井上尚弥の進出により、日本中のボクシングファンはこの階級に注目することになります。
昔から日本人にとって馴染みの深い階級であったバンタム級から4ポンド(約1.8kg)重いこの階級は、かつてはジュニア・フェザー級と呼ばれた階級。
今よりももっと日本人が小さかった時代、この階級の壁は非常に高かった。
さて、ということで今回のブログではこのスーパーバンタム級の歴代日本人王者を見ていきます。
ロイヤル小林:生涯戦績35勝(27KO)8敗
最初にこの階級で世界タイトルを獲得したのは、「KO仕掛け人」と呼ばれたロイヤル小林。もう随分昔のことで、すでに故人となっているロイヤル小林のボクシングキャリアは非常に破天荒です。
大学卒業後にボクシングを始めた小林は、なんとたった1年のアマキャリアでミュンヘン五輪へ出場。考えられません。その後プロ入りし、破格のハードパンチを武器に1976年10月9日、リゴベルト・リアス(パナマ)をノックアウトしてWBC王座を戴冠。同年の11月24日に初防衛戦で敗北して無冠となってしまいますが、1981年まで戦い続けています。
ちなみに日本人オリンピアンとして初の世界王者であり、加えて初の大卒世界王者だそうですね。
キャリアを通してアレクシス・アルゲリョ(ニカラグア)、ウィルフレド・ゴメス(プエルトリコ)、そしてエウセビオ・ペドラサ(パナマ)といった歴史に名を残すボクサーたちと拳を交えている点は特筆すべきことです。
畑中清詞:生涯戦績22勝(15KO)2敗1分
ロイヤル小林の戴冠から15年近くの歳月が流れ、ようやくこの階級の王座を射止めたのが現・畑中ジム会長である畑中清詞。中部地方で初の世界王者です。
こちらもなかなか破天荒なキャリアで、元々のスタートはスーパーフライ級。そこで新人王を獲り、日本タイトルを獲得した畑中は、WBC世界スーパーフライ級での世界タイトルマッチに臨みます。かつて渡辺二郎からタイトルを奪ったヒルベルト・ローマンに完敗したのが1988年9月のことです。
そこから再起した畑中は1991年2月3日、2階級上のスーパーバンタム級の王座に挑戦。
このペドロ・デシマ(アルゼンチン)戦では初回にダウンを喫するも奪い返し、8RTKO勝利して世界初戴冠。初防衛戦はダニエル・サラゴサ(メキシコ)で、その老獪なボクシングに僅差の判定を落としており、その後眼疾により引退しています。
21世紀のチャンピオンたち
ということで、20世紀、スーパーバンタム級で世界王者となった日本人ボクサーはたったふたり。この「ジュニアフェザー」と呼ばれていた時代の世界王座防衛記録は未だゼロのままでした。そして私自身も上記ふたりのボクサーをリアルタイムで見た記憶はありません。
そして1998年、日本ボクシング界はこのジュニアフェザー級と呼ばれていた階級を「スーパーバンタム級」と呼称統一。ちなみに、この階級の呼び名としては現在も各団体で異なっており、団体によっては「スーパーバンタム」と呼ばずに「ジュニアフェザー」と呼んでいる団体もありますが、こういうのは分かりづらいですね。
佐藤修:生涯戦績27勝(16KO)3敗3分
スーパーバンタム級3人目の日本人世界王者は、「ハルク」佐藤修。2002年2月の世界初挑戦(WBC王座挑戦)では、ストップ負け寸前から脅威の粘りを見せて追い上げますが、ドローにより獲得ならず。ただ、その試合が評価されてかその試合の3ヶ月後、WBA王座への挑戦が決まり、ヨーダムロン・シンワンチャー(タイ)を8RTKO。序盤にリードを許しながらの逆転ノックアウト劇は、まだまだ記憶に新しいものですね。
このハルクも初防衛は叶わず、2002年10月9日、初防衛戦で陥落しています。
西岡利晃:生涯戦績39勝(24KO)5敗3分
このスーパーバンタム級において、オールタイム・ベストの日本人ボクサーは?と問われると西岡利晃と答えます。これに異論のあるファンは少ないでしょう。
キャリア初期こそ敗北を喫することはありましたが、国内強豪とのサバイバルマッチを経て世界王座を嘱望されるようになった西岡は、当時WBC世界バンタム級王者だったウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)に挑みます。初戦は踏み込めずに敗戦も、帝拳ジムに移籍して臨んだ2戦目はドロー。更に大きな期待を抱かれて臨んだ3戦目もドロー、4戦目は敗戦。
このまま世界王座に縁なく終わっても記憶に残る偉大なボクサーでしたが、中島吉謙とのサバイバル戦をクリアしてスーパーバンタム級初戦を飾ると、地力を養い2008年9月15日にWBC世界スーパーバンタム級暫定王座決定戦に出場、この試合に勝利して世界王座を初戴冠。
ただ、既に32歳となっていた西岡にこれ以上期待ができそうになかったのも現実的な話でした。
しかし、それをあざ笑うかのような快進撃は、ここから始まりました。
↓ブログ記事のいちスペースでは語りきれないので、以下、過去記事参照。
ともあれ、暫定王座獲得から7度の防衛、そして当時のWBO王者ノニト・ドネア(フィリピン)との王座統一戦までの在位期間は4年と1ヶ月。
特にスターボクサー、ジョニー・ゴンサレス(メキシコ)を完全アウェーで倒しきったモンスターレフト、ラスベガスでメインイベントをはったラファエル・マルケス(メキシコ)戦、とかくこの西岡の残した功績は大きい。
李冽理:生涯戦績20勝(10KO)4敗2分
下田昭文:生涯戦績31勝(14KO)6敗2分
そしてその西岡の在位期間において、WBA世界スーパーバンタム級王座を争ったのが李冽理と下田昭文。2010年10月2日、プーンサワット・クラティンデーンジム(タイ)の持つWBA王座に李冽理が挑戦、判定勝利を得て世界タイトル初戴冠。
その李の初防衛戦の相手が下田となり、2021年1月31日、ダウン応酬の大激闘は3度のダウンを奪った下田に凱歌が上がりました。
その下田も、初防衛に失敗。この初防衛戦はアメリカのリングに上がり、序盤はリードしていたように見えましたが、逆転KO負けを喫しています。
長谷川穂積:生涯戦績36勝(16KO)5敗
ボクサーにはドラマがつきものではありますが、この長谷川穂積というボクサーも非常にドラマティックなキャリアを歩んだボクサー。
バンタム級で絶対王者ウィラポンを攻略、再戦では芸術的なカウンターでウィラポンを切って落とした長谷川は、当時のバンタム級で無双状態、日本ボクシング界のエースと呼ばれていました。
バンタム級王座陥落後、フェザー級でタイトルを獲得するも、ここは長谷川のフィールドにあらず。
スーパーバンタム級ではキコ・マルティネス(スペイン)に敗れて挑戦失敗、それでも諦めずにとうとう2016年9月にWBC世界スーパーバンタム級王座を獲得しています。
この長谷川についても、西岡と同じくこのスペースで語りきれるものではないので、過去記事をおいておきます。
長谷川はウーゴ・ルイス(メキシコ)に勝ってWBC世界スーパーバンタム級王座を獲得後、王者のまま引退しています。
小國以載:戦績21勝(8KO)2敗2分
岩佐亮佑:生涯戦績28勝(18KO)5敗
長谷川が引退を表明した前後、2016年末。この大晦日興行で、小國以載が当時22勝全KO1NCというパーフェクトレコードを持つIBF王者、ジョナタン・グスマン(ドミニカ共和国)を見事に攻略。
この半年前に和氣慎吾を相手にその強さをまじまじと見せつけていたグスマンを相手に、一世一代の大立ち回りをした小國の勝利は見事としか言いようがないもので、普段ボクシングを見ることのない私の知人も「感動した」と言っていたほど。(ちなみにその後、別にボクシングにはハマっていない。)
ここで集中の糸がきれてしまったのか、はたまた公言通りサウスポーが超苦手すぎたのか、続く初防衛戦で小國は岩佐亮佑に3度倒され、最後は出血によるTKO負け。
この試合はおそらく相性というものが存分に出た試合であり、岩佐は非常に慎重でしたが、小國がでていったからこそこの結果が生まれた、ということでもあり、小國としてはそういう作戦でしか戦いようがなかった、ということなのだと思います。
そうして岩佐は待望の世界初戴冠、ただこのタイトルは2度目の防衛戦でTJドへニーに奪われてしまいます。
岩佐のドへニー戦は微妙な判定ではありましたが、これで岩佐は目を覚ましたのか、ややひ弱なイメージを払拭。つづく挑戦者決定戦のセサール・フアレス(メキシコ)戦、IBF世界スーパーバンタム級王座決定戦のマーロン・タパレス(フィリピン)戦では非常にアグレッシブで、素晴らしいパフォーマンスでの勝利を見せてくれています。
岩佐はIBFの暫定王者としてウズベキスタンの地に乗り込み、当時の王者ムロジョン・アフマダリエフと対戦、「耐える」序盤を過ごす途中でストップ負けとなってしまっています。
久保隼:生涯戦績15勝(10KO)2敗
(旧)南京都高校から東洋大学に進学した久保隼。とはいえ、「トップアマ」とは言えない長身技巧派サウスポー。
やや線の細さを感じさせる体型ながらも、長いストレートで対戦相手をバタバタと倒し、デビューから12戦目の2017年4月9日、ネオマール・セルメニョ(ベネズエラ)からWBA世界スーパーバンタム級タイトルを強奪。
憧れを同ジムの先輩である長谷川穂積と公言する久保は、比較的攻略しづらいボクサーに思え、もしかすると長期政権も夢ではないかも、と思っていました。
しかし初防衛戦で迎えたのはのちの統一王者、ダニエル・ローマン(アメリカ)。当時はまだほぼ無名だったローマンのアグレッシブネスに太刀打ち出来なかった久保は9RTKOで初黒星、王座陥落。
久保もまた、初防衛となりませんでした。
亀田和毅:戦績40勝(22KO)3敗
元WBO世界バンタム級王者、亀田和毅は、暫定ながらも一度すでにスーパーバンタム級王座に就いています。
2018年11月12日、アビゲイル・メディナ(スペイン)に勝利してWBC世界スーパーバンタム級暫定王座を獲得、2階級制覇を達成。その暫定王座を引っ提げて、当時の正規王者、レイ・バルガス(メキシコ)へアタックしています。
この挑戦は実りませんでしたが、その後も挑戦者決定戦に出場、それに勝利してもなかなか待たされている状態ながらも、次はファイナル・エリミネータとのことです。
現在はフルトンvs井上の勝者との対戦を目指しています。
なるか11人目の日本人世界スーパーバンタム級王者
ちなみに李冽理は国籍日本じゃないので、日本人世界スーパーバンタム級王者としては現在10名。井上尚弥は、このリストに名を連ねることができるのか。
そして、過去最強の対戦相手を迎えてどのようなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか。あと一週間、色々な妄想をしながら過ごしたいと思います。
↓フルトンvs井上はLeminoが独占生配信。Leminoプレミアムに加入すれば、アーカイブ視聴も可能です。
【宣伝】
ボクシング用品専門ショップ、やってます。
是非覗いてみてください!