兼ねてから両者が合意していた、という話のあったWBC世界ライトフライ級タイトルマッチ。この日程が発表されました。2022年3月19日(土)、場所は前回と同じ京都市体育館。
BOXING REAL(真正ジムのYoutubeチャンネル)で生配信されたこの記者会見では、両者、両陣営が登壇し、正式発表。
予定通り開催されれば、2022年、日本人選手絡みの一番最初の世界タイトルマッチとなりますね。
今回のブログでは、この正式決定の報を受けて、矢吹vs拳四朗Ⅱについて書いていきたいと思います。
3/19(土)京都市体育館
WBC世界ライトフライ級タイトルマッチ
矢吹正道(緑)13勝(12KO)3敗
vs
寺地拳四朗(BMB)18勝(10KO)1敗
記者会見の様子は、プロモーターである真正ジム山下会長他、両陣営のブレーンと本人から一言ずつ。
この中で興味深いのは、やはり両選手の言葉です。
矢吹は、拳四朗に対して「総合力は拳四朗の方が上。前回同様、挑戦者精神で向かっていく。」と答えています。虚勢を張らない、この率直な思いは非常に好感が持てるものですね。謙遜でもなく、おそらく事実としてそう思っているのでしょう。非常に冷静に自分と相手の戦力分析ができている、ということがよくわかります。
だからこそ、前回のアップセットは成った、と言っても良いでしょう。
対して拳四朗は、このダイレクトリマッチが決まったことに対して「運が良い」という表現をしました。本来は、負けてすぐにこのチャンスが来るものではない、ということがわかっているようです。
このダイレクトリマッチは「当たり前」のことではなく、特別なこと。
WBCは、日本でのバッティングでの騒動、そして8度連続防衛の功績を考慮し、ダイレクトリマッチを認めた、と言います。
記者からの質問では、観客動員は100%と山下会長が明言。これは非常に盛り上がりますね。どうかその頃までには、歓声も良し、となっていてほしいものです。
矢吹正道の勝ち筋
矢吹は、その後の記者からの質問で、強化している部分は「スタミナ」だと答えました。そして、前戦、拳四朗と戦っての想定以上の部分については「意外とタフ、スタミナもすごかった」と。
個人的には、矢吹のスタミナも相当なものだと思います。
いつもの矢吹はどちらかというと「待ち」の戦法を取ることが多く、チャンスが来れば一気に攻める爆発的なスタミナを持っていることは容易に見て取れます。
しかし、拳四朗戦の矢吹は、自ら強引に攻め、攻め、攻め続けました。いつもと異なる戦い方によるスタミナの浪費、ダメージが重なってガス欠に見えたあの9R、10Rから一気に捲ってストップ勝ちを手にしたのは、ハートはもちろん驚異的なスタミナと言っても良いでしょう。
しかし、あの戦いが12R行っていたら、先に折れていたのは矢吹だったかもしれないことも事実。それこそスタミナどころか自分の命を削るようなあのラッシュを耐えられていたならば、もう矢吹には何も残っていなかったかもしれません。
そう考えると、矢吹の「スタミナ強化」は至極真っ当であり、そして戦い方も「前戦同様」も間違いはないと思います。
ただ、前戦があのように物議を醸したからこそ、次回、レフェリーは頭にはかなりの注意を払うことが予想されますし、ジャッジについても(序盤の拳四朗のジャブがポイントにならなかったことについて)「海外のジャッジならポイントになっていた」との意見も散見されたことから、やや拳四朗優位に働きそうな予感もします。
この辺りはジャッジも人間、どのような判断になるのかは興味を引くところです。
あくまでも前戦は色々なことが重なった勝利。
コンディショニングには直接影響しなかった、とも言われる拳四朗のコロナ感染ですが、流石にそんなわけもないと思いますし、序盤のラウンドは拳四朗に流れていてもおかしくなかった、とも思います。
そこで「いつも通りでない」拳四朗が相手だったからこそ、やはりこの試合は「アップセット」であると思います。
しかし、今回の記者会見を見る限り、そのことは矢吹もよくわかっています。
私は、「決着をつける」みたいに言われているこの試合は決着戦ではないと思っています。決着は、前回の試合でついています。試合前の状況がどうあれ、試合内容がどうあれ、前戦は矢吹の勝利です。
ただ、今回も下馬評は矢吹不利、と出ると思います。
それを覆すのは、やはり序盤から攻め入るチャレンジャー精神、そしてチャンスに一気に攻め切る爆発力と、それを可能にするスタミナであり、強いハート。矢吹が持っている全てを総動員すれば、前戦の「アップセット」が「アップセット」ではなくなるはずです。
拳四朗の勝ち筋
同じく質問では、「試合は負けたが負けた試合ではなかった」と答えた拳四朗は、「勝てる自信がある」と明らかな自信を隠しません。いつも通りの戦いをすれば勝てる。ポイントを取れていると思ったが取れておらず、焦りはあった、とも。
やや一貫性を欠く発言にも思いましたが、「試合は負けたが負けた試合ではなかった」というのは要は綺麗にボクシングをすれば負けませんよ、という発言かな、と思います。
試合映像を見て、「色々思うことはある」とも言っていましたが、もしかするとバッティングのことを言っているのかも知れません。矢吹のバッティングの酷評=拳四朗への支持、です。
拳四朗自身は明言はしていませんが、そのこと、ジャッジの対応については思うところがあるのでしょう。
拳四朗は、当然これまで培ってきたボクシングを貫き、今度は明確にポイントを取るために手数を増やす、と言います。
これは矢吹にとって願ったり叶ったり、拳四朗が攻めてきてくれれば、得意のカウンターは取りやすくなる。
ただ、拳四朗は出入りに秀で、距離感に優れているので、おいそれと矢吹のカウンターをもらうとも考えられません。
カウンターが最大限の威力を発揮するには、やはり相手の全力に合わせた時。拳四朗は、思い切りパンチを振ることは少なく、細かく回転力のあるコンビネーションで攻め立てる分、拳四朗がアグレッシブになったからといって矢吹にチャンスが増えるか、というとそうではない気がします。
拳四朗は、これまでの戦い方をベースに、コンビネーションで打って離れるを繰り返す。そして矢吹が攻めてきた時には無理をせず、躱せる時は躱し、それでも詰められた時はブロッキングが有効にも思います。
矢吹の突進力は前戦で見せた通り凄まじく、拳四朗のバックステップを凌駕する時があります。そうなった時、ガードポジションがルーズな拳四朗に対し、距離の長い矢吹のストレートがヒットする、という場面は(前戦同様に)出てくると思います。
そして今回、ジャッジが拳四朗優位となり、序盤、中盤とポイントを蓄積して言ったとしても、矢吹の爆発力を侮ってはいけません。30秒、いや20秒ほどあれば、一気に試合をひっくり返してしまうあの爆発力は、パンチ力と並んで脅威です。
拳四朗の戦い方としては、やはり序盤にポイントを取る、ということに尽きると思います。序盤にポイントを取ることができれば、無理せずにいつもの拳四朗スタイルで徐々に痛めつけ、ついにはストップ、もしくは判定勝利を手にできるでしょう。その場合、矢吹がどこかで勝負をかけてくると思うので、そこだけは全身全霊を持って気をつけなければいけませんが。
そして、もし序盤、前回同様にポイントを取れなかった場合。今度は、拳四朗が勝負をかけなければいけません。前戦で拳四朗は、新たな一面を覗かせた、とも思います。
あの鬼神のような拳四朗を、また見たい、という思いもあります。
好試合に期待
この記者会見で、矢吹が言ったことに「どっちが勝ってもおかしくない内容だった」と語っていました。
まさにその通り、この矢吹vs拳四朗の初戦は、本当にどっちが勝ってもおかしくありませんでした。
「総合力」と言われれば、確かに拳四朗の方が上でしょう。拳四朗のボクシングに、隙はありません。
しかし、矢吹はそこに風穴を空け、強引に隙を作り、ハードパンチを打ち込みました。
ストップも、決して美しいパンチを入れてのストップ勝ちではなく、根性の連打。
2022年3月19日も、様々な要因が絡み合って勝敗が決まるはずです。
前戦後の騒動や遺恨なんてものは一切関係ありませんし、私自身は全くもって気にしません。
ただただ、中部地方のカリスマ、「ヒーロー」矢吹正道と、時代を代表するボクサーの1人である寺地拳四朗というボクサーが、好試合を演じてくれることを楽しみにしています。
そして何事もなく、この日が迎えられ、両選手が無事にリングに立てる事を祈ります。