるそうです。
そして3階級目を目論見、ライトフライ級王座を返上。チャンスを待ちます。
2014年9月5日、WBC世界フライ級王者八重樫東(大橋)に挑戦。八重樫は、同年4月6日の防衛戦に勝利したあと、「ロマゴンとやってもいいですか」とリング上でファンに問いかけました。当時無敵のロマゴンを名指しするその侠気に、会場のファンからは大きな大きな拍手が鳴り響いたのを覚えています。
八重樫とロマゴンの一戦は、国立代々木第二体育館。八重樫は序盤、足をつかいながら応戦しましたが、ずっとロマゴンのプレッシャーをかわすことはできないとみて、接近戦を試みます。見事に真正面から闘いにきた八重樫を、ロマゴンは9RにKO。3階級制覇達成の瞬間でした。
さて、ここまでで3階級にわたり世界チャンピオンになったロマゴン、実は全て日本の会場です。ロマゴンが日本を「セカンドハウス」と呼ぶのも、日本のファンが親しみをこめて「ロマゴン」と呼ぶのも、わかりますね。
その品行方正な態度も含めて、私もロマゴンは大好きです。
そしてPFPキングに!
翌年、それまでPFPキングだったフロイド・メイウェザーJr(アメリカ)の引退にともない、PFP2位だったロマゴンはPFPキングに。
この「PFP」は、Pound For Pound(パウンド・フォー・パウンド)の略で、階級制のボクシングにおいて、もし皆が同じ体重だったら誰が優れているか、という妄想をランキングしたものです。
各メディアや、各国がいろいろな考えでPFPランキングを作成していますが、最も権威のあるPFPランキングは、アメリカの「リング・マガジン」という雑誌のランキングです。
アメリカのリング・マガジンのランキングのため、アメリカで人気のある、また世界的にも強豪が揃う中量級あたりがメインになってきます。が、ロマゴンのすごい所は軽量級なのに、勝ちまくってアメリカのリングで認知され、軽量級のスピード感あふれるボクシングとパワーの融合で、軽量級に振り向かなかった観客や専門家をもノックアウトしてしまったところです。
軽量級はKOが少なくてつまらない、なんていうアメリカ人は、ロマゴンの登場でぐっと減ったことでしょう。
これが、のちの井上尚弥がPFP3位に選出されることへもつながっていくのです。
さて、フライ級のロマゴンはエドガル・ソーサ(メキシコ)、ブライアン・ビロリア(アメリカ)、マックウィリアムズ・アローヨ(プエルトリコ)といった強豪を退け、4階級制覇へ挑みます。
2016年9月10日、WBC世界スーパーフライ級王者、当時無敗のカルロス・クアドラス(メキシコ)。同じ帝拳がプロモートする選手です。(クアドラスは共同)
このクアドラスに勝利し、見事無敗で4階級制覇を成し遂げました。
しかし、ミニマム級からあげてきたロマゴンにとっては、持ち前のハードパンチや体の強さは、まだこの階級ではしっかりとフィットしていないようにも見えました。
そして、シーサケット・ソールンビサイ戦を迎えます。
ちなみに、シーサケット戦の結果次第では、当時WBOスーパーフライ級王者だった井上尚弥(大橋)との一戦が現実味を帯びてくるところでした。この試合も、もし実現していれば軽量級史上最高のビッグマッチとなっていましたが。。。
痛烈なKO負け!
前述したとおり、シーサケットとの2連戦は、初戦が判定負け、次戦が痛烈なKO負けでした。
初戦は、「ロマゴンが勝っていた」と言われてもおかしくない内容でした。事実、私もロマゴンの勝ちで良いと思った試合です。
しかし、再戦での負け方は、「ロマゴン、限界か?」と思わせるものでした。
実際、スーパーフライ級にあがってからのロマゴンは、強打がナリを潜め、肉体もしまっていないようにも感じます。ミニマム級という最も軽い階級からまぎれもなく4階級を制し(タイトルをとったクアドラスも6度防衛した王者)、これで引退したとしても十分に偉大な王者なのです。
しかし、ロマゴンは戻ってきました。
かつて、軽量級ながらアメリカのリングを熱狂させ、軽量級の興業に慎重だったアメリカのボクシング界において、「スーパーフライ」という一大イベントを開催するほど、軽量級のトップボクサーの地位とファイトマネーをあげたローマン・チョコラティート・ゴンサレス。
再起戦の相手は、ロマゴン同様もともとミニマム級の選手だったモイセス・フエンテス。再起第2戦の相手ディオネル・ディオコスは恐怖を感じない相手でした。
対戦相手はカリド・ヤファイ!!
そして次戦、早くもチャンスが巡ってきました。相手はカリド・ヤファイ(イギリス)。
ヤファイは、26戦全勝(15KO)、イエメン系で、あのナジーム・ハメドの後継者だと紹介されていたこともある王者です。
河野公平(ワタナベ)に勝ったルイス・コンセプシオン(パナマ)(このタイトルマッチのとき、コンセプシオンは体重超過)に勝って王座獲得。日本人では村中優、石田匠を防衛戦で退けています。
コンセプシオン戦や石田戦、先日のヒメネス戦などを見ましたが、ちょっと何というかあまりエキサイティングな感じというかおもしろいボクシングではありません。悪く言ってしまうと、退屈なボクシングです。(ヒメネス戦は特にひどかったです。)
しかし、負けにくいボクシングをするので、未だ無敗なのかもしれません。ただ、ハメドの後継は明らかに言い過ぎだと思います。
ということで、ロマゴンファンの私としては、ロマゴンの勝利を願わずにはおれません。ただ、カリド・ヤファイはナチュラルなスーパーフライ級、ロマゴンがシーサケット戦後、どのようにスーパーフライ級にフィットしてきたか、というのが鍵だと思います。
アウトボックスしようとするヤファイを、かつてのような踏み込みながら思い切りよく打つ左フック、からの左アッパー、右アッパーというコンビネーションで、捕まえられないという事はないと思います。そこにナチュラルなスーパーフライ級を倒せるだけのパワーと、ナチュラルなスーパーフライ級のパンチに耐えられるだけのタフネスと。。。
ヤファイ戦のあと。
私が望むのは、強いローマン・ゴンサレスの復活。ヤファイを退け、かつて露と消えた井岡一翔との統一戦。
井岡には「逃げた」という汚名を返上するチャンスと、ロマゴンには「衰えた」という限界説を一蹴するチャンスをつかんでもらいたい。
私は2019年12月23日、横浜アリーナでききました。日本のロマゴンファンの、あたたかい拍手と声援を。そしてロマゴンは言いました。
「来年(2020年)は世界王者に返り咲く。タイトルは日本とニカラグアに捧げる」
「日本はセカンドハウス」
リップサービスではなく、真面目で真摯なロマゴンのこと、心からの言葉でしょう。
2020年2月29日、日本時間では3月1日、ローマン・チョコラティート・ゴンサレスの、真の復活を見届けたいと思います。