2/21(日)、全日本新人王決勝戦。
例年、年末に開催されるはずの全日本新人王決勝戦は、2020年春からのコロナショックによる興行中止を受けて、開催がずれ込んだため、決勝が2月となりました。
この全日本新人王決定戦を頂点とした新人王トーナメントは、キャリアの少ないボクサーたちの、とりわけ地方ジムに所属して元々試合が組みにくいボクサーたちのキャリア形成として、非常に大きな役割を担っていると思っています。
また、大手ジムにおいて、アマキャリアもなく(もしくは少なく)、ジム側としても注力できないボクサーたちにとっても、非常にありがたいものでしょう。
全日本新人王の決勝まで進めたボクサーたちは、今後も国内ボクシング界の一翼を担う存在となり得ます。
まずは2020年、無事に最後まで開催されたことに対して関係者各位の尽力に感謝し、そしてこの状況下でしっかりと仕上げてきたボクサーやジムの皆さんに敬意を表します。
本当に素晴らしい。
そして今回のブログでは、熱戦が繰り広げられた全日本新人王決勝、その観戦記です。(vol.2)
↓vol.1はこちら
前回の ブログではミニマム級からバンタム級の観戦記を書きました。今回はスーパーバンタム級からです。
スーパーバンタム級
矢斬佑季(花形)vs福永宇宙(黒潮)
今回の全日本新人王戦で、最も楽しみにしていた一戦。ラストチャンスに賭ける矢斬は花形ジムで初の新人王を目指し、西軍代表戦MVPの福永は四国のジム初の新人王を目指します。
ともにプロ叩き上げ、それでも基本技術の高さをもち、しっかりとしたボクシングを展開します。福永は初のサウスポー戦、その対策や如何に。
距離の探り合いから始まった一戦、小気味よくリズムを刻む福永が軽いジャブを打ちながら右ストレートをヒット。矢斬の左ストレートはしっかりとガード、サウスポーの対策は奏功しています。
福永は非常にガードが固く、体全体の強さを感じます。福永の右ストレートはまっすぐ飛び、また速いので非常に効果的です。ステップで矢斬のパンチを外せるところも良い。
矢斬はワイルドに振っていくパンチで福永に得意の距離に入らせない上手さがあります。矢斬の方がややポジショニングに優れているようにみえます。
やや攻めづらそうな福永ですが、ノーモーションの右をヒット、速い左フックも良く、終盤にかけては徐々にクリーンヒットが増えていくようなイメージ。
4Rには近い距離で手を出し合いますが、ここでは福永の固いガードに対し、矢斬はガードが甘く、その差が出てしまうような打ち合い。
ラストラウンド、全く衰えない福永に対し、矢斬はやや苦しいか。ポイント劣勢を意識してか、更に大振りなパンチが目立ってきます。コンパクトな右ストレートで矢斬の顔を跳ね上げ、ボディで後退させ、また上に右。福永は非常にバランスが良く、全く乱れることなく5Rを戦い抜きました。
判定は3-0、ひとりがフルマーク、ふたりは49-46の判定で、福永宇宙が全日本新人王に!
見事、四国のジム初の新人王に輝いた福永。ハードパンチャーの矢斬相手に一歩も退かず、自らのボクシングを徹底しましたね。
地元、高知の期待。「四国出身」ということだけで、四国の4県のボクシングファンは応援に値するでしょう。地方ジムの期待を背負い、これからも益々活躍してもらいたいです。次は四国のジム初のユース王者、そしてその先は日本王者へ、向かってもらいたい。
そして惜しくも敗れた矢斬、こちらもまだまだ伸びしろは十分。29歳、まだまだこれからのボクサーだと思いますので、花形会長よろしく、諦めずにがんばってもらいたいです。
フェザー級
平野和憲(KG大和)vs福永輝(沖縄ワールドリング)
長身パンチャーの平野、ワイルドなフッカーの福永。この試合も非常に楽しみな一戦でしたが、福永が前々日のPCR検査で陽性反応、翌日は発熱と倦怠感があったため再検査はせず、棄権。
平野が全日本新人王に認定されました。
コロナ陽性で棄権というのは本当にやるせないですね。。。
楽しみにしていたので残念ではありますが、同じ階級でやる以上、またどこかであい見えるかもしれません。
スーパーフェザー級
奈良井翼(RK蒲田)vs福田星河(エディタウンゼント)
6戦全勝(5KO)の奈良井、5戦全勝(1KO)の福田、ともに21歳の全勝対決!2019年の新人王戦で減量失敗、脱水症状で戦わずして敗退した奈良井は、その頃も新人王戦の有力候補でした。ここに勝って、かつての過ちを帳消しにできるか。
2階級上げたとは思えないほどの体つきの奈良井。くっついて勝負をしたい福田がまずは攻め込みます。
開始15秒ほど、距離が近くなったところで奈良井の左フックがヒット、少しぐらつく福田。怯まず攻め込む福田ですが、ガードの隙を縫って奈良井の左右が入ります。
ガードを固めて近づく福田、しかしここでも奈良井の速く、強い左フックが炸裂。ここで詰めた奈良井はダウンを奪います。立ち上がった福田でしたが、またも奈良井のパンチを浴びてダウン。
奈良井が1RTKO勝利で全日本新人王に輝きました。
奈良井は、速く、強かったです。2階級上げて減量失敗の危険性が無い代わりに、自分よりも体格的に優れた相手を倒しに倒して全日本新人王に。
奈良井の良いところが出た一戦でしたね。素晴らしい勝ち方でした。
そして福田、がんばりましたが無念だったと思います。序盤を凌ぎきれば、もしかすると後半に勝負ができたかもしれませんが、奈良井が強かったです。
奈良井は前年のポカから見事に復活、これからも期待です。勢いもあり、非常にエキサイティング、これからランキングを駆け上がってもらいたいですね。
ライト級
浦川大将(帝拳)vs戸川叡二(姫路木下)
2度目の新人王戦で全日本新人王に駒を進めた浦川、大して戸川はデビュー3連敗から6連勝で今回の大一番を迎えます。
王道、帝拳のボクシングか、変則スイッチヒッター、戸川か。
プレスをかけるのは浦川。非常にパワーがあり、キレも良いですね。戸川は細かくスイッチを繰り返し、浦川の攻撃をいなしてカウンター。
両者の持ち味が出る好試合。
終始プレスをかける浦川と右を巧打されて鼻血を流してしまった戸川だと、浦川の方が見栄えが良さそうです。
3Rには浦川が右をヒットし、長い時間ではありませんでしたがラッシュをしかけ攻勢をアピール。しかし戸川も負けじと打ち返します。
スピード、パワーは浦川の方が勝り、打ち手と逆の手のガードもしっかりしているので、戸川としてはなかなか打つ手がなくなっていきます。
ガードがしっかりしているボクサーの特徴としては、やはりファイティングポーズがしっかりしていますね。勿論それも良し悪し(上体を動かしのディフェンスがしづらい)はあると思いますが、特に新人王戦や4回戦だと、大きな武器になります。
ラストラウンドは戸川が意地をみせて良いストレートを当て、浦川も疲れが見えるものの、ここまでの浦川優勢の流れは変える事はできませんでした。
判定は3-0で浦川を支持。48-47がひとり、49-46がふたりという内容なので、やはり全体的には地に足のついたボクシングをした浦川にポイントが流れていましたね。
ともに持ち味を出した、好試合でした。
最終のゴングがなるまで、勝ちを諦めなかった戸川でしたが、もう少し早く捨て身の打ち合いをしかけていれば何かが起きたかもしれません。
そして見事、全日本新人王となった浦川。これで日本ランカー。ライト級の国内線戦は上位陣で混戦模様。どのタイミングで、そこに食い込んでいけるのかも楽しみですね。
スーパーライト級
兒玉麗司(三迫)vs高畠愛大(タキザワ)
兒玉が前々日のPCR検査で陽性、その後も無症状だったため再検査をしましたが、またも陽性反応。試合は自動的に棄権となり、高畠が全日本新人王に認定。
元アマらしい新人らしからぬ技術戦が見れそうでしたが、こちらも非常に残念。とはいえ、まだまだ若い兒玉、めげずに頑張ってもらいたいです。
ウェルター級
山﨑海知(山龍)vs能嶋宏弥(薬師寺)
ここは好対照な両者の戦い。破壊力のあるフックを振るう山﨑、ストレートパンチャーの能嶋。技術に優れる能嶋が優位かと思いますが、如何に。
開始とともに山﨑がガンガンいきます。しかし30秒ほどのところで能嶋がワンツーでダウンを奪います。山﨑が膝をついたところで、ダウン宣告がありましたがここで能嶋はもう一発、見舞ってしまい、能嶋が減点を受けてしまいます。
能嶋はジャブが非常に良いですね。腕だけでなく、足をしっかり蹴って、肩から伸ばすジャブは非常に速く、また遠くまで届きます。
山﨑としては、強く速いジャブをパーリングして踏み込もうとしていますが、タイミング、反応ともに少し難しいか。やはりもっと頭を振って的を絞らせないようにした状態でジャブを出させてかわすか、ガードで体ごとぶつけていきたいところです。
しかし能嶋は上手い。ジャブから踏み込みのスピードも速く、ワンツーは秀逸です。そして山﨑の入り際に右をあわせるのも上手い。
ラストラウンドまで山﨑は状況を打開できず、能嶋のアウトボクシングが機能して終了。
能嶋が3-0の判定で全日本新人王に輝きました。
三者ともに49-45、能嶋は減点1がありますので、減点がなければフルマークの勝利でした。
山﨑は初回のダウンで狙いすぎたというか、焦りすぎましたね。ただ、それを差し引いても能嶋は巧かったです。
ミドル級
可兒栄樹(T&T)vs中田勝浩(井岡弘樹)
19歳、可兒のボクシングはなかなか多彩。中田は一発で試合をひっくり返せる破壊力を持っています。全日本新人王最終決戦は、どちらが制すのでしょうか。
ガードを固めてジリジリをプレッシャーをかける中田。身長では上回ってはいるものの、接近戦を挑んでいきます。可兒も強気に打ち返します。
一発のパンチングパワーは中田に分があるように見えますが、手数やコンビネーション、スピードは可兒。可兒はガードの間隙を縫ってパンチを当てます。この技術は19歳にして脅威。
中田は可兒の攻撃をガッチリとガードでしのぎ、その打ち終わりに見るからに重そうなパンチを叩き込みます。グイグイと体で押していくのは可兒ですが、可兒のコンビネーションの後に返す中田の右アッパーが印象的。
3Rまではほぼ互角、4R、中田がパンチをまとめ、攻勢をアピール。
中田は可兒に攻められた時、やや腰高になってしまうので、リターンがそこまで強く打てていないかもしれません。右アッパーで顎を跳ね上げ、そこから左フックを打ちますが、もう少し前傾になれればより効果的だと思います。ちょっともったいない。
ラストラウンド、これはポイントは分かりません。ともにガードを固めて近い距離での打ち合い。中田のアッパー、打ち下ろしの右。可兒は右オーバーハンド、左フック。
全日本新人王戦、最終試合は大激闘!最後の最後までしっかりと打ち合った両者、勝負は判定に委ねられます。
結果、2-1のスプリット判定で勝者は中田。中田が見事全日本新人王に輝きました。
可兒も非常に良いコンビネーションを決めていましたが、個人的にも中田の方がやや勝った印象でした。特にあの右アッパーがよくヒットしており、今後も長身の中田相手に攻め込んできた相手にあの右は効果的でしょうね。
可兒はまだ19歳、まだまだこれからです。19歳で素晴らしいボクシングができるのですから、後数年たったのち、日本のミドル級を背負って立つような選手になっていてもらいたいですね。
以上、全日本新人王決定戦の観戦記でした。
そしてもう間もなく、2021年の新人王トーナメントが始まります。今年の新人王戦は、どのようなドラマが繰り広げられるのでしょうか。
歴史あるこの新人王トーナメントは、キャリアの少ない新人ボクサーたち、特に注目されないボクサーたちにとって非常に重要なトーナメントであり、また地方ジムにとってもとても有り難いトーナメント。
今年もコロナの影響は続き、大変だとは思いますが、負けずに最後まで開催できることを祈っています。
そしてまた今年の新人王戦も楽しみたいと思います。
↓同日に行われたベルチェルトvsバルデス!