A-SIGN BOXING。
コロナ禍において革命的な興行を打ってきましたが、今回もまた格別なマッチメイク。
そもそもは湯場海樹(ワタナベ)がボクシングマガジンの取材で佐々木尽(八王子中屋)の名前を出し、それに佐々木が呼応したことで実現したマッチメイク。
当初は2021年5月という予定でしたが、緊急事態宣言により延期。日程を7/17に変更し、会場は八王子に変更となって無事に開催された興行でした。
A-SIGNのYoutubeチャンネルで生配信されたこの興行は、多くのボクシングファンが見た事でしょう。
私は、というと仕事だったので、アンダーカードは見れず。
たまたま空き時間にチャンネルを覗いてみると、これからメイン、という時でした。
そのメインだけはリアルタイム視聴。
そして、仕事が終わり練習が終わり、アンダーから見ようと思いましたが、当日の夜にはまだアーカイブが上がっていませんでした。
前はフルタイム、そのまま見れましたが。。。編集待ちなのでしょうか。う〜ん、これはアーカイブをそのまま残しておいてもらいたかった。
ただ、無料で見られるこの興行に色々と文句は言えません。その他の試合も、非常に見応えのあるものだったようなので、これは後ほど是非ともみたいですね。アーカイブが復活してくれることを願っています。
ということで、今回のブログでは、佐々木尽vs湯場海樹の一戦の観戦記と、国内スーパーライト級について書いていきたいと思います。
7/17(土)ファイティング・スピリット
日本ユース・スーパーライト級タイトルマッチ
佐々木尽(八王子中屋)10勝(9KO)無敗
vs
湯場海樹(ワタナベ)7勝(5KO)無敗2分
無敗の若きホープ同士の一戦、ユースタイトル戦、ともに強気。これは盛り上がらない要素が一切ありません。
佐々木の、純粋に強さを追い求めているかのような雰囲気と、次々と豪快なノックアウト勝利を生み出していくその勢いを見れば、佐々木の勝利は確定と思えますし、湯場のインタビューや、京口紘人のYoutubeチャンネルで語る様を見れば、湯場の勝利が固い、と思ってしまいます。
戦前の私の気持ちは、どっちが勝つか、という振り子が微妙なラインで行き来している、そんな気持ちになる一戦でした。
かくしてゴングが鳴った途端に前に出て、得意の左フックを振るったのは佐々木。
しかし湯場は佐々木の左フックを思い切り警戒、そして研究もしてきたのでしょう、サウスポースタンスから右足方向へのピボットターンをつかって佐々木の左フックを免れます。
湯場は右フック(または右足軸のピボット)でまわすこと、細かいジャブで距離を取ること、左ストレートをまっすぐ突き刺すこと、そして入られたら左アッパー、ということを徹底しているように思います。
佐々木はガードをしっかりと固めて前進、ただ手数は出ません。佐々木のガードは固く、生半可なパンチではびくともしません。
ただ、佐々木は距離が遠く感じているのか手が出ず、クリンチ際にフックを振り回すのがやっと。
しかし後半に入ると佐々木が左フックを思い切って振っていきます。もう距離が合うとか合わないとかは関係なく、この得意の左フックを強振できる強いメンタルはこの佐々木の大きな武器の一つでもあります。
このいくつかの左フックをくらってしまった湯場でしたが、残り30秒ほどを残すところで左ストレートをクリーンヒット!この左で、佐々木は尻もちをつくダウン!
フラッシュダウンか、とも思いましたが、佐々木はダメージがありそうです。
いきなりの波乱!「声を出さないで」のリングアナの注意もむなしく、会場には大きな声援が鳴り響いています。これは。。。仕方ないと言ってはいけないんですが、気持ちはわかりますね。
2R、ダメージの有無も関係なく、それでも前に出る佐々木。むしろプレスを強め、頭を振って左フックを強振します!なんというメンタルの持ち主。
しかし!開始早々、湯場の左ストレートがまたもクリーンヒット!そして佐々木はダウン!
残り時間は2分40秒、十分にし止められる時間を残している湯場は、倒しにかかります。
しかしこのタイミングでもまだ冷静な湯場は、ジャブをちょんちょんと当て、反撃の様子を伺いながらのラッシュ!次々と回転力のある左右を放っていく湯場に対して、佐々木はガッチリとしたブロック。
この湯場のラッシュを浴びながら、ほとんど身体の軸がブレない佐々木、強靭なメンタルとともに強靭なフィジカルを有している事がありありとわかります。
これは打っている湯場としても、亀のようにガードを固められたら攻めあぐねてしまう展開。
ここでも湯場は非凡、焦りもせずにアッパーを織り交ぜ、ガードの間隙を縫って佐々木の顔面にパンチを集めます。ここで惜しむらくは、ボディを交えた連打を行えない事かもしれません。
湯場の連打の途中、余裕があるわけではないでしょうが佐々木は両手を広げて挑発。そこに左ストレートをもらって万事休す。
そこから少し落ち着いた両者ですが、湯場がワンツーで攻め込みます。ここで佐々木は右カウンターを決めますが、湯場の左ストレートがかすり、少し足元がおぼつかない。ダメージ的に限界が近いのではないか、と思う佐々木ですが、体勢を低くして左フックを狙う!そこで湯場に右フックをひっかけられただけでスリップしてしまう佐々木は、ダメージも甚大です。
もう、後一発当てられたら試合が終わってしまうのではないか、と思った矢先、湯場の左ストレートの打ち終わりに右オーバーハンドをヒット、そしてここで得意の左フックを強振!!!
ここで腰砕けにダウンした湯場は、10カウント以内に立つ事はできませんでした。
佐々木尽、2RKO勝ち。
なんたる理不尽なパワー。佐々木尽の「尽」の字は、理不尽の「尽」か。もうちょっと意味がわかりません。
デオンテイ・ワイルダーがルイス・オルティスを一発だけで伸した時くらい意味不明。
完全に負け試合を、文字通り一発でひっくり返してしまいました。
湯場を応援していた身にとっては、なんとも悲痛。しかし、ここはガマンしてガマンしてチャンスを掴んだ佐々木を褒めなければいけませんね。素晴らしい左フックでした。
最後のあの左フックは、湯場がリードを放ちっぱなしにしてしまい、ガードがおろそかになったところに入った左フックでした。狙ったものではないでしょうが、自身の一番の持ち味を信じ切った、自分の力、自分の努力を信じ切った、本当に素晴らしい左フック。
まさに漫画のような、いや漫画すらも超えてしまったかもしれないこの伝説の一戦は、後々まで語られる試合となることでしょう。
現地に居合わせた人は本当に羨ましい。
そしてこのあと、平岡アンディ(大橋)がリングに上がり、それぞれがKO宣言をしたそうですが、残念ながら私はその映像を見ていません。
スーパーライト級
藤猛、浜田剛史、平仲明信。過去このスーパーライト級(ジュニアウェルター級)の王座を獲得した日本人ボクサーは、いずれも強打者。
層の厚い中量級においては、これまでテクニックで世界と勝負できるボクサーを排出しておらず、ある種番狂わせのノックアウト勝利をもって世界を戴冠したという歴史。
その階級で、世界を嘱望されている最右翼は、大橋ジム所属で、トップランクとも契約している平岡アンディ。
今回、佐々木vs湯場の勝者と、日本タイトル戦を戦う事が事前に発表されていました。
さて、この佐々木尽が、平岡アンディを相手にどこまでやれるか、というのは、また試合が近づいたら考えてみたいとは思いますが、現状では、平岡優位は否めません。
これまであがっているスパーリング動画を見ても、やはり平岡はボクシングでは1枚も2枚も上手。しかし、スパーリングと試合は別物、更に佐々木のパワーは8オンスというグローブの方が明らかに活きる、ということは確かでしょう。
今回のように、強引に振ってくる左フックの軌道はなかなか様々で、平岡も規定の10Rのうち、一発ももらわない、というのは、佐々木のプレスも含めて難しいとも思います。
その一発に、ロマンを感じる。そんな佐々木の左フックは、平岡に届くのか。
これはまた両者に勝ち筋があり、緊迫感のあるマッチメイクがここで実現し、加えてこの両者にこのタイミングで土がつく、という切ない気持ちにもなるマッチメイク。この儚さのようなものも、ボクシングの魅力の一つでもあります。
ボクシングは夢の奪い合い。
10/19(火)に設定されたこのふたりの最高の一戦を彩るセミファイナルには、中嶋一輝(大橋)vs栗原慶太(一力)という魅力的なマッチアアップが発表されています。こんなに好マッチメイクばっかりやって大丈夫か、と昔ながら(噛ませ犬相手の試合をいくつも見てきた)のボクシングファンは思ってしまいます。
そして、加速度的におもしろくなる国内スーパーライト級には、まだまだ控えているボクサーもたくさん。
前戦、近藤明広(一力)に競り勝ったアオキ・クリスチャーノ(角海老宝石)、前日本王者永田大士(三迫)、ランキング下位にも元日本王者の麻生興一(三迫)、デスティノ・ジャパン(ピューマ渡久地)。
アマチュア102勝の李健太(帝拳)も下位ながらランクインしていますし、ランキングこそ持っていないものの藤田裕崇(三迫)も面白いボクサー。
もしも、平岡アンディに佐々木尽が勝つようなことがあれば、佐々木を中心に国内スーパーライト級が盛り上がりそうです。平岡が勝った場合は、海外で戦った方が良いでしょう。
ともあれ、たとえ下馬評不利でも、今回の湯場戦のようにボクシングで負けていても、一発で試合そのものを根底から覆す事ができるボクサー、佐々木尽。やはりおもしろい、最も注目スべきボクサーですね。
そして敗れた湯場海樹。良いところも悪いところも、お父さんそっくりと思ってしまったのは、私だけではないはずです。
お父さんは、そこも魅力でした。
だからこそ、毎試合ハラハラドキドキで、圧倒的な強さを誇る時もあれば、一発で試合をひっくり返されたこともあります。
「父を超える」、つまりは世界王者になるのであれば、この一つの負けは非常に大きな成長の糧となりうるはずです。その素晴らしいボクシングは佐々木に付け入る隙をほとんど与えておらず、もし、翌日にでも再戦すれば湯場が勝利してしまうのではないか、と思えるほどでした。
タラレバというと、もし、初回にダウンを奪っていなければ、もっと慎重に戦えていたかもしれません。初回にダウンを奪っていても、2Rのダウンがなかったならば?
ボクシングの流れというのは非常に奇妙です。
あくまでも強い方が勝つのではなく、勝ったほうが強い。この大原則を、きっとこの湯場というボクサーならわかっていると思うので、またさらに強くなって、リングに戻ってきてくれることを願っています。
そしてまたいつか、この佐々木vs湯場の第二戦が組まれるのであれば、今度も間違いなく、私は湯場海樹を応援するでしょう。
ともあれ、素晴らしい試合を届けてくれた佐々木、湯場両選手、そしてA-SIGNさんに感謝。最高の週末でした。(仕事は手に付きませんでしたが)