WOWOWで「パーフェクト王者」と紹介されていますが、これは非常に言い得て妙だと思います。
「なんでもできる」と読むのは、鷹村守ではなく、テレンス・クロフォード。
そんなクロフォードがいよいよウェルター級での最大の試練、ショーン・ポーターを迎えます。
この、ショーン・ポーターを圧倒できるようだったらクロフォードがウェルター級最強なのは確定。万が一、倒してしまうようならPFPキングで良い。
しかしここはポーターに善戦、を通り越して勝利を期待したい一戦。ひたむきで、真面目な人間性を持つショーン・ポーターにとっても大一番、下馬評こそ不利ですが、がんばってもらいたい。
↓プレビュー記事
今回は、WOWOWで放送されたクロフォードvsポーターをメインとしたESPNのPPVの他、ESPNで放送されたPrelims(アンダーカード)の一部も含めた観戦記です。
11/20(日本時間11/21)アメリカ
アイザック・ドグボエ(ガーナ)22勝(15KO)2敗
vs
クリストファー・ディアス(プエルトリコ)26勝(16KO)3敗
WOWOWで放送されたセミ、セミセミよりも興味深かったこの一戦。ESPNではPPVファイトかた外れたアンダーカードは無料で見られます。
ドグボエはロンドン五輪で清水聡(大橋)と、ディアスは世界王座決定戦で伊藤雅雪(横浜光)と、それぞれ日本人と戦った事のあるボクサー同士の一戦。エマニュエル・ナバレッテ(メキシコ)に敗戦を喫した者同士の一戦でもあります。
この試合はドグボエが前戦でアダム・ロペスと戦い、勝利することで獲得した王座、NABFフェザー級タイトルの防衛戦として行われています。
互いに距離図りつつ、ジャブの差し合いからスタート。ギリギリパンチが当たらない距離から、一方が踏み込めば一方がバックステップ、互いにクリーンヒットが奪えない展開。
2Rにディアスが良いコンビネーションを当てますが、ドグボエも後半にボディから上へ返して反撃。パンチスタッツも全くの互角。
しかし3R、1分頃にディアスはドグボエのジャブをかわして右から左フックをヒット!派手に喰らったドグボエですが、ダメージはないようでここも甲乙つけがたい。
4R、目立つのはディアスのリード。ともにクリーンヒットは少ないながら、素早い攻防の最後にスッと出すディアスのジャブがドグボエにヒットしているように思います。ここまでのパンチスタッツはややディアスが多い。
5Rは突き刺すようなジャブを差し込んでいくドグボエの方が良いイメージ。6Rはディアスがサイドステップを多用、ドグボエがプレスをかけて近い距離では力強いコンビネーションを放っていきます。ディアスはやや後手か?
7R、今度は流れを変えたいディアスがプレス。ドグボエはロープを背負いつつ対応する時間が長いですが、しっかりとカウンターを狙っています。ここまででパンチスタッツも逆転、ドグボエがわずかに勝っています。
8Rもプレスをかけるのはディアス、ドグボエはロープ際からディアスの打ち終わりを狙って右をフルスイング。この回、幾度かのバッティングも起こりますが、今回のドグボエは集中力も切れず、スタイなも切れず。
9R、ディアスがやや強引なコンビネーションで攻め込みますが、ドグボエが逆襲。このドグボエのコンビネーションのうち数発はディアスのガードを割ってヒット、手数もドグボエ。左のダブルは速すぎる。
ラストラウンドもドグボエは集中力を切らさず、プレスをかけてフェイント、コンビネーション、強い左フック。ディアスもブロッキングはしっかりしており、上体を使ったディフェンスを機能させていますが、ここも手数でドグボエか。
終了ゴングと同時に両者ともに勝利をアピール、シーソーゲームではあったもののドグボエが僅差でかわしたように見えた一戦でした。
判定は一人がドロー、二人が2ポイント差、3ポイント差でドグボエ。2-0のマジョリティデシジョンでアイザック・ドグボエが勝利!
またも僅差の判定ですが、ドグボエはナバレッテ戦での敗戦から3連勝。アダム・ロペス、クリストファー・ディアスという強豪相手に競り勝ち、やはり力のあるところをアピール。
パワーは通用しづらくなったとしても、非常にキレのあるパンチは健在、ガードも堅牢、集中力さえ切らさなければこのフェザー級でもタイトルを取れると思います。
ディアスも非常に良かったですが、残念ながらこれで連敗。
ちなみに、前戦でドグボエが戦ったアダム・ロペス(アメリカ)はこのドグボエvsディアスの前に登場し、アダン・オチョア(アメリカ)をジャブとコンビネーションで圧倒。しかし初回のバッティングでオチョアが右眉付近をカットしており、その傷のせいで2R終了での負傷判定となりました。テクニカルドロー(無判定)でロペスはドグボエ戦での敗戦からの復帰戦を飾れず。なかなか険しい道程を歩んでいます。
ここからPPVファイト。WOWOWオンデマンドの生配信では配信されましたが、タイムリーオンエアでは3試合になるかもしれません。
レイモンド・ムラタヤvsエリアス・アラウホ
ムラタヤの相手、いつ変わったんだろうか。私のプレビュー記事の情報が古かったかもしれません。失礼しました。
頭を振って頭から突っ込んでいくアラウホ。初回中盤からアラウホの戦略を見切ったムラタヤは、ポジショニングを変えながら入り際にカウンター、コンビネーションをヒット。
3R中盤頃からボディにダメージがみえるアラウホは、4Rに入るとチャージ。特攻とも言うべきか。突貫ファイター、アラウホは何度もムラタヤの左ボディを耐えますが、5R中盤にとうとうアラウホの動きが止まり、攻め込まれたところでレフェリーがストップ。
本気でアップセットを目指したアラウホ、かなり悔しがっていますね。やっぱり代役だったようですが、よくがんばったと思います。その意気や良し、プロスペクト、ムラタヤを大いに困らせました。
ムラタヤは、これを糧にしてまた成長してもらいたいものですね。
ジャニベック・アリヌハムリ(カザフスタン)vsアッサン・エンダム(フランス)
エンダム37歳ですか、もう結構な年ですね。好調子、上り調子のアリムハヌリ相手にはかなり厳しい戦いを強いられると思いますが、どこまで粘れるか。
初回早々にエンダムのジャブの打ち終わりにワンツーを合わせるアリムハヌリ。いきなり怖いタイミングですね。
エンダムの動きも悪くない。少なくとも村田第二戦よりもずっと強いであろうエンダム、ステップワークで的を絞らせず、近づいたらクリンチ。
しかしアリヌハムリは3R、ボディ、顔面を効かせてダウンを先取。回復力のあるエンダムは4Rに前に出てチャージ。しかし接近戦はアリムハヌリの土俵。パワー差が明確です。
5R、エンダムがジャブから入ってきたところに左アッパーカウンター、がくりときたエンダム。それでも諦めないエンダムは、なんとかサバイブ。6Rの終盤にもアリヌハムリはクリーンヒットを奪い、エンダムはよろめくものの、アリヌハムリはそのあと詰めず。余裕を持ちすぎているように思いますね。
コロコロ倒れますが、エンダムの回復力はすごいですよ。
7Rも終盤にダメージを被るエンダム。最後まで持つか。
攻められ続けたエンダム、8R終盤にパンチをまとめられ、顔を跳ね上げられたところでレフェリーがストップ。
アリヌハムリが強いのはわかりましたが、ちょっとストップに時間を要しすぎた気がします。嫐っているようにしか見えず、エンダムがちょっと不憫。
エンダムの回復力というものを理解してのレフェリングだったのかもしれませんが。
アリヌハムリ、次は世界タイトル挑戦となるんでしょうか。
エスキバ・ファルカン(ブラジル)vsパトリス・ボルニー(カナダ)
プレビュー記事での表記はファルカオ、ボロニーとしてしまいましたが、WOWOWの表記にならってこっそり変更。ファルカンとボルニーです。
ファルカンはロンドン五輪決勝で村田諒太と戦った同大会の銀メダリストで、28戦全勝(20KO)の戦績。非常に大事にキャリアを送ってきている印象がありますね。ボルニーも16戦全勝(10KO)と無敗をキープ、この試合はIBF世界ミドル級挑戦者決定戦として行われます。
初回から積極的に攻めるのはサウスポーのファルカン。リーチに勝るボルニーはカウンター狙いですがややディフェンシブ、ロープに詰まる場面も多いです。
2Rに入るとボルニーは修正、長いジャブをよく突いていきますね。3Rは接近した戦い、ボルニーはガードの時間が長いですが、長い手ですっぽりと体全体を覆うガードはなかなか固い。
4R、5Rも接近戦での闘い。体の強いファルカンが手数で押していきますが、5Rの後半にボルニーがクリーンヒットを奪い、今度はファルカンが下がります。
6Rの序盤もボルニーの攻勢、しかしそこからファルカンが盛り返します。ナイスガッツ。
このラウンド後半に入って、ここまで幾度となく発生していたバッティングがモロに入り、ファルカンが左眉上付近をカット。大きさもかなりで、深さもかなりありそうです。
このアクシデンタルヘッドバットにより終了、負傷判定決着。
判定は、2−1、スプリットデシジョンにより勝者はエスキバ・ファルカン!
煮え切らない試合で、このまま続けていればどちらが勝っていたかはわからない試合でした。ファルカンは勝ちを拾った、という表現が正しいでしょうか。
思ったよりもボルニーは強豪でした。ファルカンはエネルギッシュなファイティングスタイル、ハートも強く、実力は当然あると思うのですが、ボルニーのガードを崩せなかったことも事実、被弾もあり、攻防ともに傑出したものを持たないイメージ。
仮にGGGに挑むとすればちょっと厳しいですし、村田のプレス、フィジカルにも潰されてしまいそう、と思うのは贔屓しすぎでしょうか?
WBO世界ウェルター級タイトルマッチ
テレンス・クロフォード(アメリカ)37勝(28KO)無敗
vs
ショーン・ポーター(アメリカ)31勝(17KO)3敗1分
この試合には多くの言葉はいらないですね。ただの突貫ファイターではない、非常に上質なファイターであるショーン・ポーター。
パーフェクト王者、テレンス・クロフォード。
非常に楽しみな一戦です。
WARと書かれたマウスピース、いつも通りのアクションのポーターにはややブーイング、無表情、無慈悲な雰囲気を醸すテレンス・クロフォードには大歓声。
初回、早速仕掛けていくのはポーター!クロフォードはポーターをよくみて、カウンターのタイミングを測ります。
2R、サウスポーのクロフォード。ちょっと入りづらそうなポーター。ポーターはやや強引に詰めていき、いくつかのクリーンヒットを奪います。ポーターは非常に反応も良い、クロフォードのカウンターも外します。
3Rも引き続きサウスポーのクロフォード。クロフォードがプレスをかけ、ポーターは一瞬の踏み込みでそれをチャラに、という展開。ポーターのパンチでクロフォードがバランスを崩し、ダメージはないものの優勢か。
このラウンド、バッティングでポーターが瞼をカット。
4R、引き続きサウスポーのクロフォードがプレス→ポーターの踏み込みを誘導してからのカウンター。
5Rも同様の展開、ただポーターも持ち味をよく出し、近い距離でのヘッドムーブも良い。
6Rに入るとクロフォードは強いパンチ、コンビネーションをよく使っていきます。
このラウンドもバッティング、クロフォードもカット。
7R、クロフォードはいつの間にかプレスを止めていますね。ポーターは自分のタイミングで踏み込むことができるようになっているかもしれません。
8R、序盤にポーターの入り際にクロフォードの右カウンターがヒット、その後クロフォードはコンビネーションで攻めます。
しかしタフなポーターは臆さず、自ら攻めることで後半には右オーバーハンドをコネクト、ここまで互角の展開ではないでしょうか。
9R、ポーターに良いリズムが出てきているように思います。しかし10R、ポーターの入り際にとうとうクロフォードのカウンターがヒット!尻餅をつくように倒れたポーター!!
再開後、攻めるポーター!!しかしまだダメージを感じるポーター、クロフォードは接近戦を受けてたち、左右のフックをヒット!
ここでポーターは2度目のダウン!!
リングを叩いて悔しがるポーター、まだまだやれるとアピールするも、セコンドは棄権の意思表示・・・!!
テレンス・クロフォード、10R TKO勝利!!!
ESPNのツイッターで流れている動画を見ると、最初のダウンはボディヘのアッパーのようですね。流石クロフォードとも言うべき素晴らしいタイミングでした。
あのダウンのあと、果敢に攻め入ったポーターも流石でしたが、現実は厳しかった。
とにもかくにも、超ハイレベルな技術戦、本当に瞬き厳禁の試合とはまさにこの試合のこと。
ストップされたタイミングは、「ここでの棄権は早すぎる、ポイントは競っており、続けていれば勝利を手繰り寄せられたかもしれない。。。」とは思ったものの、その可能性はごくごくわずか。いや、あのポーターの効き方を見れば、なかったのかもしれません。
ポーターはこの試合のあとの記者会見で引退を表明、勝っても負けても引退と心に決めて臨んだ試合だったようです。
そうなると、陣営からすると棄権の意思表示は早くて当たり前、ポーター父の英断に感謝しなければならないかもしれませんね。勇気は必要だったと思いますが、素晴らしいストップだったと思います。
激闘型であるポーターですが、ディフェンスも卓越しており、本当の激闘型の突貫ファイターほどのダメージはないような気がします。ただ、そのファイトスタイルも、おしゃべりが得意というところを見ても、非常にインテリジェンスを感じるボクサーなので、ここを引き際とできるのでしょう。
きっと家族としては安心、ポーターの試合を今後見れないのは寂しい限りですが、これで良かったのだと思います。
個人的には本当に寂しい。細川バレンタインが引退した時くらい寂しい。
しかし、今後もポーターはコメンテーターや自身のポッドキャストでその元気な姿を見せてくれるのでしょう。英語わからんけど。今後のキャリアの成功を祈ります。
さて、テレンス・クロフォード。このブログのはじめに述べた通り、個人的PFPキングに躍り出ました。
「誰と」戦い、「どのように勝利したか」を重視すれば、あのショーン・ポーターを(苦戦しながらも)ストップしたという実績は、カネロ・アルバレス、オレクサンドル・ウシク、井上尚弥を凌ぎます。
今後期待されるファイトは、やはりエロール・スペンスJrか。
ポーターがストップされる様を見て苦笑いのスペンスは、ヨルデニス・ウガス(キューバ)との対戦がクローズアップされているようです。
ここに勝って階級アップ、というのは一つの手。そうなるとクロフォードとの統一戦は叶いません。
では、この試合を観に来ていたというもうひとりの対戦相手候補、スーパーライト級4団体統一王者であるジョシュ・テイラー(イギリス)。
クロフォードよりもサイズで劣るであろうテイラーに、クロフォード退治は非常に難しいと思います。ただ、決まればビッグマッチ。
そろそろ、クロフォードにビッグマッチをー
とよく言われますが、クロフォードは本当に素晴らしいボクサーを次々と片付けて来ています。当代随一、と言っても良い。
トップランクから抜け出し(抜け出すかどうかはわかりませんが)、自由になったクロフォードの行く道は、何処に。