信太のボクシングカフェ

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ボクシングが大好きです。大好きなボクシングをたくさんの人に見てもらいたくて、その楽しさを伝えていきたいと思います。

「モンスターレフト」西岡利晃が切り開いたアメリカへの道。〜Part2〜

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辿り着いた王座の先。

5度目の世界挑戦を実らせ、32歳で初戴冠した西岡利晃。(暫定王座を獲得後、正規王座に昇格)

年齢を考えると、残された時間はそう多くない、とは思っていました。

しかしここから数年で、西岡のキャリアはピークを迎えていきます。

まずは、「初防衛に挑戦する」と語った初防衛戦。

スーパーバンタム級という階級においては、日本人世界王者はこれまでにも生まれていましたが、防衛できた王者はいなかったそうです。

 

2009.1.3 ヘナロ・ガルシア(メキシコ)

ヘナロ・ガルシアはメキシコの突貫ファイター。注意するのはぶん回してくるので相手のペースに飲まれないこと。そしてタフガイでもあります。

西岡はサークリングしながら、右手(前の手)でガルシアの突進をおさえ、左ストレートや左アッパーを決め、早々にペースを掌握。

この試合もナパーポン戦で冴えた左アッパーがよく出る。

4Rには左アッパーで、9Rには左ストレートでダウンを奪いますが、タフなガルシアはそれでも前に出てきます。

右拳を痛めていたという西岡ですが、最終ラウンド前のインターバル中、セコンドにハッパをかけられたのか、気合のこもった大きな声をあげ、最終ラウンドは前に出ます。

あえて接近戦に持ち込み、左アッパー、左アッパー、左アッパー!!左アッパー連打で、ついにレフェリーストップを呼び込みます!!

この気合の入りよう、すごかったですね。。。

思えばウィラポン第一戦、「もっと前に出てほしい」と思っていた頃が懐かしいくらい、ハートの強いチャンピオンになっていました。倒さずとも勝てる試合、それでもリスクをとって倒しに行く、まさに初防衛への挑戦でした。

そしてメキシコからの刺客を見事KOで屠った西岡が、次に迎えるのは、指名挑戦権を持つスーパースター、ジョニー・ゴンサレスでした。

2009.5.23 ジョニー・ゴンサレス(メキシコ)

西岡の二度目の防衛戦は、指名挑戦者のジョニー・ゴンサレス。地元メキシコで大人気のスーパースターです。しかも完全アウェー、メキシコでの防衛戦

更に、戦前の予想はゴンサレスの優位。私も、西岡の勝ち目は薄いと思っていました。

年齢的にも、次に負けたら西岡のキャリアは終焉を迎える。

世界チャンピオンになったらなったで、一度陥落した後にまた返り咲くというのは、周りのサポートも含めて大変なことだからです。

完全アウェーの中、入場、コール中には大きなブーイング。

西岡は、当時にしては珍しく、既に海外戦を経験済みで、ラスベガスのリングにも立ったことがありました。数えて4度目の海外試合だったと思いますが、その経験が活きたのか、周りの喧騒をよそに西岡は冷静そのもの。

「ジムファイター」「スパーリングチャンピオン」と呼ばれたかつての男は、何があっても動じない、ライオンのようなハートを手に入れていました。

コールのときから、西岡は右ガードをこめかみにつける仕草。ゴンサレスの左をしっかり対策してきたようです。そしてゴング。

1R、右ガードをこれでもかとあげた西岡、その西岡の左ストレートを警戒して、あまり前には出てこないゴンサレス。好戦的なゴンサレスですが、まずは様子見といったところでしょうか。ゴンサレスは身長は西岡と変わりありませんが、手足が長く、距離が遠いようです。

西岡としては、出て来るゴンサレスに左カウンター、という青写真だったとは思いますが、なかなか出てこないゴンサレスに対して先に仕掛けていく戦法を取り始めます。

西岡が一通り攻めたあと、打ち終わりをまってゴンサレスが出てきます。西岡がバックステップを踏み、足が揃ったところにゴンサレスの右ストレートがヒット!西岡が後ろに尻もちをつくダウン!

西岡がよくもらうダウンですが、ダメージのないフラッシュダウン。このあと、攻め入るゴンサレスには冷静に対処し、残り時間をしのぎます。

そして2R、ゴンサレスはダウンを奪ったためか1R目よりも前に出てきます。打ち気になってきました。が、西岡の反撃に冷静さを取り戻し、サークリングする場面も。

3R、同じような展開で、お互いに押しては引き、引いては押し。西岡の右ガードが機能し、ゴンサレスの左はヒットしない。ここで、西岡が踏み込んでの左ストレートをクリーンヒット!!ジョニー・ゴンサレスはロープに頭を打ち付けるダウン!カウント中立ち上がりますが、よろめくゴンサレスをみてレフェリーがストップ!!!

西岡、見事な左ストレート一発で、戦前の予想を覆し、ワンパンチKO防衛!!!

日本人世界王者の海外での防衛は、渡辺二郎以来24年ぶりの快挙だったそうです。

この地元の英雄を一撃で屠った左ストレートに、畏敬の念を込めて、メキシコのメディアは「モンスターレフト」と呼びました。

2009.10.10 イバン・エルナンデス(メキシコ)

東京で、5位のイバン・エルナンデスを迎えての3度目の防衛戦。またも左ストレートが火を吹き、挑戦者は顎を骨折、3R終了後のインターバルで棄権。

これで3連続KO防衛!

2010.4.30 バルウェグ・バンゴヤン(フィリピン)

日本武道館にて、15戦全勝(7KO)の挑戦者、バルウェグ・バンゴヤンと対戦。 盤石な西岡、5Rに左ストレートでダウンを奪い、立ち上がってきたバンゴヤンを連打で追い詰め、レフェリーストップ。4連続KO防衛!!

2020.10.24 レンドール・ムンロー(イギリス)

レンドール・ムンローとの5度目の防衛戦。指名挑戦者であるムンローは、前評判も高かったと思いますが、西岡は右ジャブから多彩なパンチを繰り出し、最小限の動きでかわし、序盤からペースを掌握します。この日は体のキレも、闘い方も、完璧でした。

王座獲得戦以降、どちらかというと前に出てアッパーを打ちまくることが多くなっていた西岡でしたが、この日は動きつつ、ジャブでコントロール、要所で強打を打ち込み、もちろん接近戦も辞さない。

打ってよし、離れてよし、完璧なボクシングを展開しました。

その完璧な西岡に対して、ムンローは何度も窮地に陥るも、終了ゴングを聞くまで立っていました。非常にタフで、根性のあるファイターです。

2011.4.8 マウリシオ・ムニョス(アルゼンチン)

6度目の防衛戦は、マウリシオ・ムニョス

ここでも西岡は盤石な強さを発揮します。右ジャブからボディーへの左ストレートなど、上下の打ち分けもよく、細かいステップワークで被弾を許さない。相手が出てきたら引き、出てこないとなると自ら攻め入る、完璧なボクシング。完全に見切ったかに見えたムニョスの右をもらうシーンもありましたが、最後は左アッパーを効かせたあと、連打、最後は得意の左ストレートで倒し、9RKO。

ここまで6度の防衛で5KO、常に攻めの姿勢を崩さない、闘うチャンピオン。西岡利晃は34歳にして、全盛期を迎えていました。

そして7度目の防衛戦、いよいよラスベガスのリングに立ちます。

2011.10.1 ラファエル・マルケス(メキシコ)

ラファエル・マルケスは、のちの4階級制覇王者、ファン・マヌエル・マルケスを兄にもち、この当時40勝中36KOというハードパンチャーで、自身もバンタム級とスーパーバンタム級を制した2階級制覇王者です。

そのスリリングな試合から、アメリカでの人気も高く、実力も兼ね備えたボクサー

そしてマルケスは、あのジョニー・ゴンサレスを衝撃的なKOで破った、「モンスター・レフト」西岡に挑戦する。

当時の評論家の予想がどうだったか、覚えていはいません。アメリカのボクシングファンや識者の予想がどうだったか、知りません。

この西岡vsマルケスが、ラスベガスのメインイベント、ということだけで、既に偉業

私自身は、あのマルケスが相手だとしても、西岡優位は動かない、そう思っていました。

果たして試合は、両者ともに相手の強打を警戒し、緊張感のある立ち上がり。

西岡はラスベガスのメインという、試合をするだけでも日本人としては快挙、という中で、堂々と闘います。

序盤から中盤にかけて、「主導権争い」に終始しますが、きっとお互いの精神をすり減らすような「主導権争い」。見ていて息がつまるような攻防。

終盤、10R以降くらいに、西岡の左のヒットの確率が上がっていきます。

マルケスも西岡に削られ、西岡もマルケスに削られる。最終ラウンドには西岡もかなり疲れていましたが、最終的にはユナニマス・デシジョンで西岡の勝利!

ここに、歴史的快挙は成りました。

アメリカ、ラスベガスという聖地、そのメインイベントで、日本に生まれ、日本で主として活動し、4度の世界挑戦に失敗し、30歳をこえてようやく世界チャンピオンになった男が、快挙を成し遂げたのです!!

そしてその快挙の先にあった道は、既に名声を手に入れていたノニト・ドネア戦。フライ級から始まり、スーパーバンタム級まで4階級を制覇したまごうことなき同級最強のチャンピオン。

マルケス戦後、既に本田会長(帝拳)は、西岡は次の試合で引退させる、と明言していたので、ドネア戦は西岡にとって最後の花道でした。既に西岡も36歳、世界的強豪をしのぎを削ってきた西岡に、これ以上のダメージを負わせたくなかった親心でしょう。

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2012.10.13 ノニト・ドネア(フィリピン)

この西岡vsドネア戦は、これまでの西岡のファイトと違い、好ファイトではありませんでした。西岡利晃は、無駄のないフットワークから、美しい左ストレートを放ち、また近づいては左アッパーを乱打する、魂を揺さぶられるファイトをします。世界チャンピオンになってからは特にそうです。

しかし、このドネア戦は結果的にはそうならなかった。

西岡は、試合からしばらくたったインタビューで答えています。

「試合前からポイントで勝とうとは考えていなかった。」

「前半はおさえて、中盤から後半にかけて勝負をかける。」

この試合、西岡は何もできませんでした。

序盤からドネアペース。ドネアは西岡の左を警戒しながらもパンチを出し、西岡は手数がかなり少ない。会場からはファイトしない西岡にブーイングも飛ぶ。

6R、左ボディーアッパーでダウンを奪われ、9R、ようやく前に出始めた西岡を迎え撃ったドネアがダウンを追加。立ち上がった西岡に追撃したところでストップ。

「2Rに右目にもらった左でドネアが二重にみえた」

「回復した後、ディフェンスを考えずに左フックのみを警戒して前に出た」

「9Rにダウンしたことで、ドネアが出て来る。ここがチャンス」

そう思ったところで、止められました。陣営からのタオル投入でした。

この判断は仕方のないことかもしれません。特に、「これが最後」と決めた試合では、おそらく陣営からすると棄権のタイミングは早くなるんだと思います。

山中慎介がルイス・ネリと闘った第一戦、大和トレーナーのタオルが早すぎるという批判がありました。私には適切に見えましたが、闘っている本人にとっては早い。(周りの意見は置いておいて)ただ、見守っている陣営としては、勝利よりも何よりも、「無事にリングを降りてほしい」。最後と決めた試合では、特にそうなのではないでしょうか。

ドネアは冷静でした。ドネアは、スーパーバンタムに上がった頃から「西岡とやりたい」そう言っていました。そしてドネアは、万全の準備と対策をして、西岡戦に臨みました。

西岡がよくなかった、ではなく、ドネアが素晴らしかった。

西岡vsドネア戦、私は西岡に勝ってほしかった。バンタムで猛威をふるったドネアでしたが、スーパーバンタムではまだ疑問符が付く状態。確かに偉大な王者ですが、西岡も偉大な王者です。ボクシングに「たら、れば」はつきもので、そんなことを言っても仕方がないのですが、思う分には自由なはずです。

もしあそこでタオルが投げられなかったら、もしかしたら、今まで見たこともないような逆転KOが生まれていたかもしれません。(言ってみた)

 

西岡の長いキャリアの中で、最も偉大で、最も残念なドネア戦。

しかしこの試合こそが、未来のボクシング界への足がかりです。

「モンスターレフト」西岡利晃のおかげでアメリカへの道が開けました。

西岡以降、三浦隆司、亀海喜寛、伊藤雅雪、岩佐亮佑など、アメリカの地を踏むボクサーがたくさんいます。そして、今度は井上尚弥。

少しずつ、しかし確実につながってきているこの系譜のはじまりが、西岡であることは、誰しもが認める事でしょう。

ボクシングの本場アメリカで、ただリングに立つだけでなく、アメリカの人々を熱狂させ、ビッグマッチまで辿り着いた西岡利晃。彼のおかげで、アメリカのボクシングファンたちが日本人ボクサーを認知したことは疑いがありません。

そしてこれからも、異国の地で日本人ボクサーが大活躍できることを楽しみにしています。

 

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