元、クルーザー級の4団体統一王者、「Undisputed」チャンプ、オレクサンドル・ウシク。
そのウシクがヘビー級という無差別級に殴り込みをかけ、見事、イギリスの最強王者、アンソニー・ジョシュアを破って戴冠。
WBAスーパー、IBF、WBOという3つのタイトルを手に入れました。
戦前、私はウシクを応援しており、ウシクの戦法がしっかりハマれば、勝利は夢物語ではない、とも思っていました。
そして蓋を開けてみれば、このメガファイトはウシクの戦法がピッタリハマり、文句なし、ユナニマス・デシジョンでウシクが勝利。
しかし本当にお見事でした。
今回のブログは、偉業を成し遂げたウシクとジョシュアの振り返りとその後について、願望を書いていきたいと思います。
↓観戦記
AJはなぜウシクに負けたのか
アンソニー・ジョシュア(AJ)は、体格面で優位に立ち、前2戦のウシクのヘビー級でのテストマッチの出来があまり良くなかったことから、オッズ面で優位に立っていました。
ウシクは、AJを困らせることができるでしょうが、勝利までには至らない、という意見が多かったような気がします。
試合を見ると、AJはその体格差を活かした戦い方ができておらず、ウシクのハイスピード&多角的なボクシングに付き合ってしまっています。
中盤に良い攻撃を見せましたが、その後ウシクも逃げるのではなく逆にプレスをかけて攻撃、ここでAJの勢いは終息してしまいました。
AJは、なぜもっとゴリゴリと押していかなかったのでしょうか。これは非常に疑問ですね。
圧力ですり潰す感覚で、もしくはコーナーやロープに追い詰めて、強いパンチを振るう、ということができていれば、ともすれば違った展開にもなり得ます。
これはやらなかったのか、それともウシクが速すぎてできなかったのか、というところ。
一つ、言えるのは、AJはウラディミール・クリチコ(ウクライナ)との一戦の時のようなメンタルではなかった、ということなのかもしれません。
気持ちが強くない、と言ってしまえばそれまでなのですが、AJは劣勢を覆すハートの強さを持っていないのかもしれません。
クリチコ戦は見事でしたが、その後、アンディ・ルイスJr(アメリカ)にTKO負けを喫し、再戦ではアウトボクシングでリベンジ。初戦、ルイスからダウンを奪っている事実を考えると、もっと強気に出てKO勝利まで結びつけられそうなものですが、無難な勝利を得ました。
AJが劣勢になった場面というのはあまり多くないので、この「劣勢をひっくり返す力」というところが大きな疑問ですね。
そこをウシクは突いて、序盤から「的確なヒット」でポイントをピックアップするという作戦だったのかもしれません。この日のウシクは、非常にアグレッシブで、運動量が多かった。
敗北したジョシュアの姿は、意外なほどスッキリしたものでした。そこに闘争本能は感じなかったことも、疑問の残るところですね。
ウシクはなぜAJに勝てたのか
そう考えると、ウシク陣営はさすが、IQが高く、対策が万全。対AJ戦では、もしかすると序盤というのが鍵になっているのかもしれません。
そして、おそらくプレスを躱すために、又はかけられないために前後左右にキレよく動き、AJに的を絞らせない。これによりAJはプレスをかけたくてもかけられず、リーチに勝っているにも関わらず、前後にも動かれることで距離感を特定しにくかったのかもしれません。
ビッグパンチをしっかりと警戒して、不意の一発を貰わないように細心の注意を払う。
そして警戒をしすぎず、自分から攻める。
言葉で言うのは簡単ですが、体格に大きな差があるAJに対してこの戦法を取るには、大きな勇気が必要でしょう。その勇気を、ウシクは持ち合わせていました。
或いは、テオフィモ・ロペス(アメリカ)を警戒しすぎてしまった同門、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)から学んだのかもしれません。
終盤、ウシクが大きく攻勢に出たことは、ロペス相手にロマチェンコが攻勢に出たのと被ります。違いは、それまでのラウンドを取っていたのか取られていたのか、の違い。
ともあれ、このウシクのパフォーマンスは、ヘビー級転級後のパフォーマンスでいうと間違いなくベスト。
このタイミングで最高のパフォーマンスを出せること、これこそが「チャレンジャー」なのだと思います。ここ最近は「チャレンジャー」の奮戦が目立ちます。井岡一翔を大いに苦しめた、フランシスコ・ロドリゲスJrしかり、オスカル・バルデスに判定を盗まれた(?)ロブソン・コンセイサンしかり、絶対王者、寺地拳四朗に挑んだ矢吹正道しかり。
この試合に対するモチベーションは、おそらく両者異なったのだと思います。
勝利を宿命づけられたAJ、勝てば快挙となるウシク。双方の違いは、気持ちの上で守りに入った者と、偉大な記録へ挑戦する者の、モチベーションの差だったのかもしれません。
来年早々に、再戦か
もともとこの一戦の契約には再戦条項が盛り込まれており、一夜明けた記者会見では双方ともにそれを承認。
ウシクは「我々の次の標的はAJ」、AJは「再戦は110%やる」と話しており、おそらくプラットフォームはDAZN、何のしがらみもなく開催されるのでしょう。
ここでもし、AJが勝てば劇的です。
アンディ・ルイスJr戦では、打たれ脆さを露呈したAJは再戦でアウトボクシングを徹底。
では、技術差で負けたこのウシク相手にはどうするか、というと、倒しに行くしかないでしょう。しかも、初回から、ともすれば倒される覚悟を持って。
それでも尚、ウシクに届かないようであれば、AJはウシクにきっと勝てません。
届くのか、それとも届かないのか。これは、技術的なことはもちろん関係性が深いことなのですが、ことこの一戦においては、AJのハートの強さ、吹っ切れるか否か、というところにかかっているのではないか、と思います。
つまりは、AJは(見てはいないでしょうが)矢吹正道のような、「死ぬ気で」向かっていけばきっとウシクに勝てる、そう思うのです。
当然、誰にでもできるようなことではなく、AJには「無理」に近いほど難しいことだとも思います。
予想をするならば、第二戦もウシクの判定勝利、もしくは今度は終盤にノックアウトしてしまうのではないか、とも思います。なにせあのチーム・ロマチェンコは相手のデータをダウンロードする術に長け、後半に行くに従って尻上がりにパフォーマンスを上げていきます。ならば、13R目からスタートするウシクのアドバンテージは、かなり大きい。
端的に言うと、ほぼ確実に、ウシクは最戦に強い、と思われます。
その後、4団体統一に進むとするならば
AJにウシクが勝ったことで、AJvsタイソン・フューリーというスペシャルメガマッチはまたも大きく遅れ、これで再戦でまたもAJが敗北するようなら消滅のおそれもあります。
果たして、このメガマッチの需要も少なくなり、両者のファイトマネーを捻出できるほどの注目を集められるのか、ということも疑問として出てきます。
10/9(日本時間10/10)、タイソン・フューリー(イギリス)vsデオンテイ・ワイルダー(アメリカ)の一戦。この勝者は、すぐに3団体統一王者との一戦、というわけにもいかず、どこかで一戦挟み、早くて来年の秋頃、もしくは冬頃に4団体統一戦、というのが最短距離となりますね。
もっとも確率が高いのはフューリーが勝利する場合、だと思いますが、フューリーが絡むと何かと不安。
また急に引退するとか言い出しはしないか、とか。
フューリーvs AJ、フューリーvsウシク、どちらが見たいか、と言われればvsウシク。
今回のAJを見た限りでいうと、フューリーには届かないような気がします。フューリーはウシクのような精巧な技術は持っていないものの、ウシクよりも距離は遠く、ウシクよりも予測不可能な動きをかましてきます。
優等生タイプのAJとしては、それでもまだ、ウシクの方がまだやり易いのではないでしょうか。
もし万が一(私はこちらを期待しています)ワイルダーが勝利した場合は、ワイルダーvs AJ、またはワイルダーvsウシク、これはどちらも興味深いですね。
ワイルダーvs AJというカードは、アメリカvsイギリスのヘビー級対決、以前は誰しもが待ち焦がれた黄金カード。双方に土はついてしまいましたが、もしこれが4団体統一戦として開催されるのであれば、興味を惹くこと間違いありません。締結のハードルは高そうですが。
ワイルダーvsウシク、に関しては、ワイルダーが12R36分間、たった「一発」を当てられるかどうかが焦点、というかなりわかりやすい戦い。
これはこれで拳闘ロマンに溢れますが、ウシクは速く、巧く、ワイルダーは体で押せるほどフィジカルの強度がないために、ウシクがかなりの確率で勝利するでしょう。しかし、たった一発でひっくり返る可能性が、36分間ある訳です。じゃあ全財産賭けるならどっちだ、と言われると予想はなかなか難しいような気がします。
と、4団体統一というのを妄想してみたものの、フューリーが勝つにしろワイルダーが勝つにしろ、AJとやるからこそおいしい(金銭的な意味で)、というのは事実だと思います。
ウシクを相手にして、4団体統一に進むのかどうなのか、はまだ疑問が残るところ。
正直、個人的にはウシクvsAJにしろ、フューリーvsワイルダーにしろ、再戦はもうよくってですね。リーグ戦にしてほしい。かつての黄金の中量級をギュッと凝縮して、ここから1〜2年以内の総当り戦、どうですか?
個人的には、クルーザー級から上がり、見事な快挙を成し遂げたオレクサンドル・ウシク。この素晴らしいボクサーに、クルーザー級に続いてヘビー級でも「Undisputed」チャンプとなり、歴史にベストボクサーとして名を残してもらいたい、と思っています。
AJ、フューリー、ワイルダー、そしてウシク。4人のヘビー級トップボクサーの今後のキャリア、非常に楽しみですね。