イギリスのボクシングファンは、「待ちに待った」ボクシングイベントだと思われる、アミール・カーンvsケル・ブルック。
20,000人を収容できるというマンチェスター・アリーナでのこの興行のチケットは、発売開始からわずか10分で完売。これはとんでもないことですね。
「戦わざるライバル」とも言われ、同い年、プロ入りもほぼ同時期、近い階級で歩んできた道のり、そしてそれぞれが大人気のスター。
この二人がこのタイミングで交わるというのは、当初何かの冗談かと思っていました。
しかし、2/19(日本時間2/20)、その日がやってきました。
↓ふたりの略歴についてはこちら
今回のブログでは、イギリスの超大注目興行、アミール・カーンvsケル・ブルックの観戦記です。
2/19(日本時間2/20)マンチェスター
アミール・カーン(イギリス)34勝(21KO)5敗
vs
ケル・ブルック(イギリス)39勝(27KO)3敗
おなじみ「Sweet Caroline」の合唱。観衆は20,000人。日本でも4月にはこういう光景を見たい。光っているのはスマートフォンの光りだと思います。
マイケル・バッファーのコールのもと、まずはケル・ブルックが入場。入場後、何故かグローブを外し、別のグローブに付け替えます。フィーリングが合わなかったのか?黒のグラントのグローブから、白のグラントのグローブへ。
続いてアミール・カーンが入場。ともにトレーニングを積んだというテレンス・クロフォードを従えています。カーンがロッキー・バルボアなら、クロフォードはアポロ・クリード。これで勝利を掴み取ったならば、映画化必至です。
ともにトランクスにはユニオンジャックをあしらっています。
初回のゴング。
サイドへ動くカーンのボディジャブがファーストヒット。その後も左右に動き回るカーンと、どっしりと構えるブルック。
ただし、カーンの動きは全盛期ほど速くはないし、ブルックにも力みが見えます。
序盤はカーンが勢いよくコンビネーションで攻め込みますが、ブルックの逆ワンツーがヒット、早くもカーンはぐらつきます。
その後もガードの上からも効かされたカーン、すでに危うし。
足を使って何とか距離をとろうと試みるカーン、ブルックはプレスをかけて距離を詰め、パンチを繰り出していきます。
2R、カーンはピンチを悟るも、自ら攻め込むという道を選びます。これは潔し。
サイドにまわりこみながらブルックの隙を窺い、ブルックが攻め込んで体勢を崩したところでコンビネーション。これしかない、という戦い方。
ブルックは少々荒くなりながらも大きなパンチを振るっていき、これはカーンには効果的に思います。ややオープン気味にヒットしますが、カーンはダメージを被ってしまいそうです。
3R、それでも尚、自ら攻める事を止めないカーン。ゴングと同時にトリプルジャブ。そのボクシングは、少なくとも自ら試合を作ろうという意思を感じ、気高い。
カーンのサイドステップは良いですが、ブルックもカーンの行き先を防ぐようなステップワーク、悪くありません。
終盤、パンチの交錯、ブルックのワンツーがカーンを捉え、ここでまたぐらつくカーン!効いたカーンに詰め寄るブルック、クリンチに逃げるカーン。
最終盤、カーンは膝をつきますが、これはスリップ裁定。ただ、ダメージはありそうです。
インターバル中のスローリプレイを見ると、カーンはブルックの右に対して左フックカウンターを狙い、失敗。それでブルックの右を浴びてしまったように見えます。
4R、開始後、先に手を出すのはカーン。しかしブルックはそれに落ち着いて対処して、力強いパンチを返していきます。
徐々に足の鈍ってきたカーン、ブルックはカーンのガードの上からお構いなしに左右のフックを叩き込みます。
カーンは踏み込んではクリンチ、とにかく打ち終わりを狙われないように戦っています。
しかし、ジリジリとにじりよるプレスをかけたブルックは、ワンツーで攻め込み、カーンをロープ際に詰めます。クリンチでカーンが何とかしのいだところで、ゴング。
5R。解説席にいるアンドレ・ウォードの採点では、ここまでブルックのフルマーク。それでもカーンは試合を投げません。
戦い方としては、決して褒められたものでなく、足を使ってサークリング、角度がつけば自ら打ち込んではクリンチ。それでも、「今できることを懸命にやる」という姿勢のカーンには、感銘を受けます。
中盤、ブルックの見事なワンツーを受けたカーンは明らかに後退、ガードを固めてブルックの猛攻をしのぎます。
ブルックはというとかなり大振り、力強いというよりも力みかえって左右のパンチを繰り出し、それゆえにチャンスにもカーンに逃げられてしまいます。
この待ちに待った舞台で、長年のライバルと対峙し、力んでしまうのも仕方ないかもしれません。
インターバル中、心配そうにリングを見つめるクロフォード。終わりの近さを感じます。
6R、前ラウンドの後半くらいからやや力みも落ち着いたブルックは、まずジャブを突きます。このジャブで明らかにぐらついたカーン!
そして襲いかかるブルックは、やはり目一杯のパンチを振り回します!
カーンは上体を動かし、クリンチを駆使して何とかサバイブしようと必至。ブルックはそのカーンは右アッパーで起こし、遠慮なく攻め入ります。
そしてワンツーから右アッパーをカーンのガードの上から叩きつけたところで、レフェリーは試合をストップ。
ケル・ブルック、6RTKO勝利で因縁のライバル対決に終止符を打ちました!
全盛期を大きく過ぎ、久々のリング登場となったアミール・カーン、当然のことですがやはり色々と衰えていました。
もともと打たれ脆さを持ったボクサーではあるものの、今日の打たれ脆さは尋常ではなかったようにも見えましたね。
リマッチ条項もある、というニュースも目にしましたが、もうこれで終わりで良いと思います。初回からカーンは効かされてしまいましたが、あの最初に効かされたパンチもブルックのジャブでした。
それでも、そのような悪魔的打たれ脆さを持ち、きっと周囲も、本人も、それがわかっていながらも、アミール・カーンというボクサーは意地を見せました。
ダウンをとられてもおかしくないスリップこそあったものの、リングに這いつくばる事はありませんでした。
自らができることをできる限りやり、心も頭も体もフル回転して、どうにか勝ち筋を探していました。「元世界王者」という肩書だけでは説明のつかない、負けられない理由、根性、そういったものをフル動員してブルック戦に臨んだということがよくわかります。
個人的には、これがカーンのラストマッチで良いと思います。間違っても、クロフォード戦がラストファイトでなくてよかった、とも思います。
カーンがキャリア史上最高の根性を見せた相手、いや見せる事ができた相手がケル・ブルック。
スペシャルKはまだ終わっていない、それを示す内容だったか、というとそれはそれで疑問は生じるものの、やはりブルックはまだ安定的に力を発揮できる状態にあろうかと思います。
今日は少し力みも見えましたが、それは相手がライバル・カーンだったからでしょう。
ブルックもクロフォードにはジャブ(のような左フックのようなパンチ)一発で効かされ、ストップに持っていかれた事もあり、そのタフネスにはまだまだ疑問が残ります。
おそらくこの勝利により、ブルックはまだリングに経ち続けるのかもしれませんが、もう35歳、どうか夕日が沈み切る前に、どこかで決断をしてもらいたい。
ユニオンジャック交響曲
ともあれ、私たちが見たかったのはきっとこのふたりの姿。
称え合う両雄、敵対している状態ではなく、ふたりで写真に収まる姿。
これが見れただけで、もう大満足です。
アミール・カーンも、ケル・ブルックも、お互いのライバル関係なくしてはこのようなビッグマッチには巡り会えなかったはず。
同い年で、ほぼ同じ階級で過ごし、互いに罵りあった、素晴らしいライバル。
いくつもの楽器が織りなすオーケストラの演奏のように、お互いのキャリアを引き立てあった両雄は、2022年2月19日、雌雄を決しました。当然のことですが、これはたった一人のボクサーがなし得た事ではありません。
互いの素晴らしいキャリア、ライバル関係があったからこそできた一戦。
すでにピークを過ぎた二人の戦いであり、試合内容はもう忘れてしまうかもしれません。
それでも、ふたりのユニオンジャックがお互いの強みを活かし、いやお互いの強みの一端をのぞかせつつも舞ったその日を、この出来事を忘れる事はないと思います。
最後に大切なことなので、もう一度。
リマッチはもう、見たくない。やればやっぱり見てしまいそうなので、幻と消える事を願います。